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海野_海人卓
2026-03-16 07:40:05
2488文字
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飲み直し_直前
あかねが飲み直しでエンバーズに行く前の妄言。
あまりに良すぎるSSをいただいたので、その前の時間軸のSS的なものを書きたくなったんだ……
「それで、こういうことがあってね
……
でも、あかねちゃんってこういうの対処できないでしょ?」
「ええ
……
まあ、そうですね」
「なら教えてあげるよ、悪い話じゃないでしょ?」
こんな事例があって俺はこんな風に対処した。守秘義務もあるしここで話せはしないけど、俺と一緒に来ればステップアップできるよ?
……
そんな不毛なことを聞くだけの会話とも言えない一人語りが小一時間ほど続いていた。仮にも弁護士としての先輩に対する感想ではないけれど鬱陶しいな
……
という感想が湧いてくる。
……
もしこの飲み会の相手が西園寺さんだったなら、きっと、もっと面白くて聞いていて楽しくなるような話題を出してくれるのだろうな、と思いながら何杯目かのカクテルに口をつける。
けれど残念ながらこれは親睦会で、周囲も男性ばかりだ。そもそも西園寺さんと一対一で飲むこともないから完全に思考を放棄した現実逃避なのだけれど、どうしようもない飲み会で適当な相槌以外に打てる手があるのならば教えて欲しい。
「そういえばあかねちゃんってスタイル良いよね〜
結構タイプかも。こんな飲み会抜け出しちゃって、二人で飲みに行こうよ」
「
……
、はあ
……
」
舐め回すように全身を見たあと、完全に胸元に行ったきり目を合わせる様子もない視線に嫌悪感が湧く。ここまであからさまに狙われるのが久々だと言う事に平和ボケしていた事実を噛み締め、思わず漏れ出そうなため息をかみ殺した。
──あまりにも、うまみがない。
父は人脈を作っておくべきだ、と言って飲み会を勧めてきたけれど、私が娘であることを忘れているのかもしれない
……
そう思う程度には、不快だ。
……
しかし、目の前でへべれけになっている彼は果たして気づいているのだろうか? それとも気づいていないのだろうか? 私が今口にしている酒類は、既に普通の人であれば吐くような量を軽く超えている
……
ということに。
自分がザルやウワバミと呼ばれる部類の人種であることは三度目の飲み会で分かったことだったけれど、この体質には感謝しかない。うっかり酩酊状態になって間違いを犯すこともないし、言質を取られることもない。こうして酒を飲んでいる間にも怯え続けるような飲み会にはならないうえ、お会計を任せて自分は好きに飲んでいられる
……
ということも。
「ねーえ、あかねちゃーん?
聞いてるぅ〜?」
とはいえ、こういう人物は搦め手を使ってくることも少なくない。
……
特に、身内だけで揉み消してしまえるような飲み会ではそんなことも起こりうる。ウザ絡みしてくる先輩から身を捩って逃げながら、少し考える。
そろそろつまらない飲みにも飽き飽きしてきたので、これまでの負け知らずの自分を信じて勝負に出ることにした。
「
……
いいお店、知ってるんですけど
……
二人でこっそり一緒に飲みに行きませんか?」
***
こういう人間は、目先の欲に実直なのである。
少し微笑みながら小首を傾げ、尋ねてみれば喜んで着いてきた。
正直、エンバーズ以上のお店を探せる自信が無くなってきている程度にはエンバーズの雰囲気が好きなので、こういう時に実直に勧めることはしない。
身内が経営しているバーの「ソーニョ」に足を運び、周囲の迷惑にならないよう奥の方の座席をお願いする。ソーニョはある程度の格式も雰囲気もあって、まあ、悪くはないのだけれど
……
私自身の飲み方やスタイルにはあまり合わない空気感だ。
少し薄暗い雰囲気にニヤつく先輩を横目に見ながらバーテンダーにこっそり耳打ちをする。
……
まあまあ簡単なお願いで、自分が退席した後の介抱などをお願いしたくらいだけれど。身内が許してくれなければこんなことはできないので感謝しかない。
バーテンダーの佐藤さんも私個人がとてもお世話になった人物なので申し訳なさがあるけれど
……
身の安全には変えられなかった。
「先輩、こちらではこのお酒が美味しいんですよ」
私も飲みたいですし、奢りますのでいかがですか? まあ、度数が強いのでアルコールが受け付けない方には勧められませんが
……
と言えば彼はバッと食いついてくる。
まあ、私も同じ酒を飲むという安心感があるのだろう。酔い潰れた私を持ち帰ろうと思っているのが若干隠せていない不躾な目線と近すぎる距離に、正直逃げ出したい気持ちが出てくるのを抑えるのに必死だった。
小洒落たジャズミュージックが流れる店内で、壊れたラジカセのように繰り返される自慢を流しつつお酒を口に運ぶ。美味しいことには美味しいのに面倒事がある時ばかり来るせいで感じなくなってきた味を確かめながらグラスを傾け、軽食にも手をつける。
隣でベタベタと触ってくる先輩にもお酒を勧めつつハイペースに飲ませていけば、何とも情けのない表情で回らない呂律のまま笑っている怖い人の出来上がり。
自分が頼んだ分は片付けて会計を済ませておき、前もって聞き出した先輩の住所までタクシーのお送りをお願いしておけばもう何も私を縛るものはない。
「
……
あかねちゃんってば、えげつないわね」
「佐藤さん、ご迷惑をおかけして悪いんですが
……
」
「良いの良いの、頂くものは頂いてるから安心してちょうだい」
最後に佐藤さんに挨拶をして外に出れば、真っ暗な空が私を迎えてくれる。深呼吸してから時計を見れば、まだエンバーズが閉まっていない時間だということに気づいた。
……
西園寺さんがいらっしゃるなら、この気持ちも少しは晴れるだろうか?
美味しい料理と、素敵なチョイスのお酒と、マスターである西園寺さんのトーク力。雰囲気も相まって、行きやすい店で言うならトップクラスにお気に入りのお店だった。この前お話しした他愛もない話題を思い出して、少しだけ気分が上がる。
──西園寺さんに話を聞いてもらおう。そして、何かしらお金を落として気分を盛り上げよう。
……
そう考えて嫌な飲み会にげんなりした心も多少マシになったところで、少し注意力が散漫なままエンバーズを目指して歩き出した。
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