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兎人
2026-03-14 23:48:05
735文字
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瓶一つ分の幸福【辰ジュリ】
愛するお嬢に捧げる短い文。一人称視点。
お誕生日おめでとうございました!そしてハッピーホワイトデー!
今年も来たか。独りごちてテーブルの上へ視線を移す。綺麗に結ばれていたリボンが、天蓋の淵を彩るように垂れ下がっていた。
両手の(それも奇跡的に欠けていない)指で満たせるほどの冬を、さほど好まない甘い菓子と共に過ごすようになった。初めは溶かして固めただけのそれが、今やクッキーだのフォンダンショコラだのと姿を変えて、愛情を象った箱に乗ってくる。
死に損なっているだけの、日々衰えていく己を想い続けた彼女。十年間も飽きることなく、愛を示し続けた数奇な女。盲目などと言わせぬ気迫で己を絆したのだ。流石はマフィアの一人娘だと賛辞を送るべきだろう。
机の上、空き箱とリボンのその隣へと手を伸ばす。傾けた瓶の中で耀く飴玉達。いつもの手作りでは新鮮味がないかと、たまに訪れる百貨店で購入した物だ。これならば味も品質も問題ないだろう。浮き足立ったり沈んだり様々な男達の間を通って買うのは、些か居心地悪かったが。
ふと外からノック音。続いて鈴の声が聞こえる。
「お嬢か。ちょうど良い、入れよ」
開かれた扉から待ち人が現れた。長い金髪を揺らして、不思議そうに己を見上げている。先ほどの言葉が引っかかったのだろう。
「ホワイトデーのお返しだぜ。たまたま百貨店に行ったからよ、買って来た。こういうのも好きだろ?」
受け取ったルベライトと隠れたラベンダークォーツが輝いている。瓶の宝石達に負けぬ輝きで、弾む声のまま礼を述べる姿に思わず笑った。かつて己が隠した色を綺麗と笑った、幼少から護った彼女の灰紫ごと愛している。願わくば騒がしくも弾む笑い声が途絶えぬように。からり、と小瓶の中で薄青が転がった。
これを本人に伝えると絶対に揶揄うので、言う気はあまりない。
【END】
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