風花莉亜
2026-03-14 23:38:51
3736文字
Public
 

『そこはもっと素直でいいんじゃねーの?』

第36回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点のピアスの話。クラスメイトの名も無きモブが出てきたり、千早くんがヤキモチ妬いたりしてます。いつも通り何でも大丈夫な方向け


「藤堂くんって、もうピアスはしないんですか?」
「あー……

家族不在の千早の家。
更に言うならば、千早の部屋で二人きり。
更にもっと言えば、千早のベッドの上に俺が座って、その上に千早が座っている。
そんな今にも始まりそう状況で……いや、始まってた、始まってたンだよ。
千早が俺の耳朶に触れるまでは。
気になったらそのままにしておけない質なのか、小首を傾げながら不思議そうな顔でピアスは着けないのか聞かれ、今聞く事なのかよ!! と叫びそうになった。
絶対、今じゃねー。
それでも気になります、という顔をされては無視する訳にもいかず。
存在すら忘れがちになっていたピアスホールを確かめるように触る。
ピアス、ピアスねぇ。
これは若気の至りと言うか、今も若いけどそれは置いとくとして、俺にとってピアスはあまり印象の良いものでは無い。
コレはわかりやすい自傷行為であって、オシャレとかそんな物ではなく、野球を再び始めた今、あれだけ悩んだイップスも克服して順風満帆な俺には、必要のない物となった訳だ。
なのだが、どうやらこの恋人は、俺のピアスホールが気になっているようだった。
一応まだ完全に塞がってはいないけれど、再びピアスを着けるつもりはないンだがなァ。
どう答えるべきかと考えあぐねていると、千早の指が俺の耳朶をフニフニと摘み出す。
擽ってェ。
そっと千早の腕を掴むと素直に耳朶から外されたので、そこまでの執着はないように見えた。
ただ単純に気になった、といった所だろうか。

「今の所、着ける気はない、かな」

頬を掻きながら言うと、パチパチと大きな瞳が数度瞬いた。
それから残念そうに、「そうですか」と呟いてそれきり。
あれ、何か間違った?
良くわからないが、千早の機嫌を損ねたと言うか、ガッカリさせたと言うか。
えぇ、そんなに俺にピアスして欲しかったのか?
執着はないのだと決め付けていたが、どうやらそうでもないようだ。

「ピアス、着けて欲しいンか?」
……そういう訳ではないんですけど」
「けど?」
「なんでもないです。それより、続きシないんですか?」

俺の上に乗ってるのに上目遣い。
わかっててやってるな、こいつ。
はぐらかすようにして千早は俺の首の後ろへと腕を回し、可愛らしいリップ音を立てながらキスをしてきた。
たったそれだけで簡単に転がされる俺も俺だけど、こんな風に誘われたら断る理由はない。
千早を抱えたままベッドへと転がして覆い被さった。





そんな事があってから、数日が経った。
あの日からピアスについて千早から触れられた事はない。
俺も俺ですっかりと忘れていたし、あれで話は終わりなんだと思っていたし、実際終わりだったはず。
この時までは。

「藤堂ってピアス開いてっけど、学校じゃ着けてないじゃん? でも、休みの日とかは着けてんの?」

授業と授業の合間の休み時間、俺の前の席のソイツが、唐突にそんな事を問うてきた。
俺のプライベートに凡そ興味などないだろうに、ただの暇つぶしの会話として選ぶには丁度良かったのか何なのか。
一応気にはなっていたから何となしに聞いてみた、といった所かもしれないが、その話題はあまり喜ばしくはない。
隣の席の千早がピクリと反応した。

「休みの日も着けてねーわ」
「え、塞がるじゃん? 勿体無くね?」

知らねーよ。
俺としては寧ろ、塞がってしまった方が良いのではないかとすら思っているのだが、他人から見たらそんなもんなのかね?
ちょっと触るぞ、なんて言いながら了承も得ずに耳を触られて、ついうっかり振り払わなかった俺ってめっちゃ偉くね?
コイツは距離感近いし、懐っこい性格をしているので触る事にも躊躇いがないし、もっと言えば悪気もない。
それをわかっているから何とか手は出さなかったけれど、あんまり良い気はしていない。
誰が好き好んでヤローに触られるのを喜んで受け入れるんだって話だ。
これが千早だったのなら話は別だが。
ピアスホールを確かめるような触り方に、モゾモゾする。
擽ったいと言うか、なんと言うか。
あまり耳に集中するのも良くないと、気を紛らわすように明後日の方を向く。
すると、視界に入った千早の眉間に皺が寄っていた。
いや、そんな顔されても。
俺が触られているのが気に食わないのか、他人に触られてよく平気だな、といった嫉妬とは無縁な方の感情か。
上手く読み取れはしないけれど、もしかしたら、どちらも当たりなのかもしれない。
例えばだが、こんな風に触られたのが千早だったのなら、物凄い勢いで払ってきそうだと思う。
いや、そもそも触らせないか。
俊敏に逃げて、あの作った笑みを貼り付けながら「やめてください」とか言うんだろうな。
ははっ、拒否られてンのオモロい。
脳内で繰り広げられる光景に、段々と愉快になってきた。
拒否られてるイマジナリークラスメイト相手に優越感を覚えるのって性格悪いンかな?
俺はそんな風に嫌がられねーけどな? とか言って。
恋人という特権があるので、千早はよっぽどのことがない限り俺を拒否らない。
ははっ、やっぱり優越感あるわ。

「そろそろ授業始まりますよ」

俺が心の中でニヤニヤしていると、温度の乗らない声が我慢出来ないとばかりに、俺の耳朶を触っていたクラスメイトに突き刺さる。
それを聞いたソイツは、パッと手を離して「お、おー」と曖昧な返事をした。
鈍い奴ではないので、少しの怒気を孕んだ空気に気付いたようだ。
その証拠にポソリ、と「もしかして、牽制された?」なんて俺にだけ聞こえるように言ってくるから、クツクツ笑いながら「さぁ?」と答えてやる。
すると、半目になりながら「千早の機嫌取っといて」とだけ言い残して前を向いてしまった。
おーおー、ご機嫌取りは得意な方だから任せとけ。
頬杖をつきながら千早を見れば、まだ威嚇顔になっていて笑ってしまう。
ヤキモチ妬く恋人ってクソ可愛いンだな。
俺がニヤニヤしているのに気付いてジロリ、と千早が睨んでくる、その顔すら可愛く見えてしまって、これはだいぶ重症かも。
こんな気持ちになったのは、千早が初めてだ。

『かわいい』

声に出さずに口を動かすだけで伝えた言葉は、果たして本人に正しく伝わったのか。
わからないけれど、「何て言いました?」と聞かれる事はなかったので、多分伝わった。
微妙な顔してたのがその証拠だと思う。
お互い何を言うでもなく見つめ合っていると、授業開始の合図と共に担当教師が教室へと入ってきて、千早の視線が先に外れた。
真っ直ぐ前を見る千早を邪魔したい気持ちに駆られたが、大人しく机に突っ伏すに留めておいた。
構い過ぎると逃げるような、気紛れ猫ちゃんなので。





そんな事があった週の、完全オフの日の事だった。
映画を観たり、買い物をしたりと、一般的なデートを終えて辿り着いた千早宅。
あの日と同じで、二人きりの空間に良い雰囲気の中、千早から簡易的にラッピングされた袋を渡された。

「なんこれ?」
「プレゼントです」
「プレゼント? 今日って、何かの記念日だっけ?」
「全然全く」
「じゃあ、なんで」
「ただの俺の自己満足です。それ見付けたら、渡したくなったんですよね。でもまぁ、着けるも着けないも藤堂くんの自由です」

うん? 着けるって、何?
渡された包みはまだ未開封で、中に何が入っているのかは知らない。
大きさはそんなにないし、軽いけど。
開けていいかと一声かけて、渡されたソレを開封した。
すると出てきたのは、誰かさんを連想させるオレンジ色のピアス。
まさかの代物に、目を白黒させた。

「藤堂くんの自由ではあるんですけど、一回だけで良いんで、着けて見せてくれませんか?」

お願いします、と下手に出られたら嫌だとは言い難い。
しかも上目遣い、わかっててやってるやつ。
俺が千早の上目遣いに弱いのは百も承知で、何かしら頼み事がある時は堂々とそれを武器にしてくる。
多分、これを出されて断った事はただの一度もないはず。
そんな風に振り回され気味なのだけれど、またそれが、悪い気はしないのだから困ったものだ。
可愛いからつい許してしまう。

「鏡かなんかねェの?」

仕方ないという風に言えば、キラリと千早の瞳が輝くのがわかった。
いそいそと鏡を用意するものだから、俺の事を尊重してる感じで言ってたけど、結局はピアス着けてるの見たいんじゃないか、って。
あーあ。
ピアスに良い思い出なんかなかったのに、一瞬にして塗り替えられてしまった。
台紙からピアスを外してみると、キラリと光を反射してオレンジ色が映える。
千早の分身みてー、なんて。
塞がってないと良いけど、なんて思いながら穴の空いたそこへ差し込むと、多少引っ掛かる気もしたが、何とか着ける事に成功。
もう片方も同じようにすれば、両耳にオレンジ色が咲いた。

「これで満足かよ?」

そう問えば、それはそれは満足そうな顔で「まぁまぁですね」なんて返ってきた。



そこはもっと素直で良いんじゃねーの?




END