姉と弟(女モレー+サンソン)

サンソンとモレーちゃんが調査している話。#サンソン版創作60分一本勝負(@Sanson_1h)お題:CBC

お題:CBC


「聞き込みも上々。ともかくあのでっかい御屋敷の主人とやらに会わないとね」
 しゃくり。道中で商人から噂話を聞き出すついでに買ったリンゴをかじって、モレーは目を細めた。カルデアで育てているリンゴと違って、昔風の酸っぱくて中身のすかすかなリンゴだが、むしろ懐かしささえ感じてこれもよい。
 同じような経緯で買ったパンやガラス器の紙袋を抱えているサンソンに「食べる?」と食べかけのリンゴを見せると首を横に振られる。
「僕はまだお腹は空いていないので、姉さんが食べていいですよ」
「姉さん、ね……。うふふっ、いい響き(sonorité)! そんなこと云わずにぃ〜弟くん。他に食べたいものあるなら、お姉さんが奢ってあげようか?」
 機嫌よく、モレーは揚げたドーナツのような菓子を出している露店を指さす。蜜をたっぷりかけた、甘いお菓子だ。狭い通路にひしめくバザールはこんな甘味を売る店は角を曲がるたびにある。
 モレーよりよほど背の高い「弟」を上目遣いで見つめると、サンソンは困ったように眉を下げた。まるで、物分かりのいい弟のようだ。
「無駄遣いはだめだよ。大事な路銀なんですから。ほら、こうやってさっきもパンだとかお土産のガラスだとか。色々買ってたじゃないか」
「口車に乗るのも交渉のひとつだよ? それにまったくのガラクタでもないし」
「そうだけど。でも、ジンの入った壺なんて何に使うんだい?」
「ヒミツー!」
 モレーは紙袋からはみ出している飾り紐をつついた。ビーズが美しい文様で縫い付けてある、土産物によくある品だが、ビーズからはほのかに魔力が香っている。
 この特異点の、砂漠に突如現れたバザールには、こうした魔術的と呼ぶには薄すぎるような魔術品のカケラが相当数出回っている。姉弟の旅行者を装った聞き込み調査では、中央の屋敷の主人が採掘で掘り当てて栄えたのだとわかり始めていた。
「東側はだいたい見たし、そろそろ宿に戻ろっか、シャルル君」
……はい、姉さん。……マスターたちもお待ちでしょうから」
 小さくつぶやき、サンソンはふと、視線を上げた。モレーの目線からはバザールの人混みや通りにはみ出すほど積まれた商品、色とりどりの旗や屋根に遮られて見づらいが、どうやら道の先で口論しているような気配がする。人波が止まってしまい、隙間を通り抜けようと押し合っているような状態だ。
「苦情でしょうか。声を荒げています」
「やーね。道幅もないし、詰まってら。さっきの角まで戻って遠回りする?」
……品物がなくなったと云っていますね」
「Hein? ちょっと、シャルル君、勝手に一人で突っ込まないでよ」
 横を振り返るとすでに遅し。一人分の空白ができていた。
 モレーが人混みをかき分けていくと、口論はますます大きくなってきた。喧嘩腰のような大声で話す三人に落ち着いたフランス訛りが混じる。
「みなさん、よく互いのことを聞いてください。少しずつ違うもののことを云っていませんか? 彼は青い勾玉、彼女は壁飾りの青い玉、彼は卵型の青ガラスです。盗んだ犯人は同一でもあなたがたではないのでは?」
「Oh là là, 遅かったかー」
 いまにも掴みかからんばかりだったかれらはサンソンの言葉に頷いている。そばの老女が自分も昨日青い玉のついた髪飾りがなくなったと云った。サンソンは困っているなら探そうとすでに約束しようとしていた。
「シャルル君!」
「あ、姉さん。かれらは目の前で消えたと云っている。まばたきのような時間で、だ。おかしいと思わないかい?」
「おかしいのは頭っから怪し〜い話に乗っかってるシャルル君なんだけど。まあいいか、どうせマスターも二つ返事で引き受けるんだし……。それより、も! こんな騒がしいとこ、お姉さん置いて一人で走り出すのはやめてよね?」
 ふくれっ面で指摘すると、サンソンは「ごめん(Pardon)」と云って眉を下げた。こらこら、可愛い顔したってお姉さんは許してあげないんだから。