しか野
2026-03-14 20:41:05
3675文字
Public スミイサ短編
 

Who's wrong?(スミイサ)

2024.7.10/約3,500字/ちょっと下品です。解釈違いを起こしたため半端に終わります。

*Who's wrong?**

初出:2024.7.10
※再録本『Just we two』に収録
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 今思えば、あの時──オペレーション・ボーンファイアでの行動は、本当に己の意思だったのだろうか? ルイス・スミスは、自身に問いかける。
『何をしている! ルイス・スミス!』
……
『イサミが待っているぞ! ルイス・スミス!!』
……
『おい! イサミに恥をかかせるんじゃない! ルイス・スミス!!!』
「Shit! いちいちフルネームで呼ぶんじゃない! 鬱陶しい!」
 すべては、ここ最近脳内で喚き始めたもう一人の自分とも言える存在──ブレイバーンのせいである。口を開けばイサミに愛を告白しろキスしろ抱いてやれとそればかりなのだ。
 淫蕩のデスドライヴズは吸収されて消滅したはずだというのに、まるで取って代わりでもしたようだった。まったく、冗談じゃない。
『何をためらうことがある!? 愛しているなら手を伸ばすべきだろう!』
「俺はあいつを大切に思っているが、それは友情によるものだ! 好きだし、ずっと一緒にいたいと心から思っているが、色欲なんて抱いちゃいない!」
『なぜ自分をごまかす? イサミはあんなに可憐で美しい……ぼんやりしていたら、誰かに取られてしまう!』
 たとえば、彼を想ってやまない元バディの彼女。他にも、スミスが知らないだけで彼に想いを寄せる人間が他にも存在するかもしれない。いや、いるに違いない。そうでなければ、彼の所属する部隊の面々は軒並み、見る目のない節穴野郎共ということになるので。(多分この場にサタケやヒビキがいたら、盛大に顔を引き攣らせていただろう。)
……だが、やはり俺は……
『ええい、この童貞男め』
「は!? 違うが!?」
『ふん。本当に愛する者と抱き合ったことがないのなら、童貞も同然だ。……後悔しても知らないぞ』
……
 それきりブレイバーンは口を閉ざしたようだった。
 ようやく静かになった脳内に、スミスはほっと息を吐く。四六時中、この調子で嵐のように騒がれたらたまったものではない。
 彼が一事が万事この様子では、あのとき『I love you!』と叫んで彼に飛びついたのはやはりブレイバーンの意思であり、己は流されただけなのでは、という気がしてくるのである。しかしあくまで友愛の気持ちとはいえ、己自身もイサミを愛おしく想うのは事実であり──
……クソッ」
 自分はどうしたいのか、問いかける。しかし応えは返ってこないのだった。

 その夜はなかなか寝付けなかった。2台あるベッドのうち、バルコニー側にはイサミが横になってすやすや眠っている……はずだ。彼の寝息は慎ましいので、聴こえないこともままある。
 なんとか眠りの世界に入ろうと目を閉じるが、睡魔はなかなか訪れてくれない。隣の存在を、やけに意識してしまう。ブレイバーンがあんなことを口走るせいだ。定番の手段として頭の中で羊を数えてみるが、全く心は休まらなかった。
 このまま朝まで悶々とし続けるのだろうか、とスミスが一旦諦めて水でも飲もうかと考えた時だ。隣でごそごそと、衣擦れの音がした。目を薄く開けて横目で見てみると、イサミが体を起こし、どうやらこちらを見ているようだった。
……!)
 声はかけず、思わず寝たふりをする。そのうち、イサミがベッドを降りる気配がした。手洗いにでも行くのかと思いきや、柔らかい毛足の絨毯を踏む静かな足音が、こちらに近づいてくるではないか。
(イサミ……?)
 しばらく彼はスミスを見下ろしていたようだが、やがてぎしっと音がしてわずかに体が沈んだ。彼がベッドに乗り上げて、上等なスプリングが撓んだのだ。
……スミス、寝てるか?」
……
 おそらく「まだ起きてるよ」と返事をして起き上がるべきだ。だがなぜだか、急速冷凍された魚のように体が固まって動かない。
……そのまま、起きるなよ」
 イサミは何を思ったかコンフォーターをめくり、中に潜り込んでくる。スミスがなおも凍り付いたかのように硬直していると、ボトムのゴムが引っ張られる感覚があった。わずかに鼠蹊部のあたりに触れたのは、間違いなく彼の指だ。
 そして何を思ったか、なんと下着ごとボトムをずるずる引きずり下ろしたではないか!
……! ……!!)
 もちろん下半身が露出する。よほど近くに顔を寄せているのか、イサミの息がダイレクトにかかる。どこにって、もちろん今はふにゃんと大人しくしているはずの息子に。
……失礼します」
(失礼って!? 何が!? 何を!? 何に!?)
 包むように握られたかと思うと、先端に生暖かいものがぬるっと触れた。これは彼の手と、そして舌だ、と察した瞬間、スミスは世界の終わりのような絶叫を発しながらがばっと体を起こしていた。
 勢いでコンフォーターが吹っ飛んで、性器をくわえようとしているイサミがぽかんとした顔で、スミスを見上げている様子が目に入る。奇しくも今日は満月だ、月明かりがばっちり、視界を確保してくれていた。
「い、い、い、い、イサミ!! な、な、な、なにを!! してるんだ!?」
……起きてたのかよ」
 すっかり狼狽えて大汗をかくスミスに対し、イサミは『チッ』とYAKUZA顔負けの鋭い舌打ちをする。そして顰めっ面をしながら、非常に不本意そうに繊細な部分から手を離して座りなおす。ようやく離れていった体温に、スミスは心底ほっとした。
「はぁ……寝てろよな。せめて、あと15分くらいはよぉ」
「じゅ、15分あったら……どうするつもりだったんだ?」
 下半身丸出しの間抜けな状態でスミスは、恐る恐る問いかけた。聞いてはいけない、聞かないほうがいい、そんな気はしたが。
……勃たせて、乗っかって、それから目を覚ましてくれたらちょうどよかった」
「勃たせ……乗っか……うっ、これは夢か……? イサミがそんなことをするはず……
……お前が悪いんだからな」
 恨み言を零すイサミの、シャープで愛らしい目がみるみるうちに潤んでいく。まもなく表面張力から解き放たれたそれが、彼の頬を伝ってシーツに落ちた。
「い、イサミ……どうして泣くんだ」
「ずっと、待ってたのに……あの時の、続き……。お前、俺のこと『大好きだ』って言ったくせに……あれは嘘だったのかよ……!」
 嘘じゃない!と咄嗟に大声を張り上げそうになった。だがスミスの中の迷いが喉元でそれを止める。
 本当か? 本当にあれは、100%俺の意思だったか?
 俺はイサミを、どうしたいんだ?
……俺は……
……もういい。馬鹿なことして悪かったな。……外で頭、冷やしてくる」
 なおもはっきりしないスミスの態度に、イサミは見切りをつけたようだった。吹っ飛んだコンフォーターを拾って投げてくれる。そういえば、いまだ下半身が露出した状態であった。スミスはひとまずそれを腰に巻き付けるが、そんなことよりも重要な──今、聞き捨てならない言葉が聞こえなかったか。
「外って……どこに行く気だ、こんな時間に」
「軽く飲んでくる。まだバーなら開いてるはずだから」
 イサミはベッドを降りると、寝乱れていた髪を手で無造作に整える。いつものように整髪剤で固められていない前髪が、つやっとした額にかかってどこか幼げに見える。それから身につけているものといえば薄手のシャツで、彼はオーバーサイズは好みではないらしく、ぴったりとしたそれは体のラインをあらわにしている。傷ついた表情と相まって、とても1人にはしておけない危うげな雰囲気を纏っていた。
「だ、駄目に決まってるだろう! どうしても行きたいなら、俺も着いて行くからな」
「馬鹿か!? お前から距離を置きたいから出て行くって言ってんだよ! 着いてこられちゃ意味ねぇだろ!」
「俺から、距離を置く……? それって、どういう意味だ?」
「変な意味に取るなよ。何も今すぐ船を降りようって訳じゃない。適当に時間潰して、朝には戻るから」
……駄目だ。許さない」
「なんでお前に許されなきゃ……
「駄目だ!」
 スミスは手を伸ばして彼の手首を掴み、強引に引き寄せた。つんのめった体はベッドに逆戻りし、上等なスプリングがぎしぎし音を立てる。
「いてぇ! 何すんだ!」
「ここに、いろ。イサミ」
 無造作に体を転がし、仰向けになった彼の上に覆い被さる。足の間に膝を入れ、顔の横に肘をついて閉じ込めるようにすると、彼はあからさまに狼狽し始める。
「や、めろよ……離せ、スミス」
「離さない。そんな格好でどこに行こうって?」
 許せない、他の男に喰われるくらいならいっそ、俺が──
(俺が……?)
 スミス、とイサミが心細そうな声で呼ぶ。かわいくて、きれいで、かっこいいイサミ。
 俺が、お前を……スミスは生唾を呑む。

 後悔しても知らないぞ、という『私』の言葉が脳裏をよぎった。