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しか野
2026-03-14 20:34:55
6289文字
Public
スミイサ短編
After talk(スミイサ)
2024.5.5/約6,200字/アフスト前編・試し読みを受けて。お船でいちゃつく2人。
After talk
初出:2024.5.5
※再録本『You are the one』に収録
----------
寒気を感じて意識が覚醒した。離れまいとしてきつく抱き合って眠ったはずの恋人の姿が隣に見当たらず、スミスは慌てて身を起こし、周囲を見渡した。するとプライベートバルコニーへ続く大きな窓、その向こうに彼の背中が見えて、ひとまず胸を撫でおろす。
行為の前にどこかに投げ捨ててしまったシャツを探すが、手の届く範囲には落ちていないようだった。眠る前にかろうじて下着だけは身に着けていたため、傍から見れば間の抜けた半裸ではあるが、どうせ誰も見ていないのだからとスミスはその姿のままベッドを下りた。
窓枠に手をかけ、彼の背中を眺める。その光景はまるで、高名な画家が描く一枚の絵画だ。月光で白いシャツが透け、体のラインが浮かび上がっている。よく鍛えられ、締まっていて、それでいて腰のくびれが美しい。そこに手をかけ、強く力をこめて跡を残すとき、まるで真っ白な処女雪を踏み荒らした時のような快感とほんの僅かな罪悪感を同時に覚えるのだった。
下は何も履いていないのか、シャツの裾が風ではためいて際どいところまでちらと覗く。こうしてはいられまいと、スミスは彼の背に呼びかけて歩み寄った。
「イサミ、どうしたんだ? 目が覚めちゃった?」
彼が振り向いた。ボタンがひとつも留められていない合わせから、赤い印だらけの肌がさらけ出されている。よもやと思ったが下着も履いておらず、先ほどまで執拗に愛でていた下半身がむき出しだった。
「お前も起きたのか」
「起きたのか、じゃないだろう! な、何て格好をしてるんだ!」
目の毒にもほどがある光景に、己の目をさっと覆う。しかし本能的に指の隙間から覗いてしまうのは許してほしいところだった。
イサミは自身の装い──と言えるほど、ものを身に着けていない──を見下ろすと、からかうように襟のあたりをつまんで鎖骨を覗かせた。少しサイズが大きいのだと気づくと同時に、そのシャツの持ち主にもスミスは思い至った。至るも何も、この部屋にそのサイズの持ち主は一人しかいない。心臓が大きく跳ね、みっともなく下半身に昂りを感じた。
「い、イサミ。冷えるから、こっちにおいで」
ごまかすように咳払いしてから、平静を装って彼を呼び寄せた。イサミは素直に、何も履いていないすらっとした足で寄ってくる。スミスは冷えつつあった体を両腕で抱え込み、背中をさすった。
「お前やっぱ、体温高いな」
イサミが気持ちよさそうに、頬をこすりつけてくる。猫のマーキングのようなしぐさの愛らしさに目を細め、スミスは冗談交じりに、
「お前がそばにいると特にね、体が熱くなるから」
なんて言ってみる。聞きようによってはあまりに品がないかもしれないが、イサミは可笑しそうに体を揺らして笑った。聞いているとくすぐったくなるような笑い声に、スミスはまたも鼓動を高鳴らせる。
「はー
……
あったけぇな
……
」
「冷えてるから余計にそう感じるんだ。戻ろう、せっかくの休暇に風邪をひいたらもったいないだろ?」
返事は待たず、スミスは彼の肩と、それから膝裏に手をやって軽やかに抱き上げた。唐突に横抱きにされた彼はうわっと色気のない声を上げると、落ちまいとしてか咄嗟に首にしがみついてくる。まさか落とすものかと、腕と腰とに力を込めた。
「び、びっくりした。ってか下ろせよ重いだろ!」
「それなりに。でも落ち着くんだ、お前が腕の中にいると」
マシュマロみたいに軽いとはとても言えなかったが、許されるならばずっと抱えたまま生活したいくらいだった。しかし早晩腰を痛めてしまうだろう、人間の体は不便である。しかし生身で彼に触れられる喜びを体感できるのもまた、人間の体だからこそだ。
イサミは尚もぶつぶつ言っているが放っておいて部屋の中に入り、お行儀悪く足で窓を閉める。彼は今さら恥ずかしくなったのか、そうっと股のあたりを手で覆っていて可笑しかった。
「よ、っと
……
」
でき得る限り慎重に、彼の体をベッドへ下ろす。マットレスが沈み込んでスプリングがぎしりと鳴り、彼の重みがシーツに皺を作った。スミスは枕元のランプをつけると、膝を抱えるイサミに寄り添って座る。その体勢では先ほどねちっこく攻めたてた尻が痛むのではと気遣おうとするが、おそらく枕を投げられるだけなのでやめておいた。
「イサミ。さっき、何を考えてたんだ?」
「別に何も。ちょっと目が覚めたから出てみただけだ。すげーいい眺めだし」
それにこんな豪華な部屋に泊まるのは初めてだ、とイサミはほんの少し居心地悪そうに言った。
「起こしてくれたらよかったのに。お前と夜景を眺めるなんて素敵だ」
「気持ちよさそうにおねんねしてたからな。えらくすっきりした顔して」
「そりゃあ
……
おかげさまで?」
ぺちんと肩をたたかれる。加減はしているだろうがそもそも彼は力が強いのでひりひり痛んだ。
「
……
イサミ、楽しかったな。今夜のパーティは」
「ああ
……
」
叩いてきた悪戯な手をつかんで握り、スミスは数刻前のことを思い出してしみじみとつぶやいた。イサミは頷いて、スミスの肩に頭を預けてきた。
◇◇◇
名誉勲章の叙勲式の後、あるホテル一階のホールを貸し切って催された、元ATF隊員のみの祝賀会。かの戦いを生き残った者たちが盛装して顔をそろえ、改めて勝利を祝い、そして命を落とした者たちのために祈りを捧げる。
イサミは誰より長く目を閉じていたように思う。自衛官として制服を身に着け、伸びたままの髪はオールバック風に撫でつけられ、場にふさわしくセットされていた。秀でた額から顎に至るまでの整った横顔の静謐なさまを、スミスは横目でひっそり盗み見ていた。
すべての死者へ乾杯を捧げたあとは、思い思いに食べ、飲み、語らいあって過ごす。やがて少しずつ喧騒が広がり、まず米兵たちが派手に騒ぎ出してからは形式などあってないようなものだった。騒がしい場が苦手と言って憚らないイサミをスミスは気遣ったが、彼も愉快そうに笑っていることにホッとする。ルルが常にそばにつき、さりげなく気を遣っていたのも大きいだろう。
そんな中、サプライズだ、とハル・キング大将はじめATFにおいて指揮官クラスにあった者たちがスミスとイサミの前に勢ぞろいした。イサミが戸惑いながらスミスを見上げてきたが(とてもかわいかった)、スミスとて彼と同じく面食らっていた。ルルはにんまりと笑うと、二人から少し距離を置く。彼女は『全て知っている』とでも言うかのように、まるでフィクションの悪役みたいな顔をしていた。他の隊員たち──つまるところスミスとイサミを除く皆にも周知のことらしく、場は一斉に静まり返った。
『これを君たちに』
そう言って差し出されたものは、小さな徽章である。あ、とイサミが隣で声を上げた。それはとても見覚えのある、なじみ深い形をしていたのだ。
『これ、ブレイバーンの
……
』
『そう。彼がいつも投影していたエンブレムをあしらって作ってもらったんだ。君たち二人と、そして「彼」に心からの感謝と敬意をこめて』
そう言って大将が手ずから、スミスの制服に徽章を留めてくれた。横ではサタケがイサミの制服にも同じようにしてやっている。サタケ隊長、と感極まった様子でイサミが呼ぶと、彼の尊敬する上官は優しく肩を叩いた。
ルルが満面の笑みを浮かべて、真っ先に手を打ち鳴らし始める。それはさざ波のように広がってゆき、やがてホール全体が震えるほどの喝采と拍手に包まれた。
目頭がかっと熱くなり、思わず隣に立つ愛しの恋人を抱きしめて熱烈なキスを公開してしまいそうになったが、そんなことをした暁には失恋シーンを公開してしまうことになりかねないため、どうにか踏みとどまる。スミスはそんな自分を心の中で目いっぱい誉めそやすのだった。
どうかもう下がらせてほしいと懇願し、主役が不在とはと苦笑されながらも受け入れられた。スミスはイサミを思いきり抱き締めて、キスをして、肌のぬくもりに直接触れたくてたまらなかったのだ。このホテルの最上階にあるペントハウスが、二人のために特別に抑えられている。本来ならパーティを存分に楽しんでからゆっくり体を休めるつもりだったが、この熱い思いを止められそうになかった。
ヒビキやミユらにルルのことを任せ、スミスはイサミの手を引いてホールを出る。彼はまったく抗うことなく、思わず早足になってしまっているスミスの後を、引かれるままに素直についてくる。
ペントハウスへ続くエレベーターはプライバシーに配慮されていて、他のどの客も乗らない唯一のものだ。だから乗り込んだ途端、スミスはイサミを壁に押し付けるようにして深く口づけた。その後はずっと、部屋についてからも、シャワーを浴びているときも、ベッドで溶け合った時も、まるで生まれた時からそうであったようにぴたりと体を寄せ合い、二人は片時も離れなかった。
◇◇◇
楽しかったな、とイサミは囁き、スミスに抱き着く。その手が背中に回ると、ぴりっとした痛みが走った。
「いて
……
あ、そんな顔しないでくれdarling、大丈夫だから」
「けどそれ
……
ちょっと後ろ向け」
見てしまっては気に病まないかと心配になるが、強く睨まれると言うことを聞かざるを得ない。彼の目に弱いのである。スミスは体を反転させて、広い背中を彼にさらした。自分では見えないが、ひっかき傷やみみず腫れがいくつも散らばっているだろう。
「俺、こんな風にお前にすがってるんだな
……
悪い、痛いだろ」
「多少は。けどいいんだ、お前が気持ちよくなってくれるなら、いくらでもひっかいてくれていい
……
っ、イサミ?」
さす、と痛まない程度に傷を指でなぞられ、過敏になっている神経が声を上げさせる。そんなことをしてはいけない、と止めるべきなのに、体が動かなかった。心臓がけたたましく早鐘を打ち始める。
やがて指は離れたが、何かぬるりとした温かいものが代わりに触れてきた。ぴちゃ、と湿った音がなる。背中にぞくぞくと電気のようなものが走り、顔がかっと火のように熱くなった。
「イ、サミ
……
だめだ、そんなことしたら」
「
……
痛いか?」
温かいものが離れて、濡れた場所がひんやりとした感覚になる。痛いよ、と息も絶え絶えにどうにか口にした。
「そりゃよかった。生きてる証拠だな。
……
心臓、うるせぇ」
「当たり前、じゃないか
……
」
誘っている、わけではないのだろう。だが彼のぬめる舌の感触はどうしても、スミスの性的な衝動をくすぐった。だが口の内側を一度強く噛んで己を制し、スミスはイサミに向き直る。てっきり揶揄するような顔をしているのではないかと思っていたのに、まったくの逆だった。イサミは目を潤ませ、唇をぎゅっと噛みしめていたのだった。
「イサミ
……
」
「生きてるよな、スミス
……
」
イサミはスミスの存在を確かめるような、あるいは夢ではないかと疑うような、どこかぼんやりとした顔をしている。彼はスミスが戻ってきてから時々、こんな顔をしてスミスを見つめる。盲いた者が、本当にそこに求めるものが在るのか、と問いかけるように。
「生きてるよ、生きてお前のそばにいる。
……
泣かないでくれイサミ。お前に泣かれると、俺はいつもどうしたらいいのか分からなくなるんだ
……
」
彼の涙は美しいが、いつも笑っていてほしい。彼には笑顔が一番似合うのだと、死してなおずっとそばにいたから知っている。
「何もしなくていい。生きててくれれば、それで」
「分かった、約束する。俺はもう絶対に死んだりしない!」
「何が絶対だ
……
二度も死んだくせに
……
。説得力ゼロだよ馬鹿野郎
……
!」
「ごめん、ごめんなイサミ
……
本当にその通りだ。だから今度こそ、な? 信じてくれ」
頬に手をやり顔を寄せて、ついにぽろりと零れた一粒の涙を舐めとる。そして背中をいじられた意趣返しという気持ちも込めて、目尻に舌先を丁寧に這わせた。驚いたイサミは涙も引っ込んだようで、小さな口からかすれた笑い声を漏らし始める。
「く、すぐったいから、やめろって」
「君を、泣きやませたくて。どう?」
「も、平気
……
悪いな。
……
けどお前は
……
平気じゃなさそうだな」
手の甲でぐいっと目をぬぐうと、イサミはちら、とスミスの方
……
というより、下半身の方に視線をやった。泣きやんでくれて安心はしたが、スミスとしても自覚はあったため気まずい気持ちに襲われる。好きな相手にあんな風に触れられて我慢できる男がいるのなら、そいつは多分男ではない、とスミスは強く思う。
何を想ったのか、イサミのいたずらな手が、下着を押し上げるふくらみをつんとつついた。
「あ、こら!」
「でかいよな、つくづく
……
。よくこんなのが入るもんだ
……
人体ってすげぇ」
指先ですりすりと、官能的というより興味深い対象を触って観察するような手つきに、興奮すればいいのか嘆けばいいのか分かったものではない。
「ひ、他人事みたいに言うじゃないか。っ、ま、お前の天賦の才だ、な
……
っ」
「嫌すぎるだろ、そんな才能」
「あっ、こら、いい加減にしなさい」
つい幼い子供に言い聞かせるみたいな口調になってしまう。笑ってくれたのはいいが、こんな風にからかわれては黙っていられない。彼は自分が何をしているのか、いまいち自覚していないに違いないのだ。
分からせてやらなくては危険だ、とスミスは彼の手首を握ると、彼の両ひざの間に体を割り込ませた。そして肩を押せばいとも簡単に、イサミは仰向けにころりとひっくり返る。油断しきって、体が弛緩している証拠だ。
「おい、スミス」
「
……
お前の腹はいつも俺のこと、優しく抱きしめてくれるよ。
……
ちょうど、このあたりかな」
臍の下あたりに親指の腹を当て、ぐっと押し込む。
「あっ
……
」
「いつもこのあたりまで入ってる。ここを突くと、お前はいつも本当に気持ちよさそうだ」
「や、め
……
」
そのまま、彼の中の道をたどるようにまっすぐ指を下へ動かす。やがて柔らかな繁みに辿り着き、その感触を楽しむようにさらさらと撫でまわした。ほとんど手入れされていないそれをはじめは珍しく思ったし驚きもしたが、今では慣れたものでかわいらしく思うし、濡れると色っぽいし、手触りも良いのでついつい弄ってしまう。お気に入りの箇所のひとつだ──もちろん、彼の体は全て好き、というのは大前提として。
そうしているうち、イサミの呼吸も荒くなり、徐々に硬く兆していくものがあった。やめろ、とスミスの手を止めようと伸ばされた腕は小刻みに震え、力がまったく入っていない。
「まだ朝まで時間はあるよ。よかったら俺と踊らないか? darling」
祝賀会の後半にはダンスも予定されていた。そんなことを思い出しながら、スミスは彼に誘いをかけ、立てた膝にちゅっとキスをした。
「
……
ルルたちと出かけるんだろ、朝から」
「優しくするよ、とびきり」
その優しさがいつまで続くかは、自分自身にもわからない。
イサミはしばらく考える様子を見せると、ため息をひとつ吐いた。そして見事な腹筋の力で滑らかに上半身を起こすと、スミスの唇に噛みつくように口づける。それが合図になって、二人は再び深く絡み合った。
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