フリンズさんが不思議な物を作る話


『貴女の都合がよろしければ、美味しい紅茶を手に入れましたので、ご一緒にいかがですか』
 
 フリンズさんに声をかけられて、お茶会に誘われたのは数日前。約束した時間に夜明かしの墓を訪れたのだが、肝心の主催者の姿が見当たらなかった。そんなに広い場所ではないので、辺りを一回りしてみたが……見つからない。
「あとは――これ、よね」
 思わず独り言を呟く。ここに着いて一番最初に目を引いた物だ。灯台下の外にいつも設置されている机に、ほんのり光っている蒼い炎が『ある』のだ。ランプに入っているとか、蝋燭に灯っている炎ではなく、無造作に置かれていた手乗りサイズの揺らめく蒼炎。ずっと気になってはいるのだが、不用心に調べるのも気が引けていた。
 
……やってみるしか、ないか」
 炎に触れるなんて普通は出来ることではない。しかしこの炎型の置物は、フリンズさんのランプの炎と同じ色をしているので、不思議と怖くない。とは言え、若干怯え腰ながらも気合を入れてから、自身の指先を炎へと伸ばす。

 
――おや、ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたよ」

 炎に触れた瞬間、自分の体と周りの空間が白く光ったように感じた。それに驚いてギュッと目を瞑り、目を開くと……そこには――フリンズさんが居た。
…………⁈」
「ふふ、驚いて貰えたようで嬉しいです」
 キョロキョロと辺りを見回す私に対し、フリンズさんは目を細めてクスクスと笑う。
「ここは、どこですか?」
 謎の空間には、フォンテーヌ製の装飾が綺麗なテーブルと、同じ造形の椅子が二脚あり、片方の椅子にはフリンズさんが座っていた。彼の背後にあたる少し遠くへ目線を向けてみたが、白い壁――というか霧に覆われた白い空間が続いているようだ。
「ここはもちろん、夜明かしの墓ですよ?」
「え、でも――
「ですが、魔女の方々を少し真似してみましてね。僕の炎の性質を利用して、とある空間を作ってみたのです」
…………どうやって?」
「貴女と二人きりの空間を作ってみたくて――僕が、頑張りました」
 続けて「この小さな空間だけになりますけどね」と彼は言う。そうは言うものの、頑張ってできることではないでしょう……と、胡乱な目で彼を見つめたが、ふふっと笑われるだけだった。
「せめて、説明書きとか手紙とか置いておいて欲しかったです」
「貴女に驚いて欲しかったので、置きませんでした」
……フリンズさんが居ないなぁ、と私が帰ってしまう可能性もあったのでは」
「でも、貴女は今ここにいるでしょう?」
「それはそう」
 あんなに気になる物を置かれたままで、手を出さないとは思われていない。実際その通りになっているので、彼に何もかも先を読まれている。

 フリンズさんに促されて、ひとまず椅子に腰掛ける。目の前にはチョコレートなどのお茶菓子と、可愛らしいティーポットとカップが用意されている。
「では、お約束した通り――紅茶を淹れて差し上げますね」
 フリンズさんが椅子から立ち上がり、お茶の準備を始める。「少しお湯が冷めてしまいましたね」と、生み出した自身の炎をポットにそっと入れると、お湯が沸騰したときのようなボコボコと音がした。もう何でもありですね、この空間。
 
「はい、どうぞお召し上がりくださいね」
 ティーポットとカップを温めてから、丁寧に淹れられた紅茶が目の前に差し出される。お茶会の作法なんて知らないけれど、二人しかいないのならあまり気にしなくても、良いかな。熱さに気を付けながら紅茶に口をつけると、とても良い香りと味が広がった。
――とっても美味しい。フリンズさん、ありがとう」
「えぇどういたしまして。さぁ、こちらのチョコレートも是非どうぞ」
 隣に座り直した彼が、チョコレートを一粒摘んで私の口元に運んでくる。少し気恥ずかしかったけれど、私が口を小さく開けると、チョコレートをそっと差し入れてくれた。
「うん、このチョコレートもとっても美味しいです――けど、餌付けされている気分ですね」
「餌付けしているのです、よ」
 そんなことを目を合わせながら堂々と笑顔で言われてしまうと、私の方はもう何も言えない。
 フリンズさんは「楽しい時間ですね」と言って、ニコリと笑う。私も彼に釣られて笑ってしまった。


「美味しい紅茶に美味しいお菓子、うーん……素敵なお茶会ですね」
「貴女に喜んでいただけているのであれば、頑張った甲斐がありますね」
「またここに来たいぐらいです」
――ずっとここに居て下さっても良いのですよ」
「いいえ帰りたいです、お願いしますね!」
「おやおや、それは残念ですね」



『お望みとあらば貴女の気が変わるまで、』