ortensia
2026-03-14 16:55:37
2685文字
Public 傭リ
 

死ネタ。リがしんだあとの傭を色々なキャラが訪ねているらしい傭リ。

ほんのり荘園後時空だけどみんな生きてるっぽい。ノトルキ、納写、占ハスが匂わせ程度に出る。冥婚…?同意は不明、死人に口なし。

 明るい緑の景色の庭は、エマが整えたものだ。職人はその出来にとその後の手入れに満足しながら、今日は仕事だ来たわけではないと思い直す。客として来たエマは、友人として、相手は庭に出ているだろうからと、驚かせようとこっそり忍び込んだ。
「時間通りだな。」
 幾ら草木に詳しいのはエマだろうと、そこに潜むのは相手が上部だった。あっさりと声を掛けられたエマは素直に身を起こして顔を見せた。
 辺鄙なところだが心地の良い風が豊かだ。そこがナワーブの今の住まいだった。
「これ!エマとパパが選んだの。」
「ああ、ありがとう。」
 花束をナワーブに手渡す。それを慣れた調子で受け取ると、庭の一角に添えた。
 そこには墓があった。
 きっとナワーブは日が暮れる前には花束を回収し花瓶に活け、室内にある、墓の住人が描いた自画像の前に置くだろう。それも随分と慣れた手際になった。最初はエマが教えたものだが、今では茎を斜めに切るのも上手くなった。決して器用な人物ではないのに。
 エマは自分が持って来た花束が置かれた墓石を見詰めた。そこはナワーブに頼まれて、バラの花を多く植え、他の木々で墓に木影が出来るように誂えた。あまり日差しに強い男ではないからと。
 それからエマはナワーブに倣って庭に面したベランダから室内に上がり、生前の彼が好んでいた紅茶を、ナワーブの手づからもてなされた。同じ茶葉でも、それはどうしても彼と同じ味にはならない、勿論、エマの記憶違いかもしれないが。
 エマは友人としてナワーブと語らい、彼の思い出話に花を咲かせ、それでもどうしても庭の花を実際に見て、少しだけ手入れをしてから、帰って行った。
 ナワーブの家には、こうしてナワーブを訪ねて、そして彼を偲んで、度々知人友人が訪ねて来る。エマは仕事で呼ばれても含めて良く来るし、父親であるレオを伴うこともある。
 ウィラは墓の主と懇意だった。ナワーブは最初、それを創作的観点の話だと思っていた。けれど二人の雰囲気は、誰か親しい相手に対しての秘密を抱えたもの同士のような、結託のようなものを感じた。それをナワーブはついぞ彼と共有することはし損なったが、彼が生きながらえていても、結局叶わなかったかもしれない。それでも彼が何かナワーブに隠し事をしていたわけではない。ナワーブは彼が自分に見せてくれるありのままを受け止めていた。ウィラは墓の前で黙って何かを彼と話した後、ナワーブとは碌に話もせずに帰って行く。
 死者を偲ぶには煌びやか過ぎる格好で来る女性陣もいる。生前の彼は着飾った女性を良く褒めた。だからマリーも美智子も見せに来てくれるのだろう。ドレスと着物の二人は、墓の前で小さく踊り、歌った。持参してくれる菓子やお茶はどれも美味しくて、ナワーブにも喜びを与えてくれた。
 そしてなんやかんや、彼の友人や悪友が訪ねて来る。花束こそ持って来ないが、たまに来ては最近の調子を訊ねて来る。生前いがみ合っていた相手とは、墓石でもそうだ。変わらない関係にナワーブが笑うと赤い鼻の上に皺を作って睨み付けて来る。それでも帰る時にはナワーブと拳を合わせてまた来ると言って去って行く。
 エマのような花束ではないが、ルキノは季節の花を一輪携えてやって来る。ここにいる子達はみんな穏やかだね、と話す。蜥蜴の話題だ。酒を墓石に掛けに持って来ることもあるが、それは他に滅茶苦茶掛ける連中がいるから、ナワーブは程々にするよう頼んだ。その後ろに、お前こそ幽霊なのではないかというような無愛想なツラで着いて来るノートンは、墓石に触って損傷がないかだけ確かめると、蜥蜴を目で追いかけるだけで突っ立っている。何しに来てるんだか。それでもナワーブは歓迎した。墓の主もそうすると思って。
 人を雇って態々車椅子を運ばせるガラテアには、車椅子を運んで石畳の場所まで案内する。それから一緒に運ばせた彫刻をああだこうだとナワーブに言い付けて運ばせ、墓石の周りを賑やかにさせた。それだけすると、ナワーブが引き留めてもてなそうとするのも無視して帰って行く。彫刻を頼んでいるわけでもないが、無償というのも気が引けた。あるいは、彼女は勝手にここを作品置き場か何かと思っているのだろうか。
 不規則にふらっと現れるイライは、使い鳥とは別の気配を連れてやって来る。花こそないが、墓の前で何かを唱えるのを、ナワーブはその後ろからいつも見ていた。風もないのに揺れる草木のそばから、何かが這いずる湿った音がする。イライの手にある軽い手土産は、その相手が選んだらしい。イライはナワーブの生活に心配するわけでもないが、肯定的でもないようだった。イライは這いずる音の方に塞いだ目を向けて、困ったように笑っていた。
 逆に葬儀の時にしか顔を見せなかった者達もいる。彼の死に顔と、自分が撮った彼の生前の写真を見比べると、葬儀の途中で帰ってしまったジョゼフを、イソップは心配するように見ていた。それでも納棺師は葬儀に最後まで付き合ってくれた。
「死化粧をどう施しても、やっぱり生前とは違う?」
 棺桶の中を黙って見下ろすナワーブに、イソップは静かにそう問い掛けた。
 しかし答えは気にしていないようだった。イソップにとってそれは至極当然のことのようだった。それが仕事である故。
 それでもナワーブは、イソップに礼を言った。
 墓掘りはナワーブも参加した。
 真っ白なスコップを態々用意し、それを土でどんどん汚して六フィート掘り進めた。
 棺を納め、土を被せる。墓石で閉じる。それで永遠となった。
 先導してくれたアンドルーは、すっかり墓が墓となって、それからナワーブに言った。
……僕が言うのもなんだが、墓場に住むのは勧めない。墓場は、生き物が住む場所じゃない……。」
 当人が言ったように酷く言い難そうだったが、珍しくナワーブの目を真っ直ぐ見てそう言った。ナワーブはアンドルーの忠告に、ただ、礼を言った。
 そして、ナワーブはエマに、墓の周りを庭にしてくれるよう頼んだ。それからバルクに家を建てて貰った。エマにも言ったようにナワーブが色々と要望を言うと、その全てに反論されたが、とても良い家を建ててくれた。ヘレナも色々と気を遣って、良い家にしてくれた。
 墓石に刻む名を問われた時に、ナワーブはなんの彫刻も要らないと言った。
 墓は、そもそも家の庭に掘られたのではない。墓を庭に、ナワーブが住み着いているのだ。
「ずっと一緒に暮らそう。」
 ナワーブは墓石に語り掛けるようにしてそう言った。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。