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むかいえ
2026-03-14 14:55:43
4273文字
Public
シャアム
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白を塗り替える夜
シャアムワンライ、お題「ホワイトデー」。CCA和平+出向if。白い軍服を贈られるアムロの話。
シャアが『ホワイトデー』なるものを知ったのは、偶然だった。女性士官たちが雑談する声を拾ったことに端を発する。
彼にとって『白』という色は少しばかり意識を傾けてしまう色なのだ。その色を冠した日があるなら、調べてしまうのも仕方あるまい。
旧世紀より続く文化のひとつである『バレンタインデー』。その返礼の日と定義されているらしい。
バレンタインデーは世界的にも有名だが、一方のホワイトデーは東アジアの一部の国にのみ定着していた習慣のようだ。人口増加や移民問題、それに伴う文化融合は繰り返され、今となっては埋もれてしまっていた文化のひとつ。ロマンティックな風習は、やはり女性受けが良いのだろう。見つけ出してきた女性士官たちの楽しげな声がその証左と言える。バレンタインデーと同じく、ちょっと特別な日として記念になるのかもしれない。
シャアは、つい先日のバレンタインデーを思い出す。真っ先に想起するのは、少し照れた顔のアムロ・レイだった。
地球連邦政府と新生ネオ・ジオン軍は、現在停戦調停に合意し、事実上の和平を結んでいた。そして停戦の結実として、双方の軍から交換留職よろしくそれぞれの兵が出向している。アムロもまたその一人だ。そうして、かつての敵であり
――
今は殴り合いと話し合いの末に何故か恋人関係に落ち着いたシャア・アズナブルの元で、元気に働いている。
きっと記念日など気にしないタチだろうに、つい先日バレンタインでアムロは、一輪の薔薇をシャアへ贈った。「ん」と言葉少なく、ほんのりと頬と耳朶を染めていた彼の姿はシャアの目に焼きついている。シャアもまた彼に白薔薇を一輪贈り、二人でささやかに酒を酌み交わして過ごした、特別な思い出だ。
あの甘やかさをもう一度味わいたいと密かに願っていたシャアにとって、ホワイトデーは十分な口実だった。
指先で通信端末を操作し、彼は専属の仕立て屋に繋ぐ。極秘任務を告げるように通したオーダーは、特注の軍服制作である。採寸はアムロを迎え入れた際に測ってあるため問題ない。呼び付けた仕立て屋と制作時の細かい点を話し合えば、あとは完成まで待つだけだ。
シャアと同じネオ・ジオンの意匠を汲む、極上の絹と柔らかな軍用素材を掛け合わせた
――――
アムロ・レイ専用の純白の軍服は、そうして出来上がったのだった。
*
与えられている軍務が一区切りついた時、アムロはシャアに呼び出されていた。内心何事かと首を傾げながら、レウルーラのシャア専用の部屋へと向かう。
軍艦に似つかわしくない豪華なしつらえの総裁室は、新生ネオ・ジオン軍のどの艦にも用意されている。シャアはそこで、特注の布地が放つ磨き上げられた純白の輝きを見つめていた。
「お呼びでしょうか」
「楽にしてくれていい」
「
……
一応、仕事中なんだけど」
入室したアムロは、ドアの向こうに立つ部屋付きの従兵を気にして慣れない敬語を使ったが、シャアに一蹴される。そのまま続ければ彼の機嫌が悪くなることは経験済みのため、仕方なく口調を崩し、アムロは敢えて気安く近寄った。
無造作にシャアのデスクの端に腰を下ろし、彼が手にしているものを覗き込む。
「軍服?」
「アムロ、君はホワイトデーを知っているか?」
「は?」
唐突な問いかけに、アムロは首を捻る。ホワイトデー。咀嚼して、記憶の引き出しを開けてみても、アムロの中には該当する知識がない。
「いや、知らないな。
……
白い日? 雪国の言葉か何かか?」
「バレンタインデーのお返しの日、らしい」
「
……
ふぅん?」
そこで、アムロはちょっと嫌な予感がした。
シャアの手の中にある眩い白の軍服が、急に視界の中で主張してくる。思えば、彼はまるで見せびらかすようにそれをデスクに広げていた。話の流れからも自然と導き出される答え。だがアムロが何かを言うよりも先に「君の、」とシャアは言葉を続ける。
「そのネオ・ジオンの黒い軍服も、私の同志になったようで悪くはない
……
が、やはり君には『白』が似合うと思ってね」
「
……
それを着ろって?」
「私からの『お返し』だ。もちろん受け取ってくれるだろう?」
そう言われてしまえば断れない文言である。素人目にもわかる高級感のある生地、どこからでも目立つような純白と金の意匠。なんなら、シャアと揃いのように同じく純白のマントすら用意されている。アムロの口元が引き攣った。対して、シャアは誰もが魅了されそうな微笑みを浮かべている。
おもむろに伸ばされた手がアムロの襟元に触れる。シャアの指先が焦らすように撫でていく。その指の動き一つ一つに、互いの肌を貪り合ったいつかの夜の記憶が呼び起こされて、アムロは知らず息を詰めた。
「
――
これを着ろ、アムロ。そろそろスウィートウォーターへ戻る。そうしたら、その姿で私の前に来るんだ。
……
それとも、今ここで、私が着せようか?」
微笑みながらも拒絶を許さない眼差しに、観念したようにアムロは白い軍服を受け取った。なめらかな生地の肌触りに溜め息を吐く。
「
……
あなたって本当に、勝手な男だよ」
シャアは心底満足そうな顔をしていた。
*
レウルーラから場所は変わる。予定していた通りにスウィートウォーターへ寄港し、現在はシャアの邸宅の一室である。恋人関係へと発展してからアムロに与えられた部屋にある、等身大の鏡の前で彼は唸っていた。
特注の軍服は、アムロの細身の身体に完璧にフィットするように仕立てられていた。潔癖な白を彩る金の装飾がきらりと光る。鏡で見れば見るほど、シャアと色違いの軍服である。渋々と最後にマントも装着すれば、もはや浮かれた恋人が纏うペアルックのようであった。
「
……
あー! くそっ!」
くしゃくしゃと髪を掻き乱す。もともとの天然パーマがより一層くるくると跳ねたが、アムロは気にせずその場にしゃがみ込んだ。
「そもそも自分だけ『お返し』ってずるいだろ
……
! 俺だって
……
なにか、こう
……
」
それは白い軍服を渡された時から、アムロが悩んでいたことだった。シャアの言う『お返し』として特注の軍服を着ることに否はない。もちろん、なんだかちょっとコスプレ染みた感じがして、それなりに恥じらいはあるけれど。
ただ、一方的な返礼というのが気に食わないのである。バレンタインデーの返礼と言うなら、シャアから白薔薇を受け取ったアムロにもその責務
……
のようなものはある。アムロとて事前にホワイトデーの存在を知っていたなら、きっと何かしら準備していただろう。
それをさせなかったのはシャアだ。これほど高級感のある特注の軍服が数日で完成するわけがない。『お返し』の準備など当然できていないアムロが軍服の着用を断りにくいように、シャアが隠し通したに決まっている。
手のひらで転がされているようで悔しい。恋人として愛しているけれど、なんとなくシャアに負けたような気がして癪だった。
「
……
『お返し』
……
か」
アムロはもう一度ちらりと鏡を見やる。しゃがみ込んだことで白いマントが床に扇状に広がっていた。
彼はふと思い立って、マントを両側から掴み、自身の身体を包んでみる。白さも相まって、シーツを巻き付けたようになった。
「
……
よし」
――
ピンと思い付くものがあって、アムロは立ち上がった。
「よく似合っている。やはり君には白が似合うな」
「それはドーモ」
コロニー内は既に暗く、夜の静寂に満ちている。言われた通りに特注の軍服を身に纏い、シャアの私室にやってきたアムロは不機嫌な表情を隠さない。
アムロに軍服を着るようにと言いながら、シャア自身はすっかり寛いで夜着を纏っているのだ。ソファに腰を下ろして悠々とアムロの姿を鑑賞している男を見て、彼は「シャアが自分は道化だと皮肉をこぼすのも無理からぬことかもしれない
……
」などと明後日の方向に思考を飛ばし、今更になって同情を抱いたりもしていた。
「何ものにも染まらない白。白い悪魔。フフ
……
私だけの白い悪魔かな?」
深紅の軍服のシャアとは対照的な、純白の軍服を纏ったアムロ。その姿はあまりにも神聖で、かえって彼を汚したいという背徳的な欲望を、シャアの心の奥底で燃え上がらせる。
男の劣情を知ってか知らずか、アムロはシャアのそばまでやって来ると、ソファの肘掛けへ手をつき、彼に顔を寄せる。
「あなたの『お返し』は、ちゃんと受け取ったよ。
……
だから俺からの『お返し』も受け取ってほしいんだけど?」
「ほう? 何を準備したんだ?」
愉快そうに青い眼差しが細まる。おおかた予想しているのだろう。アムロの中の負けず嫌いに火がつく。
彼はシャアの手を取り、自身の腰へと滑らせた。白いマントの内側。上衣を留めるベルトのバックルをトンと軽く叩けば、心得たように外される。かちゃんと床に落ちたそれに目もくれず、アムロはまた男の手を導いていく。
胸元から臍、そして腰回り。何をするのかと楽しげに手を貸していたシャアの目が、そこで丸くなる。
ぴったりとしたスラックスを誘われるまま腰から尻にかけて撫で上げた時、明らかに凹凸が少なかったからだ。
本来ならば肌着や下着の重なりを感じるはずの場所は、純白の生地のなめらかさだけを手のひらに伝えてくる。
――
これでは、まるで、軍服一枚だけの
……
「『お返し』は
……
――――
」
「
……
!」
無意識のうちにアムロの腰回りを凝視していた彼が、ハッと顔を上げれば、至近距離でアムロと視線が絡む。ちゅ、とささやかなリップ音とともに、シャアの唇が奪われた。
「ぼくで、いいよな?」
――
そこには文字通り、白い悪魔が立っている。
シャアと揃いの、けれど白無垢のように、穢れを知らない『白』を纏う男。そしてその下は、無防備に、何も身につけていない。
挑発的に微笑む彼の言葉の意味を察して、シャアの中の劣情が一気に膨れ上がった。触れたままの細い腰を引き寄せ、少しだけ離れていた唇に噛み付くようなキスを贈る。
「ああ、最高の『お返し』だ
……
」
シャアの声は低く、官能的な響きを帯びている。アムロは作戦が成功したとでも言いたげな笑顔のまま、抵抗することなくシャアの腕の中に身を委ねた。
二人のはじめてのホワイトデーの夜。純白の軍服が脱ぎ捨てられる時、その下にあるのはきっと、二人が積み重ねていく確かな愛の証明なのだろう。
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