2026-03-14 14:29:49
1716文字
Public ワンドロ
 

パーバソワンドロライ
お題・ととのう

北欧の特異点にでも行ったのかな。

 薄暗く湿った室内に、呼吸の音だけが聞こえる。
どちらの吐息かは分からない。ただ、吐く息はいずれも熱を帯び、その息で、室内の密度がさらに濃くなった。
 二人は、新鮮な空気の上澄みだけを奪い合うように、浅く息を吸った。

 気が狂いそうな熱気の中、パーシヴァルの白い肌はすでに真っ赤に染まり、ぎっしりと隙間なく並ぶ長い睫毛の生え際に、汗が滲むように溜まっていた。額から湧き出た透明な線は火照った頬を伝い、流れ落ちていく。
 皮膚そのものから溢れ出すそれは、首筋、鍛えられた胸筋、腹筋の窪みに沿って、ゆるやかな渓谷のように汗の雫が流れた。目を閉じ、汗を拭うと、何かを堪えるように、彼はまた深く、熱い息を吐いた。

……もう限界かい?」
余裕を含んだ笑みを浮かべたバーソロミューは、汗で濡れた黒髪を掻き上げ、その顎をわずかに上げながら、揶揄うように言う。
――彼自身もまた、パーシヴァルほど分かりやすくはないものの、体温は確実に上がっており、朝露のように玉になった汗が上気した肌に浮かび、鎖骨のくぼみに溜まっていた。

……まだ、大丈夫です」
意識的にこちらの方を見ないようにしているらしい。声をかけられても、その瞳を閉じたまま俯いた。
……我慢しなくていい。ほら、これは勝負じゃない。私が先でも、君が先でも――

バーソロミューは、汗で濡れた銀色の一房をすくい上げ、赤く染まった耳にそっと掛けた。そのまま、熱を含んだ息を吹きかけ、艶っぽく囁いた。唇が、ほんの少しだけ耳に触れた。
 びくりと赤く染まった肩を震わせたが、何度目かわからない吐息を再度、深く深く吐いた。

「だったら、を足しても問題ないよね……?」

慈愛に満ちた瞳とは裏腹に、色を含んだ手つきで、アロマの香りを含んだを手に取る。

「そ、それは……!」
「足りないなら、刺激を増やした方がお互いのためだろ?」
……バーソロミュー、それはいけないっ……!」
「ほら、かけるよ――
制止の声を意に介さず、バーソロミューがを投げる。


次の瞬間、ジュッという音とともに、一気に蒸気が立ち上った。
残された石は、わずかな水では冷める気配すらない。
サウナストーブの上に据えられた石なのだから、当然だった。

「ほら、これでもまだ我慢を続けるのかい?」
空になった柄杓を置く音が、カタンとサウナ室内に響いた。
バーソロミューが腰に巻いていたタオルを素早く外すと、その下からは、履いていた水着が現れた。
剥いだタオルで宙を仰ぎ、熱をたっぷり含んだ風をパーシヴァルへ直接送る。

「あっつっ……!」
熱波を真正面から受けたパーシヴァルから悲鳴に近い声が返ってきたのと、彼が立ち上がったのは、ほぼ同時だった。立ち上がった拍子で落ちたタオルを急いで木製のベンチに置くと、一目散に出口へ向かう。

バーソロミューは満足そうに、大きく笑った。
「ははっ! この部屋から出たければ先に出たらいい。――この勝負は、私の勝ちだね」

木製の扉を開けると、氷のような外気が一気に流れ込み、室内の熱が、水着を着たパーシヴァルと一緒に少しだけ逃げていった。

 遅れてバーソロミューもサウナ小屋を飛び出した。外へ出ただけでも一瞬で体温が奪われる。それでも歩みを止めず、肌を刺すような冷たい湖面に、ゆっくりと沈むように身を進める。

 先に冷え切ったパーシヴァルが、冷たい湖から顔だけ出して、物言いたげにバーソロミューを見つめた。

「バーソロミュー……これは勝負では、なかったのでは……?」
「私の中では、完結している勝負さ」

冷たい水の中で、二人の間にだけ、気の抜けた間が落ちた。

「では、次はどちらが先にロッジへ戻るか……!」
……ふっ、いいだろう。我慢比べといくかい?」
「いえ、競争です。先に着いた方が……勝者です!」
「ッ!Go!って言ってからにしてくれ!」

言い終わるより早く、水面が大きく揺れた。

ここは北欧、フィンランド。
雪原に小さく建つロッジと、その傍らに静かに横たわる湖。湖に浮かぶ二つの影が、競うようにロッジの中へ消えていった。