採掘すずめ
2026-03-13 21:14:21
2737文字
Public SS
 

【SS】旅の相棒

行商人ファロッドの相棒である二頭のラマの話題に触れる話。ほのぼの。

「何をまじまじと見ているんですか?」
「ん?」
正午を少し過ぎた頃。
ユウェラ邸での昼食を終えた後、日当たりの良い玄関前の階段に腰掛けて一枚の写真を眺めていたファロッドは、背後からかけられた声に振り向いて笑みを作った。
「あぁ、レッシーにユウェラちゃん達まで……
そこにいたのはレシタリア、ユウェラ、ソルダにヴィフタルの四人。
不思議そうな顔をしたレシタリアに肩越しに覗き込まれたファロッドは身体の向きを変え、皆が見やすいように手元の写真を差し出す。
「俺のラマの写真だよ。半年くらい前だったかな……俺の故郷の砂漠の村に寄った時、こいつらを預かってくれてる奴が撮ってくれたんだ」
そこに写っているのは、砂漠の村の一角で得意気な笑顔をしたファロッドと、その両側に二頭のラマーー片方は白、もう片方は茶色の毛をしているーーがいる光景。
「へぇ、ファロッドさんにもラマがいたんですね!」
「あぁ、一応な〜。俺が20歳になる少し前くらいに、サバンナで若くて根性がありそうなのを見極めて懐かせたんだぜ」
驚いた表情のヴィフタルに対し、ファロッドはニヤリと笑って答える。
「でも普段は連れてないですよね?オレ達まだ一度も見たことないですし……
「そうなんだよ。こいつら、荷物を運ぶのに大活躍してくれるから助かるんだが、俺の旅って割と危険な場所だったり過酷な環境だったりすることが多いだろ?だから比較的安全な長旅の時以外は、砂漠の村に住む知人に預かってもらってんだ。そいつ、ラクダの飼育してるからこの手の動物の相手が上手くてさ、喜んで引き受けてくれて……。有り難いよな」
「なるほど、そうだったんですね」
「せっかく相棒になってくれた奴らだから、もっと一緒に過ごす時間を増やしたい気持ちもあるんだがなぁ」
そう言ってファロッドが再び写真に視線を落とすと、つられて写真に目をやったユウェラが小さく微笑みながら口を開いた。
「毛がふわふわしていて可愛いな」
「だろ?ちっとも言うこと聞きゃしないが、愛嬌のある奴らなんだ」
「言うことを聞かないのか?」
「そりゃもう全然!二頭で正反対の方向に行ったりするしな。サッと寄ってくるのは小麦を見せた時だけだぜ」
「そうなのか。なかなか大変なんだな……
「ふふ……貴方がラマに翻弄されてうろたえる姿が目に浮かびますよ」
おどけたように説明するファロッドに、レシタリアが苦笑する。
「そのラマ達の名前はなんと言うんだ?」
「あー……
ユウェラに問われたファロッドは、一度言葉を詰まらせてから、一呼吸おいて答える。
「名前は、特につけてないんだよな」
「そうなのか」
「何つうか、ペットとは違うし……ほら、例えば牛乳や羊毛を集めるための牛や羊を多頭飼いしてると、大切に可愛がっていてもわざわざそれぞれに名前を付けなかったりするだろ?その感覚に近いかな」
「なるほど」
「まぁ、ラマに名前を付けてる行商人も一定数いるけどな。……そうか、名前か……
そこまで口にしたファロッドは、腕を組み、何やらブツブツと呟きながら考える。
「長年の相棒だし、名前があってもいいのかもな……。よし、決めた」
そしてパッと顔を上げると、レシタリアを見上げて言った。
「レッシー、こいつらの名付けを頼むわ」
「え……えぇ!?わたしですか!?そんな唐突に……
目を丸くして声を上げるレシタリアの様子に、ニコニコしながら続けるファロッド。
「ユウェラちゃんの名付けにはいつも和ませてもらってるが、お前さんならどんな名前を付けるのか興味あるしな。駄目か?」
困ったように視線をあちこち彷徨わせていたレシタリアは、期待に満ちたファロッドの顔を見ると、観念したように深く息を吐いた。
「いや、あの……ま、まぁ、別に構いませんが……。えぇと……考えますので少し時間をください……
そして目を閉じ、額に手を当てて何やらうんうん唸ったり小さくあれこれ呟いたりしながら思考する。

数分の時が経過し。

……考えました」
閉じていた瞳を開け、レシタリアが静かに言い放った。
「んじゃ発表頼むわ」
ファロッドをはじめ、ユウェラやソルダ、ヴィフタルも一体どんな名前を付けたのだろうと興味を持って注目する。

「白いほうが『ふわしろ』、茶色のほうが『もふちゃ』で……

一瞬の、一同沈黙。
レシタリア以外の全員が目を見開き、しばし固まった。
「レッシー……お前さん……
「レシタリア様……
最初に声を発したのはファロッド、そしてヴィフタル。
ユウェラとソルダは、きょとんとした顔でレシタリアを見つめている。
「なっ、何ですか?お気に召さなかったらご自分で考えてください!」
皆の反応に、レシタリアは顔を赤くして動揺する。
「いや、そうじゃない、予想外に可愛い名前だったから驚いただけだって!お前さん、そういう系の名前付けるのか……!」
「レシタリア様、かわいい……!名付けといえば普段はユウェラ様が担当される事が多いですし、レシタリア様の名付けって貴重ですよ!」
誤解を解こうとする二人に褒められ、レシタリアは更に動揺を強めて視線を彷徨わせる。
「ユウェラとソルダも、そんな哀れむような目で見ないでください……
羞恥に支配されたその声にはいつもの凛とした響きはなく、今にも消えてしまいそうで弱々しい。
「い、いえ、俺はただ、とてもお可愛らしい名付けだと思って……
「ソルダの言う通りだ、レシタリア。私も、とても可愛いくて、ラマ達の特徴を取り入れた良い名だと思う」
ユウェラとソルダにもそう褒められ、レシタリアは若干の落ち着きを取り戻すと、眼鏡の位置を直しながら心境をこぼす。
「これでも一生懸命考えたんですよ。何しろ名付けには慣れていないもので……。正直、だいぶユウェラの名付けに引っ張られたところはありますけどね……
「いや、ユウェラちゃんとはまた違った可愛さがあっていいじゃないか!ありがとな、レシタリア。今度こいつらに会いに行ったら伝えとくわ」
「それはどうも……
兄のように慕うエヴォーカーの様子がひとまず落ち着いたのを見て、ユウェラは安心したように微笑む。
「ファロッド。今度機会があったらぜひ、ふわしろともふちゃも連れてきてくれ。私達もお前のラマと触れ合ってみたい」
「りょーかい。お前さん達になら、あいつらもすぐ懐くと思うぜ。名付け親も紹介しないとだしな!」
「大丈夫でしょうか………お気に召さずに唾を吐かれないと良いのですが……
深刻そうな顔をするレシタリアを見て、ユウェラ達は皆おかしそうに笑い、口々に励ました。
ユウェラ邸の午後の、平和なひととき。