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ほしのまなつ
2026-03-13 20:27:17
4738文字
Public
:一郎×3世短編
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🥞🎩3️⃣/スイート&スイートホーム
よっぱらい叔父、甥(x年後)
◆スイート&スイートホーム
・
・
・
「
――
っうわ、もうこんな時間?」
ぎゅうっと寄ってしまっていた眉間を、ぐりぐりほぐす。
じぶんのために淹れたはずの紅茶は、すっかり冷めてしまっていた。
おかげで月末までに出さないといけない書類は、あらかた片付いたけれど。
今日はあらかじめ千年王国研究所に泊まりになると告げていたので、少し余裕もある。
「?? パパからだ」
どうしたんだろう。
通知を告げるスマホに思わず首を傾げてしまったのは、仕方ない。
帰宅するまえにメッセージを送る
……
と、メフィストに約束をしてきたのは一郎だ。
今日の一郎は、メフィストの父とふたりで飲みに出ている。埋れ木家ではなく店を予約して、だ。
――
たぶん、はじめてだ。
父と二人というのも、家でない場所で飲むのも、一郎にとっては経験がないと思う。
そもそも飲み会自体が、一郎とメフィストが成人してすぐ、埋れ木家で飲んで以来かもしれない。
「
……
たのしそうじゃん」
メッセージには、ご丁寧にツーショットが添付してあった。
酔ってるんだか酔ってないんだか、ふたりとも顔色に変化はないが、目許がすこし眠そうだ。
ポーズを指定されたのか、ぎこちないピースが胸の上あたりで見切れている。
『3世、起きてる? 一郎君をそちらに送ります。~愛しのパパより~』
添えられたメッセージも、少しだけ浮かれたものだ。
「もー」
――
愛しのってなんだ、愛しのって。
思ってるよりも酔っているかもしれない。
仕方ない。パパの分も暖かいお茶を用意してあげよう。ちょうどひと段落したところだ。
いまでもメフィストの城である台所には、貰い物の緑茶があった。
小さくのびをしながら目にした時計は、二十二時を指している。
シンデレラが帰るまで、あと二時間といったところだった。
▽ ▽ ▽
「
……
悪魔くんは、ココアだよなぁ」
メフィストも両親と違って好んで飲む方でないから、いわゆる“酔っぱらい”が欲しがる飲み物はわからない。
酔い覚ましに違うものの方がいいかな? と迷ったが、
いつもと変わらない工程で、ゆるゆるとミルクを足しながら、ココアを練っていく。たぶん、一郎にはこっちが正解。
最近パパはコーヒーに凝っているけれど、時間も時間だし、少しでも胃にやさしいものの方がいいだろう。
「っえ、早! おかえりなさ
……
」
「~~~3せえ」
「わっ」
ばったんばったんと大きな音とともに、二つの影がまえを横切ってソファになだれこむ。
その拍子に両手に持った銀のお盆がおおきくゆれる。落とさなかったのが不思議なくらいだ。
(め、めずらしい
……
)
パパがここまで酔うのをみるのは、初めてかもしれない。
一郎もだ。ぐったりソファに寝そべる顔は見えなくて、それでも髪の合間からのぞく耳の赤さが、一郎の今の状態を物語っている。
どちらの名を呼ぶべきか迷ったあと『
……
パパ』とすこし窘める口調で呼んでみる。
「
……
だいじょうぶ? 緑茶いれたけど飲めそう? ほら、こぼれちゃうって」
「ぅぅ、さ~ん~せ~~い」
「もー!」
急に腕を引かれて、ソファに沈む二人の間に座らされてしまう。左に悪魔くん。右にパパ。
パパはやけにご機嫌だった。真ん中にメフィストを丁寧に座らせ『うん、うん』と満足そうに目を細めたりしている。
(おぼん、置いたあとでよかった
……
)
膝の上に乗せられないだけ、マシかもしれない
……
と思ってしまった時点でダメだ。
酔っ払いのすることとはいえ、これは怒ってもいいだろう。
「あのねえ、パパ」
体を起こそうとしたところで、じっと覗き込んでくる視線に気づく。
自分とよく似たまるみを残すひとみが、部屋の光をあつめたみたいにやわい光を湛えている。
「
……
3せいは、いいお嫁さんだなぁ」
「えっ」
「ちっちゃいころはパパと結婚する、パパのお嫁さんになる! って、あんなに
……
あんなに言ってたのに」
「な、なに、いまその話する!?」
「ぅぅぅ、おしぼりあったかい
……
うちの息子が良妻すぎる」
「もー! ふざけてないで!」
心なしか、声がしょんぼりしている。
情緒が迷子過ぎないか? というか
――
(
――
パパまで、そんなこという!?)
だって仕方ないじゃないか。
じぶんの生活を整えることに頓着しない
……
というか労力を割かないのだ、一郎は。やればできるクセに。
放っておけばいいのかもしれないが、メフィストが嫌なのだ。
高校生になったみおにまで『永遠の通い幼妻だよね、メフィストは』と座った目で言われてしまった。
メフィストだって、この千年王国研究所が初めての学校じゃない世界だ。
気になったことをあれこれしていたら、
『ず~~~っと思ってたんだけどはっきり言うね? それ仕事の域を超えてるよ』
『
……
ハーー
……
宿六、アウト』
などと好きに言われるようになってしまった。
(いや、だってさ
……
)
廃墟で魔法陣描いたら、ガラス片が刺さっちゃったんだよ。
瘴気が濃かったせいで、痛みが長引いてるみたいだったし。本すらめくらないし。
ピクシーさんたちは伯父さんに同行してたから出払っていて、爪切りぐらいならしてあげてもいいかな? って。
誰よりもメフィスト3世の魔法陣を描く、あの骨ばった指を自分の手に取り、丁寧に切りそろえてやったのは、つい先日だ。
そうしないとガタガタのままだし。歪なツメにチョコなんて入ったまま仕事させる気はない。
そう丁寧にみおに説明しても『あのさぁ
……
』『メフィストがいいなら、いいよ』と納得いかない顔をされてしまった。
▽ ▽ ▽
「3せい、もう寝てるかも
……
って思ったらまだ起きてるし
……
一郎くんにはお茶じゃなくっていつもの、あの手のこんだココアだし
……
なんだこのよくできたキュートな良妻は
……
」
「
……
パパ、いい加減だまって。飲みすぎだよ! そんなになるまで飲んでくるなんて、おれ聞いてない!」
「い、いや、そんなには飲んでな
――
」
一郎の方をちらっと盗み見る。長い前髪のせいで表情がよく分からない。
寝てるのかな? ってぐらい静かで、すこしほっとした。
みおから突っ込まれまくったのも少しショックだったが、パパにまで言われるのとじゃ重みが違う。
「それともパパも泊まっていくつもり? ママには自分で連絡してよ」
「っえ、あっ、帰りま
――
」
「はい、このお茶飲んだら帰る!」
急にたじたじとジャケットの襟を直しはじめた指先に湯呑を押し付けて、ソファの下に転がっていたカバンもついでに突きつける。
なかなか熱かったはずの緑茶を一口で飲み干すと、パパはカバンを受け取って慌てて立ち上がった。
一郎は、起きる気配すら見せてはいない。
「3世、あしたは何時に帰って
――
」
「今そういうのいいから! 夕ご飯には帰る!」
「
……
はい
……
」
しょんぼりと革靴のひもを結び直すパパを、せめてもと玄関までは見送ってあげる。
呆れていないといえば嘘にはなるが、怒っているわけじゃないので『気を付けてね』は心からの気持ちを込めて言った。
その言葉にパパは、ぱぁっと明るい表情を見せると、小さな頃していたようにメフィストの頭を撫でて、にっこりと頬をゆるめるのだ。
「お茶、ごちそうさま。一郎君にもよろしくね」
「うん。おやすみなさい、パパ」
「
……
あした
……
夕飯には帰ってくるんだよ、ね?」
「うん」
そう言ってるのに。
なぜだか念を押されてしまう。首をちいさく傾けたメフィストを見る父は見たことない顔をしている。
「
――
3世、パパのこと面倒な酔っ払いだなぁ~って思ってるだろ」
「?? その発言がもう面倒な酔っぱらい、かな?」
「いいか3世。パパなんてかわいいもんだからね。『面倒』よりも『タチが悪い』方がず~~~っと大変なんだぞ」
「?? うん」
どっちも同じなんじゃ? と思ったけれど、今度こそ『パパ、おやすみ』と小さく手を振る。
何度も振り返るパパは、やっぱり見たことない顔をしていた。
▽ ▽ ▽
「
……
メフィスト」
「悪魔くん? 起きたの?」
こぼれた声がかすれている。
ソファにその長身を沈めたまま、呼ばれた声に応えるのだけれど。
「メフィスト
……
」
「うん?」
あまりにも落ち着いた声に、逆に心配になってくる。
出かける前、メフィストがセットした髪は、すでに崩れてしまっていた。
ペタンとした前髪は、いつもより元気がないようにも見えてしまう。
このまま寝ちゃいそうな一郎の隣に、今度はじぶんから座った。
「あくまくん?」
ぎゅっと握られた手があつい。
かさついた指先も、まるく整えた爪も、触れたのはつい先日だ。
はくっと、思わず息を飲む。
頬は青白いくらいなのにその耳は紅をさしたみたいに赤く、据えた瞳はじっと濡れていた。
動けないメフィストに、当然のように一郎が覗きこんでくる。一郎が背を丸めないと、近づけない距離だ。
(あ
……
れ
……
?)
調べ物をしているとき。依頼内容を確認しているとき。
いつからだろう。この距離が当たり前になってしまったのは。
「
――
ぼくは、ふざけてなど、いない」
「?? なに? あっ、さっきの?」
どこから起きていたんだろう。
良妻うんぬんのヤツだ。
「メフィスト」
「う
……
ん?」
みおちゃんの言うとおりだ。シンデレラが帰らなくっちゃいけない時間になってやっと気づく。
何食わぬ顔で、後ろから抱えられたまま爪切りするのも、
自分のシャツを濡らしながら頭を洗ってあげるのも、完全に業務外だ。
(でも、おれは
――
)
だって悪魔くんがこまってたから。
おれの、おれだけの悪魔くんを大事にしたいって思うのは、メフィストにとったら当然だ。
メフィストが、一郎が所有する唯一の悪魔だから
――
じゃない。【メフィストが】そう思ったから、してる。
まちがってない。
ちゃんと
……
ちゃんと考えないと、って思うのに。
「
――
メフィストは、いやか?」
「え」
「ぼくのおよめさんは、嫌?」
「いや?」
酔っ払いがなんか言ってる! って突っぱねられたらいいのに。
一郎は生真面目な顔で、じっと返事を待っている。
薄い唇が、すねた子供みたいに尖っちゃってる。かわいい。
いまさら気づく。メフィストはたぶん、この顔にめっぽうよわい。
“たち悪い”って、こういうことか。
「ぼくじゃ、いやか?」
だめ、じゃなくって『いや?』って聞くのはどうなんだろう。
本当にタチがわるい。耳があつい。
目のまえの男は『
――
メフィスト、まっかだ』なんて、それはそれは嬉しそうに笑うのだ。
相変わらずヘタクソな笑みだ。まっすぐに降ってくる視線に、胸がぎゅっとなる。
「
……
やじゃない! ヤじゃなくしたな? 悪魔くんめ」
一郎の首に手をまわして、ちゅっと口づけてやる。
まんまるに見開いた目が、やっぱりかわいい。
「いいぜ、なってあげても」
でもあんまり酔っぱらってたら、
ウチに入れてやんねぇーから!
そう言って赤いままの耳にちゅうしてやったら、固まってた悪魔くんが、ほどけるように笑う。
――
策略家の天才のくせに。
じぶんの悪魔への、なしくずしのプロポーズに緊張してるのだ。
『いや』なんて誰が言えるんだろう。
「メフィスト」
「うん」
――
そう。
うやうやしく口づけられた左の薬指には、
おとまりの翌朝、ぴかぴかの本物がぴったりとハメられていたのだった
――
・
・
・
(副題:
――
おい。あくまくん、いつからだ?)
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