彼は桃にかぶりついた。果肉がやわらかく裂け、果汁が指の間を伝って掌から薄桃色のリネンシャツから伸びる肘へと流れ落ちる。慌てることなく、首を傾け、赤い舌をのばして雫をぬぐう。顎をつたう透明な線は、まるで彼の皮膚そのものから湧き出しているようで、果実と身体の境界が曖昧になる。
その光景を、私は黙って見ていた。今まで、彼を性の対象として意識したことは一度もなかった。だが、目の前で桃を食べる彼は、どうしようもなく艶めいていて、知らず知らずに胸の奥がざわめいた。理性は否定しても、身体は抗えなかった。
桃を口に運ぶその仕草が、ただの食欲ではなく、彼自身を味わっているかのように見えた瞬間、私の中の距離感は音もなく崩れた。これまでの友情の枠組みは、たちまち揺らいでしまったように思えた。
初めて、私は彼を性の対象として意識した。これまで見慣れた顔、聞き慣れた声、隣にいて当然だと思っていた存在が、突然、触れたくなるほど近く、手に取りたいほど鮮明なものに変わった。心臓が異様に速く打ち、指先が微かに震え、息をするのも忘れそうになった。
私は、自分の中で何かが切り替わるのを感じた。友情でも、軽い憧れでもない、もっと純粋で、もっと危うい感情。ずっと見ていたのに気づかなかったその感情が、今、桃の滴る果汁とともに、確かに目の前に立ち現れた。
そして私は、思わず自分に問いかけた――こんなふうに彼を見てしまう自分を、これからどうすればいいのだろう、と。
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