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syanpon
2026-03-12 06:41:09
2162文字
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疑問は先に立たず
オトスバ
なんちゃってパロディ
悪役令嬢
俺、ナツキスバル! ちょっと女装してパーティに参加するのが好きな性癖をほんの少しだけ拗らせちゃった男子学生! 今日もいつものようにバッチリメイクを決めてドレスアップして壁の花となってパーティの空気を楽しんでいたら大変! 悪役令嬢として断罪されそうになっちゃってるの! すっごくすっごく大ピンチ! いったいスバルくんの将来はどうなっちゃうの〜!?☆
「次回ナツキスバル死すって
……
?」
「なに言ってますの!?」
スバルの長い長い現実逃避はキンと高い声に遮られた。バクバクと心臓の音がうるさく響くのを抑えるために深呼吸し、緊張で戦慄く唇を隠すために扇を口元に持っていく。キラキラと輝くシャンデリアの灯りさえ今のスバルには自身を晒し上げるスポットライトに思えてならない。スバルに突き刺さっているのは明かりだけでなくスバルにワインをかけられたとぽろぽろ涙をこぼして訴えるご令嬢とその友人からの視線もである。
結論から言えばスバルは無罪である。スバルがやったことと言えば泣いている件の少女にハンカチを差し出しただけであった。
「その凶悪な目つき、カラスのように真っ黒な不吉なドレス、嗤った口元を隠す扇、どこからどうみても怪しいでしょう!?」
確かにスバルは目つきが悪い。だけどもそれだけで人を犯人と決めつけるのはどうなのだろうか。疑わしきは罰せず、人を見かけで判断してはいけない。
「わたくしじゃ」
「わ、わたし女学院でも誰かに嫌がらせされてて」
「それもきっとこの女に違いないわ!」
で、あればもっとスバルではない。なぜならスバルは悲しいかな女装してパーティに乗り込むお茶目な癖の持ち主だからである。今ここでかつらを取り払い「俺は男だ!」とでも叫べばこの場での疑いは晴れることであろう。ただし別の意味で社会的に終わる。互いのためにもどうにか穏便に事を済ませたい。一度別室に移って落ち着いて話し合うとか。早鐘を打つ心臓を押さえつけて、震える声をなんとか抑えて畳んだ扇でそうっと別室につながる通路を指し示す。
「わたくし達には一度話し合いが必要だと思いますの。どこか別の部屋で
……
」
「そう言って脅すつもりでしょう!」
「
――
暴力は穏やかじゃないですねえ」
風を切ってスバルに向かって振り上げられた手のひらは穏やかな声と共に第三者の手によって止められた。
「そのワインをかけたのは彼女ではありませんよ」
「え」
「突然割り込んでしまってすみません
……
。オットー・スーウェンと申します。しがない商人の息子です」
オットーと名乗った男は柔らかそうな灰色の髪をふわりと揺らしながら困ったように頬をかいて笑う。明らか女同士の修羅場であるこの場に踏み込んでくる王子様にしてはいささか頼りなさげな風貌の男をスバルは乱れた髪の隙間からポカンと見上げる。
「そちらの方がかけられたというワインですがあちらのボーイしか配っていないんです。こちらの
……
レディが手に取るには導線がおかしいんですよ」
「でも!」
「殴りかかったお嬢さん、手を振り上げたときに袖口にワインがついているのが見えましたよ。
……
ああ、嘘です」
あっけなかった。
さっきまでスバルに向けられていた好奇と非難の視線は彼女たちだけに向けられていて、スポットライトだなんて思っていた明かりですら目の前の男に遮られて影が差している。
「騒がしくなるから逃げちゃいましょう」
オットーに手を引かれるがままスバルはその場をあとにする。ヒールが鳴らす高い音すら夜の喧騒の前では無音と同じであった。
「あの、ありがとう、ございます。助けてくれて」
「いえいえ。災難でしたねえ」
「
……
どうして助けてくれたの。私、オットーさんに返せるものとか何もない
……
」
令嬢ナツミは存在しない。今回のことで懲りたスバルは(今この瞬間は)もう女装なんかするもんかとそこそこ強い決意を胸に誓っている。
ただ着飾ってパーティーに行くのが好きなスバルは大したコネクションがあるわけでもないし金銭なんて尚のことない。助けてもらったからには礼を尽くすべきだと言うことはわかっているが返せるものが何も思いつかない。ドレスの裾をいじりウロウロと視線を彷徨わせるスバルにオットーは青い瞳をとろりと溶かして微笑んだ。
「
――
好きだからです」
「へ」
「一目惚れだったんですよね」
「ひょ」
「だから何にもいりません。強いて言うならあなたからの好意が欲しい
……
は欲張りですかね?」
オットーの青い瞳がスバルを捉えていた。
海のような青の底、スバルの瞳越しに月を反射して煌めいた瞳が静かに揺れている。
「僕のことどう思いますか」
「へぁ」
「
――
ナツキさん
」
月がオットーの髪を銀色に淡くふちどる。揺れる髪がスバルの頬にかかって見た通りの柔らかさを感じると同時に唇に温かな熱が押し当てられた。
きゅうとスバルは目を見開く。ぼやけた視界の中で溶けた青だけが鮮明だった。
「
……
突然告白して、貴方に口付けした僕を、軽蔑しますか?」
スバルが言葉を発するまえに月に照らされた男が嬉しそうに微笑む。
それが、それだけが答えだった。
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