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2026-03-11 21:00:00
2717文字
Public 高諸
 

17)息子の嫁に

# いいねされた数だけ書く予定のない小説の一部を書く

奥様方に人気な尊子ちゃん好きだなって話

「うちの息子はね、──国の若様の側近をしてるの!ちょーっと尊子ちゃんより年上だけど、落ち着きがある年上、憧れない?」
「ちょっと年上?一回り以上離れてるじゃない!尊子ちゃん、正直に言ってね、嫁ぐ相手は歳が近い方がいいわよね?」

目の前の女たちは”尊子”の意見などそっちのけで、息子の自慢話に話を移らせていた。自分の息子は高給取りだ。こっちの息子は年齢が近く将来有望だ、と。

他の女中たちも止めてくれればいいものを、だったらうちの息子の方が尊子の婿にぴったりだと、次々に話題に参戦する始末。

尊子がこの城の女中を辞めると言ってから毎日これだ。
嫁ぐ気はないと伝えているのに本人の気持ちそっちのけで盛り上がる女たちに、がっくりと肩を落とした。



尊奈門が”尊子”としてこの城に、潜入して、もうすぐ2ヶ月が過ぎようとしていた。

潜入忍務、それも女装姿で。

最初にそのことを言い渡された時、何かの間違いだと思った。潜入も女装も自分には向いていない。それは、狼隊どころか忍軍全体の共通認識のはずだ。
その証拠に、山本も高坂も黒鷲隊に別の者に任せるべきだと異を唱えていた。女装であれば押都の部下の五条など、もっと他に適任がいると。

だが、忍務を寄越した押都押烈は、至極真面目にそれを覆すことはなかった。
曰く、女中の仕事自体は己の得意分野だから、絶対に不審がられることはないため、と。

そんな言葉が信用できるわけもなく、渋々と始めた忍務だった。
だが、「最初の1週間、情報収集はしなくていい。女中見習いとして言われたことだけをこなせ」という押都の言葉通りに働いてたら、なぜか異様に女達に気に入られていた。
自分の働きに「息子の嫁に欲しい」と言われれば、違和感なく潜入できていることを実感できて嬉しかった。そうして仕事をこなすうちに、女中仲間からの信頼を経て、尊奈門は求められていた情報をきちんと入手できたのだった。

だが、あの時言われた言葉が世辞ではなく、本気だったということに、すぐに気づくこととなる。

そのきっかけは反屋から撤収を言い渡された時だった。

帰れることに喜んだ尊奈門は、その日のうちに女中仲間に城を離れることを伝えた。
仲良くなった同僚達なら、惜しまれても明るく見送ってくれる、そう、信じて。

だが、息子の理想の結婚相手を見つけた女たちが、みすみす尊子の退職を認めることはなかった。
あれこれと言いくるめ退職日を引き延ばすと、あの手この手で息子と見合いをさせようとしてきた。

目の前で繰り広げられる、誰の息子が自分に相応しいかの言い合い。収まる気配が一向にないそれに、尊奈門はため息を吐く。
本来だったらとっくにタソガレドキに帰っているはずなのに、と気は滅入る一方だった。

「おい、尊子という女中は居るか?」
「あ、はい。私ですが」

仲良く喧嘩する先輩方を眺めつつ、坦々と洗濯物を干していると、男が声をかけてきた。
尊奈門がここにきた時に、顔を合わせたことがある門扉の出入りを管轄にしている男。
彼に声をかけられる心当たりがなかった尊奈門は、静かに緊張感を漂わせた。

「お前に来客だ」




「あれ、高坂さん?!どうしてここに?」
「どうしてってお前な。いつまでここで油を売ってるつもりなんだ?」

男に言われて出向いた場所に、見つけた見知った顔。尊奈門は驚いて小走りで駆け寄った。

久々の再会なのに、高坂はムスッと不機嫌顔のまま、不機嫌そうにしている。
予定になかった彼の登場の理由は、言葉一つで理解した。
ぶっきらぼうの彼の言い分は直訳すると自分を迎えにきたといくこと。
迷惑をかけたと言う罪悪感より、わざわざ時間を作って他国まで迎えにきてくれたことに頬が緩みそうになる。

「ごめんなさい。でも、帰ろうとしたら人手不足って言うから」
「関係ない。帰るぞ」
「ちょ、ちょっと待って!尊子ちゃん、この人誰?」

声をかけてきたのは、女中を取り仕切るリーダーの女だった。
その声にハッと振り返ると、いつのまにか女中仲間たちが二人のもとに集まってきていた。
みな、高坂に対して警戒するような視線を向けている。

「こいつの幼馴染です。帰りが遅いんで迎えにきました。ほら、いくぞ」
「あ、はい!ではみなさん、お世話に?」

高坂の登場でようやく帰れる目処がたった尊奈門は安心し切っていた。背後にいる女中たちに別れの挨拶をしたら、この茶番も終わる。
そんな期待に浮ついた心は、腕を掴まれたことによって一気に引き戻された。

え、と驚いて顔を上げると、尊子をとりわけ気に入っていた女が神妙な顔つきをしていた。

……ありえないわ」
「え?……うゎ!」
「おい、何してる!」

女はたった一言呟くと、思いっきり腕を引いてきた。高坂のイラついた声が聞こえたものの、普段家事で鍛えている女の力に、尊奈門は抗うことができなかった。 

転ぶ──。
そう思い思わず目をギュッと瞑った尊奈門を受け止めたのも、腕を引いてきた女だった。
女はまるでわが子を守るように強い力で抱きしめると、そのまま高坂をキッと睨みつけた。

それを合図にするように、他の女たちも高坂から自分を隠すように間に立ち塞がっていた。何が起きたか理解できない尊奈門は、女に抱きしめられた状態で目を白黒させていた。

「あんた、幼馴染ってだけで尊子ちゃんを振り回してるの?」
「偉そうに命令して。たかが幼馴染なんてましょ?」
「あんたのせいで尊子ちゃんがいつまで経ってもお嫁に行けなんじゃない?」

あわよくば息子の嫁にと思っていた尊子の幼馴染を名乗る男に、女達は品定めするような厳しい視線を送り始めた。
頭の天辺からつま先まで、粗があれば突っつかれそうな鋭さに、高坂は無意識に背筋を伸ばした。

「お言葉ですが私は──」
「あなた、仕事は何をなさってるの?」
「え、えーっと、……──国の侍です」
「何?今の間、本当にお勤めしてるの?」
「怪しい男に尊子ちゃんを任せられないわ」

尊奈門を連れ戻すために来たはずの高坂だが、今や彼は女たちに取り囲まれている。

常ならば、見た目のいい彼とお近づきになりたい女たちで見る光景。だが、今日のそれは違う。高坂を囲む女たちは、鋭い視線で彼を品定めしている。
息子の嫁に是非にと思っていた尊子に、高坂が相応しい相手なのかとでもいうように。

高坂のたじろぐ姿が面白くて、思わず吹き出しそうになった。それを尊奈門が必死に堪えたところに、彼からの矢羽音が飛んできた。

『お前、帰ったら、覚えてろ』