tachi_aoi_0615
2026-03-10 20:18:39
982文字
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おはよう


「おはよ、平助」
 風紀委員の当番のため校門に立っていたところに、のんびりとした声が響いて僕は声の方向を見上げた。
「おはようございます。……原田さん、遅刻ギリギリですよ。少し焦ったらどうですか」
「まだ五分あるだろ、大丈夫」
 僕の言葉にも、原田さんは態度を変えることはない。
「もう……
「委員会の仕事お疲れ」
 原田さんがふと微笑みを見せた。
「ありがとうございます」
 彼のこういうところは嫌いではないな、と考えていると、彼の制服の乱れに気付いた。
「原田さん、屈んでください」
「ぐえっ」
 身長差で彼の上半身が遠かったので、僕は原田さんのネクタイを勢いよく引っ張った。
「あ、すみません。ネクタイが少しずれていたので」
「ああ、なるほど。サンキュ」
 原田さんは首を押さえながら頷いた。
 僕は屈んだ原田さんのネクタイの結び目に手を伸ばして歪みを直す。
「こういうの、新婚みたいでいいよな」
 彼は僕の手つきを見ながら呟いた。
「はあ……?」
 原田さんって、いつもよくわからないことを言うんだよな。真顔でふざけるから少し困ってしまう。
「ええと、……これでよし」
 シャツの襟も整えて原田さんの腕をポンと叩いた。
「ん、ありがとな。かっこいいか?」
「はいはい、かっこいいですよ。制服なのでいつも通りですけど」
 内心の動揺を悟られないように彼の言葉を流していると、原田さんが僕の右腕についている風紀委員の腕章を掴んだ。
「それ、いつもかっこいいってこと?」
……そうなんじゃないですか」
 素直に言うのも何だかためらわれて、誤魔化したような発言をしてしまう。
「だいたい、なんで僕が当番の時に限って遅刻スレスレなんですか」
 原田さんが僕の頬に大きな手のひらを添える。
「なんでだと思う?」
 彼と目が合った。
 理由を考えろと言われた。それは、原田さんが僕が当番の日だけわざと遅めの時間に登校しているということだろうか。
 じわじわと頬が熱くなっていくのを感じる。
「何でって……
 沈黙に耐えられず小さく声を出すと、チャイムの音が校庭に鳴り響いた。
 僕は反射的に校舎に向かって駆け出す。
「おい、平助!」
 原田さんが後ろから叫ぶのが聞こえた。
 彼の声に答えることなんてできるはずもなく、僕は熱くなった顔を冷やそうと走り続けた。