tachi_aoi_0615
2026-03-10 20:09:59
1383文字
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チョコレート


「平助、あーん」
 食堂へやって来た原田は、目的の人物を見つけ声をかけた。食事はもう終えたのか、一人でお茶を飲んでいた藤堂は聞こえてきた声に従うように口を開く。原田はそこに手にしているものをねじ込んだ。
「え、なに……⁉︎」
 藤堂は困惑しているような声を上げるが、舌先から甘味を感じたのかすぐに口を閉じた。
「美味いか、平助」
 原田は藤堂の正面の席に腰を掛けて尋ねた。
「美味しいです。……けどいきなりなんですか?」
 首を傾げた藤堂に、原田は本心を隠して答える。
「売店に売ってたから。結構いいやつだぞ」
 売店ではバレンタインの時期に合わせてたくさんのチョコレートが並んでいた。原田は藤堂が好きそうだと思うものを選んだ上でここにいるのだが、なんとなくそれを正直に言うのが憚れてしまい、買ってきた理由については誤魔化した。
「確かに普段食べているものより濃厚ですね」
「まだあるぞ、食うか」
 原田が残りのチョコレートの入った箱を取り出すと、藤堂は目を輝かせる。
「全部いいんですか?」
「おう」
「では遠慮なく」
 原田は目の前でチョコレートを口に含んでは顔を綻ばせる小さな身体を見つめた。
 実のところ、原田はチョコレートがあまり好きではない。口に入れると簡単に溶けてしまう儚さと口から消え去った後も残る甘さが、嫌な過去を思い出させて何だか苦しくなってしまうのだ。
 ただ、藤堂が美味しそうにチョコレートを食べる姿を見ているのは嫌いではなかった。
 ――まさか、また平助とこんな風に過ごせる日が来るなんて思ってもみなかったな。
 ずっと終わりを望み続けて、やっと終わることができたのに、その終わりにこんな続きがあるだなんて誰が想像できようか。
 あの頃とは違うものが幾らでもある。ここは笑いながら酒を酌み交わした屯所ではないし、藤堂は機械仕掛けの手足をしている。原田だって大陸に渡って、あの頃の自分とは違うはずだ。
 でも、エーテルでできた仮初の身体だとしても、今ここで同じ時を過ごしている。
 そんな奇跡的な続きの世界が尊く思われて、原田には“それ以上”を望むことなど到底できなかった。
「原田さん、藤堂さん! こっちにいたんですね」
 チョコレートを味わう藤堂を見ながら思いふけっていた原田の耳に、明るく通る声が届く。
「沖田くん? どうしたんだ」
 藤堂が声の主に返事をしたので原田も会釈をする。
「今日はバレンタインでしょう? 近藤さんがみんなにチョコレート菓子を振る舞いたいそうなので探していたんです」
「そうだったのか。原田さん、行きましょう」
 藤堂が立ち上がったのを見て、原田も腰を上げて空になった箱を片付ける。
「あ、この箱は……!」
 沖田は原田の手の中にある空箱を見て声を上げた。
「悪いが食べきってしまってもう空だぞ」
 藤堂が沖田に声をかけると、彼女は首を横に振る。
「いえいえ、そうではなく。原田さん、さっき売店でチョコレートとにらめっこしてましたよね! 無事渡せたようで良かったですね」
 沖田は爆弾発言をするとにっこりと笑う。
……っす」
「えっと、それはつまり……?」
 藤堂が先程腹に入れたチョコレートの意味を考え始めたので、原田は髪の色と同化した耳を隠すこともできず、この場をどう切り抜けるべきか頭を巡らせた。