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遊音。(ゆね)
2026-03-09 00:10:35
4237文字
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約束シリーズ。
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おうちにこいびとがきました。
TGKBです。
カバキは朝から落ち着かない。部屋の掃除は二度もしたし、数少ない荷物も何度も整理した。散らかりがちな玄関も徹底的に掃除したし、キッチンだってぴかぴかに磨いた。使う
――
かもしれない風呂場も入念に洗ったし、なんなら自分も洗った。それはもう徹底的に。
何故なら、トガシが初めて家にくるからである。
トガシが、というよりも恋人が家にくるというシチュエーションがカバキにとって初めてである。
先週、トガシの家に行ったわけだが、帰り際に次はカバキの家に行きたいとトガシが言った。では次の週末に、とその時は何も考えずOKを出した。何しろ初めてする大人のキスに翻弄されて、頭がとろけていたのであまり思考が働いていなかった。しかし約束した日が近づくにつれ、カバキは焦った。あんなキスをしたのだから、それ以上の可能性がある。そうなると色々なことを想像してしまい、部屋中のあちこちが気になった。あられもない妄想が頭の中をめぐり、そのたびにカバキは顔を両手で押さえてしゃがみこんでしまったり、壁に額をめこませたりしてしまう。
――
落ち着くんや、俺
……
。
冷静になろうと掃除や片づけに集中しようとしても、もしかしてこの場所で
――
と考えが巡ってしまう、という事を繰り返す。
人生でこんなにてんぱったことは無い。自分の陸上人生においてもこんなに緊張したこともなかった。
人を好きになるって怖いな、とカバキは改めて思う。
時計を見ると、待ち合わせの時間が目前に迫っていた。
「やばい
……
」
両頬をパチンと叩き、『平常心、平常心』とカバキは心の中で唱えた。
何かあるかもしれないし、何もないかもしれないのだ。だが、やはり期待と妄想が入り乱れる。
鍵を手に取ると、カバキは慌てて玄関を出て、待ち人がいるであろう最寄の駅まで走った。
「おじゃましまーす」
トガシが明るい声でカバキの家にあがった。何とか平静を装い迎えたカバキは、トガシと一緒に家にかえってきた。玄関にあがるトガシに洗面所の位置をつたえながら、適当にしててください、と声をかける。トガシが手を洗う音を聞きながら、カバキは玄関の靴を整えた。恋人と自分の靴が自宅の玄関にあるのがなんだか新鮮で浮かれてしまう。
外はまだ明るい時間だった。夕飯にも早い。カバキはとりあえず何か飲物を準備しようとキッチンに向かう。
「ははっ、カバキくんちも殺風景だね」
上着を脱いでロンTだけになったトガシが部屋を見渡して言う。ワンルームの殺風景な部屋である。楽しいものなんてない。ベッドとテレビと机があるくらいだ。
「トガシさんちと似たようなもんです」
「好きなバンドのポスターくらいあるかと思った」
「なんでです?」
「ほら、よく音楽聞いてるし」
「壁にモノ貼るのすきじゃなくて」
「あ、同じ同じ」
トガシがいつもの軽い会話をしてくれるので、少し緊張がほぐれる。
「好きなところ座っててください」
うん、と返事がしたトガシがベッドに腰を下ろしたのを見て、カバキの心臓は跳ね上がった。
狭いワンルーム、座る場所なんて限られるが、いつも自分が使っているベッドの上に好きな人が座っているのをみたら、平静でいられない。
――
高校生か、俺は
……
!
カバキは恥ずかしくなりながら、マグカップを取ろうとしたが、手が滑ってマグカップがごとりと落ちて鈍い音が響いた。
「大丈夫、カバキくん?」
「大丈夫です、割れなかったんで
……
気にせず。コーヒーでいいですか?」
もちろん、という声を聞きながらカバキは床に落ちたマグカップを取り上げる。厚手のキッチンマットのおかげでマグカップは無事だった。引っ越した時にキッチンマットは絶対に弾いたほうがいい!と力説した家族にカバキは感謝した。
落ち着け、と内心で唱えながらカバキはマグカップをキッチン台に置いた。
廊下側にキッチンがあるワンルームなので、キッチンにいるとトガシが視界に入らなくて良かったと思った。今の自分がどんな顔をしているのか、カバキは想像したくない。
お湯を沸かしながら、ドリップパックを用意する。そういえばトガシの家にはコーヒーフィルターがあった。カバキは普段あまり飲まないが、トガシは割とコーヒーが好きなのかもしれない。豆から挽いても楽しそうだなと思う。
ちらりと部屋の方をみると、トガシはベッドに座ったまま物珍しそうに部屋を見まわしていた。大したものはないというのに。
あ!と声が部屋からして、カバキは部屋に顔を向ける。
「どうしました?」
「これ、俺が載ってるやつ?もしかして?」
トガシが指をさしたのは、机に並べてあった雑誌のたぐいである。時期も雑誌もバラバラなのだが、良く気付いたなと感心する。
「よく分かりましたね」
「いや、だって
……
もしかして、って思ったけど
……
ほんと?」
「ずっとファンなので」
「
……
ほんとなんだね
……
」
「嘘だと思ってたんですか?」
いやぁ、とトガシが頭を掻く。なんでこの人は変なところで自信がないのだろう。人の事を信用していないのかもしれない。
「まぁ、その雑誌は陸上系なので基本的に読んでるやつです。残してあるのがトガシさんが載ってるやつなのはホントです」
「
……
俺も、カバキくんが載ってるやつ集めようかな
……
」
「無理しなくていいですよ」
思わず笑ってしまった。こういうのに無頓着なところがあるのは知っている。他のアスリートとも世間話以上のことはあまり話さないようなので、雑誌などもあまり目にしていないだろうと思っていた。机の上にトガシがそっと指をなぞらせているのをみて、カバキはまた心臓が跳ねた。自分の家具を好きな人が触れている、というかこの部屋にトガシが実際に居るのがやはりよくないな、と思う。
その時、お湯が沸く音がしてカバキはキッチンに戻った。早く鳴る心臓を抑えながら、カバキはお湯のポッドを手に取った。準備していたドリップパックを乗せたマグカップめがけてお湯を注ごうとして、思ったより勢いがあふれてしまい、お湯が跳ねる。
「熱ッ
……
!」
少し手にかかってしまい、カバキは思わず声をあげた。深呼吸をして、改めてお湯をそそぐ。マグカップの中に黒い液体が沈んでいくのをみて、心を落ち着かせようとした。
「なんか
……
カバキくん、緊張してる
……
?」
いつの間にかキッチンに来たトガシが、腕を組んでカバキを見ていた。顔には苦笑が浮かんでいる。絶対自分が変な顔をしていたとわかるカバキは、眉間にしわを寄せた。
取り繕っても仕方ないので、素直に白状する。
「
……
するに決まってるでしょ
……
好きな人が家にいるんですよ」
自分でも高校生みたいな落ち着きのなさだと思う。だが年齢など関係ないだろう。初めてなんだから仕方ないだろうとカバキは開き直る。
「いや
……
でもこの間、うちに来たじゃん?」
「行くのと、来てもらうのだと違うんです」
変な理屈だと思うが、実際にそうなのだから仕方ない。トガシの家に行くより、自分の家にきてもらうほうが何倍も緊張するのである。それは自分のテリトリーに入られたからだろうか。
「そうなの
……
?」
組んでいた腕を解いたトガシが近づいてきて、キッチンの縁に片手をついた。傍に立たれたカバキは、緊張で身体を固くする。それを見て取ったトガシが少し笑った。
「そんなに緊張しないで
……
大丈夫だよ、何もしないから」
思わずカバキは首を回してトガシを見つめる。
「おうち見たいな、と思っただけだし。珈琲飲んだら、どこか夕飯でも食べに行く?」
えっ、とカバキは思わず声を漏らした。そのトガシの発言は、この家に長居しないということか。それはつまり。
「何も、しないんですか
……
?」
ポッドを手に持ったまま、カバキが茫然と聞き返すと、トガシが目を大きくさせる。
「えっ
……
」
「恋人の家にきて、何もしないで帰るっていうんですか?」
ストレートにさらに問いかけると、トガシが「えっ、いや
……
」と落ち着きをなくす。
「そ、それは時と場合によるし
……
し、してほしいの
……
?」
トガシと逆に冷静になっていくカバキは、ポッドを戻しながらドリップパックの底で黒くなった珈琲の粉を見つめる。一人興奮して浮かれていたのが馬鹿みたいで、急に冷めていく。
「そりゃ
……
この間よりもっとすごいことするかと思いましたし
……
」
「すごいこと
……
」
オウム返しをするトガシの視線を横顔に感じながら、カバキは視線をあげないでいる。自宅にまできたら、手を出されないなんてことは無いと思っていたのに。あれこれ想像していた自分の空回りだったということか。
「シャワーも、浴びてたんですけど
……
別にそこまでする必要なかったですね」
気持ちを切り替えねばなるまい。相手にその気がないなら、普通にデートを楽しめばいいだけだろう。自分を納得させるように一つ頷いたカバキはトガシに向き直る。そのトガシは目を覆うように片手を当てて何か考え込んでいた。また、何か間違ったことを言っただろうか、とカバキは不安になる。
「カバキくん
……
」
呼ばれたかと思うと、急に抱きしめられた。
「どうし
……
ッ
……
」
どうかしたのか、と問い返そうとした返事が相手の口に吸い込まれる。
「
…
んっ
……
トガシさん
……
?」
何処で何のスイッチが急に入ったのか。カバキは訳が分からなくて戸惑う。何もしないのではなかったのか。
「恋人に、そこまで言われて何もしないのは失礼だよね」
こつんと額が重なって見つめられる。熱を帯びたトガシの瞳に自分が映っているのが見える。
「
……
この間よりすごいこと、しようか」
「まだ、お昼ですけど
……
」
「
……
夜まで待つ?」
「
……
待ちません」
カバキはトガシの首に腕を回す。先ほど収まった心臓がまたうるさくなってくる。
「
……
ほんと、可愛くてまいるよ
……
」
また言われたカバキは文句は言わずに、薄く笑った。
「嬉しいですね
……
じゃあもっと参ってください
……
」
カバキからキスをすると、強く抱きしめられて、深いキスが始まった。そのまま床に座るように沈み込む。
珈琲が冷めるな、と頭の隅で考えながらカバキは目を閉じてこの後の興奮に身をゆだねた。
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続きはぴっしぶとかにまとめる時に追加できたらいいなあぁなんて思っています。(ぬるいですけど)
このあと二人でキモチイイことします。そこまでです。
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