望月 鏡翠
2026-03-08 22:58:39
940文字
Public 日課
 

#2019 地獄のような街

#毎日最低800文字のSSを書く/ダーリンランデブー!

 この街に平穏なんてものはなくなって久しいが、それにしちゃうまくやっている方だ。
 地獄の釜の蓋は少しずれたが、ギリギリ持ち堪えているような具合。
 戦争のない国で、傭兵が一体どれほど役に立つのかと思っていたが、世界は血を流すのが大好きで、俺のような人間にもちゃんと活躍するべき場所があり、生きる機会がある。
 戦場に魂を慣らしてしまった人間は中々、平穏の中に帰ってこない。
 日常というのは、座りが悪いのだ。
 どんな経験をしてきたのか。本人の性質。あるいは献身的な家族のサポートがあれば、普通の人間に戻ることができる。カウンセラーと心を通わせるでも良い。
 だが、どうやら俺はそうではなかったようだ。
 いつか日常の中にいることに耐えかねて、拳銃で頭を撃ち抜くか、学校に乗り込んでいって銃乱射をする。
 そう思った瞬間に、俺はあまり俺に寄り添ってくれなさそうなカウンセラーの元を離れて、自分の泳ぎやすい水を求めることに決めた。
 戦場ほど理不尽な駒に徹することもなく、ある程度の自由意志を残したまま命のやり取りで生きていける場所。
 そんな都合のいい場所がこの世にあるのだ。
 薄給だが、それは良い。傭兵時代に、稼がせてもらった。その金を握ったまま存在することを許され、定期的に暴力を発散することができれば、それでいいのだ。
 そういう事情で俺はオルドポルターにやってきて、Ag:47の職員になった。面接に行けば受かる。しかも戦場帰りで、戦いの心得がある即戦力だ。
 確かに、この街はイカれている。勝てるわけがない敵に立ち向かわなくてはならないし、突然街でダーリンが暴れ出して人が吹き飛んだりする。
 だが、地雷原を走り抜けろと命令されることはないし、寝ている間に頭の上に爆弾が落ちてくることもない。死体がその辺りに転がって、手当をする余力も連れ帰る力もない。そんな場所から来てみろ。
 街でいきなり戦いに巻き込まれる確率も、うっかりで死ぬ確率も低い。
 出動命令が来てから死地に向かえばいいなんて、天国のようじゃないか。その上で、平穏な日常もどきも味わえる。
 地獄の縁も、地獄から来た人間に比べれば天国だ。
 そういうわけで、俺はこの治安最悪の街に来て満足していた。