shio_nmnnk
2026-03-08 22:51:51
5181文字
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フライハイト

(ファンタジー要素ないけど)ファンタジーな世界の領主パロ。離ればなれになった敢由+高が再会する話。
物騒な話をそこそこしています。何でも許せる方向け。

「やくそくよ。いつか、わたしをみつけてね」
「おう。由衣がどこに行ったって、必ず」
「まってるね、かんちゃん」
 そう言って笑った由衣の声を、顔を今はもう思い出せない。大人たちの都合のせいで離ればなれになってしまった敢助と由衣の、20年以上前に約束をした遠い、遠い日の記憶だ。



 たまに小さくガタッと揺れる馬車の中、敢助はため息をつく。
「まさか、あの遠国の領主、通称『薔薇ローザ』と協定を結べる日が来るとはな……
 それぞれ領地を持つ領主である敢助と高明は、そこから遠く離れた国で領主をしている、性別でさえ分からない、謎多き『薔薇ローザ』に呼ばれ、はるばる『薔薇ローザ』の領地に訪れていた。この領地がかなり広い事、遠国との縁を作る機会が滅多にない以上、悪い話ではなかった。
 窓から見える景色を見ていた高明がこちらを見てフッと息を吐いた。
「分かっていると思いますが、無礼な発言はしないように。君は口が悪いですから。ねぇ、『ヴォルフ』くん」
 この世界では、領地を持つと、その国の王によって二つ名が与えられる。この国は戦歴、性格、見た目、一族に関係する名からなど、付けられる名の由来は様々である。有名な一族であれば、自国では無意味である事が殆どだが、苗字だけでも一族が代々持ちうる能力が判明してしまう例もある為、公の場では二つ名で呼ぶ事が多い。
「うるせぇな……。わかってるよ、『ナハト』。しかしなぁ……。何でまた俺たちにに協定の話が出たんだか」
「先の戦争で僕たちが彼女の領地の近くを”掃除”したからでしょうね。どんな歓迎がされるんでしょうかね……。『薔薇ローザ』は、他国から『復讐者ヴェンディカトーレ』、なんて呼ばれてもいるそうですから。何でも、された”お礼”は必ず返すとかで」
「でも、俺らが”掃除”したのは、『薔薇ローザ』の隣の領地とはいえ、協定を結んでいない領地だろ。偶然とはいえ、そんなヘマする訳ねぇだろ」
……えぇ。呼ばれた理由は、直々に聞いてみるとしましょうか。もうじき到着のようですよ」
 高明がそう言って少しすると、馬車が動きを止め、しばらくして馬車の扉が開かれる。すると、門の前に執事服を着た初老の男が立っていた。
「『ヴォルフ』様と『ナハト』様ですね。お待ちしておりました。私はこの屋敷の執事長を務めております。困った事があれば、何なりとお申し付けくださいませ。……それでは、『薔薇ローザ』様が屋敷内でお待ちです」
 執事長が言ったと同時、門は開かれた。二人は、様々な色の薔薇が咲き乱れる屋敷へと進んでいく。
「吉と出るか、凶と出るか……だな」

****

 敢助と高明は、執事長の案内のもと薔薇が活けられている花瓶が点在する廊下を進んでいく。この土地は薔薇が有名という話は聞かない。恐らく、『薔薇』の名の由来なのだろう。しばらく進むと、大きな扉の前まで案内される。
「それでは、こちらでお待ちです」
 執事長が言うと、部屋の扉が開かれる。薔薇の香りと共に、部屋には暗い紫色のベールで顔を隠し、赤いドレスを着た女性と、後ろには護衛なのか、一人の男が立っていた。ここの領主は女性だったのか。敢助たちが口を開く前に 『薔薇ローザ』が口を開く。
「ようこそ、我が薔薇の城へ。わたくしは『薔薇ローザ』。『ヴォルフ』様と、『ナハト』様ね。私の願いを聞いて頂き感謝していますわ。でも、本当に護衛なしで来るなんて……噂には聞いていたけれど、よほど腕に自信があるのかしら。『ヴォルフ』様、その傷では戦の時に不便でなくて?」
「最初は慣れませんでしたが、今はもう慣れましたよ。『薔薇ローザ』様。これでも、18の頃から領主ですから。隣の『ナハト』も同じくらいの頃から」
 敢助が言うと、高明はフッと笑う。
「私の方が一か月ほど早いですけどね。『ヴォルフ』くん」
「一か月は誤差だろうがァ……。いちいち細かいんだよ! お前は!」
「おや、早速口調が乱れていますよ。そういう所が差を生むんです」
「なァ……! ……失礼」
 二人のやり取りを聞いていた『薔薇ローザ』は口元に手を添えてクスクスと笑った。
「ふふ、構わなくてよ。私たちしか居ませんもの。話慣れた口調にして頂戴? 多分、私よりも歳も、領主の歴も上なのだから」
 領地を貰うことになったきっかけの戦では、敵を血に染め、返り血が薔薇の花びらのようだったから。彼女の攻撃によって舞う血が薔薇のようだったから『薔薇ローザ』の名だとか、婚約話が出ていた男が気に入らないからと殺したとか、物騒な噂が多いが、普段は温厚なのだろうか。
「私は元からこの口調ですから、このままで。よかったですね、『ヴォルフ』くん。その顔で丁寧な口調は正直、気味が悪いと思っていたので……
「当たり前だろうがァ……! 俺はそこまで無礼な人間じゃねぇ!」
「ふふ、お二人は仲が良いのね」
「ただの腐れ縁ですよ。『薔薇ローザ』様。こんな粗暴な人間と仲がいいなんて……
「それはこっちの台詞だ『ナハト』ォ……!」
「ふふふ!呼んで良かったわ。こんなに楽しいんだもの!」
 『薔薇ローザ』がくすくすと楽しそうに笑っている横で、護衛が『薔薇ローザ』に声を掛ける。
「”女王レジーナ”様、そろそろ本題に」
「あら、それもそうね。少しよろしいかしら」
 臣下には”女王レジーナ”と呼ばれているのか、と思いながら『薔薇ローザ』を見る。
「えぇ」
「勿論」
 『薔薇ローザ』は、静かに口を開く。
「本題の前に先に謝罪だけさせて欲しいの。たまに、とても口の軽い護衛がいるでしょう? それが嫌で領主だけといったのに、こちらには護衛がいるから……。私は反対したのだけれど、私の可愛い臣下たちが許さなくて……。それでも構わなくて?このベールは領主としての正装のようなものだから、許して頂戴」
「えぇ。ここは貴女の領地ですから。自由にして構いませんよ。それに、女性であるなら当然でしょう。女性一人に男性二人では、警戒するのは当然です。私たちは特に性別を隠していませんから、少し調べれば分かります」
「『ナハト』の言う通りだ。俺たちを警戒をして当然だ」
……そう。お優しいのね。益々気に入ったわ。……それでは、本題ね。協定の件について、ここに来ていただけたということは、私と協定を結んでくれるということでよろしくて?」
「あぁ。……そもそも、何で俺たちなんだ? 繋がりはないだろう」
「あら。だって、この前、私が気に入らない領主の土地を”掃除”してくれたでしょう? ずうっと、気に入らなかったのよ! 勿論ね、私の手で綺麗にしたかったのだけれど……。向こうの味方も多くて、難しかったもの」
 まずは、こうして呼ばれた理由として復讐では無さそうでほっと息をついた。
「気に入らない、とは? 領主としては問題が無かったはずです。よろしければ聞いてもいいでしょうか」
 それを聞いた『薔薇ローザ』の纏っていた空気が冷たくなる気配を感じた。
「私が嫌だと言っているのに、何度も何度も何度も! 領主が私との婚約話を持ってくるんだもの! これは君の為でもあるだとか……! きっと私の昔の写真でも見たのね。大抵の男はそう言うもの。要らないと言っているのに調度品を何度も何度も……! だから、ずうっと協定は結ばなかったのよ。領主会議が嫌で嫌で堪らなかった! ……だからね、とっても嬉しかったのよ。お二人があの領主に隙を生んでくれて」
……隙、ですか。その領主は、貴女の領土の境界付近で遺体として発見されたようですが、もしや」
……あら、まさか、知りたいの?」
  『薔薇ローザ』が顔を隠していても表情が分かる。その声音はとても楽しそうな子供のようだった。それを聞いた高明は首を横に振った。
「まさか」
……それならいいわ。初対面の方にする話じゃないもの。それとね、色々と調べた時に貴方たち、ずっと探し物をしているようだから……。今回の件のお礼も兼ねて、お手伝いをしようかと思ったのよ」
「そいつは有難いな。如何せん、手がかりが少なくてな」
「でも、何を探しているのかしら? 時間も少なかったから、そこまでは分からなかったの」
 敢助は高明を一瞬だけ見て、口を開く。高明は、どちらかと言うと自分の手伝いをしてくれているようなものだったから。
「一人の女性を探している。20年以上前に行方が分からなくなった、俺の幼馴染だ」
それを聞いた『薔薇ローザ』は息を吞んだ後。両頬に手を添え、声の調子を上げて少しばかり早口になって話し出した。
「あら! それはとても素敵じゃない! ロマンチックだわ! 10年以上も探しているの? 羨ましいわ……!」
「ただ、唯一持っていた写真は、幼少期の時に戦禍で無くなっちまったからな……。だからもう、ほとんど覚えちゃいねぇ。覚えているのは、名前と、ソイツとした約束だけだ」
「どこに行ったかも分からないのかしら?」
  由衣がいなくなってから、自分の両親に行方を聞いた。自分でも探そうとした。だが、とても急な事で、何も分からなかった。
「あぁ、全く。両親に聞いても、分からなかった」
「その女性の事、とても大切にしているのね。とても素敵だわ。益々、協力したくなってしまうわ。それで、その子の名前は? 歳は? 約束に関しても、どんなものか、簡単でいいから教えていただけるかしら」
「名前は由衣。歳は俺の6つ下だから、今年は29歳のはずだ。……約束は、『絶対に見つける』ってところだな。……もう、それが20年近く果たせてないわけだが」
 敢助が言い終わると沈黙が走る。さっきまであんなに話していた 『薔薇ローザ』は黙ってしまっている。口元に手を置いて、何か考え込んでいるようだ。横にいた護衛が、『薔薇ローザ』の耳元で何か話している。
……何か、心当たりがあるのか?」
「ねぇ、『ヴォルフ』様。貴方の出身地域はどこ?領地とは、少し離れた場所でなくて?」
  『薔薇ローザ』の言う通りだった。自分の生まれた土地の領主はまだまだ健在で、高明と同様、他所の場所で領主をしていた。彼女は、何か手がかりを持っているのかもしれない。
「あ、あぁ。出身は『フライハイト』。そことは別の場所で領主をやっている」
 それを聞くと、『薔薇ローザ』は両手で顔を覆った。そして、声を震わせて話し出す。
「私の勘違いなら、それでいいの。ねぇ、貴方は……、あなたは、敢ちゃんなの……?名前、”敢助”って、名前だったりしない……?私もね、ずっと待っている人がいるの。6つ上の、褐色の肌の男性を。『私を見つけて』って、約束、したの……
 『敢ちゃん』、それは、由衣しか読んでいない名前だった。それに、その約束は、確かに由衣としたものだった。
「っ、そうだ。それが、俺の名前だ。……由衣、なのか。俺の、幼馴染の」
 『薔薇ローザ————いや、由衣は、それを聞くと、ベールを外して、敢助の元へ駆け寄って、ぎゅっと、抱き着いてきた。敢助も、それに答えた。
「ずっと、ずっと! 待ってたの! 探していたの! だけど、あそこから、かなり遠いでしょう? 手がかりも、何も残せなくて、写真も、無くなっちゃって……! ずっと、会うことだけが、私の生きがいだった!」
「20年以上も、待たせてしまって悪かった、由衣……! 俺も、ずっと、ずっと、会いたかった……!」
「私を、見つけてくれて、ありがとう……! 約束、守ってくれて、ありがとう……!」
 由衣の嗚咽が落ち着き始めた頃、由衣は顔を上げる。泣きはらして目元は赤くなっているが、薄紫の目に、黒く長い髪。そうだ、由衣はこんな顔だったなぁ。随分と綺麗になったと思っていると、顔を横にずらす。
「じゃあ、『ナハト』様って、コウくん……?」
高明はそれを聞くと、目を細めた。
「えぇ。お久しぶりです、由衣さん」
「会いたかった~!!」
 敢助の腕の中からスルリと抜けて、高明に腕を伸ばして駆け出した。高明も、それをそっと受け止めた。
「えぇ、僕もですよ。お元気そうで、何よりです」
「うん、元気だったわ! ど、どうしましょう。もっと二人と話したいんだけど、予定は?」
「いえ、遠方でしたから、しばらくは余裕がありますよ。もちろん、敢助くんも。さて、そろそろ敢助くんの元へ行ってあげたらどうです?」
 由衣は目をパチパチさせた後、頬をほんの少し赤らめる。そして、敢助の方を見てきたので、敢助は由衣に向かって手を差し伸べる。
「ふふ! 今日は最高の日だわ!」
 由衣は敢助の手を取って、満面の笑みを見せた。