okanon
2026-03-08 14:20:44
6094文字
Public モスファイ
 

君は誰に会いたいの!?⑤

現パロ🍷☀️
DK(記憶なし)☀️が、ある日☀️ぬいと出会って人探しをしたお話、その5
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 (五)
 
 モーディスと出会った次の日から、早速ファイノンは彼にメッセージを送った。
 
『君も高校生なのか?もしかして学年も同じかも!』
『オクヘイマの生活ってどんな感じ?』
『アイコンのギターは何?もしかして弾けるとか?』
 
『HKS』
 
『なんだって?』
 
 次々と質問を送りまくり、モーディスから謎の三文字のアルファベットを送られる。しかしその後、彼はしっかり質問に答えてくれる。ファイノンはその軽いやり取りが楽しくて堪らなかった。
 週末の夜にはビデオ通話を繋げ、ノンも一緒にお喋りもした。そんな交流を何度も繰り返し、この日もまた、ファイノンはモーディスとビデオ通話をしていた。
 
「ほらノン、モーディスだよ」
「ぬ!ぬ!」
『相変わらず元気な人形だな』
「モーディスって、この子の扱いが上手だよね。なんか手馴れているというか……
「まぁ、実際慣れているからな」
 
 その言葉に首を傾げたファイノンを見て、モーディスは少し考えた後「待っていろ」と言って立ち上がった。ノンと顔を見合せ大人しく待っていると、画面の外からトトトと何かの足音が聞こえ——
 
『ぬ!』
「わっ!!」
 
 画面の奥で何か飛んだと思ったら、画面いっぱいに人形の顔が映る。驚いたファイノンが思わずノンの方を見ると、ノンは両手で口を塞ぎ全身を震わせた後、「ぬー!」と鳴いてスマホの画面に駆け寄った。画面越しに相対した二体の人形は、「ぬ」『ぬ』と何か話しているようだった。
 
「な、なんなんだ……?も、モーディス!」
……俺のところにいる人形だ。今まで話すタイミングがなかったが……
「タイミングなんてたくさんあっただろう!?」
 
 『それは……』と珍しく気まずそうにしているモーディスに、ファイノンは少し気を良くしたのかそれ以上詰め寄りはしなかった。
  
「まあいいけど……それにしても、君の元にも人形がいたなんてね。だからあんなに手馴れていたんだ」
「一緒に住んで長いからな。中学の時には俺の元にいた」
「え!?じゃあ、君はこの子達が何ものかも知っていたり……?」
……まあな。知り合いに詳しいやつがいる」
「他にも知ってる人が!?」
 
 思わず身を乗り出し、ノンの後ろからスマホを覗き込む。大き声にびっくりしたのか、ノンはファイノンの方を振り返った後、一歩横にずれてくれた。
 
……お前が良ければだが、会ってみるか?オクヘイマで会えるぞ」
「ああ、もちろん!……そんな人がいるなんて、どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ」 
……タイミングがなかったんだ」
 
 拗ねたように頬を膨らますファイノンに、モーディスは視線を横に逸らす。モーディスの隣では彼そっくりの人形が、やれやれと首を振っていた。


 それから一ヶ月ほど経ち、ようやく相手と都合の合う日が決まったファイノンは、再びノンと共にオクヘイマへやって来ていた。
 以前よりもスムーズに人の流れに乗りながら、改札口を出る。ファイノンは少し先の柱に、見慣れたオレンジ髪を見つけ、そこへ元気に手を振りながら駆け出した。

「モーディスー!」
「そんな大声を出さずとも聞こえている」
「こんなに人が多いんだ、分かりやすい方がいいだろ?」
 
 そう言うファイノンにモーディスが肩をすくめると、彼が肩にかけた黒いトートバッグから、モーディス似の人形がひょっこりと顔を出した。頭にはタオルを被り、外からは見えにくいように上手く隠している。
「隠れるのが上手だなぁ」と笑ったファイノンはそっと鞄に近づき、小さな声で話しかけた。
 
「こうして会うのは初めましてだね、"殿下"」
「ぬ」
 
 "殿下"とは、この人形の名前……らしい。というのも、モーディス自身は特に決めておらず、周りの人達が勝手にそう呼んでいるのだとか。
 ファイノンの挨拶に応えた殿下は、軽く手を振った後すぐトートバッグの中へと戻って行った。リスク回避までしっかりしていて、頼もしい限りだ。
 
「集合場所はここから歩いて十分程のところにある、貸し会議室だ。このまま向かっても大丈夫か?」
「ああ、問題ないよ。……僕たちの他に、何人ぐらい居るんだい?」
「今日は三人だな。他にも何人かいるんだが……予定が合わなかったから、また今度だ」
「結構知ってる人いるんだ……
 
 モーディスに連れられながら目的地へと向かう。モーディスが「そろそろだ」と言うので彼の視線の先を見ると、ビルの前にピンク髪の女性が立っているのが見えた。

「待たせたな、ヒアンシー」
「モーディス様、お久しぶりですね!」
 
 突然の「様」付に面食らったファイノンは、思わず二人を交互に見やる。ヒアンシーと呼ばれた女性は今度はファイノンの方に体を向け、にっこりと微笑む。
 
「ファイノン様も、初めまして!私も、皆さんも……ファイノン様にお会いできるのをとっても楽しみにしていたんですよ!」
「は、初めまして……?さ、"様"は付けなくてもいいんだけど……
「皆さんすでにお待ちですよ。さっ、行きましょう!」
「待たせていたのか。急ぐぞ、ファイノン」
「ち、ちょっと待ってくれよ……!」
 
 インパクトのある顔合わせだったにも関わらず、二人はなんて事ないようにビルへ入っていく。「とんでもない所に来てしまったのではないか……」と少し不安になりながら、ファイノンは急いで二人の背中を追った。
 
 
 エレベーターで目的の階まで昇り、ヒアンシーが会議室の扉を開ける。会議室の中は大きな窓が壁にはめ込まれていて、開放的な空間に長テーブルと人数分の椅子が並んでいた。
 
「お二人とも、モーディス様とファイノン様が到着しましたよー」
 
 ヒアンシーに促されるまま恐る恐る部屋に入ると、二人の男性と女性がこちらを見ていた。一人は緑髪に眼帯をした男性。もう一人は金髪の……
 
「あ、アグライア!?」
 
 以前オクヘイマに来た時に見かけた広告看板の女性がそこにいた。思わずその名を呼ぶと、何故か他の人達が驚いたようにファイノンを見る。その反応に戸惑うファイノンに、隣にいたモーディスが迫るように聞いてくる。
 
「ファイノン、アグライアを知っているのか?」
「そ、そりゃあ、街中の広告で見かけたし……有名人くらい、田舎者の僕だって知ってるよ!」
 
 馬鹿にでもされているのかと、頬を膨らませて反論したが、それを見たモーディスは「……そうか」と言って、すぐ身を引いた。
 
……ふふ、有名人と呼ばれるとは、光栄ですね。改めて自己紹介を、私はアグライアです」
 
 そう言って微笑んだアグライアは、次を促すように隣の男性を見る。
 
……アナクサゴラスです。大学教授をしています」
「アナク……?」
「呼びにくかったら、"アナイクス先生"でもいいですよ?」
 
 聞き取れなかった名前を復唱すると、ヒアンシーがにっこりとフォローしてくれた。アナイクスは「私はアナクサゴラスだと……」と何か言っているようだったが、諦めたのか咳払いをし、話し始めた。
 
……はぁ、話をさっさと進めましょう。ファイノン、モーディス、例の人形を連れてきましたね?」
「「ぬ!」」
 
 アナイクスが問うと、殿下はモーディスの鞄から机に飛び降り、ノンはファイノンに机の上へそっと下ろしてもらった。
 
「わぁ!本当にファイノン様そっくりですね!」
「ふふ、愛らしい姿になりましたね」
 
 そう言ってヒアンシーとアグライアが撫でると、ノンは恥ずかしそうにした後、殿下の後ろへ隠れてしまった。その様子を見ていたアナイクスがファイノンに尋ねる。
 
「彼とはどれくらい一緒に?」
「えっと、半年ぐらいかな?ある朝、目が覚めたら突然目の前にいたんだ」
「そうですか……
……ノンとは出会ってからずっとに一緒にいるけど、僕は彼のことを何も知らないんだ。……アナイクス先生、ノンのことを何でもいいから教えてくれないか?」
 
 アナイクスは「アナクサゴラスです」と肩を竦めたが、説明を始めてくれるようで皆を席に座るよう促した。
 
「その人形、現在共にいるのは貴方とモーディスの二人ですが、かつては我々の所にもいました」
「かつて……ということは、今はいないのかい?」
「ええ、彼らは皆消えてしまいました」
「消え……!?」
 
 思わずノンの方を見る。ノンは消えることを知っていたのか、あまり動揺した様子は見せていなかった。

「なんの前触れもなく消えることは無いので、ご安心を。消えるのも、彼らがその役目を果たしたらです」
「役目って?……随分勿体ぶるじゃないか」
「貴方が焦っているだけでは?」
「ファイノン、一旦落ち着け」
 
 モーディスに肩を捕まれ、自分が無意識に身を乗り出していたことに気づき、「ごめん」と姿勢を戻した。一方、アナイクスはヒアンシーから「不安にさせるような説明の仕方はしないでください!」とお叱りを受けていた。
 
……慎重に話しすぎましたね。彼らは遠い過去の記憶を持ち、それを次の持ち主に渡し終えることが役目だと、私は考えています」
「記憶……?」
「ヒアンシーが貴方を"ファイノン様"と呼ぶのも、その延長線です」
 
 皆が同じように記憶を持っている……ファイノンはそこまで理解すると、以前感じた違和感を思い出した。モーディスと初めて出会った時、自己紹介する前に名前を呼ばれていた気がしたが、気のせいではなかったのだ。
 
「じゃあ……みんな遠い過去では僕と知り合いで、その記憶も持っているってこと?気になる……けど、それでノンが消えてしまうのは嫌だな……
 
 これまでずっと共にいたのに、お別れになってしまうのは嫌だとノンの方を見ると、隣にいた殿下が目に入る。そこでファイノンの頭に一つの疑問が浮かび、モーディスへ問いかける。
 
「あれ、なら殿下が消えていないのはどうしてだい?」
……どうやら俺が受け取った記憶は全てでは無いらしい。なんの記憶を渡されていないのかは知らんが」
「ぬぬ」
 
 モーディスの答えに殿下が返事をする。どうやら肯定しているようだ。
 
「そういう事なら……ノン、僕にも少しでいいから記憶を渡してくれないかい?所謂前世の記憶ってやつだろう?気になるじゃないか!」
 
 代償などがないのなら、ファイノンの心に残るのは好奇心だけだ。前世の記憶なんて非日常的なもの、男子高校生の彼が興味を持たないはずがない。
 しかし、ノンはそんな彼をじっと見つめた後、「……ぬっ」と言って顔を背けた。
 
「え!」
……ふ、断られたな」
「そのような理由では渡せないと」
「す、少しもダメかい!?ちょっとだけ、数秒だけでも!」
「ぬぬ~」
 
 何度強請っても、ノンは全く受け付けてくれなかった。ファイノンがノンに手を伸ばしても、ぴょんぴょんと上手く躱されてしまう。そうやってしばらく二人の攻防が続くが、二人の間にヒアンシーの手が入ると簡単にノンは捕まり、そのまま彼女はノンを腕に抱えてしまった。
 
「あ!ヒアンシー!」
「お二人共、喧嘩はダメですよー?……ふふ、きっとこの子は、ファイノン様の事が心配なんですね。"ファイノン様"は、お優しい方ですから」
 
 そう言って、彼女の手が優しくノンの頭を撫でる。
 
……そうだね、ノンは出会った時からずっと僕の心配をしてくれているよ」
 
 初めての都会に不安だった時も、知らない街を歩き回り疲労していた時も、彼はずっとファイノンの傍で支えてくれていた。そんな彼の判断を、自分は信じるべきなのかもしれないと、ファイノンはノンから手を引くことにした。
 
……とはいえ、何の記憶も渡さないまま半年も共にいる例はありません。何かあればすぐ頼るように」
「ああ、分かったよ。ありがとう、アナイクス先生」
 
 
 その後ファイノン達は、互いの連絡先を交換したり、近況を話したりして時間を過ごした。その際ファイノンがそれとなく前世の話を聞き出そうとしたが、全員から上手くかわされ何も知ることはできなかった。
 そろそろお開きにしようかという頃、アグライアがファイノンへ声をかけてきた。
 
「ファイノン、彼と少し話をしたいのですが、よろしいですか?」
「ノンと……?構わないよ」
 
 そう言ってファイノンがノンを手渡すと、アグライアはノンを腕に抱えたまま、窓際まで一人歩いて行く。何か二人だけで話したいことがあるのだろう。
 
……ねえ、モーディス。アグライアって人形と会話できるの?」
「は?……知らん」
「ふふ、アグライア様だったら、なんだかできてしまいそうですね」
 
 
 窓から人が行き交う道路を見下ろし、街の喧騒に耳をすませる。二人の間には、静かな空気が流れていた。その重くも感じられる空気の中、先に口を開いたのはアグライアだった。
 
……今回は記憶を渡さなかったようですが、その記憶の本来の持ち主は彼であることを、貴方は分かっていますね?」
……ぬ」
 
 アグライアが問いかけると、ノンは静かに頷いた。これから彼女が話そうとしていることを、まるで分かっているかのようだ。
 
……貴方がその記憶を渡すことに躊躇する気持ちは、分かっているつもりです。できることなら、この平和な世で何も背負わないまま生きてほしいと、そう願ってしまうことも。……ですが、その記憶を持つか持たないかを決めるのは彼自身であることを、私達は忘れてはいけません。彼が心からその記憶を求めたら……その時は、応えてあげてください」
 
 彼女の言葉を聞いてもまだ迷っているのか、ノンは俯いてしまう。しかし彼女は「大丈夫です」と言葉を繋げ、空を見上げた。それにつられて、ノンも顔を上げる。
 今日のオクヘイマも快晴で、太陽の暖かい光が地上へと降り注いでいた。
 
「そのために、貴方は私達を……メデイモスを探していたのでしょう?」
 
 そう言うと、アグライアはゆっくりと目を閉じた。どこか遠くから「やっぱり君には、何でもお見通しだね」と、懐かしい声が聞こえた気がした。
 アグライアが目を開け振り向けば、モーディス達と楽しそうに談笑しているファイノンがいる。かつての無名の英雄は、次の自分へ記憶を託すために必死に縁を結び直そうとしたのだ。そして縁が結ばれた今、今度は自分達にも託されようとしている。
 
 彼の記憶が戻るとしても、戻らないとしても、この太陽の暖かさが消えないように。
 
 腕の中から「ぬ!」と元気な鳴き声が聞こえると、アグライアは微笑み、彼らの元へと歩き出した。