2222(にし)
2026-03-08 02:12:13
3663文字
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七松の隣席

こへ長現パロ。長次が小平太とパーティーに行くことになる話、の導入。
ふわっとした話なのであまり深く考えずに読んでください。細かいこと気にしない人向け。

 閑静な住宅街の奥に、その屋敷はある。
 高い塀に、重厚な門。その向こうに広がる庭と、日本家屋調の大きな建物。掲げられた表札には、「七松」と記されている。
 勝手知ったる、とまでは言えないが、何度も訪れているはずの門の前で、中在家長次は一瞬だけ足を止めた。


 今日の昼前、メッセージアプリに小平太からの連絡があった。
[今から明日の夜までって何か用事あるか?]
 特にない、と返信するとすぐに既読マークがつき、続けてこう送られてきた。
[そうか! なら、私のおじい様の家まで来てくれ!]
[スマホだけ持って来ればいいから!]

 要件も理由もない。だが、長次は驚きも訝しみもしない。七松小平太という男は、昔からそういう男だからだ。
 長次は[わかった]とだけ返信すると、スマートフォンをポケットに滑り込ませて外出用のコートに腕を通したのだった。


 深呼吸してから、呼び鈴を鳴らす。
「中在家様、お待ちしておりました」
 程なくして門が開き、出迎えた使用人が恭しく一礼した。案内されるがままに屋敷へ入り、廊下を進み、広い部屋に通される。そして気づけば、あれよあれよという間に身なりを整えさせられていた。
 糊のきいたシャツに、ワイドラペルのスーツ。靴下も紺のハイソックスが用意され、足元には艶やかな革靴が置かれる。
 口をはさむ隙も無く全てが手際よく進む中、長次は腕をそっと伸ばして袖口の丈を確認した。肩から裾まで、寸分違わぬように合っている。どう考えても、特別製ではないか。
 そう思ったところで、部屋のドアが勢いよく開いた。
「長次! 来てくれたか!」
 振り返れば、そこには七松小平太が立っていた。
 バレーボール選手として鍛え上げられた体は、黒に近い濃紺の礼服で包まれている。いつものぼさぼさ髪は丁寧に整えられ、上品な香りが長次の鼻先をくすぐった。背筋を伸ばした正装姿でも、太陽を思わせる笑顔はいつも通りの小平太だ。
 だが、呼びつけた張本人でありながら他人事のような言い草に、長次は小さく鼻を鳴らす。
「お前が『来てくれ』と言ったのだろう」
「はは、そうだったな!」
 屈託なく笑う小平太に、長次は眉をひそめる。
「さすがに、どういうことなのか説明が欲しい」
「あれっ言ってなかったっけ?」
 小平太は白々しく小首を傾げている。
「夕方から、うちの会社の創立記念パーティーがあるんだ」
 さらりと言うが、聞き流せる内容ではない。
……それで?」
「長次も同席してほしい!」
 あまりに当然のように言われて、長次は押し黙った。
 株式会社ナナマツスポーツ。言わずと知れた、スポーツ用品の名店である。この豪邸の持ち主である、小平太の祖父が興した会社だ。
 競技と選手に寄り添って開発される製品が人気を博し、僅かでも球技に触れることのあるものならばこの会社の製品を必ず手に取ることになると言ってもいい。今は小平太の父が社長として腕を振るっており、確か今年で創立五十周年だったか。
「平日だし、帰りは遅くなる。弟妹達は学校があるしな。私一人では話し相手もいなくてつまらん!」
 口を尖らせながら告げてくる理由は、いかにも小平太らしい。
 長次は大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。太い襟で飾られた肩が静かに上下する。
 私が隣でいいのだろうかと、思わなくもない。経済界の重鎮も出席するような会に、ただの大学生が同席しても。
 しかし、ここまでお膳立てされてしまったのだ。今更断るほうが難しい。
 ……それに、と長次は小平太の顔を見た。一対の丸い目が、長次をじっと見つめている。幼い頃から変わらない、人懐っこさの中に射貫くような鋭さをはらんだ黒い瞳。言葉以上に長次を求めるこの目には、どうにも抗い難いのだ。
「そう来なくてはな!」
 首を縦に振った長次を見て、小平太は満足げに頷いた。

「しかし、なぜ私に合わせて誂えた礼装がある?」
 小平太と同じ香りのする整髪剤で髪を撫でつけられながら、長次は疑問を口にする。いつもは下ろしている前髪が後ろに流され、あらわにされた額が落ち着かない。自分自身であるはずの鏡の中の男は、普段との装いが異なりすぎてまるで別人のように思える。
「あー、丈は大体私と一緒で、あと胸囲と腰回りは気持ち大きめに仕立ててくれと言ったらこうなった! きついとか緩いとかはないか?」
……無い」
 どう考えても、頭の先から足先まで高級な一式だ。それを小平太の大雑把な説明で、寸分の違いなく仕上げられるとは。普通の精神なら物怖じして逃げ出したくなるほどの状況に立たされてなお、長次は泰然とした態度を崩さない。
「それにしても、何も言わずここまで整えさせてくれるとはな」
 感心したような声の主へ、長次は視線を向ける。
……『細かいことは気にするな』、なのだろう?」
 目の前の相棒の口癖を真似てみると、小平太は一瞬の沈黙の後、くしゃりと相好を崩した。
「はは! よくわかってるじゃないか!」
 心底嬉しそうな笑顔に、部屋の空気がぱっと明るくなった。

「失礼します。中在家様、頬のお傷はどうなさいますか?」
 長次の髪を整えていた使用人が、控えめに声をかけてくる。
 メイクで隠すことも可能ですが、と遠慮がちに聞かれ、長次は僅かに目を伏せた。
 悪意ではない。むしろ気遣いだ。
 恐らく、祝賀会の場にはそれなりの立場の人間ばかりが招かれる。身なりに気を付けるに越したことはない。顔の傷を快く思わない者もいるだろうし、それで小平太への印象まで悪くしてしまうのは、さすがに忍びない。
 極力隠してほしい、と言おうとしたその時。
「いや、何もしなくていい」
 被せるように小平太が言った。
「長次はそのままでいい。そのままの、長次がいい」
 よく通る、ためらいのない声だった。

 使用人たちが一礼して部屋を出ていく。どうやら、顔以外の支度は全て整っていたようだ。
……いいのか?」
「いいんだ!」
「だがこのままだと、七松家の御曹司とボディガードに見えてしまうのでは」
「なはは、そうかもしれないな!」
 冗談半分のつもりで言った長次に、小平太はからからと笑った。
「でも、私が何も言わせないから!」
 ひとしきり笑ってから、小平太はぐっと胸を張ってみせる。
「そうか」
 ──ああ、小平太らしい。
 胸に灯る熱を感じながら、長次は小さく頷いた。

 静かになった部屋の中で、小平太が長次に向き直った。大きな手が、長次へと真っ直ぐに差し出される。
 まるで、「お手をどうぞ」とでも言いたげに。
 指先まで行き届いた所作に、整えられた頭髪。見慣れぬ礼服に身を包んだ姿。
 目の前の男をどこか見知らぬ存在のように感じながらも、長次は小平太の手を取った。
 触れた瞬間に伝わる、高い体温。節だった指、厚い掌。
 皮膚を介して感じるものは、間違いなく小平太のものだった。





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 実質顔見せ、外堀埋め。
 長次はどこまで了承しているのか、していないのか。それは長次のみぞ知る。流されているようで流されておらず、実は何も考えてないだけかも。
 いいところのお家のことや大企業のあれこれとかは全くわからないので変なところがあっても適当に流してください。

 続きはあるような、無いような。気が向いたら書きます。




なんとなくの設定 前世の記憶有り無しとかは決めてません

七松小平太
 大学生。大企業、ナナマツスポーツの社長の息子。
 とにかく明るく、底抜けに元気。7人の弟妹がいる。
 突拍子のない行動に周りは振り回されがちだが、大体の無茶ぶりについてきてくれる長次のことを小平太はとても気に入っている。
 大学二年生ごろから長次と同棲している。
 バレーボール部のエース。卒業後はプロ選手としてナナマツスポーツのバレーボールチームに入ることが決まっている。親の七光り? 知らんな、実力だ。
 体育学部。在学中にジュニアスポーツ指導員の資格を取った。
 なお、小平太の実家は普通の住宅(それでも10人程度の住民達がストレスなく暮らせる程度の広さがある)。小平太の祖父母宅がものすごい豪邸。


中在家長次
 大学生。小平太とは家が近所で、幼少期から親しく過ごす。
 小平太が大企業の社長の息子と知っても態度を全く変えず、小平太が絶対の信頼をおいている。
 10歳の時、事故で両頬に大きな傷を負い、それから無口で無表情になってしまった。
 高校から眼鏡ユーザー。頬の傷跡は、家や友人の前ではそのままだが公的な場では肌色のテープなどで隠す。
 大学四年生も半ばに差し掛かりながら、ここだという就職先がまだ決まっていない。院進学もいいかなと思っていたり、いなかったり。
 文学部。大学図書館の主と渾名される。調理師免許を取りたい。最近電子書籍派に転向。大事な作品だけは紙で揃える。