Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
青
2026-03-07 22:10:54
3965文字
Public
Clear cache
そのひとについて
本人の居ない所でシュの話するラ(+カブ)と、ユキちゃんの短い話いっこずつ。
CP要素は無い(根底にちょっとシュロファリ?)ですがラもユキちゃんもシュが大好きです。
「ううっ
……
やっと終わった
……
」
「はい確かに。お疲れ様でした」
外交よりは遥かに良いが、机仕事は苦手の部類だと肩を回しながら呟いている我らが主に、若い宰相補佐官はちらりと目をやった。
嫌な事を片付け終わって、今まさに解放感を味わっている所に悪い気もするが、実はまだ仕事が残っている。彼がそれを告げると、あからさまに嫌そうに目を細められた。そこまでは仕方がない。
「先に言ってくれないかなぁ」
「いや全然毛色の違う話なんで、いっぺんに言うのもどうかと思って」
「何が?」
目の前にどさりと落とされた紙の束を、王は一枚手に取った。
封を開ければ、どれも何やらつらつら書かれた、長い手紙である。
「見合いの申し込みが」
「誰に」
「妹さんにですね」
「あぁ
……
」
王は特に驚いたりはしない。よくある話だ。ちなみに彼自身も独り身ではあるが、持ち込まれる縁談はこれより格段に少ない。多分いちど政略結婚の打診があった時に、相手に泣いて嫌がられたという話が変に捻じ曲がって伝わり、多少敬遠されるようになったのだろうと本人も周囲も思っている。何の事はない、実際彼に何か悪い所があったというよりは、単純に相手の好みからあまりに外れていたというだけの話だ。けれども王はそんな経験から、結婚はやはり両者の合意あってこそと改めて考えるようにもなった。
王侯貴族の婚姻というものの意味を、彼も知らない訳ではない。とっくに破談になったとはいえ、故郷に居た時分は幼い頃からの婚約者も居た身である。土地や国同士の結びつきを盤石にせんがため、結婚とはある程度の身分がある者にとっては自由に出来るものではなく、果たさなければならぬ仕事でもあると理解してはいた。謂わば同盟、契約のひとつの形だ。そういうものだ。
しかし改めてその立場になってみると、好きでもない、どころか隣に座るのも我慢し難い男の所に、半ば無理やり嫁がされる娘の気持ちというものを、彼は全く考えていなかったと気付かされた。一族の為と言いながら犠牲になろうとする乙女の姿を目の当たりにして、それでいい、仕方がないと思える程、冷徹にもなれなかった。
「一旦全部断らないと。あいつは今ここにいないし」
彼の妹は、今は城どころかこの国にすらいない。竜に喰われてのち無事に蘇生した姫君は、国内から動けない兄の代わりに足となり目となり耳となり、あちこちを旅しては珍しい話や品を送ってくる。帰って来てもすぐまた新たな旅に出てしまうので、長く滞在している方が稀なのだった。
「こっちである程度纏めてしまったっていいとは思いますけど」
「
……
」
「酷い事言うって思ってます?」
宰相補佐官の青い瞳の奥が笑っている。
「
……
そんな事はないよ。親にでも決められて、一も二もなく嫁ぐ人もあるだろうから。でもまぁ、やりたくはないかな」
「でしょうね」
「本人がしたいって言うなら、なるべく良い結婚をして欲しい、と思ってはいるけど」
「
……
海の向こうに嫁がせるのは『良い結婚』でしたか」
さらりと言われて、王は頬杖を外し、それから金の両目でぱちぱちと何度も瞬いた。
今その話をされるとは、という顔だった。宰相補佐官としては、当然そうなる流れだろうと思っていたので、びっくりされる方が意外だ。肩を竦め、溜息を吐く。
「それは
……
まぁ」
「あなたは賛成でしたね。残念ながら彼はフラれましたけど」
妹にも婚約者がいた事はいたが、やはり子供の頃に破談になったらしい。しかし、王の冒険者時代の仲間がひとり、彼女に求婚した事がある。兄としても、彼と義兄弟になれるのなら嬉しいとさえ思った、無二の友であった。
誠実で、真剣に彼女を想い、生涯共に在って欲しいと願った。その気持ちは全てが終わり始まってからも変わっていなかったらしく、遠い故郷に帰る前に、一緒に来て欲しいと告げた。現場は兄も遠くから目にしている。
妹は断った。此処へ帰って来たいから、と。
相手もそれを受け入れてくれて、ふたりは笑顔で別れた。一幅の絵画のような美しい光景だったと、きっとその場に居た誰もがそう記憶しているに違いない。感動で涙する者もあった程だ。
「
……
そう、本人の意思でね。彼女が決める事だ。
……
でも」
「でも?」
微かな痛みを堪えるような顔で、若き王は呟く。
「でも俺は、妹に求婚者が現れるたびに、彼の事を必ず思い出すよ。顔を思い浮かべるなという方が無理だろう」
「まぁそうですね」
「そして全てを比べてしまう。彼以上の男はそうそう居ないと、毎回思い知る。
……
多分、妹も」
一生忘れる事はないだろう。あの日の事を。兄は自分が妹の代わりに、共に行きたいとさえ願ったくらいだ。
「
……
ふふ」
青年は笑いつつ、困ったものだ、と言った。
あのひとは遠い故郷へ帰ってしまった。残ったのは対の鈴の片方と、何とも言い難い一抹の寂しさ。また来る、という一言が無ければ、細々とした手紙のやり取りが無かったら、王は今より日々の忙しさに耐えられなかっただろう。
「罪な男ですねぇ」
「全くだよ
……
あ、どうしよう、今物凄く顔が見たくなった」
「催促したら如何です。早く来いと」
「そうする」
長い黒髪、愁いを含んだ横顔と、いつも下がり気味の眉が思い起こされる。今頃くしゃみのひとつもしているに違いない。片付けるべき仕事をいつの間にか脇に置いて、新しい紙を広げ始めた友人の姿を見て、宰相補佐官はそんな事を考えていた。
+++
「あー
……
」
少年が着るものもそのままに、床に寝転がって大の字になっている。無理もなかろうが、その体調を慮ってか、共に任務に出ていた部下のひとりが窘めるような言葉をかける。
「若、顔のひとつも洗ってから横になられませ」
「五月蠅い。疲れた」
「先刻まであんなに気を張っておられましたのに」
「流石に報告くらいはまともにするわ」
ひと月程の潜入任務である。彼の家は忍びの家系だ。主に諜報を生業としており、仕事が長期に渡る事もある。上手くこなしはしたものの、確かに長くはあったし疲れもしたのだろう。部下達は皆この若い主が子供の頃から父親の指示で傍に仕えている為、本当に気を使って仕事に当たっていたかどうかくらいは、見ていれば判る。
良くやった、と言っていいだろう。欲しい情報は手に入ったし、偽の情報を流すにも成功した。それでいて、正体が露わになりそうな危うい所も無かった。それは彼ら部下も保証するし、先に大まかな報告を受けていたこの家の主も満足していた。
御館様、と彼らは呼び習わしているが、この家の今の主はつい数年前に家督を譲られた若当主様である。破天荒な前の当主がようやっと後継ぎと定めた、三人の息子のうちの長男だ。そして彼らが仕えるのは、上の弟ぎみ、という事になる。
五人の部下たちは顔を寄せ合ってひそひそと話し合った。若君は仕事は出来るが、此度は少し丁寧にやり過ぎた所もある。何もそこまで、という念の入れようが、疲労の原因でもあるに違いない。どうしてそこまでしたかと言えば、それはやはり、そうなのだろう。
「全く若は」
中でも年嵩のひとりが、ふっと息を吐いた。
「よくよく御館様に良い所をお見せになりたいとみえますな」
「はぁ!?」
何を言い出す、と、少年は床から跳ね飛ばされるように起き上がった。
未だ幼さの残る頬に赤みが差している。
「そうでしょう。これでどうだと言わんばかりで」
「いや全く。枝を拾ってきた子犬のようでしたな」
「御館様に『お前に任せて良かった』と言われた時の、目の輝きようときたら」
うんうん、と一様に頷き納得している部下たちを睨み、少年はわなわなと震えていた。顔は最早耳まで真っ赤だ。
「まぁ解ります。若当主様は以前より表情豊かになられて」
「弟ぎみとしてはこう、褒められたくなる気持ちもおありなのでしょう。ずっと兄弟らしい事もせず」
「全く良う御座いましたな」
兄弟の絆が深まる事は、家にとって良い事に違いない。ただでさえ、若当主がその座に収まるまでは、弟とはいえさほど交流が無かったのだ。今からでも遅くはない。本心からそう思って、口々に皆そう言ったのだが、どうやら少年としては素直に認めたくないらしい。
「べ、別に褒めて欲しいとか、そういうんじゃ
……
!!」
そんな事を口走ったので、部下たちは今度は首を傾げた。
「おや、左様に兄上様がお嫌いですか」
「なんでそうなる!!」
「綺麗どこに囲まれて腹が立つとか何とか」
確かに家を叩き出されて旅に出た際、父が兄に貸した部下が女ばかりだったので、己はむさ苦しい男どもに囲まれて腹立ち紛れにそんな事を言った記憶がある。
「もう今それは関係ねぇし!!」
「ならば良いではないですか」
仲良くしても、と言うと、少年は最早返す言葉を失ったようだった。
息を荒げ、真っ赤になった顔は元に戻る気配がない。
「
……
寝る」
「だから着替えなさいと」
「あーあー!! もう五月蠅い!! お前らも寝ろ!!」
我らが若君は部下を労わって下さる、と彼らは肩を竦めた。
やがて本当に背中を向けたまま寝息を立て始めた少年の姿を見て、誰もが長い溜息を吐く。呆れていると言うのもあるが、妙に素直でない所も彼らとしては慣れたもので、そこがある意味愛らしくもあるからだ。
多分きっと、新しい当主様もその事には気付いている。
この弟が本当に兄に歩み寄りたいと、そう思う気持ちを理解して下さるつもりも、彼らが見たところ充分にありそうだ。
果たしてここからどうなっていくか、それはしかし、神も仏も海の向こうの悪魔も知らぬ事である。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内