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シノハラ
2026-03-07 21:50:56
1899文字
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緊急避難
ンズイル イ◯フ◯エ◯ザ的なものにかかり、帰ってみんなに移すよりはとンズ一人を犠牲することにした坊ちゃまと部屋から出てくる気配が全然ないので不安になるンズ
――
僕たちはいずれ共に舞い落ちる。そうでしたよね?
そうフリンズに問いかけたイルーガの呼吸は、今思うと既に上擦っていた。
彼曰く、仕事で訪れたナシャタウンでは季節の流行り病が猛威を振るい始めていたらしい。ライトキーパーでも病欠が出ていたので、用事を済ませて早々に街を離れたものの時すでに遅し。
パハ島に辿り着く頃に体の不調を察していたイルーガはアドンの足にメモを結びつけてピラミダに飛ばし、フリンズの住む拠点に足を向けたらしい。流行病は数日寝込めば完治して、体力のある世代であれば死ぬようなものでもない。
おそらくそれに罹ったはずと申告する彼に僕の身を案じてはくれないのかと心にもない非難をすれば、彼はにっこりと笑って見せた。それからつい最近くだらない応酬に混ぜ込んだフリンズの本音を引用して、死なば諸共と告げられたわけである。
時間の問題ではあるが、ピラミダに持ち込む可能性が一つでも潰せるのであれば、フリンズ一人を巻き添えにするくらい可愛いものだ。そう、イルーガは判断したらしい。ついでのように君が人でなければ罹るはずもないでしょうし、と添えられた言葉は聞かなかったことにする。
フリンズが病人のために寝床を用意している間に、イルーガは籠城のための準備を整えた。たっぷりの水と数日分の食べ物を用意して、しばらくは部屋から出てくるつもりはないらしい。あんな殺し文句を言った割には、フリンズに病気を移すつもりはなさそうだ。
それではと彼が扉を閉めてから、早二日が経過している。おそらくトイレに出てきてはいるはずだが、タイミングが悪いのかフリンズは彼の姿を目撃していなかった。
扉の前で聞き耳を立ててみても、寝返りを打つ衣擦れの音も聞こえてこない。窓があれば覗き込むこともできただろうが、生憎ここは地下である。
なんてことはない、ただの流行病だ。あと二日もすればけろっとした顔で彼は部屋から出てきて、お騒がせしましたと言ってくれるに違いない。重症化に繋がるような要因を彼は持っていないので、フリンズの憂慮はただの杞憂でしかない。
そんなこと。そんなことは重々承知していて、フリンズは夜更けに彼の部屋の戸を開かずにはいられなかった。
深い眠りに就いていればいいと願いながら、微かに軋む蝶番の機嫌を取ろうとする。真っ暗な部屋でランプを翳し、長い間誰にも使われていなかったベッドをフリンズは照らした。
フリンズが静止して衣擦れが納まると共に肺を擦るようなざらついた呼吸音が聞こえ、彼の呼吸に合わせてランプが生み出す影の形が変わるのが見て取れる。生きている。
それで満足すればいいのに、フリンズは堪らず彼を覗き込んだ。寒さを堪えるためか身を縮める姿を見ては、憐憫を垂れずにはいられなくなってしまう。
汗の滲む額に手の甲を近づけると、籠もった熱が伝わってきた。きっと今手で触れてやれば、彼は心地よく感じてくれるだろう。
そっとフリンズが手のひらをつけてやると、火照った肌がフリンズの手を温めようとする。彼がベッドからすっきり起き上がれるようになるまで、今しばらくかかりそうだ。
「
……
だめですよ、フリンズさん」
片方の手が温もってしまったのでもう片方の手を使おうとした時だった。フリンズのせいで目を醒ましたイルーガが額への心地よさに目を細めてから、掠れた声でフリンズを罰する。
「僕たちはいずれ共に舞い落ちる。あなたもそう仰ってくれたではありませんか」
熱で潤んで見える目を眇めた様子はあったが、反論する気力体力は彼の中に見当たらない。ふう、と溜め息を吐いた彼はフリンズの好きにさせることにしたらしい。
「起こしてしまった埋め合わせをさせてください。欲しい物はありますか?」
「
……
お湯を。体を拭きたくて」
たしか、人間は汗を掻くと一気に熱が下がる事が多いらしい。フリンズの知識を後押しするように、イルーガはそろそろ山を越えたはずだと申告してくる。
「まだ寝ていていいですよ。用意するまでしばらくかかりますから」
「
……
ああ、はい、そうですね」
フリンズに指摘されてようやく気がついたとばかりに、むくりと起き上がった不安定な体がベッドに戻ろうとする。その背中を支えてやると、力を入れるのが余程辛かったのか彼はくたりとフリンズに体を預けた。
こんな様子を目の当たりにしてしまうと、お湯とタオルだけ渡してこの場を離れるのも不安でならない。少し支えるくらいなら許してもらえるだろうか、なんて考えながらフリンズは部屋の明かりを灯してからランプを手に一度部屋を後にした。
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