幸希(ユキ)
2026-03-07 21:10:07
5426文字
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逆上せる

ここ最近ずっとむっちゃんが甘い。男の顔してくる。心臓持たない。



急いで身体を洗って湯船に浸かると、今度はむっちゃんが頭を洗い始める。常に跳ねまくってる髪が濡れて少し垂れる。

(それでも跳ねるとこはあるんだ。くせ毛?また違うか。)

いつも前から見る事が多くて、あまり気にした事がなかった後ろ髪が見える。長くなるとやや落ち着くのか、ところどころ跳ねてはいるもののしっとり濡れて背中に張り付いていた。

………。」
「どーこ見ゆう、主。」
「別にー?」
「そがに見なや、すけべ♡」
「もっかいお湯かけるよ。」

あまりにしっかり見てたから、視線で気づいたむっちゃんにからかわれる。髪見てただけだっつーの。

「あんまり視線が熱かったき。」
「それでイコール身体ってなるむっちゃんの方が問題じゃない?」
「ならん方が失礼やか。」
「何その理論。」

どっちがすけべなんだお前だろ。ジト目で睨んだけど、むっちゃんは泡を流しにかかっててこっちに気付いてなかった。

(もう流すのか。……え、身体洗い終わったらこっち来るじゃん!)

はたと思い至ったせいで急に恥ずかしくなる。むっちゃんに背を向けて三角座りになっておく。これで入ってきたとしても視界に入る面積は減るはず

(やっぱお風呂誘ったの失敗だった)
「何しゆうが?」
「にゃぎゃ!?」
「おっこうにひせるのう。」
「耳元で囁くなばか!!」

普通に喋ってても好きなのに、わざと低めの落ち着いた声で囁かれたらいろいろ駄目になるわ!!

「にゃあ、もうちくとそっち詰めてくれんか。」
「え、そこ空いてるじゃんてぇ!?」
「こんでえい。」

広めの湯船なのに、むっちゃんはぐいぐい詰めてくる。というかもう腰に手を回して抱えに来てる。せっかく三角座りになったのに、姿勢を崩されてしまった。

「ちょ、むっちゃん!」
「どういた?」
「どういた?じゃなくて!」
「んー?」
(あ、こいつ!)

ゆるりと下がる目尻。いたずらな光を湛えた琥珀。濡れた髪から伝う雫が肌の上を滑っていく。

(分かっててやってる!)
「どういた?主。」
「近い!!」
「近付かんと抱き締められん。」
「ちょ、待って!」
「待ったらおまさん逃げるじゃろ。」
「逃げない……けど!あ!」

一気に壁際に追い詰められて逃げ場がなくなる。

「はなして。」
「離さん。」

腰に回った腕。囲うように壁に手を付かれて動けも出来ない。均整の取れた身体が目の前で、目のやり場に困る。本当に困る。普通に状況も相まってさっきからドキドキしてる。
せめてと顔を伏せようとしたけど、優しい、でも熱の籠った声で呼ばれて動きが止まる。

「ゆき。」
……。」
「こっち、見とうせ。」
「むり。」
「耳、赤うなっちゅう。」
「みないで。」
「キス、したい。」

甘えた声。

「すれば、いいじゃん。」
「おまさんからしとうせ。」

無理にやる事も出来る。でも、むっちゃんはそうしない。

「にゃあ、主。」

        “同じがいい“

そう言って、どれほど自分が求めてても、私に委ねる。選択肢なんて与えずに強引にしてくれる方が、いいのに。

「おまさん。」
「も、や。」
「嫌なら突き放せばえい。」
「出来ないの知ってるくせに。」
「知っちゅう。」
「だったら!」
「おまさんが欲しい。愛したい。けんど一方的や意味がない。奪うがは簡単やけんど、それは今やない。」
……。」

視線なのか、湯船なのか。どちらの熱のせいか分からない。頭がくらくらする。

「ゆき。」
ずるい。」

欲しくないわけがないのに。

「ちゅー、して?」
「ほんま、可愛いの。」

顔が近付いてくるから目を閉じる。でも、いつまで待っても触れる感触がしない。

「?」

目を開ければ、すぐ近くにあったむっちゃんの視線とかち合う。

「しないの?」
「おまさんからしとうせ。」

悪い笑顔を浮かべる。あくまで私からしてほしいと。

「いじわる。」
「いつもわしからじゃろ?たまにはえいやか。」
今日だけ、ね。」

少しだけ背伸びして唇を合わせれば、満足そうにするむっちゃん。可愛い。

「いい?」
「おまさんからやってもらうがもえいにゃあ。」
「てんごう。」
「嫌ではないろ?」

んは、と笑いながらまたむっちゃんの顔が寄ってくる。甘やかすように唇を撫でられてキスされる。押し付けるだけの、いわゆるフレンチキス。

「やりこい。」
「言い方。」
ほんまは、もっといろんな言い方で褒めちゃりたいけんど、おまさん目の前にすると俗な言い方しか出来ん。いっつも思いゆう事だけが口から出る。」
「『可愛い』とか?」
「おん。」

腰に回る腕に力が入って抱き寄せられる。

「可愛い。愛しい。大好きじゃ。言える事なぞもっとあるじゃろうに、巡るのはそれだけ。」
「むっちゃん。」
「愛しちゅう。」

深く重ねられて息すら呑み込まれる。壁に付いていたはずの手はいつの間にか頬に移動して撫でられる。割れ物に触れるようにそっと。何度も、何度も。
ちゅぷ、と吸われ、音を立てながら離れる。

「主。」

愛しさと、欲と、慈しみが琥珀の中で揺蕩って混ざる。互いの素肌が触れる。

(好き)

想いのままに首に腕を伸ばすと屈んでくれた。するりと抱きつけば、閉じ込めるように抱き締め返してくれる。

「このまま
「うん

熱に煽られて、思考は溶けて痺れていく。

(ねぇ。)


逆上せるほど、君が愛しい。