幸希(ユキ)
2026-03-07 21:10:07
5426文字
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逆上せる

ここ最近ずっとむっちゃんが甘い。男の顔してくる。心臓持たない。



程よい力加減で地肌が押される。シャカシャカと泡立てながら梳るくしけずるように髪がとかれていく。

「痛うない?」
「平気。」

時々マッサージでもするように頭全体が揉み込まれる。襟足も洗いつつ、首の付け根付近の窪んだところが軽く押される。目を酷使しがちで、よく眼精疲労になるから、すっかり覚えられてしまった。

「あー
「気持ちえい?」
「そこ好き。」
「おまさん目や首への負担かかりすぎじゃ。ここ張って固うなりゆう。」
「あーーそこいい。もうちょい強くても大丈夫。」

側頭部に当てられた指がぐーっと上へ引っ張る。無意識に噛み締めたりしてずっと緊張状態だったんだろう。引っ張られた事でそれが和らいだ気がした。

……なんかさ。」
「ん?」
「前にもこんな事してたよね。あれは部屋でだったけど。」
あぁ、あれか。」
「むっちゃん、ずっと私の事見てくれてる。私より私の体調把握してる。」
「おまさんの自己判断は信用しちゃいかんきに。」
「ありゃあ。」
「無意識かわざとかがいまだに判断つかんけだ、のうが悪うても隠して知らんふりするき、おまさん。」

耳が痛い。悪癖と分かっていてもなかなか直らない。

「面倒くさくない?」
「そがな事ないぜよ。」
「本当に?」
「おまさんを甘やかす口実になるきね。泡流すき、ちくと上向いとうせ。」

美容院でやるようなやり方で髪についた泡を流していく。むっちゃんの手が顔に湯がいかないようにガードしてくれてる。

(手、大きい。)

目を閉じてるから見えてはないけど、額から伝わる感触で何となくは分かる。厚く、がっしりした、でもどこまでも優しい手。この手が大好きだ。

「熱うないかえ。」
「だいじょーぶ。きもちー

力が抜けていく。凭れたいけど、今やったら顔にお湯がかかってしまうから我慢だ。

「ほんにわしを信用してくれちょるんじゃな。」
「んー?」
「身体、預けたいがやろ?」
「うん。」
「そがなところがほんまに可愛い。」
「えー?」

流し終わったようでお湯の音が止む。少しだけ泡が残っていたのか生え際をタオルで拭われる。その流れで簡単に髪を拭かれた。

「元来警戒心が強うて、身体に触れられる事を好まんおまさんが、わしにはその身体を預けようとする。“預けても大丈夫”ち思うほど信用してもらえゆうと思うと、嬉しいがよ。」
「今までの積み重ねだよ。むっちゃんがずっと大事にしてきてくれたから。」
「そうやって言うてくれるのも嬉しいのう。……けんど」
「っ!?」

する、と背筋を撫でられて肩が跳ねる。

「あんまり無防備にしなや?食われてしもうても文句が言えんくなってしまうき。」
「あ、やめて!」
……ほんまにやめて欲しいなが?」

背筋、肩、首、そこから手が上がってきて耳にも触れられる。

「んっ!」

かと思ったら軽く歯を立てられた。ぞわぞわした感覚が這い上がってくる。

「あ、やだ、むっちゃ
「こういて囁かれるがも好きじゃろ?」
「~~っ!意地悪!」
「んはは。」

キッと睨んでみるけど、むっちゃんはおかしそうに笑うだけ。多分猫が威嚇してるくらいにしか思ってない。

「意地悪やだ!」
「意地悪しゆうつもりはないがよ。」
「だって!!」
「嫌ならそう言えばえい。わしはおまさんが嫌がる事はしとうないきに。」
……。」


ずるい。ずるい。


「私がむっちゃんのする事で、嫌な事なんてないの、知ってるじゃん。」
「ほうじゃの。おまさんはわしのする事をそういて許いてくれる。受け入れようとしてくれる。優しい、可愛いおまさん。」

ぎゅうと抱き締められる。

「大好きじゃ。」
……私も大好きだよ。」

目の前の胸板に頬を寄せる。きゅうと胸の奥が鳴く。目の前のこの刀が、どうしようもなく好き。

「もうちくとこうしちょりたいけんど、湯冷めしてしまうといかん。わし後ろ向いちゅうき、身体洗うて湯船で待っちょき。」
「分かった。」

離れる。少し名残惜しい。

「そがな顔しなや。」
「え。」
「わしと離れるがが寂しい、嫌っちゅう顔しゆう。」
「は!?」
「頭と身体洗ったらすぐねき行っちゃおき、えい子で待っちょき。の?」
……。」

バシャンッ

「おおの!?」


お湯をむっちゃんにぶっかけたの、謝らなきゃいけないかな。