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幸希(ユキ)
2026-03-07 21:10:07
5426文字
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逆上せる
ここ最近ずっとむっちゃんが甘い。男の顔してくる。心臓持たない。
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『足るばあ愛しちゃお』
朝から言われていたそれ。半ばヤケクソでお風呂に誘ったけど、正直悪手だったんじゃ?と今さら思ってる。でももう誘ってしまった以上後には引けない。
「主ー、もうえいが?」
「
……
どーぞ。」
カラリ、と湯殿の戸が開く。
「タオル巻いちゅう。」
「
…
だって」
「見られるがは恥ずかしい、やったの。」
「ほんっとにむっちゃん意地悪。」
悪足掻きなのは分かってるけど、云いようにされないために巻いたタオル。むっちゃんも前を隠す為に巻いてくれてるのがちょっと救い。
「どくれんで?」
「最近意地悪多いのなんで?」
「意地悪しゆうつもりは無いんじゃが、そう見えたが?」
「揚げ足取る事多いじゃん
…
。」
元々お互いに相手の発言を深読みして揚げ足取りをする事が多いけど、全くそのつもりが無かった事をむっちゃんが切り込んできて、結果的に揚げ足取られて意地悪を言われるような形になる。それがここしばらく続いていた。
「言うても怒らん?」
「内容による。」
「迂闊な事言うて、わしに囲われる事に気付くおまさんがしょうまっこと可愛いき、ついやってしまうがよ。」
「
…
は?」
「おまさんすぐ顔赤うして恥じらうき、それが可愛うてならん。もっと、その顔が見とうなる。」
「っ
……
」
パッと思わず顔を背けたけど、先刻映ったむっちゃんの顔は紛れもない“男”の顔だった。
この刀に愛される事には大分慣れてきたように思うけど、こうして見せてくる男の顔にはどうにも慣れない。隠しもしない愛慕と欲。それでもそれをこちらに押し付けまいと、熱を和らげるように混ぜられる慈しみの目。大事にされている事が分かる一方、“逃げられない”と本能的に感じてしまって身動きが取れなくなる。
「主。」
低く落ち着いた声。平静ならホッとさせてくれるのに、今はうるさく心臓を高鳴らせる。
「にゃあ、こっち向いとうせ。」
強制でも何でもない、ただのおねだり。嫌と突っぱねる事も出来るはずなのに、拒否の言葉は口から出ない。それでも素直に向ける訳もなくて固まったままでいると、ぎゅっと抱き締められて顎に指が添えられた。
「ゆき。」
「っ!」
名前を呼ばれただけ。なのに“こっちを向け”と言われたようで。顎を捉える指に僅かに力が入る。
「ゆき。」
さっきより甘さを増した声。
(そんな声で呼ばないで)
痺れる思考は「向いちゃダメ」と警鐘を鳴らすのに、どうにも身体は正直で。指にかかる僅かな力を辿って振り向けば、優しく微笑む最愛の姿。
「
…
可愛いのう。」
「んっ
…
」
ちゅ、と可愛らしい音と同時に唇が重なる。啄むように何度も落とされて、固まっていた身体が徐々に弛んでいく。
「ずるい
…
。」
「ん?」
「私ばっかりドキドキしてる
…
。」
「そがな事ないがよ。わしもやき。」
「そんな余裕な顔してて何言ってんの。」
「おまさんが可愛過ぎて目眩がしそうじゃ。」
「キザめ。んっ!」
最後に1つキスが落とされて、ようやくむっちゃんが離れる。
「頭洗っちゃるき、下向きや。」
「え、自分でやるよ。」
「身体をわしがやる事になるけんど?」
「頭洗って。」
それは卑怯だと思うんだけど。
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