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ぽふむん
2026-03-07 22:30:00
1819文字
Public
ワンドロ
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幾夜の寝覚 緋の司
#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負
「無防備」「上書き」
氷柱if
タイトルは、どちらも紅梅の品種です。
幾夜の寝覚の方がやや薄い紅、無防備にお昼寝中の氷柱にかけています。
緋の司の方が真紅に見えます。こちらは天井の……
童磨を語る上でどうしても避けられない「例の事件」の触れています。
実際にはお母さんの方が……という可能性もありますが、そっちは長くなるので
ああ、本当によく寝ている。
しのぶは、座布団を枕に横になった氷柱を見下ろした。
軽くイビキまでかくその寝顔は、普段は見せることはないものだ。
完全に無防備そのもの。
今日は風もそれほどなく、日差しがポカポカと暖かい。
尚更お昼寝日和なのだろう。
(この部屋でお昼寝とは、だいぶ症状が緩和したようですね。いいえ、今日は暖かいから
……
でしょうか)
しのぶは、そう思いながら白橡色の枕元にそっと腰をおろした。
開かずの梅の間で昼寝中と聞いた時は、我が耳を疑った。
症状は大丈夫なのかと心配したが、杞憂だったらしい。
そう思うほど氷柱の寝顔は穏やかだった。
穏やかなようでいて、時折冷たい
極光
オーロラ
のように煌めく瞳は閉じられている。
目を閉じていると少年のようだ。
実際には二十歳の青年が横になっているというのに、不思議なものだ。
少年より幼い。
五つの幼児のよう。
いくらなんでも、そこまで幼く見るのは不自然なはず。
にも関わらず、ここにいるのは五つの幼子だ。
なんの怖いものもなく、たくさんの大人から護られているべき幼子がお昼寝をしている。
庭には、もう盛りを終えようとしている白い梅と赤い梅が咲き誇る。
時折その芳香を風が運んできてくれる。
ふと、白木の柱に視線をやった。
そこには、拭いても除き切る事が出来なかった赤黒い染みが浮かび上がっていた。
天井にはさらに染みが点々と、赤黒く滲む。
絵天井だから尚更目立つ赤黒い、紅梅の花のようにも見える染み。
これは、十五年前にこの広間で繰り広げられた惨劇の跡だという。
この広間が開かずの間となった原因の惨劇だ。
この青年が、本当の五歳児だった時に起きた事件。
あの事件のせいで
……
この青年は
ほんの少し心を病んだ。
人前では不自然なくらいに陽気に、
道化然
ピエロのよう
と振る舞う。
だが、しのぶは知っていた。
この青年は春先は少し気鬱っぽくなる時があることを。
今日は、その症状を少し緩和するための漢方を届けに来たのだから。
あの事件以来の古傷の疼痛を緩和するための薬もだ。
漢方にしてはあまり臭いのきつくないように処方されている。
しのぶはそれを煎じた物を湯呑みに注いだ。
臭いはきつくないとはいえ、やはり独特の漢方臭が漂う。
寝ている氷柱は僅かに眉を顰めた。
起きたかと思ったが、またいびきをかき始めた。
しのぶにむくむくと、いたずら心が沸き起こった。
男の唇に紅を引き、頬紅を差した。
頬紅は赤く濃く。
オカメインコのように塗りたくった。その後、男の鼻をつまんだ。
「ふぐ
……
が
……
ふごっ」
さすがに飛び起きた。
だからすかさず鏡を渡す。
「わぁ
……
なんだいこれ」
氷柱は、寝ぼけ顔でもゲラゲラ笑っていた。
寝起きでこんなに笑い飛ばせるとは大したものだと思う。
「
心的外傷
トラウマ
の方はだいぶ良さそうですね」
しのぶはそう言うと、青年の着流しの肩を抜いた。
そこには、古く大きな傷跡。
それを隠すように上書きするように彫られた飛仙の刺青。
「痛いけどね」
青年はおどけて言った。
今日はそれほど痛くないはずだ。
おそらくしのぶに甘えている。
今では開かずの間となっているこの部屋は、十五年前殺人事件のあった部屋だ。
表向きは、教祖夫人が夫の色狂いに思い悩んだ末無理心中を図ったと片付けられた。
真実は少し違う。
先代教祖の女遊びは本当のこと。
それに夫人が思い悩んでいたのも本当のこと。
だが
……
先代教祖はその末に梅毒を患った。
でも、しばらく様子見していたら自然治癒したと思い込んだ。
そんなわけはなかった。
梅毒の末期症状に、脳の認知機能が犯されるというものがある。
教祖は自分の幼い息子を、別の何かと誤認した。
そして幼い息子に襲いかかった。
夫人は息子を守ろうとした。
必死で格闘し
互いに大立ち回りを繰り広げ
全てが終わったその時は、周りは血の海。
呆然と立ち尽くす幼い息子がいた。
平気な振りをしていたが、その子の心が無傷なわけは無かった。
「痛〜い、まだ痛いよぅ。しのぶちゃん痛いよう。ええーん」
わざとらしく嘘泣きまでしてあの日の少年は甘える。
心の古傷は、もう上書き済みだと言うのに。
もっと上書きしてくれとしのぶに抱きついた。
しのぶは小さくため息をつくと青年の頭を撫でた。
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