それを手に取ったのは、ある種の興味だった。あの頃とは関係性が変わった今、彼の様子はどう変わるんだろう。もっと無防備になる? それともあの時も彼は心を開け渡していてくれたのかな。
好奇心にスパイスをひと匙混ぜたようなものだった。
「君、その香りは……」
痛いくらいに腕を掴まれる。私の手首に鼻先を押し当てたホムラは、すぅと息を吸い込んだ。とろりと瞳が蕩けて、理性の光が薄れていく。恍惚としたその表情が、彼が香りに酔っていることをありありと伝えた。
「はぁ……っ、どうして、これを……」
頬が紅潮し、肌がしっとりと熱を帯びる。ホムラがもどかしげに襟元を緩めた。
その反応はあの時とあまり変わらない。
「ン、……ぅ、僕を酔わせて、ふ、どうしたいの」
「かわいい。やっぱりこの匂いは貴方にとってのまたたびなんだね」
「また猫扱いするの?」
手のひらにちぅと吸いつかれる。それからホムラは流すように視線を向けた。
「にゃあ」
「〜〜〜〜ッ!?」
「とでも言えば、まんぞく?」
心臓をズキュンッと銃で撃ち抜かれたような気分だった。ホムラが、ホムラが「にゃあ」って。揶揄うようなものだったのは確かだけど、それでもその破壊力は私の顔を真っ赤にするには十分だった。
ふらり、と思わず足を引いた私をホムラは抱き寄せる。そのままソファに座って私の腰をしっかりと抱いた。
「離れるなんて、許してないよ」
拗ねたような声が胸に落ちる。首筋に鼻を埋めたホムラは深く息を吸い込んだ。啄むようなキスが繰り返されてくすぐったい。
やっぱり全然違う……! 私は思わず天を仰いだ。
ちゅっ、ちゅぅ、とリップ音が鳴る。それはいやらしさを含んだ愛撫と言うよりも、甘えているような幼さの方が強い。
「……は、この香り……ッ、くらくらする」
それでも好きな人の艶のある掠れた声は、私をチリチリと焦がしていく。
首筋を辿った唇が耳元に触れた。
「んっ、……」
「かわいい声……」
蜂蜜みたいな甘ったるい声が囁く。耐えきれずに私は勢いよく立ち上がった。それもがっしりと腰を抱かれているせいで阻止される。
「ホムラホムラホムラ! ごめん、私が悪かったから〜!」
「……だーめ」
ぺろ、と唇を舐められたかと思うと塞がれた。唇の柔らかさを確かめるようなキスはすぐに離れる。
「君がやったことなんだから、ちゃんと責任取ってもらうからね」
「うぅ……っ」
すりすりと額が擦られると、ふわふわの髪の毛が痒い。
「もっと、嗅がせて」
熱い吐息が肌を撫でる。途端に匂いをひたすら嗅がれることへの羞恥がぶわりと湧いた。
や、やるんじゃなかった……!!
猫だったら喉を鳴らしてるんじゃないかってくらいにご機嫌なホムラは、しばらく離してくれそうにない。
くふんと鼻を鳴らしたのが聞こえてきて、私は諦めてふわふわの頭を撫でる。
やっぱり猫ちゃんだよ……。
撫でられたホムラは気持ちよさそうに目を細めた。
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