kuzu
2026-03-07 11:20:38
1297文字
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4月の雨は/♦︎光沢

祖母は捏造です。

「今日もさみーな」
「そうだな」

春の陽気だった3月下旬、一転してシトシトと静かな雨が続いている4月上旬。雨も手伝ってか気温も低い日が続いている。室内練習が主になってしまい、一部の人間はフラストレーションが溜まっていることだろう。

「おくむら〜」

大声で俺の名前を呼ぶこの人もその1人だろう。

「ダメです」
「なぜ!?というかまだ何も言ってない!」
「球捕れ、じゃないんですか」
「ぐぬぬ....そうだが...そうだけども!」
「昨日多めに投げました。今日はダメです」
「わかった、じゃあ「外で走り込みはもダメです。バカですか、弱いといえど雨降ってます。肩が冷えます。」
「バカって言ったなーー!」

この人が来るだけで一瞬で騒がしくなってしまう。先輩にバカと言うなんてこの縦社会厳しい野球部では御法度であるだろう。しかし、周りに多くの人がいるにも関わらず、俺たちのやりとりには誰もが我関せず、いや慣れたものでそもそも気にもならないのだろう。

「まぁまぁ、光舟は心配なんですよ先輩のことが、な」
「おい、拓」

ずっと隣にいた拓が沢村先輩を宥めるように話に入ってくる。

「へっ、そうなのか」
「....っ」
「光舟」

普通は言わなくてもわかるだろう。あんなに求めていたのに己がエースの自覚がないのだろうか。拓が目線で促してくる。言わなければわからないぞ。と。


「....そうです。エースなので....俺たちの大切な」

時が止まった感覚がした。周りが一瞬で静まり返る。沢村先輩の目は驚きに目を見開いている。

「おまえ...」
「大切なエースであるあなたを最優先した結果です。だから」
「わかった!」

静まり返った室内練習場に沢村先輩の大きな声が響き渡る。思っていることをそのまま伝える恥ずかしさでつい目を逸らしていた俺は、その声に釣られて顔を上げた。先輩の顔は真っ赤だった。


「今日は大人しく室内で走るし筋トレする!」
「はい、そうしてください」
「明日は捕れよ!」
「明日はノースローです」
「そうだった!じゃあ明後日!」
「はい、もちろんです。新球試したかったんですか?」
「そう!約束だからな!」

そう言って走り去っていく彼を窓から差した光が照らす。いつの間にか雨は止み、室内練習場も喧騒が戻ってきていた。

「晴れたな。沢村先輩外行くかな」
「いや気づいてないと思う。地面濡れてるし滑って転ばれても困るけど」
「ちょっとそこまで心配するのは過保護じゃないか?」
「そうか?」
「ん〜。まぁ、いっか。」

小湊先輩たちと合流して何か声高らかに話している。聞こえる単語から、おそらくさっき俺が“大切なエース”と言ったことを話しているのだろう。先ほどは真っ赤だった顔が、最近目にした満開の桜も劣るほどに美しく、そして華やかに笑っている。

その笑顔を見ていると、かつて祖母から聞いた言葉が頭に浮かんだ。

April showers bring May flowers.

悔しい思いをしながらも努力を惜しまなかった5月生まれのこの人にぴったりだと思った。