すっかり盛り上がっている宴会場から抜け、「もっと酒を持ってこい!」としっかり出来上がっているブレイドへの追加の酒を物色する。あんまり飲みすぎても心配になるので、勝手に水割りにしてやろうか、なんて考えながら並べた酒瓶を眺めた。どれしようかなと悩んでいると、背後から「キザミさん」と名を呼ばれた。振り返ると、匁が立っていた。
「なんだ、お前も抜けてきたのか?」
ブレイドの絡み酒は手当たり次第まわりにいる奴を巻き込んでいた。逃げてくる気持ちもわからないではない。現に俺も口実を見つけて離れたうちのひとりだ。
じっと立ち尽くすように動かない匁は、ゆっくりと顔を上げた。一瞬見えた揺れる紫色の瞳が前髪の奥へと隠れる。その前髪も大きなフードで覆われている。
「……どうかしたのか?」
声を掛けると匁の肩が力んだのがマント越しにもわかった。言葉を迷った唇が開いては閉じるのを見ながら、音を吐き出すのを待った。
「キザミさん、……ぼくの、」
やがて匁は強く握りしめていた拳を緩く解いて、躊躇うようにゆっくりと目の前に差し出した。
「手を、とって……」
自信なさげに丸まった指先の真意は、フードの奥に隠れて見えない。
それでも迷うことなくその手を掴んだ。
「どうしたんだ、何かあったのか」
握って、引き寄せて、顔を覗いた。驚いて見開いた瞳に俺が映る。
なんでも聞こう。ブレイド達に負けた今、俺は新宿のリーダーではなくなったけれど、新宿の奴らが大切な気持ちに変わりはない。今はブレイド達もいる。何も怖いことはない。なんでも、力になろう。
そう伝えるつもりで、まっすぐ目を見て、しっかりと手を握った。
俺の自信とは裏腹に、匁はどこか視点の合わない目線を下げて瞬きをしてから、開いた瞳はいつもの緩い柔さを持って、眉を下げてへらりと笑った。
「はは、少し酔っていたようです。忘れてください」
「……そうか」
いつでも、話ならなんでも聞くから。
そう言って背中を叩くと、匁は見慣れた顔で笑った。
並んだ酒瓶に向かい直して、ブレイドが気に入ればいいと、とっておきの一本とたっぷりの水を持って会場へ戻る。匁に声を掛けると「少し用がある」と言ったので、俺は「じゃあ、またあとで」と手を振った。
あとで、が訪れることはなかった。
翌日、匁は渋谷の間者だったとわかったからだ。
手のひらから溢してしまった震える指先を思って、あれから何度も何もない手のひらを握り締めた。
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