悠環 彰
2026-03-06 22:40:41
2251文字
Public MCU:バキサム(同居アース)
 

Collection

ワインと晩酌とバキサム。
物の多い男と酒についての他愛ない話。

WSの自宅にあったワインセラーとグラスホルダーと、何よりコルク栓がたくさん入った大きな花瓶の関係でワイン党派です。
お酒が飲めないので、的外れな表現があったらすみません。

※ミニイベント【#月いち36の日】掲載作


 サムと一緒に暮らすようになってから初めて知った彼についてのことはいくつもあるが、その内の一つが「サムの生活空間には物が多い」ということだ。本、CDやレコード、DVD、それからワイン。元々プライベートな付き合いがなかったというのもあるが、懐に入って初めて知る趣味嗜好はたくさんあった。
 もちろん散らかっているとかそういうことではない。CDなど棚に積み上げているようなものもあるがある程度整頓はされているし、物が溢れないよう定期的に手放したり人に譲ったりなどもしているようだった。
「それでも、昔よりは減ったんだ」
 今は集め直してる途中、と普段飲む用に好んで買っている程よい値段のワインを口に運びながら笑う。流石に名言はしなかったが、恐らく一度追われる身となり、五年間の消失と復活、そして実家へ帰っていたこともあってコレクションの多くが散逸したのだろう。
「本やレコードも貴重なものはあったけど、やっぱり一番はワインだな」
 キッチンの片隅に設えられたワインセラーとグラスホルダーはサムの希望だった。白や赤などひと揃いの種類が並べられたセラーの中にほんの数本、開けられていない古いラベルのボトルが入っているのをバッキーも知っていた。聞いたことはないし詳しくもないが、恐らく高いものなのだろう。
「本当にワインが好きなんだな」
「好きだね。こうして晩酌にチビチビやるのに向いてる」
 それに気取って見えるだろ、と澄ました感じに作った表情に思わず吹き出す。
「俺としてはその気取ってそうなところがどうにもな。高尚そうで鼻につく」
 特段ワインに好きも嫌いもないが、敢えて嫌味ったらしく返してやると、サムも笑った。バッキーが手の中のグラスを傾けると、スコッチに溶け出したロックの氷がカランと音を立てる。
「今のお前の方がよっぽど気取って、キザに見えるぞ」
 くい、と残りを煽る仕草で突き出す喉仏に視線を取られた。じわりと全身が熱い。血清の関係で酔わない体だが、雰囲気にでも酔ったのか。
「なるほど、イイ男に見えるってコトか」
「都合よく取るなよ」
「見惚れる?」
 ばーか、という間延びした言葉とは裏腹に甘い響き。サムが作ったツマミと共にゆっくりとアルコールを嗜み、他愛ない雑談をするこの時間が好きだ。静かで温かい家の中で、ほんのりとした酔いに思考はぼやけ、気安い空気と甘い本音が少しだけ滲む。
 サムはワインを好むが、昔バッキーが若い頃は酒といえばスコッチが割と流行っていたように思う。久々に購入したボトルを家で開けた時、サムともそんな話になった。そういやスティーブも酒の席ではスコッチが多かったかも、と懐かしげに呟いたのを覚えている。確かあのモヤシはすぐに酔っ払っていたような、と思ったが血清を打ってからも何度か飲んだことがあったなと思い出をひっくり返す。
 しかし、酒を酌み交わした回数はすっかりとサムとの方が多くなってしまったか。
「ああでも、一緒に暮らすまでそんなにワインが好きだとは知らなかったな」
 ふと思い出したように呟くと、うんと首を傾げられる。
「お前、外だとビールだろ」
 バーで落ち合って飲むときも、振り返ってみればデラクロワで会った時も、サムはビールを飲んでいたように思う。彼がこんなにワインに執心であるというのを知ったのは、同居してからだ。
「そりゃ、外やバーならビールの方が合ってるからな。缶や瓶で手軽に飲めるし」
 そう言われれば確かに。だからバッキーも、バーなど外ではビールの方が多い。
「まぁそれに、ビールのほうが酔わないからな」
「なるほど」
 深酔い対策でもあるのか、とあまりにもしっくりくる回答にしみじみ頷く。
「つまり、酔わせたいならワインを飲ませたらイイってことだ」
「おお、だいぶ酔ってるな。昔のプレイボーイが出てる」
「そうかも。良い夜に、良い酒に、目の前にとびきりイイ男がいるからかな」
 テーブルに無造作に乗せられた手を掬って指先にキスを落とすと、ハッと笑い飛ばされてしまった。するりと逃げていく手のひらの熱さが惜しい。
「今日はもう終わり。ほら、寝るぞ」
 ひらひらと片手を振って席を立つ。ボトルとグラスをシンクで軽く洗って、最後にサムは空いたボトルのコルク栓をポンと大きなガラスの花瓶に放り入れる。今ではすっかり見慣れてしまったが、これも広い意味ではサムの「物が多い」の一種で、同居してから知った彼のちょっと不思議な習慣だ。
「おやすみ、バック」
 未だスコッチグラスを掴んだままぼんやりとその姿を見ていたバッキーの額に、バードキスが落ちてきた。
「ああ、おやすみサム」
 キスを返すと、ふっと笑ってサムは二階の寝室へ向かっていく。ぱたん、と扉の閉まる音を聞いてから、再びコルク栓の入った花瓶に視線を向ける。初め不思議そうになんでそんなことを、と聞いたバッキーにサムは気になるならやめるとだけ返した。別に純粋に気になったから聞いただけだったので特にやめさせたりということはなく、サムは今もボトルが開くとコルク栓をここに入れていく。
 少しずつ増えていくコルク栓が、サムと一緒に過ごす時間が少しずつ積み重なっていくのを形にしたみたいで、今では密かにバッキーのお気に入りのインテリアの一つだ。
「さて、俺も寝るか」
 だいぶ氷の溶けたスコッチを飲み干し、シンクで軽く濯ぐ。そして、ひとつ伸びをするとバッキーも寝室へ向かう階段を上がっていった。