akane898819442
2026-03-06 16:26:36
1898文字
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戦火

時事問題を見ながらぼんやりと書いたラフ。

 目の前が、急に真っ白になった。
 それが閃光だと気づいたのは、目が開けられなくなったからだ。
 ほぼ同時に耳を割るような音が鳴り、両手で必死に塞ぐ。突然巻き起こった、地面を這う波のような暴風に吹き飛ばされそうになった。強烈な風に舞う砂埃と共に何かが飛んできたけれど、咄嗟に覆い被さった丹恒のおかげで、星の身体には何も当たらなかった。
 抱き込まれた身体の下でようやく目を開くと、視線の向こう──先程まで、自分達がいた場所に、大きな煙が上がっているのが見えた。


◇◆◇

 グランホルン星系の小さな惑星に、星と丹恒が訪れたのはほんの数時間前だった。仙舟羅浮に暮らす藤という女性から、この惑星に住む友達に食糧を送りたいと星に依頼があった。以前はカンパニーの定期船が物資を運んでいたものの、今は欠航が続いているらしい。
 依頼の内容を聞いて、丹恒は断った方がいいと星に言った。丹恒によると、惑星の中では部族間の大きな対立が起きており、一発即発状態であるらしい。だから、カンパニーの定期船も欠航になっていたのだ。
 でも、星は受けた依頼を断りたくはなかった。藤が友人の禎の話をする時に、いつも楽しそうな表情をするからだ。以前は仙舟で共に仕事をしていた仲間らしい。
 星も自分の仲間……丹恒やなのかと、いつか別れることがあっても、交流していたいし、困ったことがあるなら手助けしたいと思う。
 断固として譲らない星を見かねて、丹恒は自分が一緒についていくことを条件に依頼を受けることになった。




 停戦状態の都市は、星にとっては特に他の惑星の都市と変わらないように見えていた。藤から聞いていた、禎の職業や以前住んでいた場所を頼りに、探しまわった。幸い、と言っていいのかはわからないけれど、戦争によって居住地域が狭まっていたこともあり、すぐに見つけ出すことができた。

 禎は長い黒髪が美しい女性だった。子どもが二人いて、二人ともよく母親に似ていた。
「わざわざ、こんなところまで本当にありがとう。藤にもお礼を伝えてね」
 小さな子どもたちは「遊んで」と星のスカートの裾を掴んでせがんだ。見たことのない大人との遊びが、魅力的に思えたのかもしれない。星が「いいよ」と言う前に、丹恒がずい、と星と子どもたちの間に入った。
「すまないが、急いでいるんだ」

 禎は居住区の入り口でずっと頭を下げていた。子どもたちが少し泣いているのが見えた。星は丹恒に腕を引っ張られながら、後ろ髪が引かれる思いだった。

「丹恒、ちょっとくらい、いいんじゃない?」
……ここで長居は無用だ。早く列車に戻るぞ」




◇◆◇


「星、大丈夫か?」

 先程まで太陽が眩しくて、大地を舞う砂からの照り返しが暑いほどだったのに、急に空は厚い雲に覆われて今にも雨が降り出しそうになっていた。
 そうだ、さっき見えた光景──あの大きな煙は、一体何だったんだろう。……閃光、大きな音、爆風。あれらは、何かの爆発だったのかもしれない。でも、そうだとしたら……
「丹恒、……禎は?」
「星」
 長い睫毛は伏せられたまま、丹恒が視線をそっと外した。星はゆっくりと身体を起こして立ち上がる。視線の先が、赤い。遠くからでも、炎がどんどん街を飲み込んで大きくなっていくのが見える。
「戻らなきゃ……だって、禎や子どもたちが……っ」
 砂の上に、ぽたぽたと雫がこぼれ落ちる。星は炎の方に向かって歩き出した。丹恒が後ろから星の腕を掴んで止める。
「痛い、離して!」
「だめだ。俺は……必ずお前を連れ帰る」

 藤の荷物を渡した時の、禎の嬉しそうな顔。
 子どもたちの笑い声。
 大きな爆発。
 炎に包まれる街……

 ひとつひとつの光景が、壊れたフィルムのようにざらざらと脳内で映像を何度も何度も再生させる。ぐるぐると頭が回るような感覚に、星はくたりと座り込んだ。どうしたらいいのかわからない……。星は唸るように嗚咽を漏らしていた。

「星、」
 清廉とした水のような香りに包まれる。広い肩に抱き込まれて、冷えた唇が、二度、三度、星の唇に吸いついた。驚いて声も出せない星の背中に、大きな手のひらが回されて、ゆっくりと摩る。は、とどちらからともなく小さく息が漏れた。
「落ち着いたか?」
 すぐ目の前で、青翡翠がしっかりと見据える。星は小さく頷いた。
……俺たちは、星穹列車のナナシビトだ。部族間の争いで、どちらかに立つということはあってはならない」
……
「とにかく、列車に帰ろう」

 丹恒は星を抱えて、走り出した。