長月ユウ
2026-03-06 15:00:16
2655文字
Public 岱+莉
 

【岱+超】Ambivalent

※馬岱が病み気味。
馬岱が莉杏を拾ったときの回想と、馬岱のことを知っているようで知らない馬超の話。馬超の解像度が低すぎて、キャラがこれで合っているか不安。

領土内での戦に勝利し、馬騰の邸では宴が開かれていた。
酒が入った勢いで更に騒がしくなった宴会場からこっそり抜け出した馬岱は、一人夜空を見あげ、ため息をつく。
「はぁ…………
馬岱にとって、夜は戦の相棒に当たるようなものだが、平時では内に秘めた孤独を広げさせるものに他ならない。
(莉杏は……もう寝てるかな)
冷たい夜風が、馬岱の頬を撫ぜる。あの日も、こんなふうに風が冷たい日だった。



西涼軍閥は領土を広げるため、まず曹操につこうとしていた漢中豪族を殲滅しようと画策する。その際、馬騰は漢中豪族でありながらも、自身と少なからず縁がある莉杏の両親を味方につけようとしていた。
しかし、

「貴方たちは……涼州は、力でねじ伏せる事でしか平穏を保てない。それは、この先もずっと続くのだろう。同郷である董卓が、どのような末路を辿ったかお忘れか?
 妻とも話し合ったが、私達は曹操殿に帰順するつもりだ」

莉杏の父親は毅然と言い放ち、西涼にはつかぬ姿勢を見せたことで馬騰と韓遂の逆鱗に触れてしまった。
そして、漢中豪族との戦が始まったと同時に、隙を見て彼とその妻を殺したのだ。


「娘もいるはずだ、見つけ次第殺せ!」
馬騰の命に従い、馬岱たちは別働隊として莉杏を探そうとするが、探すよりも前に莉杏の姿が見えた馬岱は、物陰にさっと姿を隠した。
「あ……ああぁ!」
物言わぬ両親を目の前にし、莉杏は声を震わせる。
「そんな……父様、母様ぁ!!」
己の服が血に染まるのも構わず、莉杏は両親の亡骸を前にし、泣き崩れる。
「やはり戻ってきたか。お前も、すぐに両親の元に送ってやるよ」
背後に迫る男たちの声で莉杏は振り向くが、両親が殺されてしまった事に動揺しているのか、武器も取らず体を強張らせている。
「いや……誰か……!」
「悪く思うなよ、恨むなら、てめえの父親を恨むんだな」
「まて、こんな生娘をすぐ殺るなんて勿体ねぇ。慰めてもらってか……ぐぁっ!」
様子を伺っていた馬岱は身を乗り出し、ついさっきまで味方だった兵卒を容赦なく切り捨てる。
「なっ……何故我らを……っ!!」
「うるさいよ」
彼らは「なぜ我らを斬るのか」、「叔父である馬騰様の命に背くのか」と言いたかったのだろう。その言葉を彼女に聞かせぬように、馬岱は容赦なく急所を狙い、彼らの息の根を止めた。

「ごめんね、君の両親を助けることができなくて……
莉杏の肩を抱き、さもその場に駆けつけたかのように声をかける。
「馬岱…………?」
「君の両親は、漢中豪族の味方につくと勘違いした西涼の兵たちに殺されたんだ……このままだと、君も殺されちゃう」
莉杏が首を左右に振る。
「勘違いじゃない……父様は、曹操殿に味方すると言って……
だから、私を助けたら馬岱様が……と蚊の鳴くような声で呟く莉杏に、その場にあった適当な布を頭に被せる。
……今のは聞かなかったことにしてあげる。ちょっとの間隠れてて。必ず迎えに来るから」
先程まで自身が隠れていた物陰に莉杏を追いやり、馬岱は再び戦場に戻った。

そうして、馬岱は「見つかったら殺されるかもしれない」と莉杏を説得し、自身の屋敷の離れに匿った。
そこから出さない代わりに、望むものは何でも与え、精一杯愛でようと思っていた。
そうすれば、互いの孤独を癒せると思っていた……はずだった。

「なのに……なんで俺は、まだ孤独の中から出られないんだろうね……

ぽつりと呟くと、

「ここにいたか、馬岱」
背後からの声に驚き、振り向くと馬超が立っていた。
「なんだ若か。びっくりしたよー。宴の主役が抜け出しちゃっていいの?」
「構わん。皆、酒が入っていて俺が抜け出しても気づくことはなかろう」
先程のぼやきを聞かれたかと警戒したが、従兄には聞こえていなかったようだ。
「えー? 俺ならともかく、若は目立つんだから、すぐバレるよ」
馬超に気取られぬよう、すぐにいつもの調子に戻るが、
「宴の途中から何処かうわの空だったお前を、放っておくわけにはいかん」
何かあったのか? と言われ、馬岱は徐々に真顔になり、口を開く。

……ねえ若、今の俺って何に見える?」

あまりにも抽象的な問いに馬超は目を見開くが、ふっと笑い、
「何とは……面白いことを言うな」
馬岱の肩に手を置いた。
「お前はお前だろう? いつでも頼りになる、俺の……我ら涼州の宝だ」
あまりにも真っ直ぐな視線と答えに、馬岱は思わず目を細め、笑顔を作る。
「だよねー! いきなり変なこと聞いてごめんね若。酔いを覚ますために外に出たんだけど、ちょっと風が冷たくて、気持ちまで寒くなっちゃったみたい」
馬超はまったく……と、苦笑する。
「風邪を引く前に戻るぞ」
「はいはい、わかってますよー」
馬超の後をついていこうとするが、足が止まる。

「俺は俺……か」
未だ馬超に裏の顔を知られていないということに安堵しつつも、知っていてほしかったという気持ちがせめぎ合う。
(でも、裏の顔を知ったら、若はどう思うんだろう)
錦馬超の輝きを失わせないためなら、自分の居場所を守るためなら何だってする。
本当の自分を隠し、道化として振る舞う……その生き方を馬超が知ったら、悲しむだろうか? 怒るだろうか?

『だめだよ、自分の存在理由を人に委ねるなんて』

馬岱の生き方を一度は否定した莉杏は、己と同じ孤独の中に引きずり込ませる事で、今では心も身体も従順になった。
彼女の笑顔と輝きを奪うことになったが、独りぼっちになった彼女に居場所を与えたのは俺だ。
今は無理でも、いつかきっと、あの時のように笑ってくれる……愛し方は、間違えていないはずだ。

……でも)

莉杏以外には俺の孤独を知られたくない、知ってほしい。
自分が抱えている、どす黒い感情を見せたくない、見せたい。


……ごめん、若! 俺眠いから帰るね!」
「なっ、眠いなら泊まっていけばいいだろう! おい、待て馬岱!」
馬超の声に耳を貸さず、逃げるように馬岱は邸の入り口に向かって走る。

(莉杏しかいない。俺の孤独を埋めてくれるのは……本当の俺を見ていてくれるのは……!)

あの「鳥籠」に帰って、莉杏の温もりに触れたい。
「独りじゃない」と確かめたい。



あの時、俺より独りぼっちになってしまった彼女を生かそうと思ったのは……


end.



imageBGM:majiko「GHOST」