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山茶花
2026-03-06 11:48:56
5379文字
Public
[シルデュ]サイト限定(健全)
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恋のMAGIC【196SK043】
無自覚なのか自覚があるのか分からない話/5100字程度
僕には、好きな人がいる。
それは一学年上の、渋くて格好良くて、でも誰にでも優しい、憧れの先輩だ。
まあ、つまり、なんていうか
……
。僕は、シルバー先輩のことが、好きでさ。その、ただの後輩としてって意味じゃなくて、
……
恋愛として、好きだって意味で。
でも、僕は分かってる。シルバー先輩のことを、ずっとじゃないかもだけど、じっと見てきた。
先輩には大切な夢と大切な人たちがいて、そのためにずっと努力していて。だから、僕の恋心なんて、挟まる隙がないんだって。
でも、さ。伝えたいだろ、やっぱり。シルバー先輩の人生の中で、今この瞬間、アンタって存在のことが好きな人はいましたって、伝えておきたいだろ。今じゃなくてもいい。今、僕の抱えているこの気持ちがいつか、シルバー先輩を救うことがあるかもしれないんだから。
だけど、そんな気持ちだって、好きだってことだって、知らせなきゃ知られない。でも、伝えたら知ってもらえる。そして、きっと受け止めてくれる。受け止めてくれる人だって、僕はシルバー先輩を、信じてる。たとえキッパリとフラれてこの気持ちが玉砕するにしても、いいんだ! 僕が伝えたいだけだから。そう思って、昼休み、学園裏の森へ、シルバー先輩を呼びだした。そして、言った。
「シルバー先輩! 聞いてください、僕、シルバー先輩のことが
……
、好き、です!!」
言った。ちゃんと、一番大事なことは言えた! 偉いぞ、僕!! えっと、それで、次は、次はなんて言うんだっけ。返事はいいんですとか、伝えたかっただけなのでとか言わなきゃ!! 照れてないで!!
と、思ったら。シルバー先輩の様子が、変だ。なんか、驚いたように目を丸くして、手を口元に当てている。な、なんだ? 告白されて驚いてる、だけにしては様子が妙だな。どうしたんだ?
「あ、の。
……
ええ、と。その、デュース。気持ちは、嬉しくて。いや、その、なんと言えばいいか
……
」
あ、混乱してただけかな? それなら良かった。
「あ、大丈夫です! その、先輩に応えてもらおうとかは思ってなくて、ただ、『今、僕は先輩のことが好きでした』ってことを、伝えたかっただけで
……
。だから、ええと」
付き合ってほしいとか、これからの未来を期待してるわけじゃないんです、と笑うと、シルバー先輩は、ぎゅっと僕の手首を掴んだ。え、なんだ、どうしたんだ!?
「
……
あ、その
……
」
シルバー先輩は、僕の手を離さないまま、何かを言おうとする。なんだろう。
「
……
驚かないで、聞いてくれないか。あの、今この瞬間、までは。確かに、恋だとか、そういうものが、分かっていなかった、のだが
……
。俺も、混乱していて」
「はい?」
つまりどういうことだ、と思っていると、少し赤くした顔を手で隠しながら、シルバー先輩が言った。
「
……
俺も、お前のことが好きなのだ、と。思う。
……
言われて、今、気づいた
……
」
「
……
ほぁっ!?」
だから、諦めようとしないでほしい、とシルバー先輩は言う。僕は突然の告白に、衝撃を受ける。え、なんだ、何!? シルバー先輩が、シルバー先輩も、僕のこと好きだって、なんだ!? ちょっと想像してなかったぞこの展開は!!
「せ、せんぱい、僕のこと、好き、なんですか
……
?」
「
……
恐らく。その、お前を、このまま帰したくない、と思うくらいには
……
」
「い、一回落ち着く時間とか、挟まなくていい、ですか
……
?」
「
……
挟んでもらえると、助かる、かも、しれない
……
」
「じゃ、じゃあ、その。その辺の、もうちょい奥の方で、休憩しましょう
……
。僕も、その、ちょっと、想定外で。落ち着きたいので
……
」
「
……
ああ」
シルバー先輩と、少し森の奥の方へ進み、湖のほとりに座り込み、それぞれ頭を抱えながら休憩する。
少し離れた隣に座るシルバー先輩は、ぎゅっと握った手を胸元に当てて、黙って何かを確かめているようだった。
「
……
」
僕は、僕も考える。え、マジか? 僕のこと、好きなのか? シルバー先輩も?
……
ま、マジか。どうしよう、僕、フラれると完全に思い込んでたから、上手くいったときのこと、何も考えてなかったぞ。
ってかなんだ? 今、今好きだって気づいたって。僕のこと好きだったけど今気づいたってことなら、前から好きではあったってことなんですか? シ、シルバー先輩~。困らせないでください、なんて情けない声が上がりそうになる。
ぐるぐる考えていると、シルバー先輩が僕に声をかけた。
「
……
デュース」
「はっ、はい!」
「その。少し、改めて考えてみたが
……
。正式な返事をするまでに、少しだけ、時間をもらっても、いいだろうか?」
「少し、ですか?」
「ああ。その
……
。この気持ちが、本物だとは、思いたいし、思える、のだが。
……
一応、確かめたくて」
お前に好きだと言われて、一時的に舞い上がっているだけではないのかと。そうだとしたら、お前を振り回してしまうことになるから、とシルバー先輩は言った。
「分かりました。じゃあ、また明日に
……
」
僕が立ち去ろうとすると、シルバー先輩はまた、僕の手首をぱしりと掴んだ。
「
……
あ、いや、その。
……
もう少し、一緒にいては、いけない、か?」
「へあ
……
っ」
い、いやもう、確かめるまでもなくこの人僕のこと好きじゃないか!? なんて浮かれた気持ちが思い浮かびそうになるが、ぐっと堪える。先輩は真剣に僕のこと考えてくれようとしてんだから、応えねえと!!
「わ、かりました
……
」
そう言ってシルバー先輩の隣にもう一度腰を下ろすと、シルバー先輩は、ありがとう、と言った。
「
……
」
「
……
」
気まずい沈黙が、僕たちを包む。えっと。僕から話しかけた方がいい、のかな?
すると、一羽の青い小鳥が飛んできて、僕の頭の上に止まった。シルバー先輩じゃなくて、僕の方に来るなんて、珍しいな
……
。
「なんだ、お前?」
小鳥を落とさないように、頭を動かさず目だけで上を見ようとするけど、小鳥はチチチ、と笑うだけだ。
「ふっ。可愛いな。お前の頭の上に止まってしまったのか」
シルバー先輩が、指先で小鳥を撫でようとする。そうしたら、その瞬間僕の頭から小鳥は飛んで行って。
「わっ!」
「っ!」
後に残されたのは、距離がすごく近い僕とシルバー先輩だけだった。
「
……
す、すまない」
「あ、い、いえ
……
っ」
ぱっと距離を離し、お互い、顔を見られず、逸らし合う。何してんだ、僕ら。
「
……
その。お前は、忙しい。こうしている時間は、もしかして、なかったろうか」
「
……
いえ。その。嫌ではない、ので。シルバー先輩と、こうしてる時間
……
」
ちょっと恥ずかしいですけど、と言うと、シルバー先輩は、そうか、と言って。それから、僕の指に、そっと指を触れさせ。
……
手のひらを、上に重ねた。
「
……
もう少しだけ、このままで」
「は、はい
……
」
ドキドキしてたら、時間が矢のように過ぎて。あっという間に、昼休み終わりのチャイムが鳴って、そのチャイムにびっくりして、僕たちの手はぱっと離れた。
……
ちょっと残念だった。
その日、部活中、僕はベストタイムを出した。シルバー先輩が僕のことを意識してくれてるとか、恥ずかしすぎて、嬉しすぎて。夢中でその頬の熱を振り切るように走ってたら、ジャックに「やるなテメェ」と睨まれるようなタイムが出た。
それでも全然落ち着かなくて、寮のベッドに寝転んで、バタバタ暴れてたら、エースに「うるさいんだけど!? なんなの!?」と文句を言われた。
「うるせぇのなんて分かってんだよ! 僕だって落ち着きたいんだ!!」
「意味不明なんだけど!! 静かにしてくんない!? ったく、オレ談話室行くから! 寝るまでには落ち着いといてよ!」
ピシャリとドアが閉められ、エースが出ていく。エース相手とはいえ、騒いでしまって、ちょっと悪かったな。これは反省だ。
……
でも。いや、やっぱ落ち着かないだろ。
スマートフォンの、シルバー先輩相手のメッセージ欄に『落ち着かないです』って送ろうとして、やめた。
と思ったのに、間違って送信ボタンを押してしまった。慌てて取り消そうとしたら、もう既読がついて返信が来た。
『俺もだ』
「~~~~っ、なんなんだこれ、もう
……
」
僕とシルバー先輩ってこれ、なんて関係なんだ。先輩の答えを待つとは決めたものの、もどかしさと恥ずかしさでワケわかんなくなりそうだった。
それから、翌日。中庭で、シルバー先輩が寝落ちしそうになっていた。
「シルバー先輩、何してるんですか」
内心ドキドキしてるのを落ち着かせながら、先輩に声をかける。昨日よりは安定してるはず、だ。たぶん。
「ん、デュース
……
」
先輩は、ぽんぽん、と自分の座るベンチの隣を叩く。座れってことか?
「失礼します」
「
……
ああ」
シルバー先輩の隣に座ると、眠たげにぼうっとした先輩は、そのまま、僕の肩に頭を乗せてきた。
「
……
んん
……
」
「せ、先輩?」
ドキッとして、そっちを見ると、先輩は眠たそうに目を閉じていて。僕はその顔に、少し気が抜けた。
「疲れてるんですか?
……
眠ってもいいですよ」
そうしてシルバー先輩の頭を撫でようと手を伸ばす。少し撫でつけて手を退かすと、シルバー先輩が赤くなった上目遣いに、僕を見ていた。
「
……
お前は、距離が近いな
……
」
ア、アンタが言うのか。ちょっとだけそう思ったけど、僕はその言葉をグッと飲み込んだ。
「す、すいません
……
」
「いや、いい。
……
その。嫌では、ない」
そうしてシルバー先輩は、頭を僕の肩から上げる。そして、僕の膝の上に乗せ直した。
「え!?」
「
……
」
先輩は、少し頬に赤みを乗せたまま、目を閉じてる。僕は、どうしよう、とちょっと戸惑って。それから。
……
何も言わず、シルバー先輩の前髪を、撫でることにした。
指先でさらりと撫でると、シルバー先輩は、一瞬だけ目を伏せがちに開けて、すぐに閉じた。
その、翌日。朝から、教室に行こうと廊下をエースやグリムたちと歩いていると、後ろから、ぎゅっと抱きしめられた。
その吐息に混じる声に、覚えがあった。鼻腔をくすぐる香りで、すぐに分かった。それがシルバー先輩だと。
「うぇ!? シ、シルバー先輩っ!?」
「
……
」
まわりのダチも驚いてる。どうしたんですか急に、とシルバー先輩を振り向こうとすると、シルバー先輩から言われた。
「
……
好きだ、デュース。昨夜から、ずっと言おうと決めていて、言いたかった。俺と、正式に付き合ってほしい」
「えっ、あ、あの
……
っ」
ここまわりに人もいて、ダチとかも見てるんで、と言いたくなったけど。まわりを見渡すと、あーなるほどそういうことね? とニヤついてるヤツしかいなくて。
「いーじゃん。返事してやれば? なんて言うの、デュースくん!」
「
……
」
エースに至っては、からかってくる始末だ。返事するにしても、ここじゃダメだな、確実に。
僕は、シルバー先輩の手を取って、走り出した。ヒューヒュー、と囃し立てられながら、僕は走る。
「行きますよ、シルバー先輩!! ついてきてください!!」
「
……
っ! ああ」
シルバー先輩は、走る僕についてくる。校舎裏まで走ったところで、僕は振り向いて言った。
「返事、めちゃくちゃ嬉しい、ですけど!!
……
もうちょい人目のないところでお願いしますっ!!」
「すまない、その。
……
早く言いたくて、お前の姿を見た瞬間、逸ってしまって」
シルバー先輩は申し訳なさそうに言う。うっ、そんな顔されると許したくなっちまう。
「ま、まあいいです。やっちまったものはしょうがねえし。
……
で、えと、返事、なんですけど
……
」
「!
……
ああ」
「その。
……
そもそも僕から告ってるし、えっと、断る理由とかねえっていうか、その、だから、つまり
……
」
よろしくお願いしゃす!! そう叫ぶと、シルバー先輩は、もう一度僕のことをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。嬉しい、デュース!」
「い、いえ、こちらこそ
……
!!」
慌てて、恥ずかしくて、嬉しくて、ぐるぐる目が回りそうになる。それでもシルバー先輩は、始業ギリギリのチャイムが鳴るまで、僕のことを抱きしめて、離してはくれなかった。
「改めて
……
これからよろしく、デュース。またお前を振り回してしまうこともあるかもしれないが、よろしく頼む」
「こちらこそ。
……
ほどほどにしてくださいね、って言いたいけど。僕も、シルバー先輩を振り回しちゃうこともあるかもしれないので、」
と、中庭のベンチで照れてしまったシルバー先輩の姿を思い出しながら、告げる。
するとシルバー先輩はまた少し顔を赤くした。
僕はそれがなんだか嬉しくなって、先輩の身体をぎゅっと抱きしめ返した。
僕らの恋を象徴するような熱い体温が、ずっとずっと僕の身体を暖めてくれていて。
きっとこれからずっと、何があっても解けない熱い恋の魔法に、あの日『先輩が好きです』と告げて良かったと、心から思うのだった。
*おしまい
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