香油を手に取り、全身をマッサージしながら塗っているモーディスの姿はもう見慣れたものだった。だけど、背中を塗るのを手伝え、と言われるのは、なんだか特別扱いをされているような気がして今も落ち着かない。
モーディスは僕が背骨の十番目をなぞっても特に反応を返さず、組んだ腕の上に額を乗せ、目を閉じている。
彼に弱点を教えてもらったのはつい先月のことだ。それ以来、背中に触れるたびに勝手に緊張している。モーディスは全く気にしていないようだけれど、その無関心さが僕にはかえって恐ろしい。まあ、それだけ信用されている証拠だろう。それ自体は嬉しいが、この無防備さはやっぱり落ち着かない。
こんなこと、僕以外にさせてないだろうな、と尋ねれば「以前は侍者にやらせていたが、それがどうした」とモーディスは不思議そうな顔で言う。暗殺の可能性とかさ、と続けると、「刃物を持った人間を部屋に入れるわけがない」とモーディスが笑う。言いたいことは色々あったが、多分、僕の想像しうることなんてモーディスは全て体験済みなのだろう。そもそも、背骨が弱点だと言うことを知らなければ、通常は頭か心臓を狙うから、背中を気にする必要はないのかもしれない。
背骨を指で何度かつついても無反応なモーディスの広い背中に香油を塗り広げ、ついでに凝り固まった筋肉をマッサージする。バルネアでマッサージ師のバイトをしていた頃もあったから、こう言うのはちょっと得意だ。
マッサージをしてあげようか? とモーディスにはじめて言った時には「お前が?」と訝しむような目を向けられたけど、「戦士よりマッサージ師に転向した方がいい」と笑っていたので、結構気に入っている筈だ。
モーディスは事あるごとに「お前は戦士より○○の方が向いている」、みたいな言い方をするけれど、その割には、僕の体を触るたびに「ほう」と感心したような嬉しそうな顔をするし、指の付け根を丁寧になぞっては、剣だこで硬くなった皮膚に微笑を浮かべる。辞めて欲しいのかそうじゃないのかどっちなんだよ、と執拗に腕を触ってくるモーディスの耳に噛み付く。腹が減ったのか? と笑って唇を重ねてくるモーディスの体からはいつもいい匂いがした。
そんなことを考えながら背中にキスをしていると、擽ったそうにモーディスが笑って振り返る。いつまでそうしているつもりだ?
僕の顎を指先で掬って、キメラの喉を撫でるみたいにさりさりと指が動く。指先に噛みつき、お腹が空いたんだ、と笑うと、ふむ、と神妙そうな顔でちょっと考えるように視線を斜めに上げたモーディスが、手をついて体勢を変える。
僕に向き直ったモーディスの熱い手が首に触れ、首筋から鎖骨へと親指がゆっくり移動する。
「マッサージの礼に何が望みだ?」
揶揄うような、楽しそうな声だった。その誘いに素直に乗るのは少し気に入らなかったけど、上機嫌なモーディスの可愛さに免じて乗ってやる。何しろ、期待しているのが丸わかりの表情で僕を押し倒しているからだ。
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