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モモハナ
2026-03-05 23:26:34
7480文字
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風邪引きの特権
堀鍔学園です。
風邪をひいて寝込む黒鋼と看病するファイ。
黒ファイ&龍ユ要素あり。
まだ未完結なんですけど、自分への尻たたきも兼ねて途中までアップします。
※続編をアップするに辺り、少しだけ修整しました。
ピピピッと鳴った電子音に反応して、黒鋼が気怠げに左の脇に挟んでいた体温計を引き出した。
液晶画面を確認すれば、そこには38.3℃と平時より高めの体温が表示されており、黒鋼は想定よりも高いソレにチッと小さく舌打ちをした。
「黒ろん先生、具合どうー? 体温測れたー?」
ガチャりとドアが開く音がしたかと思うと、ビニール袋を手にしたファイが姿を現した。
様子を窺うように問いかけながら、黒鋼のいるベッドの傍まで歩いてくると、ファイはそのままベッドサイドに腰を下ろした。
それを横目でちらりと確認すると、黒鋼は持っていた体温計をファイに手渡しながら口を開いた。
「
……
八度三分、だと」
「ありゃあ、思ったより高かったねぇ」
黒鋼の返事を聞き、次いで38.3℃と表示された画面を確認して体温計の電源を切ると、ファイは持っていたビニール袋から冷却シートのパックを取り出す。ビリッ、と封を開けて冷却シートを一枚取り出すと、それを黒鋼の額にペタリと貼り付けた。
冷却ジェルの冷やりとした感触に一瞬、肩を揺らした黒鋼だったが熱で火照った身体に心地良いらしく、すぐに気持ちよさそうに瞳を伏せた。
「気持ちいい?」
「あぁ」
「冷却シート、もう一枚入ってるから効きが悪くなったら貼り替えてね」
「あぁ」
「今あるのはこれだけなんだけど、もしこれが無くなっちゃっても大丈夫! さっきユゥイに買い物頼んだから、そのうち箱で持ってきてくれると思うから」
言いながら、ファイは一敗残った冷却シートの入ったパックの上部を折りたたんで黒鋼の枕元に置くと、次に500mlのスポーツドリンクを袋から出して黒鋼に差し出した。
「あとこれ。汗かいてるだろうから飲んで水分補給して」
「
…
これより酒の方が」
「駄、目、で、すっ! 風邪がちゃんと治るまでお酒は禁止‼」
飲みたい、と黒鋼が言い切る前に被せる様に却下したファイに黒鋼が冗談だと言い返す。
「
…
流石に今は酒を飲む気にはならねえよ」
「もー、黒様が言うと冗談に聞こえないんですけどー」
むぅっと頬を膨らませるファイからペットボトルを受け取り、ゆっくりと起き上がった黒鋼は、そのままペットボトルの蓋に手を掛ける。程なくして、パキリ、と言う音と共に開封されたペットボトルの中身を口に含んだ。
、甘さ控えめのスポーツドリンクは甘いのが苦手な黒鋼にも飲みやすく、黒鋼は思っていた以上に渇いていた喉を潤す様に飲み進めていく。
ごくごくと喉を鳴らして中身を飲んでいく黒鋼に、やっぱ大きいのが必要かも、と思う反面、あっという間に中身が減っていく様にファイは思わず感心してしまう。
一分も経たずに空になったペットボトルを口から離すと、黒鋼ははぁ、と小さく息を吐いた。
「
…
うめぇ」
「黒ぽんすごーい、あっという間に飲んじゃったね。やっぱ、喉乾いてたんだねぇ」
追加のペットボトルもユゥイにお願いしなくっちゃ、と言いながらファイは黒鋼から空になったものを受け取った。
再び横になった黒鋼に掛布団をかけてやりながら、ファイがそれにしても、と再度話し始めた。
「健康優良児の黒んぴ先生が風邪ひくなんて
…
。やっぱ、昨日寒中水泳したのが良くなかったねぇ」
「
…
ちっ。俺だって、好きで真冬のプールに飛び込んだんじゃねぇっつーの」
「うん、知ってるよ~。傘さしたモコナ達が風に飛ばされちゃって、それを助けてあげたのは良かったけど、勢いあまってプールにドボンしちゃうなんて本当に災難だったねぇ」
「ったく、あの饅頭ども、傘を遊び道具にしやがって
…
」
ぶつぶつとボヤキつつ目を瞑った黒鋼は、風邪を引く原因となった二匹の饅頭の様な生き物の破天荒な行いを思い出していた。
***
昨日は朝から強風が吹いており、放課後になった頃には吹き飛ばされそうな勢いすらしていた。そんな中、学園内のマスコット的存在のモコナ達はやたらとテンション高く跳ねまわっていた。
「凄い風だなー!」
「うっかりすると吹き飛ばされちゃいそうだねー!」
「モコナ達なら傘があれば風に乗って空を飛べるかも知れないぞ‼」
「面白そー‼」
などと言いながら跳ね回っていたモコナ達に、丁度通り掛かった理事長の侑子が面白そうじゃない、と言って傘を差しだしたのが事の発端だった。
某映画のヒロインが如く傘を手に風に乗って飛び始めたまでは良かったものの、小さく軽いモコナ達は想定外の強風に飛ばされ、あれよあれよという間に遥か彼方まで吹き飛ばされてしまったのだ。
このままではフェンスや障害物にぶつかって、下手をすれば大怪我をしてしまうかも知れないと泡を食った他の生徒たちにモコナ達を助けてやってほしいと懇願され、体育部顧問の黒鋼が持ち前の運動神経の良さを発揮して飛ばされたモコナ達を救出した。
と、そこまでは良かったのだが、飛ばされたモコナ達を抱きかかえて助けた場所が丁度プールの上で、落ちる間際に辛うじてモコナ達をプールサイドに投げ捨てることは出来たものの、自分自身は真冬のプールに落っこちてしまい、着替えも何も無かった為そのまま帰宅した結果、見事に身体が冷え切ってしまい風邪をひいてしまったのだった。
昨日の段階では大丈夫だと言っていたのだが、さすがの黒鋼も真冬のプールは堪えたらしく、今朝方になって発熱し、今に至っている。
今回の件は黒鋼にしてみれば巻き添えを食ったようなもので、プールに落ちてさえいなければ風邪をひくこともなかった。
プールに落ちた直後は怒りのあまり怒鳴り散らしてしまった黒鋼だったが、それでも、モコナ達が怪我をすることなく無事に助けられた事に安堵してたのも事実だ。
その上、助けてくれた黒鋼に自分たちが濡れるのも構わず有難うと飛びついて礼を述べてきたモコナ達の必死の剣幕に圧倒され、気が付いた時には黒鋼の怒りは収まってしまっていた。
「何だかんだ言っても黒っぴ先生は優しいから、困ってる生徒を見捨てられないんだよね」
かっこよかったよ、黒様。
颯爽と駆け出してモコナ達を助けた黒鋼の姿を思い出し、まるで自分の事のように嬉しそうに微笑むファイに、ふん、と寝返りを打ちながら黒鋼が鼻を鳴らした。
ファイに背を向けた黒鋼の耳が僅かに赤く染まっているのは、熱の所為だけではないだろう。
柄にもなく照れている様子の黒鋼を可愛いなぁと思いつつ眺めていたファイが、あ、と小さく声を上げた。
「そう言えば、黒りー先生、朝ごはんは何か食べたの?」
「いや、まだ何も食ってねぇ」
「そしたら、オレ、何か作るよ。食べたいものとかある?」
熱を出して寝込むなど子供の頃以来で、動くのも怠い所為もあり黒鋼の頭からは朝食の事などすっぽり抜け落ちていたのだが、言われて改めて意識すると何となく小腹が空いてくる。
ぐぅ、と小さく空腹を訴える腹に苦笑を浮かると、少し考えてから黒鋼はファイの方へと顔を向けて口を開いた。
「
……
うどん。肉入りのやつが良い」
「了解~。出来たら声かけるから、それまでゆっくり寝てて」
「
…
あぁ。悪いな、迷惑かけて」
「具合悪い時くらいは頼ってくれていいんだよ、黒様。気にしないで、今はゆっくり休んで
…
ね?」
「あぁ
…
」
程なくして、すぅすぅと寝息を立て始めた黒鋼にファイはホッと安堵の息を吐くと、静かにキッチンの方へと移動した。
ぐつぐつとうどんが煮込まれているであろう音と、室内に満ちた香ばしい出汁の香りに誘われて黒鋼は静かに目を開けた。
視界に映った見慣れた金髪と蒼い瞳に、ファイ、と半ば無意識でその名を呼びかけた黒鋼だったが、見知った相手と若干違う気配に違和感を感じ、寸での所で思いとどまった。
「
…
ユゥイ、か」
静かにその名を呼べば、ファイと瓜二つの顔をした青年からはい、と小さく返事が返ってきた。
「流石は黒鋼先生。熱があっても、ちゃんと見分けてきますね」
ふふ、と小さく笑みを浮かべてそう言った隣人の化学教師と瓜二つの彼は、ファイの双子の弟のユゥイだ。
ファイに会話アプリで買い出しを頼まれたユゥイは、買い物を済ませて帰宅したと同時に、今度は心配だから黒鋼の事を見ていて欲しいとファイに頼まれたのだ。
もう少ししたら起こしてほしいとファイに言われていたのだが、その前に目を覚ました黒鋼にユゥイが起こしちゃいましたか、と控えめに問いかけた。
「いや
…
、正直顔を見るまでお前がいるとは思ってもいなかった」
人の気配に敏感な黒鋼は誰かが傍にいればすぐ気づくのだが、やはり体調が悪いとそう言った勘も鈍るらしい。
怠そうに起き上がった黒鋼に、ユゥイが再度問いかけた。
「具合はどうです?」
「あんまり良くはねぇな
…
」
「でしょうね。風邪薬、買ってきましたから、ファイの作ったうどんを食べ終わったら飲んで下さいね」
「あぁ
……
」
ユゥイの言葉に小さく頷いた黒鋼はふぅ、と小さく息を吐き、キッチンの方へと視線を向ける。
すると、ユゥイの斜め後ろ辺りにいた茶髪の少年と目が合い、黒鋼は思わず小さく息をのんだ。
「
…
っ!?」
「こんにちは、黒鋼先生。
…
具合が悪い所にお邪魔してしまって申し訳ありません」
驚いて目を瞬かせる黒鋼に、茶髪に鳶色の瞳の少年・小龍が申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
じっと見定める様に小龍の顔を見つめた黒鋼があぁ、と小さく呟いた。
「お前、兄貴の方か」
「はい。黒鋼先生はユゥイ先生だけでなく、おれも見抜けるんですね。凄いです」
「まぁ、何となくだけどな」
ファイ・ユゥイと同じように双子である小龍は、やぱり弟の小狼とそっくりな為、慣れない人間ではなかなか見抜くことが出来ない事が多いのだが、彼と同じ双子のファイ・ユゥイとそれなりに長い付き合いになってきた黒鋼にとっては、小龍・小狼を見抜くのも左程難しい事でもなかった。
感心する小龍に返事を返すと、黒鋼はサイドテーブルに置かれていたミネラルウォーターのペットボトルを手に取り口にする。
ごくごくと二、三回水を飲んだ後、黒鋼は改めて小龍に視線を向けた。
「
…
それで、お前は何でここにいる?」
熱で怠いのもあり、余計な事はしたくないので黒鋼は単刀直入に小龍に問いかける。
それに小龍が口を開きかけた所で、ユゥイの手伝いをしてくれたんだよ、とお盆を手にしたファイが姿を現した。
「小龍君、たまたまスーパーでユゥイと会ったらしくて、そのままユゥイの買い物を手伝ってくれたんだって」
ね、ユゥイ! と双子の弟に確認するように声を掛ければ、それにユゥイがこくりと頷いた。
「最初は生徒に手伝わせる訳にもいかないからって断ったんだけど、小龍君が一人じゃ大変だろうからって言ってくれてね。
…
折角なので、お言葉に甘えさせて頂きました」
有難うね小龍君、とユゥイが小龍に礼を告げると、小龍はフルフルと小さく頭を振ってユゥイの方へ顔を向けた。
「そんな
…
! おれは当然のことをしただけで、お礼なんて
…
。それに、おれの方こそ、ユゥイ先生の力になれて光栄ですっ‼」
むしろ、偶然とは言え、休日に密かな想い人であるユゥイに会えたこと自体が小龍にとっては物凄い幸運で。その上、彼の手伝いをする事が出来るだなんて、こんな嬉しい事はないと小龍は内心思っているくらいだ。
そんな小龍の思惑にユゥイは気付く事もなく、申し訳なさそうに再度口を開いた。
「小龍君、スーパーにはたまたま立ち寄っただけで、特に用もないって言うから手伝って貰っちゃったけど
…
本当に大丈夫だったの?」
「それはもう全然! 小狼はサクラとデートだと言って早々に出掛けてしまったし、おれも今日は部活もなくてどうしようかなと思ってたくらいだったので
……
。むしろ、スーパーでユゥイ先生に会えて嬉しいくらいですっ‼」
「そ、そう
…
? なら良いんだけど」
キラキラと瞳を輝かせながら見つめてくる小龍に、ユゥイは思わずたじろいでしまう。
そんな弟たちのやり取りを微笑ましそうに見つめていたファイが、黒たん、とそっとベッドの方へと歩み寄った。
「うどん、出来たんだけど動ける? 動くのしんどいならこっちに持ってこようか?」
「大丈夫だ。
…
動けねぇほどじゃねぇから、そっち行く」
「ん、じゃあいつものテーブルに用意するね」
ゆっくりでいいからね、と黒鋼に声を掛け、いそいそとキッチンへと戻っていくファイの後姿を見送ったユゥイと小龍が静かに顔を見合わせた。
お互いに考えている事は同じようで、無言で小さく頷き合うと二人はその場に立ち上がった。
「
…
ファイ、ボクたちもそろそろ帰るから」
「えーっ!? ユゥイと小龍君帰っちゃうのー? 二人も食べるかと思って、うどん多めに茹でちゃったよー」
そろそろ帰ると言うユゥイ達に、当然彼らも一緒に食べると思っていたファイが驚いて声を上げた。
折角だから食べていけばいいのに、と残念そうな顔をするファイにユゥイが緩く頭を振った。
「
…
気持ちは嬉しいけど、今日の所は遠慮しとくよ。流石に体調不良の黒鋼先生の所にいつまでも居座るわけにはいかないからね」
ボクたちがいたら黒鋼先生もゆっくり休めないでしょ。
伺う様に言いながら、ユゥイはちらりと黒鋼に視線を向けた。
「
……
」
黒鋼は特に何も言わないが、根が真面目な彼は本当は今だってしんどいだろうにその姿を見せないようにと、自分や小龍に気を遣っている筈だ。
だからこそ、黒鋼にゆっくり休んでもらうためにも、早々に退散すべきだろうとユゥイは判断した。そして、それは小龍も感じていたようで、ユゥイの隣で彼の言葉に同意するようにこくこくと小さく頷いている。
しばし考えてからユゥイの言う事も尤もだ、とファイも思ったらしく、わかった、と首を縦に振った。
「ユゥイ、今日は有難うね。小龍君もユゥイを手伝ってくれて有難う。二人に色々とお使いして貰って助かったよ~」
「どういたしまして。
…
それじゃあ、黒鋼先生お大事に」
「おれの方こそ、急にお邪魔してしまってすみませんでした。黒鋼先生、ゆっくり休んで早く風邪治してくださいね」
「おー、有難うな。お前らも、帰ったらちゃんと手洗いとうがいしろよ」
ひらひらと手を振ってユゥイと小龍を見送ると、黒鋼はゆっくりとベッドから降りて、テーブルの方へと移動する。
黒鋼が席に着いたのと同時に、ファイが二人分のうどんを盛つけた皿とつけ汁を淹れた丼をお盆に乗せて運んできた。
「はい、どうぞ黒様先生。肉入りがいいって言ってたから、具沢山の肉汁うどんにしてみましたー。つけ汁、熱いから気を付けてね」
「
…
頂きます」
先に黒鋼の分を彼の前に並べて置き、続けて自分の分を自分の席の前に並べてファイがいつもの様に席に着く。
それを確認してから、黒鋼は箸を手に取りうどんを食べ始めた。
黒鋼のリクエストに応えるべくファイが作った肉汁うどんは、肉入りのつけ汁に茹で上げたうどんをつけて食べる、所謂つけうどんと言われるものの一種だ。先日、たまたまTVで見たバラエティー番組の特集で関東近郊のとある市の郷土料理だと紹介されていて、ファイ自身も一度食べてみたいと思い、折角だからと作り方もスマホで調べて作ったのだと、ファイが楽し気に説明してくれる。
それに耳を傾けながら、つけ汁に付けたうどんを啜れば、美味しい? とファイが問いかけてきた。
「あぁ
…
、うめぇ」
「本当? 味、薄くない?」
「いや、大丈夫だ。出汁も利いてるし、このくらいで丁度いい」
ファイの問いかけに頷きながら、黒鋼が二口目を啜る。
肉汁、と言うだけあり、醤油ベースのつゆにしめじやネギ、大根などの野菜と一緒に煮込んだ肉から出た出汁と、鰹節から煮だした出汁が程よく混ざり合い、茹で上げたうどんと絡まることによって一層旨味が増してきて、それがまた黒鋼の食欲をそそってくる。
お気に召したらしく、黙々と肉汁うどんを食べ進める黒鋼にファイはほっと安堵の息を吐いた。
「そっか。なら、良かった。
…
それに、それだけ食欲あれば大丈夫そうだねぇ」
熱の所為で食欲が落ちているのではないかと思っていたが、どうやらそれは杞憂で済んだらしい。
黙々とうどんを啜る黒鋼にホッと安堵の息を吐くと、ファイも箸を取りうどんを食べ始めた。
静かな室内に、二人がうどんを啜る音が室内に響く。
10分ほどでうどんを完食した黒鋼がごちそうさん、と手を合わせて箸を置いた。
「お粗末様でした。うどん足りた?」
「あぁ、十分だ。
…
俺はもう薬飲んで寝るから、お前もそれ食ったら自分の部屋に帰れよ」
「何言ってるの! オレ、今日はずっとここにいるよ。病床の黒りんを一人にしておくの心配だもん」
自分の部屋に帰れと言う黒鋼に対し、さも当然とばかりにここにいる、と言いきったファイに、黒鋼は複雑そうな表情を浮かべた。
「
…
気持ちは有り難いが、此処にいたら風邪が移っちまうかも知れねぇだろ」
「平気だよぉ。オレ、こう見えても結構丈夫なんだから!
…
だからさ、さっきも言ったけどこういう時くらい、遠慮しないで頼ってよ、ね、黒様」
こういう時のファイは案外強情で、こうと決めたら梃子でも動かないのはそれなりの付き合いを重ねてきた黒鋼には嫌という程身に染みてる事だ。
ならばいっその事、ファイの好意に素直に甘えておくのが良いのだろうと思い直し、黒鋼はわかった、と小さく頷いた。
「
……
なら、せめてマスクしてろ。それと、ずっと傍についてる必要もないからな」
必要以上に傍に寄るなと、言外に言う黒鋼にファイは僅かに不満そうな顔をしたものの、それが黒鋼なりの優しさの表れでもあると分かっている為、特に文句を言う事もなく頷いて見せる。
「うん。
…
何か用があったらすぐ呼んでね?」
「あぁ。言われなくともそうする」
ファイの言葉に返事を返すと、黒鋼はのそりと立ち上がる。
「そうそう! ユゥイに酒粕買ってきてもらったから、後で甘酒作ってあげるね」
黒ぷーママに作り方も教わったから、期待しててね!
ニコニコと笑いながらそう言ったファイに、黒鋼はいつの間に人の母親とそんなやり取りを、と思いつつも、素直に礼を述べてベッドへと向かっていった。
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