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まきわ
2026-03-04 20:23:45
4662文字
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クロリン
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わがまま
帰省した先輩にわがままを求められる後輩君の話かもしれない
2人のおうちがリーヴスにある設定です
創後界前くらい
指折り数えて待っていたクロウが帰ってくる日。
リィンは家の掃除の仕上げをして、ベッドには真新しいシーツを敷き直し、自分自身の身だしなみもきっちり確認して鏡の前で頷いた。
髪の跳ね具合もいつも通り、顔色も良いし、目も充血したりしていない。
昨晩は楽しみすぎてなかなか寝付けなかったから少し心配だったが、顔に出てはいないようだ。
(それでもクロウは気付く時があるからなぁ
…
。ほんと鋭いよな)
心配はかけたくないが、よく見ていてくれるのだと思うと嬉しくもある。
「ってそろそろ出ないと」
ARCUSで時間を確認して慌ててコートを羽織って家を飛び出す。
外は日差しもうららかな良い天気だった。
駅舎の前に立って、クロウの乗る列車の到着を待つ。
駅舎の中で待たないのはそわそわしている姿を駅員に見られるのが少し恥ずかしいからだ。
雨でも降っていれば別だが、できればリーヴスの住人達の前では威厳ある教官の顔を保っていたい。
深呼吸をして、ともすれば緩みそうになる頬を押さえて気合を入れ直す。
きゅっと手のひらで頬を押し上げたところで列車が駅に入ってくる音がした。
「あっ
…
」
手のひらの努力も空しくリィンの顔は一気に緩んで、期待に満ちた目が駅舎の扉を見つめる。
するとほどなく、悠々と開いた扉からクロウが姿を現した。
「クロウっ
…
!」
駆け寄るとクロウはにっと笑って荷物を置き、リィンの体を抱き寄せた。
久しぶりに会えた時のハグくらいは親愛表現の内だろう、と自分に言い訳してそれを受け入れてクロウの背中に腕を回す。
するとリィンの尻の下辺りでクロウが両手を組んだ感覚がして、直後ぐっと体が浮き上がった。
「ちょっ
…
!」
子供の様に抱え上げられたのだと気付いてリィンの顔が赤くなる。
クロウは悠々と笑ってリィンの顔を見上げた。
「なんだ、ちょっと軽くなったんじゃねぇか?」
「なってない
…
!こら、さすがに恥ずかしいから下ろせって!」
背後に視線を向けると通りかかった人々が微笑ましげな視線を向けている。
耳まで赤くなりながらリィンはクロウの肩を軽く叩いた。
「ほら、見られてるから
…
!」
「えー、久しぶりに会ったんだしこのくらい許容範囲だって」
「
…
股間、蹴り上げるぞ」
「お前自分にもあるモノによくそんなこと言えるな!?」
慌てた様子を見せながらもクロウはゆっくりとリィンを地面に下ろした。
リィンは熱くなった顔を手で仰ぎながらジト目でクロウを見た。
「まったく
…
ちょっと浮かれすぎじゃないのか?」
言うとクロウはにやりと笑って返した。
「オレと目が合った瞬間にっこにこだったお前に言われたくねぇなぁ?」
「そっ
……
そんなにか?」
リィンは再び、緩んでいたらしい頬に手のひらを当てて押さえた。
「そりゃーもう。思わず抱き締めたくなるくらいな」
照れ隠しに軽く拳でクロウの胸を小突くと、クロウは楽しそうに笑ってから地面の荷物を持ち上げた。
「さて、なんにせよ荷物置きに行こうぜ」
「
…
そうだな。少し持つよ」
「おう、さんきゅ」
重くないから、と断らずに荷物の一つを渡してくれる。
こうして荷物を預けてくれる、そんな些細なことがリィンは嬉しくて仕方なかった。
家に戻って荷物を片付け、リビングのソファでリィンの淹れたコーヒーを飲みながら一息つく。
クロウはコーヒーを一口飲んで、ふぅっと満足げなため息をついてからリィンを見た。
「久しぶりに帰ってきたんだしなんでもわがまま聞くぜ?なんかしてほしいこととかねぇか?」
クロウ好みに淹れられるよう何度も練習してきたコーヒーの出来栄えに満足しながらリィンもクロウを見た。
「うーんしてほしいことって言われてもな
…
。俺はこうやってクロウといられるだけで充分幸せだし」
「そういうんじゃなくってよー。色々あんだろ?あんなプレイがしたいとか、こんなプレイがしたいとか」
「あのな
…
。
…
うーん、してほしいことって言われると
…
それにせっかく帰ってきてくれたクロウを縛り付けるのもな」
「別にオレは
…
まぁいいや。んじゃせめてこのまま家でゆっくりするか帝都あたりに繰り出してデートするかは選べよ」
リィンは首を傾げて少し考えこむ。
「んー
…
せっかくだし一緒に帝都を歩きたいかな。どうせ離れててもしっかり情報はチェックしてるんだろ?」
揶揄い混じりに言うとクロウは得意げに笑った。
「ったりまえよ。今は導力ネットもあるしな。んじゃ昼飯に良い店でも探しに行くか」
「うん。
…
疲れてないか?」
今回はそこそこの遠方からここまで帰ってきたはずなのだ。
移動するだけでも結構疲れは溜まる。
「心配すんな。ビンビンだぜ」
「だから言い方」
びしっとツッコミの一打を腕に与えてから立ち上がる。
実際クロウも心身ともに調子は良さそうだ。
二人は手早く準備をして帝都行きの列車に乗った。
帝都は相変わらずの人の多さだった。
クロウと並んで歩くとどうにも目を引くようで、時々ちらちらと視線を向けられているのを感じる。
自分の顔が知られているのはわかっているので、クロウに迷惑をかけたくないのもあって眼鏡をかけようとしたこともあるのだが、
クロウに『意味ねぇからやめろ。つかなんかエロいし』という理不尽なクレームをつけられてやめた。
「んーっと、確かいくつか新しく出来た店で気になってるとこがあんだよな。ランチに良さそうなのは確かあっちの通りだったはずだ」
「
…
どうして近くにいる俺よりそういうの詳しいんだろうな」
ちょっと情けない気がしてぼやくとクロウが宥めるように苦笑した。
「別にアンテナと興味の方向性の問題だろ。温泉が新しく湧いたとかなら大陸の果てだってお前は感知するだろが」
「さすがに感知はしないぞ
…
。まぁ情報は集めてるが。今はネットで遠方の情報も拾えるから便利だよな」
「ま、精査は必要だがな。っと、そこ曲がるぜ」
「ああ
…
あ、ちょっと待った」
リィンが視線を向けた先にあるものを見てクロウは納得したように苦笑した。
「りょーかい」
困った顔をして辺りを見回している人がいる。
これだけ人がいるのに、いやこれだけいるからこそ誰に助けを求めるべきかわからないのだろう。
リィンは迷いのない足取りでその人に向かって歩いて行った。
結局店に到着するまでにもう一人、そしてその後買い物中にも何度かリィンはお人好しを発動して人助けをして回った。
クロウもわかっているのか「やれやれ」という顔をしながらも手伝ってくれる。
そして夕暮れが近づいてきて、この後どうするかクロウと相談しながら歩いていたリィンはまたも通りの端でバイクが故障したらしい人を目にして足を止めた。
バイクなら何度か触っているし、何よりその立ち上げに関わったクロウが一緒にいる。
リィンはほとんど目に留めると同時に足をそちらに向けた。
すると突然ぐっと腕を引かれて動きを止められた。
驚いて隣のクロウの顔を見上げると、思ったよりも真剣で真っすぐな紅い瞳がリィンの瞳を捉えた。
「くろ
…
」
「お前がさ」
クロウは硬いけれど、どこか懇願するような響きの声音で言った。
「そういうヤツだってわかってるし、それはお前の美徳だってわかってる。わかった上で
…
」
クロウは更にぐいっとリィンの腕を引いて自分に引き寄せた。
「今はオレにだけ優しくして」
「ふへっ
…
」
声に含まれた甘さは計算したものだとなんとなくわかる。
どうすればリィンの心臓が高鳴るかくらいきっとクロウはわかってるから。
「嫌か?」
先ほどの硬さが一転して心が痺れるような優しい甘さのある声で聞かれてリィンは思い切り首を振った。
「い、いや、その、うん。その
…
ごめん」
「謝んなくていい。単なるオレのわがままだしな」
ぽん、と大きな手がリィンの頭を撫でる。
その手の温もりを感じて、リィンはふっと肩の力を抜いた。
「
…
いや
…
うん。そうだな。これ以降はクロウにだけ優しくする。そう、したい」
「ん。
…
そろそろ家帰るか」
「
…
うん、そうしよう」
今のクロウの甘い声音でなんとなく思い切り甘えたくもなっていたのでリィンは素直に頷いた。
最後にちらりとバイクの方へ視線を向けると、ちょうど技術者らしき青年が駆け寄ってきたところだった。
「ほら、お前だけが頑張って全部を掬い上げようとしねぇでも結構なんとかなるもんだぜ?」
「
…
そうだよな」
宥めるようなクロウの言葉に思わずリィンは苦笑を浮かべた。
確かに何もかも自分がしなければと気を張っている部分はあるのかもしれない。
そういうところはきっと学生時代から成長していない。
「もちろんイイトコでもある。ま、ほどほどにな」
「
…
うん。行こうか」
バイクが元気にエンジン音をたてたのを聞きながらリィンはクロウの袖を少し掴んで駅へと歩き出した。
「そういやさ」
リーヴスに到着後、駅舎を出て夕暮れ色に染まり始めた空を見上げていたリィンはクロウの声で振り返った。
クロウは何か試すようににやりと笑っている。
「さっき、オレのわがまま嫌だったか?」
「え」
自分にだけ優しくしてくれと言われたことを思い出して少し頬を染めながらリィンは首を振った。
「いや
…
むしろ嬉しいっていうか
…
。そう思ってくれるのは、うん、嬉しいし幸せだよ」
クロウは満足げに頷いてリィンの背中に大きな手のひらをそっと当てた。
「だろ。オレも同じだよ。お前に言われるわがままは嬉しいし、縛られんのも悪くねぇ。むしろ言われてぇってな」
「あ
……
」
クロウが帰ってきた直後の会話を思い出す。
せっかく帰ってきたのに自分が縛るのは申し訳ないと返した事を。
「そっか
…
同じ、か
…
」
納得しかけて、ふとリィンはある可能性に思い当って一転して拗ねた顔を見せた。
「
…
もしかしてそれをわからせるためにわざとあんな風に言ったのか?嬉しかったのに」
「いやいやいい加減オレだけ見て♡って思ってたのも事実だって。人助けに付き合ってっていうのがお前のわがままなら別にそれでもいいんだがよ、まぁちょうどよかったしな」
「ふう、まったく
…
。でも、まぁわかった。クロウがいてくれるだけで幸せだっていうのも事実だけど、それ以上を求めるからこその『わがまま』だよな」
リィンは深呼吸するとクロウの腕に自分の腕を絡めた。
「こっちにいる間のクロウの時間、全部俺の為に使ってくれ。離れないでずっと近くにいてくれ。
……
えっと
…
大丈夫か?」
やっぱり過剰な要求をするのは慣れていなくて最後の最後に失速してしまったリィンにクロウは思い切り吹き出した。
そして楽しそうに大きく笑い声をあげる。
「笑うなって!」
「わりぃわりぃ。謹んで、承りました」
クロウは恭しく貴族の様に一礼して、腕に絡めていたリィンの手をとって甲に口づけた。
手の甲にわずかに濡れた体温を感じて、ざわっと何かが背中を駆け抜けた。
その衝動に突き動かされるようにリィンは顔を上げたクロウの背中に取り付いてぐっと家の方に押し出した。
「お?」
不思議そうに首だけで振り返ったクロウの顔は見ずに背中に額を押し付けるようにしてリィンは呟いた。
「
…
帰ったら、口にして
…
くれ」
顔が熱い。
そう思っている間にクロウに手を掴まれて引っ張られた。
「任せろ口でも下半身でもどこでもしてやるぜっ」
「声が大きい!」
家路を急ぐ子供の様に夕暮れの中を二人は笑いながら駆けて行った。
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