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山茶花
2026-03-04 14:21:21
5557文字
Public
[シルデュ]サイト限定(健全)
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トルク・ハイスピード:オーバーヒート【194SK041】
デュースの悩みを爆速解決するシルバーの話/5300字程度/ラブコメ
突然だが、僕には、好きな人がいる。
その人は、ひとつ上の学年、つまり2年生で、だから僕よりもひとつ年上で。
でも、その恋は諦めるべきなのかもしれない。だって僕は、噂を聞いた。
『シルバーには好きな子がいるらしい』なんて、噂を。
だけど、僕は何もせずにこの恋を終えたくはない。戦いの土俵にも上がらずに終わる恋なんて、そんな情けねえのは絶対に嫌だ!
だから、シルバー先輩に聞くことにした。改めて誰が好きなんですかって聞いて、それで、それが僕じゃないってことにちょっと傷つくかもしれないけど、思わず息を呑んじまうかもしれないけど、それでもいいんだ。ぐっと我慢して、笑って言おう。
『僕は先輩のことが好きでした、でも、応援します! 頑張ってください!』って。
本当に心から好きな人なら、どこの誰とだって幸せを祈る。それが男ってもんだろ。
昼休み、シルバー先輩を呼びだして、僕は切り出した。
「あの! シルバー先輩って、好きな子、」
「ああ、それか。お前のことだな。好きだぞ、デュース」
「そうですよねやっぱり、は!? 今なんて言いました!?」
「好きだ、お前のことだと言った。好きだ、デュース」
僕は、思考回路が止まるのを感じた。僕何しに来たんだっけ? 決着(ケリ)つけるために来たんだったよな? そうだよ、どこの誰だか分からないシルバー先輩の好きな子が誰なのか
「好きだ、デュース」
「今ちょっと黙っててもらえますかね!? 考えてますので!!」
「分かった、考えているんだな」
シルバー先輩はうなずき、素直に待つ。いや本当に待ってくれ。僕は今頭の中を整理しているんだ。え、何、なんだ? 僕のこと好きだって? シルバー先輩が? どういうことだ!?
「何故、長く考えているんだ? 俺のことが嫌いか?」
「き、嫌いじゃないですよ、もちろん!」
「そうか良かった。ならもう恋人だな」
「すいません、一拍! 一拍置いてくれませんかね!? 僕が悩んだり困ったりするフェーズをくれると助かるんですが!!」
僕の懇願も敵わず、シルバー先輩はきょとんとした表情で言う。
「困った。一秒でも長く、お前を不安にさせていたくない」
「だからって、その、え、ええと
……
!!」
それなのか!? さっきから告白も交際宣言も爆速なのはそのせいなのか!?
でももう、これチャンスだろ!! 間違いなくチャンスなのは間違いないだろもう!!
「うう、
……
っ、ええい、これからよろしくお願いします
……
っ!!」
「ああ、よろしく頼む!」
真顔のまま、雰囲気だけがぱあ、と明るくなるシルバー先輩の姿に、僕はこれからのことを思い悩むのだった。
……
え、あれ? 僕、もしかして今、恋人になったのか? シルバー先輩と!?
なったらしいな!? ちょっとスピード早すぎて追いつけなかったぞ!!
この後は用事がある、とシルバー先輩が去った中庭で、しばらく立ちっぱなしになってから、僕はようやく頭の処理が追いついて、がばっとしゃがみ込む。
「
……
うまく、やってけるかな
……
」
嬉しさ8割、困惑2割でにやつく口元のまま、僕は困ったなと眉を寄せて、石畳の地面にはあ~と思い切り大きな溜め息を吐いた。
それから、僕は少し浮ついていた。足元も頭も、ふわふわするような感覚だ。
ひょっとしたら昨日のあれは僕が見た都合の良い夢だったのかもしれない、そうだよなシルバー先輩が僕を選ぶなんて、そんな都合の良い夢なあ、なんて思いながら廊下を歩いていると、人にぶつかりそうになった。
「わ、すいませ
……
」
「夢じゃないぞ。俺はお前が好きだ」
「!?」
曲がり角から出てきたのはシルバー先輩その人で、先輩はぶつかりそうになった僕を胸元に抱き留めながら、僕の思考回路を読み取ったかのように返事をした。
「なんで僕の考えてること分かったんですか!?」
「口に出ていた」
「えっ!?」
そ、そんな! 僕そんな恥ずかしいことぶつぶつ言いながら歩いてたのか!? 恥ずかしすぎる!! しかも本人に聞かれてるし!!
「そんなに喜んでいてくれているとは、思わなかった。好きだ、デュース。不安にならなくていい」
シルバー先輩は、ぽん、と頭を撫でて、ではまたな、とその場を立ち去った。
「
……
だから、早くないですか
……
? いろいろと
……
」
僕は赤くなった顔を、持ってた教科書で隠すしかできなかった。
それから改めて、騒がしいクラスメートを教室に置いて、ひとりになれるような静かな場所を探して学園裏の森に辿り着き、そこで、またシルバー先輩とのことを考えてみた。
「
……
」
いや正直めちゃくちゃ嬉しいぞ? シルバー先輩と恋人になれたのも、不安にならなくていいって言ってくれるのも、たくさん「好きだ」って言ってくれるのも。全部嬉しい。嬉しいけどさ。
「早いって!! 段階が、早い!! なんていうか、もう少し、その
……
もう少し、なあ!?」
ぶんぶんと腕を振りながら、誰に言ってるのか分からない独り言を叫ぶ。
シルバー先輩の返事が早いのは、嬉しい。直球なのも、好きだ。遠回しに言われると、僕は分かんないから。それに、僕を長く不安にさせてたくないって気持ちからそうしてるみたいだから、その気持ちは嬉しい。ありがたい。でも、だけど、な?
「
……
僕から『好きです』とか『僕もです』とか、言う隙が全然ねえ
……
!!」
僕は、やられたらやり返したいタイプだ。良いことも、悪いことも。
ボコられたならボコり返してやりたいし(喧嘩はダメだけど
……
)、僕のことを大事に扱ってくれたなら、大事にし返したい。そしてシルバー先輩は間違いなく、僕のことを大事にしてくれる方の人だ。だから、好きだって気持ちと、大事にしてくれる感じを返したいんだが!
「ぱって出てきて、ぐんって言って、さって去るから、全然そんな隙が無い
……
!!」
どうしたらいいんだろう、僕の方からまたシルバー先輩に会いに行ってみたりしたらいいのかな、っていうか時間作ってくださいってまた頼むか、なんて思っていたら、うさぎが一羽、僕の前に飛んできた。
「ん? なんだお前
……
」
僕の前で鼻をひくひくさせているうさぎを見ていると、うさぎが出てきた茂みがガサついて、そしたら、うさぎを追いかけていたのか、昼間の木漏れ日に輝く銀髪を揺らす、意中の人が出てきた。うさぎはそれを見つけると、どこかに走って行ってしまった。
「デュースか。こんなところで何をしている?」
僕は説明する。
「あ、僕はちょっと考えごとをしてて
……
」
「何? それは良くない。勉強のことか、人間関係か? それとも俺のことだろうか。もし俺のことで悩んでいるのなら、気にすることはない。今俺はとても幸せだ」
「だから早いですって!!」
僕の悩みを爆速で解決するのやめてくれないか!? この際だ、解決したことでも改めて相談しようと僕はコホンと咳払いする。
「あの! ちゃんと聞いてください。正直今解決した気はしますけど、僕、告白のときからずっとシルバー先輩に全部解決してもらってるっていうか、おんぶにだっこっていうか、先手取られっぱなしっていうか、とにかくそういうの良くないなって思って」
「ああ」
あ、良かった。話したらちゃんと聞いてくれるんだ。そういや人の話はちゃんと聞く人だったな。僕の悩みの回収が迅速すぎて忘れてたけど。
「だから、ええっと、その、つまり
……
っ!」
……
馬鹿か僕は! せっかくシルバー先輩がちゃんと話を聞いてくれてるのに、言葉が出てこない。もっとよく考えてまとめりゃ良かった! するとシルバー先輩は、僕の頬に指先で触れて言う。
「急がなくて、良い。察するにそれは、お前の心を後ろ向きに痛ませる、悪い悩みではないのだろう?」
「は、はい。まあ、それは
……
」
一言で言えば、シルバー先輩に好きだって気持ちを返したいのに、その隙間が無くて困ってるって話になるしな。
「なら、いいんだ。俺に言いたいことがあるのなら、お前のペースで、ゆっくりまとめてくれていい。以前にも言ったと思うが、俺はただ、お前の心にかかる憂いを、払ってやりたいだけなんだ」
お前の清々しい青空のような心が、無駄な憂いに曇らされているのは良い心地がしなくて、許せないから、とシルバー先輩は言った。僕はそれを聞いて、なんだか、逆にもう、笑えて来るような気がした。
「
……
ははっ。なんだ、シルバー先輩。本気で僕が嫌な気持ちになるのが嫌なだけなんですね」
「最初からそう言っている。誤解していたのか?」
「いえ。ただ、そうですね。僕にも返事とか、お返し、させてください。僕、やられたことはやり返したいんです」
「やり返す?」
「ええと、つまり
……
僕からも、言わせてくださいってことです。『好きです、シルバー先輩』って
……
」
その一言を言うと、シルバー先輩は、ぱっと顔を逸らした。え、なんだ? どうしたんだ?
「
……
」
「あの、シルバー先輩?」
「
……
その。いや、ええと」
「
……
顔、見たいなあ、なんて
……
」
「
……
」
「
……
嫌、でしたか?」
「嫌なわけないだろう!」
シルバー先輩は、僕の方を向き直した。その顔は、見るからに真っ赤で。目が少し、潤んでいて。
「えっ
……
」
「
……
不覚だ
……
」
顔が赤いのを治そうとして、シルバ
―
先輩は手首で汗を拭うように額を擦る。
僕は、それで、合点がいった。いつも、言いたいことだけ言って、すぐに去っちゃってたのは。
「
……
いつも、照れてたんですか
……
? そうやって
……
?」
「
……
いや、その。俺から、自分が伝えるぶんには、まだいいのだが
……
」
お前から返されると、こうなってしまうと分かっていたから、言われる前に逃げていた、とシルバー先輩は言う。
僕はその態度に、耳まで真っ赤になった顔に、手のひらで顔を覆う仕草に、どすっと胸に矢が刺さったような心地がして。とにかくこの不器用すぎる人が好きだ、愛おしいって気持ちが爆発して。
「なんなんですか、シルバー先輩
……
っ! ったく、アンタほんと恰好いいし、可愛いし、綺麗だし
……
っ、はは、なのに不器用すぎんだろ、大好きだ
……
っ!!」
シルバー先輩へ飛びつき、草むらへ押し倒すように抱き着いて、頭をくしゃくしゃに撫でれば、シルバー先輩はますます赤くなってやめろ、デュースと僕を睨んだ。鋭い目だな。怖いかもしれない。
……
その理由が照れ隠しだって、分かってなければな!
「ははっ、嫌です。今までたくさん言ってもらったぶん、お返しさせてください!」
嫌ですか、と聞くと、シルバー先輩は観念したように目を逸らした。
「その言い方は、ずるいだろう
……
」と。
それから僕は、好きだって言葉にしたり、勢いで頬にキスしたりして、シルバー先輩にたくさん好きだって気持ちを返した。
そうしていると、シルバー先輩がぐい、と僕を引っ張って、姿勢の上下を入れ替えた。
あ、ヤベ。さすがにやりすぎて怒らせたかな。そう思った僕に落ちてきたのは、ひとつのキスだった。
「んっ」
ただ、深くくちづけるようなキスで、長く唇を塞がれる。怒ったように寄せられた眉と、そのキスが、言葉にしなくても何が言いたいのかを伝えているような気がした。
……
ほんとに不器用なんだな、この人。
「
……
んぐ
……
」
「
……
は、デュース」
僕が息切れで苦しそうになると、すぐにシルバー先輩は唇を離す。
そうして、僕の胸に顔を埋めて、ぽつりと言った。
「
……
好きだ
……
」
僕はそれに笑って応える。
「ははっ、僕もです
……
」
何やってんですかね僕ら、と笑うと、さあなとシルバー先輩は答えた。
それから、僕たちは改めて交際を始めた。
別に別れたわけでもなんでもなかったが、正式にお互いの気持ちを確認した日っていうなら、あの日だと思う。
それで、廊下でシルバー先輩に会った僕は聞かれるんだ。
「デュース。今日は、困ったことはないだろうか」って。
それに僕は答えるんだ。
「大丈夫です! 先輩こそ、不安なことはないですか」って。
そうしたら先輩は少しだけ照れたように目を伏せて、「
……
ない」って答える。
先輩の真似っこだけど、別にいいだろ。僕だって大好きな先輩を不安にさせてたくない、1秒でも。
その気持ちが先輩には伝わっているみたいで、少し照れさせてしまうが。
でも、僕はこの瞬間が好きだった。だから、先輩には悪いけど、また僕からも、好きだって伝えさせてもらうだろうな、なんて。その照れた顔を見るために、って言ったらちょっと意地悪い、か? でも、仕方ないだろ。不器用で照れ屋で、そこが一番魅力的なのが、僕の大好きな恋人なんだからな!
「シルバー先輩、また今度、ゆっくり話せる時間くださいね。先輩の部屋、遊びに行きたいです」
「
……
分かった、覚悟しておく
……
」
「へへっ! 楽しみにしててくださいね!」
「
……
お前こそ。どうなってもいいように、心の準備はしておけ」
次はああは行かないからな、とシルバー先輩は僕を睨む。
僕は少し照れくさいけど、でも、シルバー先輩が僕が返すそれ以上のものを返そうとしてくれてるのが嬉しくて、そのループが終わんないのがたまんなくて。
「はいっ! 楽しみにしてます!!」
シルバー先輩に、ぎゅっと抱き着いた。先輩は廊下の真ん中だからって同級生に見られてないかきょろきょろしつつも、結局黙ってぎゅっと僕のことを抱き返した。
その顔はやっぱり、僕の想像した通りの色だった。
*おしまい
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