orikoriko1125
2026-03-04 02:19:53
6468文字
Public カキゼイ
 

夜は答えを持ってくる

ユカリに負けてうちみたいになったカキツバタのミアレ生活。
カキゼイだけどゼイユはほぼ出てこない。
全てが妄想のみの話。

三月のイベントでペーパーを作れるイベント用に考えましたが文字数オーバーでボツにしたやつ。

La nuit porte conseil(明日はなんとかなるさ)

「カキツバタは――サボるのが上手いな」
 足癖悪く縁に掛けるハルジオさんが煙を吐く。臭いを付けられるのは御免なので、数メートル避難して、更にジャケットは上空のカイリューに預けた。コートヤードの狭い空をオンバーンと旋回しながら、空中散歩を満喫してるのが気持ちよさそうに見える。
「学生の頃、散々サボってたんすよね〜」
 オイラが上手いんじゃない、ハルジオさんがサボるの下手すぎるだけ。多分この人、根は真面目。だからこんな訳のわかんねえ約束を律儀に守ってんだろ。けど今や同じ穴のマッスグマ。
 それにしてもこれ、いつまで続くんかねい。

 事の発端はジジイの代わりに出た、ミアレでの集まりに参加したこと。各地方の名士やら有名トレーナーを集めて戦いまくってる、酔狂な主催者のための宴。事前に聞けたのはたったコレだけの情報しか無かった。
「シャガさまのご令孫のカキツバタさま……ですわね。本日は遠路はるばるミアレまでお越しいただき、本当に感謝いたします。わたくしのお相手、してくださいます?」
……オイラでよければ」
 丁寧な言葉と優雅な所作、けれども黄昏みたいな瞳は異常な闘気を纏っていた。ここで断ったら男がすたるってもんよ。
「まぁ! 嬉しい! あのね、お祖父様から言付けがありますの」
「ジ……祖父からですか?」
「ええ! もし、わたくしが勝ったら……あなたをしばらく、わたくしがお預かりしてもいいって!」
 お預かり、何だそりゃ。てかクソジジイ、勝手に変な約束してくんな。闘気の瞳のまま、ふわりと笑う主催……ユカリさんの後ろに付いている、緑髪のメイドが必死にオイラに何かのサインを送ってきた。彼女に気取られないように訴える、その声にならない言葉を解読する。
――ゆかりにまけると うちみたいになるぞ。
 うちみたい、どういうことだかちいとも理解できない。オイラが首を傾げると、ユカリさんに流し目を送られたメイドが途端に大人しくなる。
 よくわかんねえけど、要は勝てばいい。大した問題じゃない。
「さあ! 始めましょう!」
 スポットライトがゴージャスボールに当たる。その眩しさに警戒すべきだった。

 フェアリー使いかよ、聞いてねえ。けど、どんなフェアリー使いが来ても負ける気は無い、負けたことねえから。でもよ。
……メガシンカはちょっとズルだろぃ‼︎」
「あら、メガストーンお渡しするのを失念しておりましたわ。ごめん遊ばせ」
 ぜってえー嘘、ふざけんな。最初からクソジジイとユカリさんの掌じゃねーか。それに気が付いた時には哀れ、オイラがジジイから託されたチルタリスが、やたらとゴージャスなコートに倒れるとこだった。見たこと無いデカさのピクシーが、つぶらな目でじっくりそれを見下ろす様子が薄ら恐ろしい。
 ここは優雅なヒールの音がやたら響く。ボールから顔を上げる頃、オイラの目の前で止まった。
「惜しかったですわね。……メガシンカもなしに善戦しましたこと!」
……ユカリさん、強いっすね」
 黄昏の瞳は当然というように光り、差し出されたのは握手ではなく、なぜかグータッチ。セレブらしく控えめな。
「でも、約束は約束。これからしばらくカキツバタさまは、わたくしがお預かりしますわ。ハルジオ、例のものを」
……はい」
 ギャラリーの視線が妙に同情的に感じる。どうやらこの身の処遇は、オイラ以外はご存知らしい。メイドが恭しく持ってきた黒い箱。
――だから言ったのに
 オイラにだけ聞こえるようにそう呟いた。

 その後はご覧の通り。こんなん、言われて分かるわけねーだろぃ。
 メイドじゃなくて良かったけど、ユカリさまのバトラーとして過ごすようになって早三週間。しばらくこちらもお預かりしますわ、なんてスマホまで没収するのひでーよな。
 正直、クソジジイに嵌められたのも、バトラーになるのもどうでもいい。問題はカロスに行くとだけ伝えてそのままの、オイラのかわいい恋人のこと。どっかのケルディオの骨にちょっかい出されてたらどうしよう、また変なポケモンに操られてないか、心配が尽きねえ。
 人を支配するのは慣れっこのお嬢様に付けられちまった、キーストーン付きの首輪。今日も重てえ、肩凝る。不意に揃いの首輪の光が目に入って、一服を終えたハルジオさんが、オンバーンを呼び戻してたことに気が付いた。
「カキツバタ、勝負するか!」
「は? え、いいっすけど……
 ボールはカイリューに預けたジャケットの中。そして彼女はまだ四角い空の上。待ってくれと言う前にハルジオさんが「よし!」と気合を入れた、早すぎる。
「行くぞ! ……最初はっ、イシツブテッ!」
「は⁉︎ ジャンケン⁉︎」
 大急ぎで拳を握る、この人も大概人の話聞かないんだよ。
「ジャンケンポン!」
 オイラはクラブ、ハルジオさんはイシツブテ。
……うちの勝ちだ!」
 拳を突き上げて喜んでるけど、これなんのジャンケンだよ。一足遅く戻ったカイリューからジャケットが手渡される。
「なんか、意味あるジャンケンなんすかねい……
「実はユカリから頼まれてることがあるんだ。最近、_ZA_ロワイヤルで活躍してる……あるトレーナーがいてな」
「へえ……?」
 今のミアレで一番アツい催し、_ZA_ロワイヤル。こんなんじゃなかったら、オイラも参加したかったけど。
 見上げたプリズムタワーは記憶とすっかり変わり果てて、街の中に野生ポケモンがうろついていて、以前はカロスにいなかったポケモンが跋扈してる。オイラの知ってたミアレとは様変わりしちまったけど、これはこれで面白い。
「腕のあるトレーナーなら、是非ユカリトーナメントへと招待したい。けど……素性が知れないんだ。登録名は恐らく偽名、性別も分からないような全身真っ黒の服装で、イントネーションからミアレ出身でないことだけは分かっているらしい」
……なんかカッケーすね」
「だろ? で、ユカリからうちかカキツバタのどちらかが、ロワイヤルに参加してそのトレーナーと接近しろ、とお達しが出たわけだが……勝負の結果、うちが出ることになった!」
 こんな楽しそうなハルジオさん、ポケモン勝負以外で初めて見たな。いや、ポケモン勝負で決めろって。しかし正体不明の凄腕トレーナー、そのお達しが無くても手合わせしたいとこ。
「オイラ夜型だからぴったりだったのに、先に言ってくだせえよ。もっと真剣にジャンケンしたのに……
「しょうがない、それが勝負! 明日からカキツバタはアンシャさまの護衛担当、よろしくな」
「え〜……。朝はえーやつ〜」
 オイラと同じようにユカリさんに預けられてるけど、アンシャは楽しいドーナツ屋さん。ああ、羨ましい。
「頑張れ! うちは絶対カルミヌスに勝って、ついでにユカリにも勝って自由になる‼︎」
……カルミヌス?」
「そのトレーナーの名前だよ」
「はー、洒落てんなあ」
 遠い昔、いやそんな前じゃねえけど、観た映画を思い出した。何でもかすめ取る、腕利きの泥棒の名とおんなじ。

「せっかくなので、カキツバタさんもドーナツ召し上がっていって下さい」
「ありがてー! やわらけー感じで頼むな」
 ここのホテルの住人たち、_MZ_団の連中はこんな朝早くても、ロビーに勢揃いでアンシャを待ち構えていた。揃いのマークの入ったエプロンを大切そうに付けると、早速ピュールとキッチンに消える。
「カキツバタさんが今日からアンシャちゃんのお目付役ってこと?」
「そうそう、重大任務ってやつよ」
「だよねえ」
 デウロがアンティークのカップに丁寧に紅茶を注いでいく。カロス流の軽い味わいの紅茶は結構好み。カップに描かれた花は、このホテルの先代オーナーの墓に手向けたのと同じものだった。
……カルミヌス、うちの会社でもちょっと話題になってるぜ。なんせ突然ZAロワイヤルに参加して、一週間であっという間にキーストーンを手に入れたって!」
「ほー、そりゃすげーな」
 クエーサー社の次期社長候補は、毎朝ここから出勤してるらしい。膝においたタブレットの液晶には、いっちょ前に経済新聞の電子版が表示されている。眺める横顔はまだガキっぽいけど。
「そんな強いトレーナーなら……あたしも戦いたいね!」
 大あくびするオイラの隣で、コルニさんのバカでかい声がめちゃくちゃ響く。それも消すようなエレベータの到着音で、全員の目が一斉にそちらへと向いた。
「おはよ〜。そのトレーナー、わたし多分昨日遭遇したよ」
 フラフラ現れたのはミアレの救世主、と呼ばれてる女。セイカ。
 同じく突然現れてロワイヤルを驚きのスピードで駆け上がり、圧倒的な強さでミアレを救ったとか。ここではあちこちでこの名前を聞く。似たようなヤツはどこの地方にもいるんだな。
「おはよう。……また一晩中暴れてたの?」
「一晩中じゃないよ、今日は日が昇る前には戻って四時間は寝たから!」
  堂々と宣言される不健康ムーブ、今度はオイラ以外の全員に呆れた目線を投げられてる。似たような時間帯で生活したことはあるけど、オイラはこの時間はまだ夢の中だった、さすが救世主は人間離れしてんな。
「カルミヌス、どうだった⁉︎ 強い?」
 興奮気味にコルニさんが立ちあがると、セイカはしっかりした眉を下げてそれを制した。
「それがさあ〜、わたしが勝ったの! 後ろから攻撃したら「あんた強そうだからヤダ」とか言われちゃって……。でもロワイヤルで逃げるのはご法度じゃない? それにヤダって言われたら、逆に張り切っちゃうというか……
「確かにセイカと戦うとか……ロワイヤルだとちょっと嫌かも」
 屈託なく笑う救世主が、唸るデウロの顔を覗き込む。
「デウロと遭遇するの楽しみにしてるね? カルミヌス、長身でダボダボの格好だったけど女の子、かな。メガズルズキンみたいにフード深く被ってたから顔はよくわからなかったけど、鼻が通ってて横顔は綺麗。連れてたのもズルズキンだったよ」
 なんだか、そういう奴をよく知ってる気がする。でも大好きな仕事を放り出して、ミアレまで来るのか。考え難い。
「身長が高くて綺麗な女の子、モデルみたいな感じ?」
 コルニさんの推理に「あ!」となにかを思いついたデウロがキッチンへと叫ぶ。
「ピュールならわかるんじゃない? 色んなメゾンのショー行ってるでしょ。モデルいっぱい見てるだろうし!」
「できましたよー!」
 美味しそうな匂いと共に現れた甘そうな笑顔のアンシャ、端正な顔にギュウとシワを寄せるピュール。
「わかるわけないです。ボクはモデルを見てるのではなくて、ショー全体を見てるんですから。ショーにおいてモデルは、あくまでもデザイナーのイメージを表現する舞台装置にしかすぎず……
「はいはい、ピュールに聞いたあたしが間違ってた!」
「この件でピュールは役に立てないってことだな‼︎」
「せっかくわたしが得た足がかりを失ったね」
「なんでボクがダメみたいになってるんですか⁉︎」
「アンシャ、どのドーナツがやわらけーの?」
「そうですね、これはいかがですか?」
 出来立てのドーナツを囲んでぎゃあぎゃあ盛り上がる_MZ_団、眺めてるとなんだか部活を思い出して感慨深くなる。齧ったドーナツは甘くて、生地も中のクリームもふんわりとしていた。これなら早起きの甲斐がある。
「うめー、ありがとさん!」
「ふふ、お口に合ったみたいで良かったです。それにしてもカルミヌスなんて、先程お話した映画の役名と同じですわね」
 ここに来る道中、アンシャの御母堂が主演を務めた映画の話をした。学生の頃、海底で恋人と一緒に観たやつ。
「映画……?」
 救世主が首を傾げ、コルニさんは理解したように頷くと、丸い目でアンシャを促した。
「おかあさま演じる刑事が追う、女流怪盗カルミヌス。普段は全身まっくろけのお洋服で正体を隠して過ごし、盗みに入る時だけ、その名の通り……まっかっかなドレスでやって来るんです!」
「その映画、子供の頃観たな。かあさんが好きでさ……。でも何でその名の通り赤いドレス? ちっともわかんなかったっけ」
 ガイがピュールに目をやると、彼がはぁと目を細める。
……カルミヌスはカーマインという赤色の名の語源になっている、古い言葉です。その映画をモチーフにしてるのなら、カルネさんのファンか、同じく女優を志してる者かもしれないですね……
「やっぱりピュールは物知りで凄いねえ」
「頼れるな!」
「じゃあ全身黒尽くめのヤツ、片っ端から奇襲するね」
「褒め殺しも、手当たり次第も止めて下さい!」
 またしても盛り上がる連中を肴に、冷めても美味い紅茶を飲み干す。今日は戻ったらMSBCの連中のお相手、こう見えてユカリさまのバトラーは忙しいのよ。でもようやく終わりそうな目処が立ったな。
「じゃあ夕飯終わったら迎えに来るからよ」
「はい! お願いいたします!」

 ハルジオさんが_ZA_ロワイヤルに参加してからもう十日目。
 その間にやっと返してもらったスマホに、恋人から届いてたメッセージはたった一言。
『いい子で待ってなさい』
 ああ、やっぱりそうだよねい。嬉しくもあり、恐ろしくもある。
「ハルジオ、やはりわたくしの一番はあなた! 見事にカルミヌスを連れてくるなんて!」
 連日の徹夜で大きなクマを作っちゃいるけど、ご機嫌なユカリさんに纏わりつかれてる様子は満更でもなさそう。変な約束を守る理由が垣間見えて笑いそうになる。
……なかなか強くて骨が折れましたけどね。フェアリータイプを連れていないのに、妙にドラゴンタイプとの戦いに長けていて……
「まあ! あなたを弄ぶなんて……あくタイプかしら」
 リーシャンが転がるような声で笑うけど、今日も黄昏は据わってる。
「そろそろいらっしゃると思うので迎えに参ります」
 重厚なドアがその見た目にそぐわないほど、静かに閉まり、またあのヒールが近づく。
……そろそろお帰りにならないといけないようですね? 残念ですわ」
「そーですねい、迎えも来たんで。この格好も肩凝っちまっていけねえ」
「お似合いになってますわ。けれども……大事なご令孫にバトラーの真似事なんかさせてしまって、お祖父様へ合わせるお顔がありませんの」
……とんでもねえっす」
 よく言うよ、こんな首輪付けといて。でもメガシンカもなかなか面白かったけどな。今度来るときはユカリさんにバレないように来よう。
 広間の時計がごうんと音を立て、再びドアが開く。
 ハルジオさんの後ろにいるのはもちろん、カルミヌスの名の通り、真っ赤なドレスの美女。胸に下がったペンダントにはキーストーンが光っている。
……迎えに来たわよ、カキツバタ。なあーに負けてんの?」
「わりー! 手間かけさせちまったねい」
 一層長く、ツヤツヤにされたまつ毛の奥の金はギラギラに燃えてる。長い髪はまとめられて、後れ毛一本首に落ちていない。オイラのゼイユは今日も最高に美人。
「あら、まさかお姫様が取り返しにいらっしゃるなんて! 素敵なこと……
「人の男隠しといてよーく言うわよ! ここまで来るの大変だったんだから! あんたを負かして気持ちよくイッシュに帰るつもりよ」
……あんたの彼女、かなり美人だけどかなり柄悪いな。ロワイヤルでもめちゃくちゃしてたぞ」
 ハルジオさんに言われるって相当だぜ、でも。
……そこがいーんすよ かわいくて」
「わたくしが勝ったら、ゼイユさまも一週間はお預かりしてもよろしいかしら?」
「はぁ⁉︎ イヤに決まってんでしょ! ほら、さっさとしなさい」
 コートに立つ昂ぶった二人の女。
 さて、オイラのミアレ旅は今日で終わりか延長か。全てはこの美しい怪盗の腕にかかってる、ってこと。