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ぱり
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クリテメ
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新刊「天籟」サンプル(短め)【クリテメ】
新刊「天籟」のサンプルです。クリックくんがいるテメノスの人生のことです。縦書き表示だと本っぽくなるんじゃないかな~
* * *
二十歳の頃だった。
ロイと共に神官として教会に勤めるようになって二年。テメノスは役職も無く、いわゆる新米の神官だった。先輩方の補佐を通じ、礼拝や祭事の意味や執り行い方を学ぶ。それが終われば治癒や加護の魔法を習い、暇ができれば教義の本を読んでいた。
大聖堂の修練場で魔法の手解きを受けた後、テメノスは廊下に見知らぬ人間が立っていることに気がついた。鮮やかな赤いストラ。法衣も高貴な深紅。顔を知らないというだけで、その存在についてはよく知っている。教会の最高顧問にあたる、枢機卿団だ。
視察だろうか。
こんなところ
修練場
まで来てくださるとは、熱心な方だ。
そう思い、修練場の扉を出たところで深く頭を下げた。テメノスは大聖堂から教会へ戻り、今日の勤めを終えるつもりだった。自分と枢機卿が話をする関係にも立場にも無いことは、よくわかっている。
「
其方
そなた
が」
顔を上げ、片足を踏み出したテメノスを、赤い法衣の男が止めた。年嵩で渋い声の男性だ。白い髭は清潔に整えられており、皺のいった顔は厳しすぎず、表情は至極穏やか。そんな人物だった。
「其方が、テメノス・ミストラルであろうか」
「左様でございます」
少し驚いた。数多くいる神官たちの名前を覚えているのだろうか。こんな新人まで?
「そうであったか。なるほど、噂に違わぬ。其方の祈りは清らかであるな」
「
……
お褒めに預かり、光栄です」
噂
……
?
自分の知らないところで自分の話がされているということか。正直な気持ちを言ってしまえば、あまりいい気分ではなかった。が、そんなことを顔に出すほど、テメノスは馬鹿ではなかった。恐らく、今後そう関わり合う人物ではない。丁重に扱って、事なきを得られればそれでいい。ここで粗相をすれば、お咎めはきっと、親愛なる教皇イェルクに向くことになるだろうから。
「今後とも、民のしるべとなるべく、励みなさい」
「はい。その所存でございます」
胸の前で緩く指を組み、聖火の加護を祈る。目を伏せ、開く。枢機卿は何も言わなかった。ただ、満足げに頷かれただけだった。
「失礼致します」
辞去を表明し、微笑んだ。今日、大聖堂で枢機卿にお目見えしたことは、近日中に教皇へ報告しておこう。こういったことは、いつあちらから話題にされるかわからないから。
そうして、テメノスは枢機卿の前を去ったのだった。
「拾い子、か
……
とてもそのようには見えぬ。大したものだ」
1
「やっ
……
と、終わりましたね、テメノスさん
……
」
「荷車一台分とは、思ったより隠し持っていましたね。やれやれ」
「はい
……
あんなにたくさんの扇動文書
……
作るのも大変だっただろうに
……
」
「同情しているの?」
「い、いえ
……
何が彼らをそこまでさせるのかな、と」
同感だ、と率直に思う。テメノスは夜のモンテワイズを歩いていた。事件の調査を共にしてくれた聖堂騎士クリック・ウェルズリーを隣に連れて。
「それは改めて審問に伺います。それまで手厚く勾留しておいてね」
「はい
……
! 日程が決まりましたら、また書簡をお願いします」
「ええ。まあ、遠くないうちに行きますよ」
聖火教会に裁きを──
そんな煽り文句で始まる多種多様な暴動の煽りが、ここ、モンテワイズの古書市で見つかった。それは書物に挟まれ、次々に増え、不特定多数の人間の手に渡る。しまいには大図書館の蔵書の間でも発見され始め、大きな問題へと発展していった。
飛躍した扇動であっても、見るものによっては心を動かされる。聖火教会への不審を抱く。幸いにも暴動には至っていないが、聖火教会がこれを放置するわけにもいかない。
そこで、テメノスが解決に乗り出したというわけだった。
テメノスが旅を終えて一年と少し。落ち着いたかのように見えた世界での、一番大きな事件となった。
その事件の真相を今、突き止めてきた。首謀者、協力者の捕縛と連行、それから、全ての扇動文書の押収。これらを片付け、今夜のところは宿に帰ろう、という具合だった。
テメノスの護衛として抜擢されたのは、隣を歩いているクリック・ウェルズリー。およそ二年近く前になる、教皇殺害から始まった連続殺人事件を共に解き明かした
……
良きパートナーだ。
「連日調査で、お疲れですよね。ゆっくり休んでください」
「君もね。明日は早くに出立するんでしょう?」
「はい。ここに配属中の騎士が数名同行してくれることになっていますので、彼らに合わせます」
連泊中の宿に戻り、すっかり夜に沈んだ廊下を歩く。一週間を超える調査だったせいで、宿の構造も部屋の位置も、足が記憶してしまった。それはたぶん、隣の彼も同じ。
階段を登り、角を曲がって数歩。どちらともなく足を止める。
「
……
本当は、フレイムチャーチまでお送りしたかったのですが」
じわ、と胸に熱が広がる。横目に見上げたクリックの顔は、頬にほんのり朱がさし、実年齢よりほんの少し子どもっぽく見えた。
「また、すぐに会えますよ」
「それでも、ですよ」
瞳を交わす。あどけなく見えていた顔が急に大人びて、夜の色を纏う。彼がこういう顔をするようになったのは、テメノスが旅を終え、聖火の郷に戻ってからあとのことだった。大聖堂警護の臨時増員の時、事件の後始末のため聖堂機関を訪れた時、今日のように、調査に同行してくれた時
……
。
視界が翳る。自分よりも少し背が高く、鎧を着込んだ騎士が距離を詰めてきたからだ。少しばかり鼓動が高鳴る。これから起こることを、テメノスは知っていた。
まるで壊れやすいものに触れるかのように丁寧に顎を掬われ、肩を抱かれる。ゆっくりと、しかし、ためらうことなく唇に唇を寄せられ、自然と瞼が下りる。温度と感触だけを伝え合い、彼の唇は名残惜しそうに離れていった。
「おやすみなさい、テメノスさん」
「おやすみ。明日、見送りには行きますから」
そう言って微笑めば、彼はやっぱり子どものように顔をくしゃりと歪めて笑ってくれた。笑って、今度は強く抱きしめてくれる。もう少し長く、この腕の中に居たい。そう思ってしまうほど、硬い鎧に覆われた胸が好きだった。
彼は聖堂騎士で、自分は神官。性別は同じ。恋をするには、あまりにも不向きだった。だから、気持ちは確かだと認め合っているけれど、互いにそれ以上踏み込まない。言葉にしてしまえば、彼も私も否定するのが正解だと、知っていたから。
二つ並んだ同じ扉に、それぞれ入っていく。ぱたんと閉まる扉の軽い音が、有耶無耶にした短い逢瀬の終わりを告げた。
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ガチ初稿につき、細部変わる可能性があります。誤字脱字見つけたら教えてくれると助かります(他力本願)
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