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山茶花
2026-03-03 21:48:55
8726文字
Public
[シルデュ]サイト限定(健全)
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おるすばん【193SK040】
同棲中のシルバーがお留守番する話/8200字程度/穏やか、甘い
*シルデュ同棲しています(将来捏造)
*デュース口調呼びタメです
*シルバーがひたすらご機嫌でお留守番しているだけです。
*某話との繋がりがあるかは、ご想像にお任せいたします。
以上大丈夫な方はスクロール↓
ジリリリリリ、と鳴る目覚まし時計の音が、うるさい。無意識に手を伸ばしカチリとスイッチを押すと、別の目覚ましが鳴った。
『さっさと起きやがれ、オラァ!!』
「すまないデュース、まだ寝せてくれ
……
」
時計に謝りながら、学生の頃の、今よりもまだ少し高いデュースの声が吹き込まれた時計の声を止める。
すると今度はシーツが剥がれて、止めた目覚まし時計と同じ声がした。
「まーたアンタは、目覚まし時計止めて
……
。シルバー、起きろ」
「ん
……
」
まだ寝ていたい、とシーツの中に潜り込む。そうすると、シャッと音がして、眩しい日差しが俺の目を刺した。
どうやらデュースが寝室のカーテンを開けたようだ。
「朝だぞ、ほら、おはよう!」
「んん、デュース
……
」
「おはようのキスは?」
ようやくのことでシーツから抜け出し、身体を起こす。そうして、デュースの頬にキスをした。
デュースは俺の頭をぽん、と撫でて、顔洗って歯磨きして来い、と言った。
「
……
」
のそのそと、洗面台へ向かう。ほんとに朝弱いんだからな、とデュースの笑う声が聞こえたような気がした。
洗面と歯磨きを終え、やっと冴えてきた頭でダイニングテーブルに着く。俺が朝起きられないから、朝食当番は、いつもデュースだ。
テーブルの上には、目玉焼きとベーコンに、ミニトマトとレタスのサラダを載せたプレート、それから食パンのトーストと、それに塗るためのバターといちごのジャムが置かれていた。俺は食パンにはバター派だが、デュースはジャム派だからだ。たまにクロテッドクリームまで塗っているときもあるが、甘くないのだろうか。
今日の目玉焼きは綺麗な形を保てたようだな。縁起がいい。デュースが目玉焼きに失敗した日は、スクランブルエッグになってることもあるんだ。目玉焼きには、俺は塩。デュースはケチャップ。少しだけ彩りの違う朝食を、いつものようにデュースと食べた。
「どうだ、うまいか?」
「ああ。今日も、うまい。ありがとう、デュース」
「どういたしまして!」
それから、着替えて仕事へ出ようとするデュースを玄関まで見送る。俺たちが住んでいるのは、茨の谷だが(スマートフォンが使えないと困るそうなので、茨の谷でも電波や電気が通っている地域に居を構えた)、デュースの勤め先は薔薇の王国なので、国を跨ぐ移動ができる魔法の鍵を使っての出勤となる。俺もこのデュースが使う魔法の鍵と同じものを、合鍵として持っている。本来は緊急時にすぐ駆け付けるためのものだが、肝心なときに壊れていると困るので、日常的にも使っている。
玄関先で靴のつま先をトントン、と鳴らすデュースの背中を、俺は見つめている。
「シルバーは今日一日、休みなんだっけ?」
「ああ、そうだ」
「そっか。じゃあたまには羽伸ばさなきゃな! 行ってきます!!」
たまにはひとりで贅沢な時間過ごせよ~、とデュースは笑って手を振り、扉の向こうに広がる鮮やかな景色の中へと出かけていく。
「行って来い、デュース。気を付けて」
扉が閉まってしまったあと、もう一度玄関の扉を開けると、そこはやっぱり見慣れた茨の谷の景色で。
本当に行ってしまったのだな、じゃあ今日は俺はほんとうにひとりか、と少し淋しい気持ちになった。
さて、偶の休みだ、どうしようか、と考えて振り向き、リビングに戻ると、ソファに忙しかったらしいデュースが脱ぎ散らかしていったジーンズや、靴下が見つかった。
「まったく、デュースときたら。仕方のないやつだな」
何故か俺はそれが嬉しくなって、いそいそと上擦る声で散らばった服を集め、それから自分のものも持ってきて、洗濯機を回し始めた。さて、洗濯機が回り終わるまで、1時間程度あるな。どうしようか。
そこで俺はいいことを思いついた。そうだ、どうせなら夜食はデュースの好きなものにしてしまおうか。夜食は俺の担当だ、好きにしていいはずだな。
せっかく時間があるのだから、アイツの好きなオムライスを作ってやるのも良い。決めた、そうしよう。
そう思って、すぐに上着を羽織り、冷蔵庫の買い物メモを一度見てから、財布を持って靴を履いた。
冷蔵庫の買い物メモには、『卵と牛乳! 買っといてくれ』と書かれていた。
買い物は、近所の商店街へ行こう。あそこならなんでも揃う。
それから俺は、どこからか春の匂いがする街を歩きながら、何を買おうかと考える。
オムライスにするなら、卵と、鶏肉と。あと最低限、玉ねぎがいるな。
……
きのこも具に入れていいだろうか? デュースはピーマン以外食べられないものはなかったはずだから、きのこは入れても大丈夫なはずだ。
あとは、デュースが最近うまいとハマっていた、紙パックのフルーツティーも買おう。食後のデザートに、プリンも買ってやろう。
主菜はオムライスにするとして、あとは、バランス良く、野菜が欲しいな。それなら、ミモザサラダも作ろう。そうなるとキャベツとレタス、ミニトマトも必要だし、卵に関してはたくさん必要だな。
今日は卵尽くしの晩ご飯にしよう。大好きなデュースが、大好きなものがたくさんで、たくさん喜ぶように。そんなことを考えながらかごに食材を入れていると、ふと声をかけられた。
「おにいちゃん、こんにちは~!」
「はい、こんにちは」
「あらあら、この子ったら。すいません」
「かまわない、元気な子だな」
どうやら、人懐っこい子どものようだな。ばいばいと手を振られたのでばいばいと手を振り返して、店を出た。
きっと卵だらけの食卓に、デュースは喜ぶぞ。そう思いながら散歩がてらに桜並木の帰り道を歩いていると、困った様子の人を見かけた。60代くらいに見える、壮年の男性だ。この方は、何やら脚立の上で作業をしていたようだな。
「何か、困っているのか?」
「ああ兄ちゃん、丁度良かった。助けてくれるかい?」
「かまわない。何をすればいい?」
「いやぁ、この木の剪定をしてたんだけどね、手洗いに行きたくて。だけど相方がいないから、脚立から降りられなかったのよ。ひとりで降りようにもぐらついて
……
」
「そうか。ということは、この脚立を支えればいいんだな?
……
こうか?」
「おう、そのまま頼むよ!」
それから、老爺は脚立から降りると、俺に礼を言った。
「ありがとな、兄ちゃん。助かったよ。お礼に一枝、持っていきな」
「これは
……
桜の枝か。貰ってもかまわないのか?」
「何、今切ったばかりだし、どうせ捨てるもんだ。それに、花泥棒に罪はないって言うだろ」
「粋だな。分かった、ありがたく頂く」
俺は食材の袋と、その桜の一枝を持って、ほくほくとした気持ちで家に帰った。
「ただいま」
玄関を開けて挨拶するも、しん、とした静寂が俺を迎える。そうだ。デュースは今いないのだったな。
いったん荷物を置いてから手洗いなどを済ませ、桜の枝を再び手に取る。
あの老爺には、感謝しなくては。これをテーブルの花瓶に飾れば、食卓が一気に華やかな春の気配になって、デュースも心を和ませてくれることだろう。
既に花瓶に生けてあった、古くなった薔薇の花を処分して、桜の一枝を挿した。うん、いいな。風流だ。
それから俺は買ってきた荷物を分別して、冷蔵庫に入れてしまう。
……
ん、牛乳が切れているな。朝からデュースが飲んだのだろうか。牛乳を帰りに買ってくるように、とデュースに伝えておかなければ。スマートフォンを取りだして、『牛乳が切れている。帰ってから気づいた。買い損ねたので、買ってきてくれ』とデュースにメッセージを送っておいた。これで恐らく、大丈夫だろう。
仮に忘れたとしても、まあ急ぎではない。明日俺かデュースのどちらかが買ってくればいいだけの話だからな。
そんなことをしていると、ちょうど洗濯機が「ピー」と終わったという合図を俺に知らせてくれたので、次は洗濯物を干すことにした。
ちょうどいい。これが終わったら、昼食にしよう。サンドイッチ用の、耳を落とした食パンも買ってきた。
卵をたくさん買いすぎたから、ゆで卵を作って卵サンドにするのも悪くないな。デュースがいつもうまそうに食べているから、俺もついつい卵を食べる機会が多くなってしまう。ん、マヨネーズは買ってきたよな? 買ったはずだ、サラダを作るのに使うし、デュースもたまに使うから
……
。買い物袋の中身を確認すると、ちゃんと1本マヨネーズがあったので、ほっと胸を撫で下ろした。
もしなかったら、デュースへ帰りにマヨネーズを買ってきてくれとメッセージを送らなければならなかったからな。
ベランダへ出れば、春の風が、俺の前髪を揺らす。洗濯ものを順番に干せば、ふわりと洗剤の匂いが香った。
この洗剤は汗ばみや泥汚れがよく落ちるという、デュースお気に入りの洗剤だ。本当にすごいんだぞ、とデュースが言うその効果通りの結果に、はじめのうちは驚いたものだ。
俺の洗濯物と、デュースの洗濯物が混じった景色を満足して見つめ、カラカラと窓を閉めて部屋の中に入る。
次は昼食だな。俺のは適当でいいから、卵サンドを作ろう。ひとりで食べるぶんには、きのこのリゾットだけでも良かったのだが。
今日買ってきたきのこは、オムライスに入れて、デュースと一緒に食べるから、今はまだ使えない。
だから、今日はデュースの顔を思い浮かべながら、アイツの大好きな卵サンドを作って食べる。
キッチンに入ると、炊飯器から米がなくなっているのに気づいて、改めて米を炊いた。
それから、冷蔵庫から卵を2個取ってゆで、ゆで卵を潰して、元々家にあった方のマヨネーズの残りと混ぜていく。適当に調理をこなしていく間、俺は考えていた。
デュースは今頃何を食べているだろうか。お昼は、弁当を作って持っていっただろうか、それともまた薔薇の王国で買った菓子パンやおにぎりなどで済ませてやしないだろうか。おにぎりはともかく、菓子パンでは栄養が偏る。ちゃんと今日の昼は何を食べたか、あとでチェックしてやらないといけないな。
そんなことを考えているうちに、あっという間に卵サンドは作り終えてしまった。
俺はそれを持って、リビングのテーブルに座る。そういえば、デュースのオススメの刑事ドラマが、『サブスク』で見れるのだったそうだな。1話なら、恐らく30分程度のものだ。
……
食事を摂りつつ、1話、見てみるか。
リモコンを取って、テレビをつける。リモコンを使って、『サブスク』の画面に映るカーソルを操作し、デュースがお気に入りに登録していたドラマの1話を再生する。ふっ。俺はデュースと暮らすようになってから、完全にこの『サブスクリプション』というサービスの扱い方をマスターしているからな。ひとりでも、こうして視聴することができるんだ。
そうして、テレビでは刑事ドラマを流しながら、卵サンドを口にする。卵サンドは簡単な食事だったから、ドラマが始まってから10分もしないうち、ぺろりと食べ終わってしまった。
「
……
」
刑事ドラマは佳境に入り、画面の中の刑事が犯人を追い詰めている。そんな緊張感とは裏腹に、俺は、こくりこくりと船を漕いでいた。
「ぐう
……
」
やがて、そうなったことにさえ気づかないまま、意識が落ちる。暖かな春の空気が、部屋でうたた寝する俺を包み込んだ。
……
。
これは、いつの記憶だろう。
学生時代の、俺たちの記憶だ。
『見てください、シルバー先輩。あの星、なんて言うんですかね』
空を指差すデュースに、俺は答える。
『あれはポーラスターだな。俺でも知っている。北の空の同じ位置にあって、ずっと変わらない。旅人が、歩く時の目印にするんだ』
『へえ、不思議な星もあるんですね。他に知っている星はありますか?』
『いや、俺は星には詳しくなくて
……
』
そう答えると、デュースは笑った。
『じゃあ、僕とシルバー先輩のふたりで、星座を作っちゃいましょう! 今夜、ふたりだけの秘密ってことで!』
――
ああ、ずいぶんと懐かしい夢だな。学生時代の、淡い記憶だ。今も愛おしい、幸せな記憶だ。
あの頃のデュースも、幼い頬の丸み、大きな目が可愛かったが、あの頃の俺に、今のデュースも見せてやりたい。
お前がただひとり選んだ恋人は、今やこんなにも綺麗になったぞ、と
――
そんなことを思ったとき。ピー、とけたたましい音がして、俺は目覚めた。
どうやら、炊飯器の米が炊き上がったらしい。俺はソファから立ち上がり、テレビを消して、卵サンドを載せていた皿を片付けた。
「ずいぶん懐かしい夢を見たものだな
……
」
皿を洗い、軽く布巾で拭いて、スタンドに立てる。うたた寝してしまったからか、結構な時間が過ぎていた。
「そうだな。まずは洗濯物を取り込んで
……
。今のうちに、風呂を入れてしまうか」
洗濯物を取り込み、自分のとデュースのを分けて軽く畳む。
「
……
ん? このシャツと靴下、俺のものだったか、デュースのものだったか
……
? あとで聞かなければ
……
」
洗濯を畳み終えると、風呂掃除を済ませて、湯船に湯を張ることにした。
我が家の風呂は、湯船を掃除さえしてしまえば、タイマーをかければ求めた時間に湯船にちょうどいい量のお湯を張ってくれるのだ。湯船をスポンジと洗剤で洗い流しながら、便利な世の中になったものだな、と俺は思う。
「おっと」
シャンプーを倒してしまった。ボトルの中身は減っているだろうか。なんて、そんな疑問を持ったら未だに石鹸で全身を洗っていることがデュースにバレて、シャンプーくらい使えと言われてしまうな。そのときはどう言い訳しようかと思いながら、シャンプーのボトルを立てた。
「さて。デュースが帰って来るのは、20時前後だから
……
そのくらいにしておくか」
食事の時間も考えると、入れたての風呂に入るなら20分後くらいが妥当だろうと、20:20にタイマーをかけ、風呂を出た。
今日はデュースが疲れていなかったら、一緒に風呂へ入ろう。今日の風呂は、気合を入れてピカピカにした。アイツの好きな、海の匂いの入浴剤も買ってきたんだ。だから、一緒に入りたい。
さあ、次は夕食の準備だ。今日はせっかくの休日だから、いつものように簡単に済ませず、手塩にかけて作ってやらねばならない。
今朝買ってきた玉ねぎや鶏肉を包丁で切り、オムライスに相応しい姿にしていく。炊き上がった米と混ぜてフライパンで炒めれば、良い香りが辺りに漂った。塩胡椒で味を調え、こんなものかと頷く。俺はもう少し胡椒が効いている方が好きだが、デュースは甘党だからな。少し胡椒薄めの、これでいいんだ。俺の胡椒は、あとで直接かければいい。
「ケチャップはどこに置いたか
……
あった」
オムライスに使うのならたくさん必要だろうと、小さめのボトルを1本買ってきたから、量はこれで十分なはずだ。
ケチャップを混ぜ合わせて、チキンライスを完成させる。それから俺は一度皿にチキンライスを盛って、被せるための卵を焼き始めた。
……
が、これはなんだかうまくいかなかった。卵が破れて、かけたライスが顔をのぞかせてしまったのだ。
「
……
」
そういえば、前にデュースが自分でオムライスを作っていたときにも、卵はこうして破れていたな。みんな破れるものなのかもしれない、と思って、最後にケチャップで印をつけることにした。
以前、リドルが『無機物に顔を書くと、可愛らしさというか
……
親しみが出るよね』と言っていたことを思い出して、顔を書いてみようとした。なんだか、おぞましい出来になった。
……
よく見ればこれはこれで愛嬌がある、と親父殿なら言ってくださるだろうな。何故こうなるのかと首を傾げつつ、俺はオムライスの皿を食卓に運んだ。
すると、ちょうどそのタイミングで、デュースが帰ってきた。玄関の鍵を回す音が聞こえたんだ。
「ただいま、シルバー!」
「お帰り、デュース。ちょうど今、夕飯ができたところだ」
デュースからのただいまのキスを頬に受け、お帰りのキスを頬に返す。
「道理で、いい匂いがすると思った! 帰り道、住宅街だからさ~。よその家のご飯の匂いがして、腹減ってたんだよ」
靴を脱いで玄関へ上がりながら、デュースはにこやかに話す。
……
今日は、そんなに生傷は増えていないし、いつもと変わらない帰りの早さだな。
今日の仕事に危険なことはなかったようだと、少しだけほっとして、俺はデュースへ促した。
「さあ、手を洗ってきてくれ。さっそくご飯にしよう」
「はいはい、今行くよ」
そうして、ふたり食卓につき、食事を摂る。
「あ! オムライス! 作ってくれたのか!? ありがとう!! てか今日豪勢だな、何かの記念日だったっけか!?」
「ふっ、礼には及ばない。作りたかったから作っただけだ」
嬉しいな、いただきます、とデュースはにこにこと笑って、オムライスを口に運び始めた。
俺も、それに倣って、いただきますと合図をしてデュースと共に食事を始める。
「これ、ケチャップがよれてるけど、なんかのマーク書いたのか?」
「それは
……
顔を書こうとして、失敗した」
「はは。卵もやぶけちゃってるけど、大事なのは味とか愛情だもんな」
ありがとう、シルバー。可愛いよ、このオムライス、とデュースは笑う。だが俺は首を傾げた。
「
……
卵は、みんな破けるものじゃないのか? この前、デュースのも破れていた」
「いや、それは僕が下手だっただけだ
……
本来は破けない
……
」
「そうだったのか
……
」
談笑しながら、二人の暖かな食卓は進んでいく。食べ終わって食器を片付けていると、デュースが尋ねた。
「あの桜の枝、どうしたんだ? 花屋にも行ったのか? 散歩してきたんだな」
「ああ。花屋ではなく、人助けをしたら、礼に貰った。桜並木が綺麗だった、また一緒に見に行きたい」
「茨の谷の桜並木は綺麗だもんな。分かった、春のうちに休みが被ったら見に行こうな、約束だ!」
今日は自分のために時間使っていいって言ったのに、いろいろやってくれたんだな、と笑うデュースに、俺は主張する。
「風呂も入れたぞ、デュース。入浴剤も買ってきた。お前の好きな、海の匂いのやつだ。忘れていたが、冷蔵庫にプリンもある。買ってきたんだ」
すると、皿を洗う俺の隣で食器を拭いていたデュースは、俺の頭を撫でた。
「ははっ、本当にたくさんやってくれたんだな」
いい子いい子と撫でられ、俺は、少し目線を逸らした。
「
……
俺は子どもではないぞ」
「ごめんごめん」
それから、俺たちは共に風呂へと入った。デュースの好きな、海の香りがする入浴剤を入れた風呂に。
「風呂、熱くて気持ちいいよ。シルバーがちょうどいい時間に入れてくれたお陰だな」
「タイマー機能も、使いこなしている」
「はは、なんで得意げなんだ」
そうして暖まったあとは、寝間着に着替えて、リビングでゆったりと過ごす。デュースと過ごす、団欒の時間だ。
この時間はいつも、あっという間に、矢のように過ぎる。楽しい時間は光の速さで過ぎるというのは、本当だな。
「今日はどんなことして過ごしてたんだ?」
「買い物をしたり、散歩をしたり、家事をこなしていた」
「そっか。楽しかったか?」
「とても、楽しかった。いろんな人と話をして、ずっとお前のことを考えていた」
「なんだよ、それ。ったく。自分のために時間を使えって言ったのになあ」
「ちゃんと、自分のために使った。楽しい休日だった」
なら良かったよ、とデュースは笑う。もうすぐ、明日のために寝る時間が迫っていた。
「今日は一緒に寝ようか、シルバー」
「いいのか」
「疲れてないしな」
俺たちには、仕事で疲れている日は別々のベッドに寝るというルールがあった。今のところ、そのルールが使われた回数は、共に寝る回数よりは少ない。
「なら歯磨きなどの支度を終えてくる」
「あ、僕も歯磨こうっと。ブラシと歯磨き粉取ってくれ」
デュース用の、歯ブラシが立てられた青いマグカップを差し出す。俺は自分用の白いマグカップで歯磨きをしてしまった。
順番交代で洗面台を使い、ようやく寝る支度が整う。
「デュース」
ベッドに入り、隣のスペースを空けてデュースを呼ぶ。するとデュースは今行くよ、と苦笑いしながら俺の隣に入った。
「電気消すぞ」
「ん」
俺は手を伸ばしてリモコンのスイッチを押し、部屋の照明を切る。ベッドに入り直し、隣に寝そべるデュースを抱き寄せるように腕を乗せると、デュースは笑いながら寝返りを打って俺の方に向き合った。
「シルバー。今日はいい日だったか?」
「ん。
……
いい、日、だった
……
」
「はは、そっか」
ベッドへ横になるなり、俺の身体を眠気が襲ってくる。デュースのくすくすと笑う声を聞きながら、意識が遠のいていく気がした。
今日は何も起こらない、なんでもない一日。だけど大切な、間違いなくいい日だったと言える、俺の思い出の一日だった。
*おしまい
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