相合傘

※Dom/Subユニバースパロ お題「相合傘」(2026/02/08無配)

 つむじの周りにだけ頑固な癖のある白い髪が、雨粒をまとってきらきらと透ける。
「そーちゃん、ちゃんと傘ん中入って」
 環はひとつしかない傘からふらふらと出ていこうとする相方の首根っこをつかんだ。打ち上げから帰るタクシーの中でも壮五はずっとふらふら揺れていて、時折環の肩に額をぶつけては「いたい」とむくれていた。
「やだ! そーちゃん傘いらない」
 この酔っ払いめ、とにらめば壮五も負けじとにらみ返してくる。機嫌がいい日ならくすくす笑って絡みついてくるのに、今日はどうも機嫌が悪いらしい。
「もー、なんで入んねえの。風邪引くよ」
「だってそーちゃんが入ったらたーくんがはみ出る。はみ出たら濡れちゃうのに」
 責めるような声とともに、ぐいっと左腕を引っ張られた。はずみでビニール傘が揺れて、露先から透明な雫が散る。
「しょうがねえじゃん、傘いっこしか持ってねえもん。別にいーよ。俺めったに風邪引かねえし、ちょっと肩濡れるぐらい――
「〝おいで〟」
 そのコマンドが放たれた瞬間に、アスファルトをよどみなく流れる雨水が、視界を覆うビニール傘が、つややかに潤んで輝きはじめる。
環は口をつぐんで傘の中におさまった。
「ふふ。〝よくできました〟」
 その言葉が彼の声で紡がれるとき、この世を構成している言葉の中で、それが一番きれいだと思わされる。
……もー」
 足どりはおぼつかないくせに、コマンドだけは間違えない。腰にまわされた手はしっかりと環を引き寄せる。ずりぃな――環は内心でそうぼやきつつ、黙って歩幅を合わせた。
「相合傘の中って、相手の声が一番きれいに聴こえんだって。クラスのヤツが言ってた」
 雨粒がぱたたぱたたと傘を叩く音に耳を傾けながら、静かになった壮五に話しかける。
「じゃあたーくんおうた歌って」
「いーぜ。そーちゃんも一緒に歌お」
 揺られるようなリズムで、もう何度も、ふたりで擦り切れるほどに歌ったうたを、ささやくように歌う。静かな住宅街を歩く傘の中、それは密やかに響いた。
「ふふ」寄り添った体が揺れる。横目で見ると、壮五の頬は先ほどよりも赤い。
「たーくんの声はやさしいね」
 そう言う壮五の声のほうが優しい、と思う。
「そうかな」
 思わずぽつりと呟きがこぼれた。
「あーっ、もしかしてたーくんそーちゃんのこと信じてない⁉︎」
 突如雨音がかき消える声量で叫ばれて、「うわ」と耳をふさぐ。近くのマンションの窓がパッと明るくなるのが目に入って焦る。
「たーくんは! 世界で一番やさしい!」
「分かった、分かったから黙って。この酔っ払い、頑固野郎……!」
 こうなった壮五は言っても聞かない。毒づきながら傘を傾けて、ふたりが濡れない角度を探す。
 濡れた髪をきらきらさせたまま、壮五は不服そうに唇を尖らせる。それでも環の腰にまわした手だけは離さなかった。