白馬は無くても

ぱじまさんお誕生日おめでとうございます🥳👏🎉

「アンタ、来てたのか! 」
不意に背後から聞きなれた声に呼び止められ、振り向く。そこにはダンシング・グリーンがにこやかに笑い、手を振りながらこちらに近づく。
「ええ、まあ……
特別仲が良い訳でもなく、悪い訳でもない。普通の関係だが、今日はどこか彼の距離は近く感じる。
彼は目立つからこそ、その距離感を間違えれば変な噂がたってしまう。程よい距離感を保つため、一歩後ろに下がる。
そもそも私には本命の相手がいるのだ。彼に誤解されたり嫌われたりしてしまったらとてもじゃないが堪らない。
「あ〜そういやアンタ……
先程までのにこやかな笑顔から一転。急に真剣な瞳で見つめてくるもので、一瞬ドキッとしてしまった。
「ザ・タイラントのこと好きだったよな……? 」
心臓が飛び出るかと思った。その事は誰にも言っていないはずなのに。バクバクと音を立てる心臓。顔が熱くなるのを必死に誤魔化すため顔を背けた。
ダンシング・グリーンはシーっと指を立ててそのまま自分の口に当ててウインクしてみせる。
「大丈夫だって、誰にも言わねえよ」
彼は普段こんな感じだが、実際は思った以上に真面目な人間だからこそ、信用は出来るだろう。少し頬を膨らませて目を合わせれば、「そうそう」と何か思い出したように笑って見せた。
「アンタに伝言あるんだったわ」と笑うと


「その圧政者様がずっとアンタを探してるって」


◇◇◇

息を切らしてただただ走り抜けた。
ダンシング・グリーンに教えてもらった彼の部屋の番号。
彼が待っているという居住殻に。

「はぁ……はぁ……
息を整え、まっすぐ見上げた先に伝えられた部屋の番号。同じような棟が並んでいるが、間違っていないはず……
震える手でインターホンを押した。数回の呼び鈴の後、スーッと自動ドアが開かれた。
現れた自分の倍近くあるであろう背丈、見慣れた顔と目が合った。
その相手は珍しく目を丸くし、こちらを見つめる。その頭にはタオルが被せられ、しかもボディソープだろうか、いい匂いが漂ってくる。
「な、なぜ貴様が……
「あっ、と……あなたが私を探しているってダンシング・グリーンさんから……
ダンシング・グリーンの名を出した瞬間小さく舌打ちする。が、呆れたようにため息をつけば「30分後にモザイクコーヒーに迎えに行く」とだけ伝えて閉め出されてしまった。
……えっ」
その言葉がぐるぐると頭の中をずっと巡る。

迎えに……行く?

その言葉がずっとこだまするのだった。

◇◇◇

タイラントに指示されたモザイクコーヒーでちんまりと待っている。もうすぐ約束の30分になろうとしているが、なかなか姿を現さない。
やっぱり忙しいのかな……と期待していた自分が馬鹿らしくなり、帰ろうと立ち上がった瞬間──……

「あれ?こんな所でどうしたの? 」とまたまた聞き馴染みのある可愛らしい声に声をかけられ、振り向くとそこにはハニー・Bがフラペチーノを啜りながら立っていた。
「えっと……
訳を話そうとするが少し躊躇った。彼が簡単に約束を破るとは思えない。だけど、なかなか来ないという事実が悲しさを増していく。
ぐっと掴まれた胸を誤魔化すように拳を握れば「もしかして、タイラントちゃん? 」とまさかの名前を出されたのだ。
「なっ、んで……
「タイラントちゃんなら下の階段のところで囲まれてたから、心配なら助けに行ってあげて☆」
まさかの情報提供に「ありがとう」と伝えればハニー・Bはニッコリ笑って手を振って見送ってくれた。

「上手くいくといいね☆」

ネクサスアーケード方面に向かう階段近くからキャーキャーと声が女性たちの黄色い声援が聞こえてくる。まさかと思い、こっそり覗き込めば、女の子たちよりも飛び抜けて見えるタイラントの姿が見えた。
ファンの子たちだろうか、皆が皆タイラントにべったりではないが割と近い距離で眺め、話しかけている。対してタイラントは手出しはしないが、焦った様子で牽制しようとしている。
(かっこいいからなぁ……)と自分一人のものではないことを自覚すると泣きそうになった。

私が勝手に好きなだけだから……

自然と涙が溢れ出ていた。
すると、「現統一王者! 」と空気を震わせるほどの声量がここでの肩書きを呼ばれ、思わず涙が止まった。
タイラントはこちらをどこか不機嫌そうに見つめ、さらに叫ぶ。
「なぜ泣いている! 」
そう言うと、大声に固まった女の子たちからそっと抜け出せばこちらにズカズカと近寄ってくる。
その圧に思わず足がすくんでしまった。
いつもの闘士の服ではなく、灰色のスーツに身を包んでおり、なんとも新鮮なものだったが、やはり整った顔立ちとスタイルが良いとなんでも似合うなぁとぼんやり考えていた。
その手には赤いバラの花束が握られており、目の前に立てば見下ろす。その薄紫の目としばらく見合うと彼はすっと目の前に跪き、その手に持った花束を差し出したのだ。
「えっ」
「貴様今日が誕生日なのだろう」
突然の言動に理解が追いつかなかった。イケメンが……自分の前で跪いて花束を差し出している。
夢でも見ているのだろうか。
「は、はい……
確かに今日は誕生日、であるがなぜ彼が知っているのかを聞く余裕はなかった。
ただただ目の前に広がる光景を理解する方が時間を要した。
彼はふっと口角を上げて笑うと、
「貴様が生まれたというこの日はめでたいことだ。誕生日おめでとう」
まさかの祝いの言葉にぶわっと涙が溢れ出る。歪んだ顔で、情けない顔だけれど、それでも差し出された花束をそっと受け取り、胸にだき寄せれば不意に体が浮き上がった。
「へっ!? 」
「これで終わりだと思うな」
姫抱きされていることを理解したのはしばらくしてから。耳元で囁かれた言葉の方が頭を占めている。

悲鳴に近い声を遠くで聴きながら逞しい腕に抱かれ、その場を2人は去った。