雨の日

庭師+画家 雨の日のお迎え
#にわとがワンドロライ #にわとがwebオンリー2026 お題「雨」「トランプ」「食事」 制作時間1h45m

 雨の日は仕事がない。
 さすがに三日も降られると、手持ち無沙汰になる。庭師は木製の台に鋏を置いた。作業小屋には、道具の手入れに使う油の匂いがこもっている。
 雨は止む気配がなく、庭園全体がしっとりと濡れていた。たまにならこんな日も歓迎だが、こう毎日降られてはいいことなどない。植物は根腐れするし、病害や害虫の原因にもなる。
 しかし、自然相手ではどうしようもない。雇い主の貴族からは、雨の日はいつでも帰っていいと言われている。今日はさっさと帰って、同居人とトランプでもするか――
 ぼんやりと窓の外を眺めていると、門扉の向こうに見慣れた赤い髪がちらついた気がした。見間違いかと思って目を擦ると、今度ははっきりと見える。慌てて外套をひっつかみ、門へ向かった。
 同居人――画家は、黒い傘を差して立っていた。庭師が走り寄ると、きゅっと顔をしかめて傘を差しかけてくる。
「こら! 傘忘れてったろ」
「違う違う、わざと置いてったんだよ。お前が買い物に行くときに要るかなって」
 画家に早口で詰められ、慌てて顔の前で手を振る。家に一本しかないその傘には、ところどころに当て布がしてある。
「俺は外套かぶって走ればいいからさ」
「ダメだよ、風邪ひくよ」
 画家はしかめ面のまま譲らない。庭師は肩をすくめて手を差し出した。
「来てくれてありがと。俺が持つから貸して」
 傘を受け渡す瞬間、画家がふと思い出したように周囲を見回した。雨で煙る街を見上げ、目を細める。
「雨の日って、いろんなものの輪郭がぼやけて、いつもと違って見えるのが楽しいよね」
「んー」庭師は濡れた並木をちらりと見た。「……確かに俺も、葉っぱが濡れていつもと違う匂いがするのは好きかも」
 水溜まりのできる場所や石畳の傾き――雨の日は地面の癖がよくわかる。
 水溜まりに足を突っ込みかける画家を横から引っ張り、足元を確かめながら歩く。
「帰ったらカシノで勝負しようよ。で、勝ったほうが食事の用意をする!」
 画家は楽しそうに笑い、両手でトランプを切るしぐさをしてみせる。
「じゃあ結局、食事の用意するのは俺じゃん」
 つられて口元がゆるむ。家に帰ってからも、やることは尽きない。
「あー、言ったな! どうせ途中で何点取ってたか忘れちゃうくせに」
「それはお前もだろ」
 二人とも負けず嫌いなのに、遊んでいるうちにどっちが勝っていたか忘れてしまう。
 傘の下で夕食の献立を話しながら、ぬかるんだ道を、いつもより足取り軽く歩いた。