Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ゆうり
2026-03-02 23:46:04
6053文字
Public
Clear cache
それは、泡沫のような。
事後話第2弾ヘクが逃げちゃう両片想いから揉めるヘクジェラ話。
可愛いけど男前な右が好きだとか某コミカライズの好き主従CP台詞を言わせたかったとか色々癖があります。
ヘクがヘタレ過ぎるのどうかと思います。パス無くてもギリ良いかなという内容です。
こんな柔らかで幸せな朝を迎える事が出来るなんてきっとこれが最初で最後だと。
ヘクターがふと目を覚ますと視界に入るのはずっと触れることを願っていた癖のある赤毛。
まだ覚醒しきらない意識のままその赤毛に触れ、伝うように耳朶を通り、成人しているとは思えないまろい頬に触れた所で数時間前にあった事をなんとはなしに思い出した。
寝酒でも一緒にどうかとジェラール皇帝陛下に自室へと誘われ城下の酒場では取り扱いすらなさそうな上物の酒を勧められ、たわいも無い話をするうちに船を漕ぎ出したジェラールの身体を支えて寝台の方へと運んだまでの記憶はヘクターの中でも鮮明に残っている。
問題はその後の事。
横たえたジェラールに腕を引かれたもののその身体を押し潰す訳にはいかず、ヘクターは既の所で自らの腕で支えることが出来た。
「っ...!ジェラール様大丈夫です
…
っ!?」
ジェラールは軽い酩酊状態だったので何事かあったのかと焦るヘクターの首にかかる熱い手のひらとその腕。腕で自らを支えている事もあってそれに逆らう事も出来ずにヘクターはただ受け入れるしか無い。
ヘクターがそのままの状態で動けずにいると耳元に細い吐息と共に夢か幻かと思うような言の葉を投げ掛けられ、ただそれだけの事で目の前の高貴なる人の唇に自らの物を重ね合わせそのまま全ての箍を外すに任せてしまった。
君が好き、とたったそれだけの言葉を耳の奥に直接吹き込まれ、酒の影響によるものか潤んだ新緑の瞳を見つめただけで。
果たしてこのままヘクターがこのままこの場所にいていいものか。
昨夜のジェラールもいつも通りのようでそうでは無かった。今思えば杯を交わしている最中はどことなく不安気なような、それでいて覚悟を決めたかのような表情も見せていた。
もしかしたら今回の事は何事も無かったかのように秘すべき事なのではないだろうか。
バレンヌ帝国の皇帝が傭兵相手にこのような関係に落ちるなど醜聞の的でしかない。
これは己の中にのみ推し留めて、出来る事ならその記憶すら時間とともに消し去らなければならない。
そう思うのに。
その想いを断ち切るように指に絡めていたジェラールの髪を解き落とす。
この髪の柔らかさを、肌の滑らかさを、せめて記憶の奥底に沈めておけたらいいのに。
ヘクターは疲れ果てて深い眠りに落ちていたジェラールの身支度を整え皇帝私室を退室した。
扉の外で警護の任に就いているであろう兵にはなんと誤魔化すべきかと悩んだが、居るべき場所には誰も居ない。
「不用心すぎんじゃねえのか
…
?」
独り言ちるが皇帝陛下に不埒な事を働いた自分こそが一番に排除されるべき人間だという事に気が付き頭が痛い。
明日もいつも通り皇帝陛下の護衛という任務があるので否が応でもジェラールの御前に上がるしかないというのに、その護衛がこの体たらくでは。
今夜はもうまともに眠れそうにはなかった。
ここまで寝覚めの悪い朝は人生で初かもしれないとヘクターは思う。
本来自室の寝台で睡眠が取れるなどマシなほうで、野宿どころか任務で細切れな仮眠を全く休まらない体勢で取っていた事だってあるのに。煮え切らない感情を抱えたまま不安という沼に漬け込まれた状態の方が遥かに辛いと感じるとは。
昔のヘクターであればこんな事にはならなかったのだろう。今のヘクターが抱えている物だからこその不安だ、だが。
「わかってる。あれは、夢でも幻でも無い」
絶対に忘れたくない、自分のした事にも後悔は無い。
ただ許されるのであればあの人をこの手に抱いた記憶だけでも残させて欲しいと思う。
ヘクターはなかなか踏ん切りのつかない気持ちに何とか蹴りを付けて城内の皇帝私室へと向かう事にする。
これまではこんな事で悩む事など無かった。一晩限りの女なんて両の手でも数え切れない程だ。
ただ、あの方だけは同じ様にしてはいけなかったのに理性の歯止めが効かなかった。
崩れてなるものかと日頃から築いていたはずの壁は愛しく想う人の一言で粉々に砕かれてしまった。
「オレってこんなに弱かったか
…
!?」
ヘクターは思わず廊下の途中で座り込み頭を抱えてしまう。何とかして重い腰を上げ部屋を出てきたというのにこんなに早く折れるとは。
「おい、こんな所で何やってる。邪魔だ」
「ジェイムズ、そう言ってやるな。まあ邪魔は邪魔だろうが
…
」
「うるっせえよ!悪かったな今退くわ!」
日頃良く聞く2つの声を背後に感じてヘクターはやおら立ち上がる。振り返ってみれば遠征にも同行する機会の増えたジェイムズとベアだ。
「なんだ、体調でも悪いのか」
「そ、ういう訳じゃねえけど
…
」
ただ行く先のお相手に合わせる顔が無い。ただ昨夜の事をこの2人に洩らしたら多分自分の命が縮むか失っても文句は言えないだろう。
「そういえばジェラール様も今日は少し元気がなかったな、考え事をしているというか
…
」
「え?」
「お前なにか心当たりはあるか?」
そうベアに聞かれてヘクターは内心冷や汗が出た。多分顔にも出ている自信がある。
沈黙は金とかいう言葉をどこかで聞き齧った記憶があるがそれで押し通せたらこんなに悩んでいない。
2人の反応を見れば寧ろ沈黙は肯定の意味合いで取っているようにしか見えない。
「お前の事を今殴っておいた方がジェラール様の為になるか?」
「ジェイムズ!ちょっと待て抑えろ」
ジェイムズの握られた右の握り拳が後ろに引かれた時にベアがジェイムズの腕を抑えて止めた事でその拳が即ヘクターに入る事は避けられたが、このまま何の弁明もしないままだと時を置かずに食らうだろう。
「ヘクター!さっさとジェラール様の元に行け。これ以上あの方の顔を曇らせるなよ」
ベアの助け舟で当座の危機は凌げたとはいえ、このままジェラールの元にヘクターの顔を出せる筋合いが果たしてあるのかと。
「クソ...ッ!何にしても覚悟が決まってないオレの所為だろが...っ!!」
今更ながら自分の弱さと覚悟の無さに辟易しながらもヘクターは皇帝自室に急ぐしか無かった。
皇帝自室前の護衛達に許可を取り、ヘクターは震える手で扉を叩く。
「ジェラール様、オレです。ヘクターです」
反応が怖くてここを開けてもいいかといつものように気軽に尋ねる事も出来ない。
もし返事すらして貰えなかったら。
祈るような気持ちで扉に手のひらを当てていると突然扉が内側に開かれヘクターは思わず体制を崩した。
「な
…
ッ!?」
扉が開かれたことで宙に浮いた手のひらを内側から伸びてきた手に取られそのままヘクターは室内に引き込まれる。ヘクターの身体が室内に入った所で扉は閉じられ、部屋に引き入れた人物の方に顔を向けようとしたその瞬間右頬に軽い衝撃が走った。
「え?」
突然の流れに巻き込まれて混乱する頭を立て直してヘクターが前に向き直ると、ヘクターの頬を叩いたその右手を抑え顔面を蒼白にして震えるジェラールの姿があった。
「ジェラール様」
「ど、して?」
新緑の瞳を瞼が隠すと涙が頬を伝う。こんな状況なのにそれを美しいとヘクターは思ってしまう。
ただ呆然と立ち尽くしながら。
「どうしていてくれなかったの?嫌、だった?」
そんなわけが無い。ずっと触れたかった貴方に触れられて夢みたいだと思った。
「君の返事が聞きたかったのに、私が目覚めた時にはもう君はいなくて」
俺がここに居てはいけない、そう思ったから逃げ出した。
ヘクターを受け入れ疲れ果てて深い眠りに落ちた愛しく想う人を残して。
「断ってくれていい。せめて、返事を聞かせて。そうしたら君を諦められる」
自分がこの方に恋慕の念を抱いている事を認めていいのだろうか。
ジェラールは昨夜から受け入れる覚悟を持っての行動だったのだろう。軽い酔いはあったのだろうが勢いを付ける程度のものでその目の輝きは強い意思を持ったものだった。
ジェラールは完全に顔を伏せるほどでは無いがヘクターと目を合わせるのが気が引けるのか視線が合うことは無い。それでもヘクターの返答を受け入れる為なのか、ただ前を見据えて。
「俺の想いは埋めようと思ってました。昨夜の事は箱に閉じ込めて鍵掛けて。だって、こんなの許されるはずが無いでしょう?」
は、とヘクターからは思わず乾いた自重した笑いが零れる。自信過剰だった自分がこんなにも弱く卑屈な男になるだなんて思いもしなかった。
バレンヌ帝国の唯一の血族であり、その血を繋ぎ可能性を残す為には妃を迎える必要もあるだろう。正室を持ちつつ妾をも持つ皇族の話もなんの不思議でもないがその相手が平民出の職業傭兵なんて話は論外だ。
「アンタにはもっとちゃんとした相手が、陽の下で一緒に居られるような人のが」
皇帝として玉座に座するジェラールの左に正しき血筋の皇妃があればそれだけで国民は帝国の安定と未来に思いを馳せるだろう。
自分もそうあるべきだと分かっている。なのに。
いつもなら視線を合わせて自信を持って自分を見据えてくるジェラールは未だにヘクターを真っ直ぐに見ようとはせず、緊張からか震える左手を右手で抑えて耐えているようだ。
この人はこうして覚悟を持って身一つでぶつかってくるのに、自分は心にも無い出任せをして。
でもジェラールが平穏に過ごせるのであれば、その方が良い、はずで。
「.....嫌だ」
「へくた...?っ!?」
ジェラールの震える左手首を捕らえてそのままヘクターの腕の中に引き込むとそのまま離さないとばかりにぎゅうと強く抱き締める。
「思い出になんて...そんなの、出来るかよ...ッ!!」
誘われたから抱いた訳じゃない。
ずっとあの髪にあの肌に触れたいと、この人が愛しいと思っていたから止まれなかった。
「貴方を、愛してるんです」
ヘクターは抱き締めていた腕の力を緩め、ジェラールと目を合わせてゆっくりと告げるとジェラールの潤んだ瞳からぽろりと1粒の涙がこぼれ落ちる。それを指で掬いとると何故か熱く感じた。
「ほんと、に?」
ジェラールが震える声でそう呟く。昨夜逃げてしまったヘクターの行動を考えたら信じられないのも無理はない。これはヘクターの弱さによる失態だ。
「貴方の事を愛するのに資格がいるって、自分じゃ無理だって逃げたんです。貴方が俺を求めてくださったのに」
普段は温厚知的と評される事の多いジェラールだが実際の所は意外と革新的で停滞する事を良しとしない。
ヘクターのように自分の想いに蓋をする、なんて事をせず振られる覚悟を持って正面から。
「ほんと、アンタはカッコ良過ぎて
…
改めて惚れ直してます」
ジェラールに忠誠を誓った時に大きく変えられてしまったと思っていたはずなのに、ジェラールの一挙一動に今でもヘクターは驚かされる。
1粒こぼしてからは堰を切ったように涙を溢れさせるジェラールの姿もこんなに可愛らしい人が現世に居ていいのかと、そんな人がヘクターの腕の中に居てくれるのかと、何よりヘクターの事を好いてくれているのだという事にも未だに夢か現からと思わなくもないが腕の中のその身体の熱さも髪の柔らかさもこれが現実だと伝えてくる。
この人を主君としてではなく、唯人としてお側にありたいとそう思うのだ。
これから執務だというのに泣かせてしまったジェラールの瞼は腫れてしまいこのまま人前に出すにはジェラールの名誉に関わる。
ジェラールをソファに座らせ室内に置いてあった水差しから布に水分を移した物で涙を拭き取り冷やしてみるが、付け焼き刃にもならなさそうだ。
「すいませんジェラール様
…
水の術を習っときゃ良かったな」
自分が戦う上では補助になる地属性術で十分だったが、今後は考えた方がいいのかもしれないとヘクターが考え込んでいるとジェラールの右手がヘクターの右頬に触れてくる。
「私もいきなり君の事叩いてしまったから
…
まだ痛い?」
「全然です。これのおかげでオレの目が覚めました。アンタの方が痛かったでしょう」
昨夜は無理矢理抱いてしまったようなものだ。男を抱くなんて初めての事だがそんな簡単に出来るような事では無いはず。それくらいは経験がなくとも下世話な噂で入ってくる。
「ん?」
そこで改めて疑問が生じた。
昨夜思わずヘクターが本懐を遂げてしまった事があまりにも恙無く過ぎるのだ。ということは、まさか。
とジェラールの顔を見ると瞼と同様頬も赤くしている。
「あの、ね。昨夜はそのつもりで
……
準備を」
「はあ!!?」
「あっ、あ!その、もちろん自分で
…
!!」
そこでもあるけどそこじゃない!とヘクターは叫びたくなった。
高貴なるこの方が自分に夜這いのような物をかける為に自分自身で準備、という事はと考えるとヘクターにとっては頭を抱えて後悔する事ばかりしか思い浮かばない。
「だから今日も午前中は公務の方は休みにしてて
…
午後までには少し戻るんじゃないかな?」
「
…
準備周到過ぎませんか?」
文字通りヘクターは頭を抱えるしかなかった。ここまで主君にお膳立てされて自分の想いを完遂していただなんて男としてどうなんだ自分。
言い出したい事は沢山あるのに頭を抱えて唸るしか出来ないヘクターの頭をよしよしとジェラールが撫でてくる。情けない事この上ないはずなのに、こうやってされる事が擽ったく嬉しいとも思ってしまう自分は重症だ。
「私もね全力でぶつかったとしても君には断られると思っていたんだ。それでももしかしたら、というのもあったし
…
その
…
ね」
ヘクターの髪を指で梳きつつジェラールがその先の言葉を言い淀むので、ヘクターは重い頭を上げてジェラールの顔を見上げるとジェラールは覚悟を決めたようだった。
「君に一度でも思い出を作って貰えたらそれだけで良かったんだ。それだけ貰えたらもう、私は何も要らないって。
……
っえ、ヘクター
…
!?」
そう言って軽く笑うジェラールの身体に縋り付くように抱きつくしか無かった。
(なんで俺は忘れようなんて思えたのか、この人の覚悟を、想いを)
貰うばかりで何も返せていないくせに。
この人の前に跪いたその時から。
焦るジェラールの身体を膝の上に抱き直し、正面から見据えて伝える。
「次の約束を、してもいいですか?」
「約束?」
「貴方に渡したい物が沢山あるんです。貴方に貰ってばかりじゃ嫌なんです」
「次、を貰えるの
…
?」
「優しくして甘やかして可愛がりたいんです、貴方の事を」
あの時記憶の奥に沈めておけたらなんて思っていたその赤毛に触れられるこの僥倖をもう手放す事はしないと強く心に誓う。
「
…
そんなに貰ってしまうと困る、かも」
そう言ってふわりと笑うジェラールの顔は本当に綺麗で、幸せそうに見えて。
「貴方のそういう顔をもっと見せてください、俺にだけ」
笑みを浮かべたその薄い唇にそっと初めての口付けを送った。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内