四季ハル茶
2026-03-02 21:36:13
1798文字
Public うち探索者の話
 

記憶の散歩

オレは本当に、皆の隣にいていいのか

思えば、どれほど不思議な現象に巻き込まれてきただろうか。
初めにそれにあったのは1人の時だった。気がついたらそこにいて、頭を悩ませてなんとかそこから脱出できた。
遠くで燃え盛る炎の音を覚えている。
次は昼休憩で訪れた喫茶店。神谷さんと八木さんに出会ったのはここでだった。
とんでもない発言と行動にオレは一歩引いたところから彼らの動きを見ていた気がする。
覚えているのは、見えない店員と淹れたてのコーヒーの薫り。
そういえば、神谷さんから旅行に誘われて三人で行った事もあった。なんだかあの時からオレを見る神谷さんの視線が微笑ましいものを見ているようなものになっている気がする。
不思議な鉱石と神話と不可解な死。
オレ達が助け出したあの子は今も元気だろうか。
気になってはいるものの、オレ達は部外者だ。預けられた施設の連絡先も知らない。
彼女が生きていたら、少しは近況を聞けただろうか。後悔が胸の中にじわりと染みを作っていく。
神谷さんから力を貸して欲しい、と言われたこともあった。正直、一介の医者が役に立てるかわからなかったから1度断ろうとしたがどうしてもと言われ、依頼に付き添った。
それで役に立てたのは検死と逃げることだけ。おかしな状況に頭がおかしくなりそうだった。
がむしゃらに駆け出そうとしたオレを引き留めた神谷さんに怒鳴ってしまった。彼は気にしてなさそうに笑っていたが、もしかしたら幻滅されてしまったかもしれない。
あのおぞましいものは今でもあそこにいるだろう。あの時よりも減りはしているがゼロではない。あの後、疲れているときに少女のような笑い声が聞こえてくる気がしている。それにびくりと肩を震わせる事が増えていた。
後悔とありもしない仮定に心が疲れていた頃、街の掲示板で同じ病院に勤めている朱君とばったりと会った。
すれ違うことはあったので顔は知っていたけれど、彼の所属部署もその時は知らなかった。
ルラちゃんの事を聞いて探して駆け回って、最後に泥だらけになりながら2人で笑って帰った。
ありきたりで、よくありがちな日常。すり減ったオレの心を癒すのには充分だった。
新たに友人もできて、次はどこに遊びに行けるか、神谷さんや八木さんに紹介して皆と遊びに行ってもいいかもしれない。なんて、柄にもなく浮かれていた。
ああ、やっぱりやめておくべきだった。
また知らない施設で目が覚めたとき、そんな後悔の念で頭がいっぱいになった。
もしかしたらオレのせいで、オレが動くせいで不思議な現象が起こっているのかもと思っていた。流石に馬鹿馬鹿しい妄想だとオレは見ないフリをしていた。
オレがまた出掛けようなんて言ったから、優しくて怖がりな朱君を巻き込んでしまった。
これ以上巻き込まないように、ショックを受けないように頑張ったけれど結局駄目だった。
記憶に残る鉄の嫌な匂いと生ぬるい液体の流れる感触。朱君の左手首に残った赤い跡。一緒にいたあの人なら、跡も残さずに綺麗に治せただろう。
やっぱりオレじゃ駄目なんだ。
知識があったって、使いこなせなきゃ意味がない。無力感で頭がいっぱいのまま、ただただ後悔の染みが増えていく。
そんな中、八木さんに夕食のお誘いを受けた。朱君も誘って4人で食事をしていたところまでははっきりと覚えている。
その後の記憶はなぜかはわからないが酷く朧気で思い出せない。残ったのは不定期に来る手の震えだけだった。
手の震えが治まった頃、不思議な夢を見た。
オレと朱君、神谷さんに八木さんと愛澤さん。
愛澤さんには見覚えがあった。シスターとして病院回りをしていると聞いたときに合点した。
不思議な巡り合わせがあったものだ、と思いながらレストランを5人で手伝った。
最後にガトーショコラを食べながらした会話はとても楽しくて、ずっとこの時間が続いてくれたらいいのにと考えたこともあった。
でもきっとそろそろこの関係も終わるだろう。
オレには関係が長続きした友人は1人もいない。
今までの人たちは、オレの能力や知識を頼って必要がなくなれば離れていった。きっと、皆もそうだろう。
オレが医者で、知識があって、手当てもできる力があるから側にいてくれるだけであって、オレ自身が必要な訳じゃない。わかっている。
ああ、でも。叶うなら。
その終わりがすぐ側にありませんようにと強く、願うばかりだ。