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遊音。(ゆね)
2026-03-02 20:27:52
3330文字
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約束シリーズ。
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きほんてきになんでもOK
トガカバです。ちょっといちゃついてます。
何度目のキスだろう、とカバキは思ったが、数えてすぐに両手では足りなくなった。
はじめてキスした日から、数週間経った日。オフの日に初めてカバキはトガシの家に入った。
トガシの家は思っていたとおり最低限の家具しかそろっていないシンプルな部屋だった。意外だったのは思ったよりキッチンに使った跡があったことだった。簡単な自炊はするよ、と苦笑したトガシだが、料理をするイメージはまったくなかったので新鮮だった。リビングには小さめのローテーブルがあるだけだったが、お揃いのクッションが二つ揃っていた。フローリングに座って購入してきた酒缶を片手に話しているうちに、そういう雰囲気になってカバキはトガシにキスされている。
外でされるときは軽く合わせるだけのキスだったが、初めてトガシの舌で唇を舐められて、思わずびくりとしてしまった。とっさに顔を離すと、トガシが笑っている。いつも、職場や練習場で見る愛想笑いではない、自分に見せるこのふんわりとしたトガシの笑顔がカバキは好きだが、何を思っているのか手にとるようにわかるので、恥ずかしくてムッとしてしまった。
「俺、可愛くないですからね」
「ごめん、顔に出てた?」
顔の下半分を思わず撫でたトガシに、カバキは嬉しいような悔しいような複雑な気持ちになる。
好きな人に可愛いと言われたら嬉しくないわけではない。ただ、男である分、可愛いと思われるのはなんとなく違うのではないかと思ってしまう。
――
可愛いって思われるようになったのは進展だけども。
恋人からそう思われるなら本望だが、どちらかというとトガシはカバキの慣れてない様子を楽しんでいるだけな気がしているので、嫌なのだ。
「どうせ、俺は慣れてませんけどね
……
可愛くも面白くもないでしょう、こんなん
……
」
そう言ってカバキが顔を背けると「えー」と不満の声をトガシがあげる。
「かわいいから仕方なくない?今まで俺が付き合った誰よりもカバキくんはかわいい」
そう言われて悪い気はしないが、誰かと比べられるのも嫌だ。
「元カノというか、女と比較しないでください」
「じゃあ、なんて言ったらカバキくんは満足?」
両頬をトガシの両手で包まれる。鼻先が触れ合うほどの距離で見つめられると、カバキの心臓はどんどん早くなる。
「
……
言葉より行動で示してほしいですね
……
」
「
……
了解」
唇を開いたトガシに、ぱくりと唇を食われたかと思ったら、そのまま下唇を軽く噛まれて、舌でなぞられる。
「口開いて、カバキくん
……
」
吐息と共に囁かれて、カバキは素直に唇を開いた。すっと差し込まれたトガシの舌にどうしていいかわからないまま、カバキはそっと自分の舌を触れ合わす。トガシの舌が撫でてくるのに合わせて自分の舌も重ねると、カバキは思わず吐息を唇の隙間から漏らした。
「ん
……
」
手の行き場を探してカバキはトガシの脇下のシャツを掴む。逃がさないとでもいうようにトガシに顔を掴まれたまま、カバキは何が正解かわからないけれど、トガシが絡めてくる舌に自分のも絡ませ続ける。
「
……
ふっ
……
ん
……
」
どちらのものかわからない唾液があふれてカバキはごくりと飲み込んだ。キスとはこんなに気持ち良いものなのか、とカバキは思考がとろりと溶けていく気分がする。
「上手だね、カバキくん、舌、だして」
言われるままにかぱっとあいた口から舌を出すと、いきなりトガシに吸われた。ぢゅっと音を立てて舌がトガシの口のなかに吸われていく。思考がさらにとろけてびりびりとする。
「
……
はっ
……
トガシさんっ、まっ
……
」
カバキはトガシの胸を押して、顔を離した。こんな感覚は知らない。キスとはこんな風になるのか。映像や漫画で想像したものと実際は違うな、とカバキは上がる息の中で思った。
「ごめんね、嫌だった?」
少し心配した声音でトガシが頭をなでてくる。
「
……
嫌なわけないです
……
ただ、ちょっとついてくのが大変
……
」
くやしいが経験の差が出てしまう。呼吸を整えながらカバキは口元を手の甲でぬぐう。
「ごめん、ごめん。すごい可愛いからとまれなくて
……
ごめん」
また言ってしまった、という顔でトガシが苦笑する。少し睨んで見せたが、そろそろ『可愛い』と言われるのに慣れそうな自分もいて、それが一番カバキを落ち着かなくさせる。
「嫌なわけないじゃないですか。トガシさんのこと好きなんですから」
「好きだからって、何されてもいいわけじゃないでしょ」
包まれた頬を撫でられながらトガシに問われて、カバキは首を少し傾げた。
「トガシさんになら、俺、何されてもいいですけど?」
その言葉にトガシが目を丸くする。
「そういうこと言っちゃだめだよ。俺が悪い奴だったら押し倒してるよ?」
先輩顔で言われたが、カバキは上目遣いで見返す。カバキは本気である。
「それってトガシさんは俺で興奮するし、勃つってことですよね?嬉しいです」
トガシの目がさらに大きく開いたかと思うと、しばし固まった。カバキもそのまま待って見つめあう。
「ダメだよ、カバキくん
……
」
やっと動いたかと思ったトガシが目元を抑えて天を仰ぐ。そんなに良くないことを言っただろうか。しかしカバキとしては本心なので何がダメなのかわからない。
「トガシさんになら、ですよ。他の人には許しませんよ?」
一応断っておくと「当たり前です」とトガシが顔を戻して言う。
「いや、俺にだってそこまで許さなくていいんだよ」
「どうしてですか?好きだから大丈夫ですよ」
「
……
カバキくん、いくらなんでも俺に対する許容量が大きすぎるよ
……
俺が変態で変なプレイ強要したらどうするの?」
「
……
トガシさんがどうしてもやりたいなら
……
」
「
……
待って、ないから。ないない」
「そうですか」
カバキは納得して頷く。そういうタイプではなさそうだと思ってはいた。まぁそういうタイプならそれはそれで新鮮かもしれない。
「でも、人は見た目じゃわからないから、そんなことむやみに言うもんじゃないよ」
「俺が何でも許すのは、トガシさんだけです」
至極真面目な気持ちで答えると、トガシは何度か口をぱくぱくして何か言おうとして、悶絶するように顔を両手でおおって天井に向けた。かと思うと、がっくりと肩を落とした。そんなに変なことを言っただろうか。両手の下でトガシが百面相していそうなので見たいなとカバキは思って、覗き込もうとするが見えない。
顔から両手を離したトガシは、少し困った顔で見つめてくる。そんなに困らせるようなことを言ったつもりはないのだが。
「なんか
……
そろそろカバキくんに追いつくとおもってたんだけど
……
まだだいぶ距離があることに気づかされた感じするなぁ」
トガシの左手が伸びてきて、右頬を撫でられた。
それってつまり。
「トガシさん、結構俺のこと好きになってきたってことです?」
「
……
言わない」
頬から離れた手が後頭部に回って、抱き寄せられる。硬い、筋肉質な胸に顔をうずめる形になる。ドクドクと思ったより早い音が耳に響く。
「まだ、言えない。追い越したって確信したらちゃんと言うね」
「それは無理だと思いますけど
……
?」
顔をあげて見上げると、トガシはスタートラインにいるときのような真剣な表情だった。
「俺、けっこう負けず嫌いなんだよね」
「
……
知ってますけど
……
こういうのって競うものでしたっけ?」
正直カバキは自分と同じだけの想いをトガシに求めていない。振り向いてくれて、応えてくれる。それだけで十分だと思っている。
「だって、同じ速さで走ったほうが、同じ景色みれて楽しいでしょ」
ニッと口角を上げて見せるトガシに、カバキは思わず見惚れてしまう。
「俺は、君と同じ景色が見たい」
落ちてきた口づけを受けながら、知ってはいたけど面倒な人を好きになったものだな、とカバキはあらためて実感した。
ーーーーーーーーーーーー
カバキは基本無表情なんだけどちょっと照れたりむっとしたりするのをカワイイとおもっているトガシがいます。(トガシじゃないとわからない程度の差)
このあと、終電前に駅まで見送ってちゃんと帰りました。
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