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ちよど
2026-03-02 06:51:09
25681文字
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わし様など
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練習1P 2025.11〜2026.2月分まとめ
#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。
■2026/02/28 No.716
生前アシュヨダ
「この舌で」
ぐにっ、と舌が掴まれる。とっさに暴れようとした手は従僕達に抑えられた。
「なんだ、舌があるではないか」
初めて謁見したクル国の王子が目を細める。無理に開かれた口からよだれが溢れる。父を探すが大人に連れられて行ってこの部屋にはいない。
舌が離される。えづいていると王子が私を見下ろした気配がした。
「ドローナの息子。わし様に何か言うことはあるか?」
意味が分からず顔を上げるとスヨーダナ王子は唇の端を吊り上げた。端正な顔が寄せられる。
「『牛の乳』は美味かったか?」
──不味かった。『友達』に与えられたあれを正直吐き出そうかと思ったが彼らが楽しそうにこちらを見ていたから。私はその好意に応えるべきだと思ったのだ。
そう思い返す私に王子はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「お前は舌を切られた奴隷か?理不尽な目にあったならば怒るべきだ。──まあ、わし様のこれはありがたい教育的指導というものだが」
「私は──俺は、怒ってもいいのですか?」
「いいに決まっていだろうが!バラモンだろうが子供だろうが怒らぬ奴など気持ち悪いだけだ」
と、ずいぶん昔に言われたので怒っている俺はでろくでもないわがままを口にする恋人の舌を捕まえた。
■2026/02/22 No.715
ビマヨダ
「彼はちゃんと『見て』いた」
※2026バレンタインシナリオのネタバレを含みます
「うっかりですまねぇだろう」
ビーマの言葉にマスターはうなだれた。ビーマとドゥリーヨダナが住む部屋は綺麗に片付けられている。神経質な程に。ソファーに腰掛けた目を閉じたままのドゥリーヨダナが手招きする。
「ビーマ、ビーマ。わし様の可愛い子」
「──ほんとうに、ごめん!」
頭を下げたマスターは少し考え無しだっただけで悪意は無い。ただママチョコとやらを周回の要のドゥリーヨダナに与えただけだ。ママみが増すだけで害はない。はずだった。──だがドゥリーヨダナにとって『母』とは『目が見えない』のだ。周回になど出れるはずがない。
仕方ないと顔に書いてビーマがドゥリーヨダナに顔を寄せる。その顔を硬い指先が辿った。
「痛いところはないか?つらい事はないか?」
「──なんでそんな事を聞くんだ?」
ママになってビーマを我が子と誤認しているドゥリーヨダナは何かとそう聞く。まあ、百王子を疎む者は多い。気をつけ過ぎることはないだろう。そう思ったビーマにドゥリーヨダナは囁いた。
「おまえはいつもがんばりすぎているだろう?そんなに守ろうとしなくていいんだぞ」
ひゅっとビーマの喉が鳴った。それは剛力無双の男が生涯与えられなかった言葉。
■2026/02/21 No.714
生前アシュヨダ
「逃げるぞっ!!」
くいっと服が軽く引かれる。わし様はにやける口を引き締めながら小間使いの女との会話を続けた。
「わし様はなまじこの王宮を知り尽くしておる。だからこそ、ここに来たばかりのアシュヴァッターマンにどこを案内していいのかわからんのだ。お前のおすすめはどこだ?」
女の視線がわし様の後ろに隠れるようにして服を掴んでいる少年に向けられる。ドローナ師が武術指南に就任してから、この辺りでは額に宝珠を持つバラモンの子供の噂でもちきりだ。こうして見せびらかしてまわればその子供がわし様に懐いていることが知れ渡るだろう。
アシュヴァッターマンがまたわし様の服を軽く引く。
侍従頭、料理人では引かなかった。給仕、下男、踊り子、小間使では服を引くアシュヴァッターマンの基準を推測する。──男女に関わらずわし様に媚を売る者、か?
それが警告なのか嫉妬なのか。こんな幼い子供が自覚しているとは思えない。ただ、わし様を慕っているのは間違いないだろう。
わし様は小間使いに礼を言ってからアシュヴァッターマンを連れて庭に向かった。渡り鳥が巣を作っているらしい。
服を掴んだままついて来るアシュヴァッターマンのその手を軽く叩く。手をひらひらと振ってやると、小さな手がきゅっと掴んだ。
わし様の足が止まる。
回廊の先。息子と同じ赤毛の大男が仁王立ちしていた。
■2026/02/18 No.713
生前アシュヨダ
「人悪のカリスマ(B−)」
王宮の占い師がアシュヴァッターマンを指した。
「あの男の星宿はアシュビニー。移り気な星宿です。今のうちに排除を」
確かにアシュヴァッターマンは星宿が形を成したような男だ。アシュビニーの象徴である馬の名前。誰よりも早く駆け、情熱的だ。
だが。ざわめく宴の中、わし様は占い師に問いかけた。
「おまえはもちろんわし様の星宿も知っておるな?」
わざと公衆の面前で声をあげた占い師は黙り込む。このくらいの対処は用意しておくべきだというのに、よほどクシャトリヤに混ざるバラモンが目障りだったのだろう。
わし様の星宿はバラニー。破壊と貪欲を司る。──凶兆の子に相応しく。
「世継ぎの王子である貴方様は類稀なき強い意思をお持ちです」
「ものは言いようだな。移り気ということは目端が効くということだ。異なる階級が集う我がカウラヴァに相応しい人物だろう」
青ざめていた真面目なアシュヴァッターマンの顔が紅潮する。占い師の言葉など気にするだけ無駄だ。誰もが耳を傾ける占い師は信じるのではなく使うものだ。
「だが、お前は罰せられることを恐れずにわし様に苦言を呈した。これからは小声で頼むぞ」
どっと笑いが起きる。占い師が額づいた。
■2026/02/18 No.712
生前アシュヨダ
「必要がないと何故分からない」
「お前はもっと身の程を弁えるべきだろう」
あまり親しくはないカルナの言葉に俺は彼を見上げた。旦那より小柄な男は背が伸び始めたばかりの俺を無表情で見下ろす。その視線が流れた。
華やかな広間の少し離れた所。豪華な椅子に座った旦那の前に人々が順番に膝をつき、その伸ばされた手をおしいただいて恭しく額を触れさせている。
「パドマ。お前がまた来るのを楽しみにしているぞ」
声を掛けられた男は身を震わせて額づいた。次の順番の男の顔が羨ましげに歪む。旦那が満足そうに口を緩めた。
それを眺める俺も羨ましそうな顔をしていたのだろう。俺は旦那の手に触れたい一心で彼らの列に並ぼうとして追い払われたのだ。
カルナの手が無遠慮に俺の手をすくい取る。跪きこそしないが彼らが旦那にするように俺の手をおしいただく。
俺の手の下で隠れる指先が僅かに震えた。一定のリズムで。──暗号。
ばっと、彼らを振り向く。
服装をよく見れば彼らの身分や住まいはまちまちだ。わざとばらけた人々を呼んでいる。情報を得る為に。
先程再びの登城を願われた男は続報を命じられたのだろう。
あの男のように情報を持っていけば旦那に触れられる。羨む俺にカルナは首を振った。
■2026/02/15 No.711
インぐだ子+わし様
「神雷が轟いた」
※ジュナパパのバレイベネタです
「極下すぎる!」
そう吐き捨てたインドラ神を前に、傷だらけのドゥリーヨダナはマスターの少女を雲の上に降ろした。
「誰もが認める戦士を所望したのは御身ではないか?それはわし様以外になかろう?」
ドンッと空に音が響く。
「不敬な!」「無礼千万!!」
ヴァジュラ達が騒ぎ立てるのをインドラ神は片手を上げて制した。音は鳴り響く。ドゥリーヨダナは両腕を広げた。
「この小娘は言ったのだ。もうわし様が贈ったスペシャルでゴージャスな帯は纏えないと。とある天空の神の空を貰ったからと」
「神がこの空を渡したのは逃げ場にする為ではない」
その言葉に神霊に襲われ傷ついた少女が雲の上で呻いた。謝罪の言葉を口にしようとしているのだ。
この空はチョコレートの返礼として、少女の慰めのためではあるが、とあるサーヴァントを連れてくるためにも贈られた空間だ。断じて敵から逃げ込む場所ではない。
「マスターに随行しながら守ることも出来なかった、そこの三流サーヴァントよ」
「誰が三流だ。ただちょーっと相性が悪かっただけだが?まぁそれは同じクラスのアルジュナオルタも同じであるからァ。あの敵をかっこよく倒したサーヴァントの勇姿を語るのはやぶさかではないぞ。惚れ直す者もおるだろう?」
■2026/02/12 No.710
アシュくん+ぺぺさん?
「あの古事のように」
ドゥリーヨダナが宴を開く。配られた案内状のその場所にマスターは目を見開いた。
そこは放棄された場所だった。
だが今は爆発で飛び散った瓦礫は綺麗に撤去され、壁に開いた穴には鮮やかな布が掛けられていた。無機質な壁には色とりどりの染料が模様を描いている。
そしてこの場所の中心には。──7つのコフィンが閉じたまま設置されていた。
「先輩」
そう呟いたのはマシュではなくマスターだった。あのコフィンにはマスターが異聞帯で相対した7人のマスターが凍結されている。
「遅いではないか、マスター」
床に敷かれたラグ、並べられた食事を器用に避けてやって来たドゥリーヨダナが両腕を広げる。マスターはそれに応じてハグを返した。そのたくましい腕の中で囁く。
「で?どういう企み?」
「ニホンの伝統とやらを試してみたいらしい。──アシュヴァッターマンが」
マスターが意外な名前に目を瞬かせたその時、小さな太鼓の音が響いた。座り込んだカルナが太鼓を軽やかに叩くのに合わせて、足に鈴を巻いたアシュヴァッターマンがコフィンの前に歩み寄る。
宴に踊り。閉ざされたコフィン。──これは願いだ。
■2026/02/07 No.709
クルク戦後のモブ
「こんなにも気が楽だとは」
愚か者ばかりだ。
豊かな国土、年老いた前王にまだ幼い新王。十数年前の内乱で激減したクシャトリアの数は未だ回復しておらず、その戦で腕が欠け目が潰れ足を失った者までまだ現役だと聞く。
だというのに周辺国はどこもあの国に攻め入ろうとしない。あれほどの富が容易く奪えるというのに!
そう信じてクル国に進軍した彼らはまたたく間に駆逐された。
降り注ぐ矢に撃ち抜かれて戦車から落ちた男にクル軍の徴を付けた馬が歩み寄る。
そこに乗るのは片腕の無い老兵と、その半分程の幼い戦士。老兵が戦士に指示する。
「敵は1人も逃がしてはいけない。矢を構えなさい。そう、その角度だ。──撃て!」
天に昇った矢は定められたように逃げる兵士の頭部を撃ち抜いた。当然だと言わんばかりの老兵の頷きに戦士は矢を補充する。
数十年前の内乱は凄まじいものだったのだと、男は初めて気がついた。老兵は片腕を失っただけの生き残りだと。侮っていいはずがなかった。
自分の愚かさを悔いる男をふたりが乗った馬が踏み潰す。
その感触に同族と血みどろの戦いを経験した老兵が口元を歪めた。
■2026/02/07 No.708
アシュヨダ 現パロ(もち×記憶なし)
「万感の想いを込めて」
野生のアシュヴァッターマンもちには触れてはならない。例えそれが炎天下のアスファルトの上で赤い腹を見せてひっくり返っていても。
「知るか。わし様の行く手を阻むものが悪いのだ」
ドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンもちを乱暴に掴み上げるとノートパソコンが入ったカバンにねじ込んだ。これから行く営業先の担当は子持ちだ。これを使って上手く交渉すれば多少はいい条件を引き出せるだろう。
「と、思ったんだがなぁあ!」
都心にしては広い4LDKのマンションで拾ったもちに水をやりながらドゥリーヨダナはため息をつく。取引先の担当者は多頭もち飼いをしており彼がもちを拾ったと伝えると使わないもち用品をその場で譲ってくれたのだ。もちろん案件はドゥリーヨダナが満足する形になった。しかし
「なんでわし様が飼う事になっておるのだ?」
ドゥリーヨダナはもちの赤い前髪をめくる。そこには何もない。──宝珠を持たないアシュヴァッターマンもちは決して人に懐かない、らしい。触れられるのも嫌がり酷い時は攻撃してくるのだそうだ。この個体は本当にアシュヴァッターマンもちなのだろうか。
よく見れば服に紫色のほつれがある。──人間の髪のような。
アシュヴァッターマンが顔をあげドゥリーヨダナを見つめた。鳴く。
■2026/02/06 No.707
カルヨダ
「カチリ、とドアが開いた」
お約束の『愛し合わないと出られない部屋』である。カルナとドゥリーヨダナは気がついたらこの部屋にふたりきりで閉じこめられていた。
なんてことはない部屋だ。マスタールームと同じように小さなデスクとチェア。そしてベッドがある。
「わし様はお前を愛している」
「オレもお前を愛している」
ふたりの言葉にドアは開かなかった。ドゥリーヨダナが行儀悪く舌打ちをする。
「この部屋を作ったものは教養を知らぬようだ」
「お前は聖杯で知っただけだろう」
「聖杯知識だろうが何だろうがわし様が手に入れたものはわし様のものだ。もちろんおまえもだ、カルナ」
「Nothing, my lord.」
突然のカルナの言葉に満足げにドゥリーヨダナは笑った。
「『なにもない』という言葉が最上の愛だったとは、あの劇作家もなかなかやるではないか」
視線を交わして微笑みあったふたりはそのまま、その眼差しを移動させた。──ベッドに。
「カルナ。『愛し合う』は比喩だと思うか?」
「オレに聞くまでもない」
その答えにドゥリーヨダナはカルナの白い髪に触れた。
「わし様はお前を見せ物にするつもりはない」
「オレもお前にそんな侮辱を与えるつもりはない」
■2026/02/02 No.706
アシュヨダ
「そして彼は公に弟子入りした」
アシュヴァッターマンは幸運Aである。敏捷はA++だ。
その彼はカルデアから支給された端末を注視して指を構えていた。アラームが鳴る。タップタップタップ!!
「
…
ふぅ」
自分に課した最重要任務を成し遂げたアシュヴァッターマンは大きく息をついて体から力を抜いた。
このカルデアにはイベントがあった。サーヴァントが召喚されて1周年記念に俵型のマスコットを販売するのだ。同日に召喚されたサーヴァントのマスコットとランダムで。
アシュヴァッターマンはそのランダムを勝ち抜き、見事ドゥリーヨダナのマスコットを手に入れたのだ。
安堵したアシュヴァッターマンの視線が自室を巡る。
その精悍な口元が引き締められた。
武人らしく無骨な部屋。装飾などはほとんど無く、貰い物のチャクラムのワックスなどがそのまま置いてあった。
そんな場所に愛しい人のマスコットを迎えられるだろうか?答えは否!
立ち上がったアシュヴァッターマンは部屋の中を物色する。とりあえずドゥリーヨダナから貰った菓子箱を見つけ出した。サイズ的にマスコットは入るはずだ。
同じくドゥリーヨダナからもらった布をそこに敷き詰める。元の持ち主の趣味ならマスコットも気に入るだろう。
そうなると柔らかなクッションも欲しくなる。箱に飾りも付けたくなった。と、なれば。
■2026/02/01 No.705
わし様+犬
「ほぉら、ここ掘れワンワン」
「よぉし、ちゃんと捕まえたな!カルナ!!」
満面の笑みを浮かべて木陰から出てきたドゥリーヨダナにカルナは腕の中の白い犬を差し出した。
遠くからマスターの笑い声が聞こえる。新入りにシミュレーターを案内しているのだ。飼い主から離れ森の中を歩き回っていた犬を待ち構えていた強欲な男は得意げに笑う。
「財宝を掘り当てる犬など、わし様にこそ相応しい」
「強欲なことだ」
「しっかし大丈夫か、旦那。この犬、財宝以外を掘り当てて殴り殺されたらしいぜ」
「はぁ!?」
アシュヴァッターマンの言葉にドゥリーヨダナは大きく顔を歪めた。カルナに掴まれて身をよじっている犬を見る。
「なんでそんなもったいないことをするんだ?財宝を掘り当てた犬など高く売れるに決まっておるだろう?」
「売り飛ばしたら飼い主が文句を言ってくんじゃねぇか?」
その言葉にドゥリーヨダナは考え込んだ。
「ううむ。なら、『財宝を掘り当てる犬だと聞いたのに違うものを掘り当てたではないか!詐欺だ!賠償金をよこせ!』と財宝をちょーっと分けてもらえばいい」
「おまえより強欲な者はいないだろうよ」
「そういう所だよなー」
視線を交わす二人に構わず、ドゥリーヨダナは白い犬をつついた。
■2026/01/22 No.704
現パロ アシュヨダ
「お前がわし様を優先するのは当たり前だろう?」
アシュヴァッターマンに抱き上げられたドゥリーヨダナはポタージュがついたままのスプーンを投げ捨てた。
「明日の朝刊はわし様達が飾るだろうな」
ふてぶてしく笑うドゥリーヨダナにいくつものカメラが向けられる。
そこに至ってやっとふたりの背後の炎に包まれたホテルから人々が逃げ出してきた。
「なんにせよ。一番というものはいいものだ」
悪魔のような言葉にアシュヴァッターマンは答えない。
ほんの十数分前の事だった。ホテルのラウンジでふたりが食事を楽しんでいると、けたたましく非常ベルが叫びを上げたのだ。
「火事だ!」
同時に、ポタージュを口に運んでいたドゥリーヨダナの体が浮き上がる。彼を抱き上げたアシュヴァッターマンは即座に駆け出す。嗜みとして避難経路は確認済みだ。
右往左往するホテルスタッフの間を抜け、家族連れを追い越し、倒れた老人を見捨て、アシュヴァッターマンは最速で脱出した。腕の中の最愛を連れて。
決して褒められたことでは無い行動にアシュヴァッターマンが黙り込んでいるのに対して、ろくでなしのドゥリーヨダナは機嫌よく赤い髪を引っ張った。
「そんなに気にするな。結果的におまえが先導したおかげで他のやつらも助かったようなものだ。それに」
■2026/01/19 No.703
アシュヨダ
「でもなぁ、ちょっと痛い」
腕を薙げば首が飛び、膝を打ち込めば内臓を抉る。全身凶器の鎧を纏ったアシュヴァッターマンはひとり血路を開いていた。
その後に続くのはドゥリーヨダナとマスター。そして巌窟王の影である。リンクロストした本人が残した影はマスターの背中をしっかりと守っていた。
その当のマスターは少し顔を引き攣らせている。
「あのトゲトゲ、装飾だと思ってた」
「カルナの場合もそうだが神の趣味ではないか?肩パットやモヒカンじゃないだけマシだろう?」
ドゥリーヨダナが言うように、アシュヴァッターマンは夜襲を行う時にシヴァ神の加護を得た。あの霊基はその頃のものだ。
「あんなにトゲトゲだと触れ合うことも出来ないんじゃないかなぁ?」
マスターの心配にドゥリーヨダナは大きく笑った。両腕を広げる。
「アシュヴァッターマン!充電だ!!」
敵を殲滅したアシュヴァッターマンが風よりも早く駆けつけてドゥリーヨダナを抱きしめる。
ああ、彼の鎧の正面には武器が何ひとつついていないのはこの為だったのか。
納得するマスターにドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンの腕の中からウインクをした。
■2026/01/16 No.702
アシュヨダ
「霊基保管庫だ」
「おまえ、いつの間にこんなに悪い男になったのだ?」
マイルームのベッドに腰掛けた旦那に見上げられて俺はうなだれた。俺が悪いわけではない、と言うわけにはいかない。何故ならば。
「わし様とマスターがこんなにも呼んでおるというのに、全く来ないではないか」
ピックアップに狂乱したマスターが湯水のように聖晶石を注いで俺を呼んでいるのは知っていた。触媒として旦那がマイルームに監禁されていることも。
「おまえはわし様と同じになりたくはないのかァ?」
わざとらしい旦那の嘆きに俺は床を見た。つやつやとチリひとつないそこはマスターへの気づかいに満ちている。
旦那はいわゆる『完全体』だ。宝具5の俺も後何人か召喚されてサーヴァントコインを集めれば同じものになれる。
それが嫌なわけではない。ただ──。
俺は床から目を上げた。旦那の磨かれた靴、柔らかな服。愛嬌がありながら精悍な顔を見つめる。
ゆっくりと手を伸ばした。旦那は面白そうな顔をしたまま動かない。頬に触れる。顔を寄せた。──唇を合わせる。
「──旦那にこういう事が出来るのは『俺』だけだろう?」
「可愛い奴め。わし様の余りが何処にいるか忘れたのか?」
■2026/01/15 No.701
アシュヨダ
「これでいつでも一緒だな」
「Welcome!わが戦士よ!」
満面の笑顔でドゥリーヨダナがアシュヴァッターマンを迎えたのは、いわゆる周回被害者の会である。
死んだ目で新入りを見つめるオベロン、キャストリア、アルジュナオルタ、モンガン。その眼差しに押されるようにアシュヴァッターマンは隣に立つマスターを見下ろした。
マスターが見上げる。にっこり。
「
…
念のために聞くが、俺は戴冠戦だけの運用だよな?」
「御冗談を。ラストバトルであんな活躍をしておいて、ただで済むと思っているのかな?」
確かにアシュヴァッターマンはLv100でありながらラスボスのHPをひとりで半分近く削った。それは運もあったというのに。全てを終えたマスターは聖杯と種火を湯水のように注いで彼をLv120にしてしまったのだ。
「アペンドまでは手がまわらなかったけど、充分つよつよだよね?」
「わし様の戦士がつよつよでないはずがないであろう!」
ドゥリーヨダナとマスターの拳がコツンと当てられる。
「いいことを考えたんだけど、ドゥリーヨダナの宝具の耐性ダウンの後にアシュヴァッターマンの宝具OCって相性がいいよね?」
「では1番目にキャストリアの宝具をいれるか」
キャストリアが悲鳴を上げた。それに構わずドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンの髪をかきまわす。
■2026/01/12 No.700
ビマヨダ
「馬鹿アホ鈍感!森ゴリラ!!」
「シャワーを貸してもらうぞ」
自室のドアを空けた途端、堂々と押し入ってきた宿敵に俺は口を開けて、閉ざした。
周回に引きずり回されているとは聞いていたが今のこいつは頭からどろどろの体液を浴びて酷い有様だ。
見栄えを気にするこいつの知り合いの中で俺の部屋がコフィンから一番近かったのだろう。
黙って道を開けるとドゥリーヨダナは汚れた服を脱ぎ捨て慣れた仕草でシャワーブースに入っていく。
ところで、カルデアの個室のシャワーブースは防犯のため壁が透明になっている。つまり、シャワーを浴びるドゥリーヨダナの全裸が俺から丸見えだということだ。
子供の頃、思い出したくもないが共に川遊びをした事もある。あの頃と比べたら背丈も伸び戦士としての体つきになっている。肌の張りも若々しい。──この体がいかに力強く動くのか俺が一番よく知っている。
思わずまじまじと見つめていると奴と目が合った。文句を言われるかと思えば、何故か目をそらされる。その頬が薄く色づいているように見えたのはシャワーの湯気のせいか。
その顔のまま、奴はシャワーブースから出てきた。何故か俺を見つめる。
気づいて俺はバスタオルを渡してやった。ひっぱたかれる。
■2026/01/11 No.699
カルジナ+わし様
「情の深い男だろう?」
「いいことを教えてやろう」
花嫁に向かって新郎の義父は囁いた。
バージンロードを歩いている真っ最中である。本来、ジナコ(ガネーシャ神)の親族が付き添いになるはずが女ばかりであるため新郎の義父が名乗りを上げたのだ。
付き添いに決まりかけていた遠縁のアシュヴァッターマンはドゥリーヨダナのわがままに弱く、あっさりと立場を譲ってしまった。
大柄なドゥリーヨダナとジナコが腕を組むにはドゥリーヨダナが少し屈まないといけない。ジナコは唇を尖らせた。
「どうせ、ろくでもないことでしょ」
「そうだな。カルナの女性遍歴のことだ」
想像以上にろくでもない話題にジナコは顔を歪めないように全力で笑みを保つ。そんな彼女にドゥリーヨダナは話を続けた。
「カルナには生前ふたりの妻がいた」
「ママンに言いつけるッスよ」
「まあ待て、そのふたりの妻はクシャトリヤと、スータだった」
スータの単語にジナコは口を閉ざした。カルナがその育ちでずっと蔑まれていたことを知っているからだ。
「クシャトリヤとなった時、わし様はあやつに忠告した。スータの妻と離縁しろと。弱みになるからな」
「
…
カルナさんは別れなかったんだ」
■2026/01/09 No.698
わし様+以蔵さん+オルガマリーさん
「そんな器用な事が出来る男ではない」
※アフタータイムのネタバレを含みます
「安心とは何ものにも代えがたいものだ」
私室に押しかけてきた2騎のサーヴァント。そのうち1騎の言葉にオルガマリーは眉を寄せた。
「まず、名前を名乗りなさい」
当然の要求に紫髪のサーヴァントは顎を上げた。
「わし様はクル国の王ドゥリーヨダナである」
「わしは岡田以蔵じゃ」
連れてこられたらしい黒髪のサーヴァントが金色の目でオルガマリーを見つめた。
カルデアにサーヴァントは数多あれど『完全体』と呼ばれるのはこの2騎しかいない。
「にゃあ、わしはこの娘の護衛をすればいいんか?」
「
…
おまえ、交渉というものを知らんな」
呆れたようなドゥリーヨダナに、オルガマリーは岡田以蔵の刀を見た。彼女は首を狙われている。あの経営顧問にこんな細い武器が通用するとは思えない。
そんな彼女の不審が伝わったのかドゥリーヨダナは腕を広げた。
「戴冠戦。こやつはアサシンのグランドエネミー・アズライールを千回倒した男だ」
オルガマリーの瞳に光が灯る。それを確認してドゥリーヨダナは岡田以蔵に囁いた。
(この娘の弱みを調べれば報酬は思いのままだぞ)
(まかせとけ!)
■2026/01/06 No.697
生前アシュヨダ
「そして梟が羽ばたいた」
「わし様のハヤ」
旦那の猫なで声に俺はため息をついた。
「今度は何をして欲しいんだ?」
ハヤ、素晴らしい馬と旦那が俺を呼ぶ時は大抵ろくでもないおねだりだ。
そうして、それが分かっていても俺は旦那の願いを叶えてしまう。
「わし様のハヤ」
「まったくしょうがねぇな、旦那」
「わし様のハヤ〜」
「分かってるって」
繰り返される言葉。それがずっと続くと思っていた俺は血と泥の中から顔が潰れた旦那を抱き起こす。
旦那の歪んだ唇が震えた。
「
…
おまえを、カウラヴァの司令官に任命する。──俺の、ハヤ」
「旦那、」
敗北した軍の司令官にやる事などない。あるとすればそれは。
俺は森を駆けた。
何をすればいい、俺は何をすればいい、俺をハヤと呼んだあの人に最後に何をすればいいのか。
パーンダヴァの野営の明かりが遠くに見えてきた。俺は足を止め空を見上げる。
■2026/01/01 No.696
ビマヨダ
「告白、愛しています」
ドゥリーヨダナに薔薇を贈った。
水飴とチョコレートで作った素朴な薔薇の花を3個。派手好きのあいつに合わせた器に乗せて差し出すと、当然あいつは首を傾げた。
「誰と間違えている?」
「間違えてねぇ。聖杯で検索してみろ」
聖杯知識で3本の薔薇の意味を知ったのだろう。ドゥリーヨダナの眉間に皺が深く刻まれた。
「誰と間違えている?」
「間違えてねぇ。食ってみろ」
味は自信がある。あいつの指先が恐る恐る花びらを摘み取り、
「嫌い、好き、嫌い、嫌い、好き
…
」
「おいコラ」
いきなり女子供のように花占いを始めたトンチキに俺はため息をついて好きなようにさせる。
俺が丹精込めて作った薔薇が散らばっていく。最後に残った1枚の花びらを摘んで馬鹿はうなだれた。
「──好き」
顔がニヤける。
こいつの花占いは好き嫌いが交互ではなかった。ということは花びらの残数が分かった時にいくらでも調節が出来たという事だ。
好きと。俺と同じように花に託した男に俺は顔を寄せた。
■2026/01/01 No.695
現パロ カルヨダ
「私にはあなただけ、ひとめぼれ」
ドゥリーヨダナに薔薇を贈った。
たった1本の薔薇にドゥリーヨダナは怪訝そうな顔をする。
「おまえがわし様に贈るということは、これはわし様にふさわしいゴージャスでプレシャスな薔薇なのだな?」
「お前の目は節穴だな」
この薔薇は有名な品種でも品評会で賞を取ったものでもない。素人が育てたただの薔薇だ。
ドゥリーヨダナが考え込む。この男は俺の言葉を読み解こうする努力を惜しまない。出会った時からそうだった。
「ふむ。まあいい。おまえがわし様に贈ろうと思った。それだけでこの薔薇には価値がある」
ドゥリーヨダナが手を開いたので、俺はその手に薔薇を乗せる。その時、ドゥリーヨダナのもう一方の手がオレの手を掴んだ。
「手が荒れているな。──そういえばここ数ヶ月おまえは付き合いが悪かった。家に面倒を見ねばならんものがあるとかで」
オレは口を閉ざす。だが、ドゥリーヨダナは満足そうに笑った。
「わし様より優先するものがあるとは何事だ!と、思っていたが。この薔薇に免じて許してやろう。我が伴侶のする事だからな」
■2026/01/01 No.694
現パロ アシュヨダ
「これ以上ないほど愛している」
ドゥリーヨダナに薔薇を贈った。
101本の真っ赤な花束に旦那は一瞬目を見開き、すぐにいつものろくでなしの顔になる。
「わし様の返事が聞きたいか?聞きたいだろう?明日我が家に来るといい」
返事が貰えるのなら俺は一生だって待つだろう。
瞬きの間に明日になり、俺は旦那の屋敷に向かった。顔見知りの執事が案内したのはバスルームだった。
と、いっても旦那専用のそこは生半可な銭湯より広い。脱衣場に通され、執事は仕事に戻っていく。
バスルームに案内されたなら風呂に入れという事だろう。服を脱ぎ、浴室への扉を開く。
濃密な花の匂い。
目の前の広々とした浴槽を一面に覆う赤い花びら。
ざばり、と旦那がその中から顔を出す。紫の瞳が楽しそうに細められる。
「アシュヴァッターマン、これが返事だ」
さすがに意味が分からない。
戸惑っていると旦那が手招きする。浴槽の中に入ればさらに薔薇の匂いが強くなった。
近づいた俺に旦那が腕をまわす。囁き。
「おまえの愛の中で愛し合いたい」
■2025/12/25 No.693
ビマヨダ
「ゲームセット」
「目指すのは!ゲームオーバーではなくゲームセット!!」
そう高らかに宣言したマスターに息が止まった。だがここは戦場。体は染み付いた動きを取り宝具を撃ち続ける。
武器を振るう、殴りつける。
この戦の先に待っているのは勝利ではなく消滅だ。少し前の自分ならそれに挑む気持ちが分からなかった。
最後の一騎打ちに勝てる相手ではなく俺を選んだあの男の気持ちを。
あの男にも先はなかった。万が一俺に勝てたとしてもパーンダヴァの軍勢があいつを逃さなかっただろう。
「命!捨てるのは今!!」
マスターが叫ぶ。それに背を押されるように敵を屠る。集中出来ない。喉が痙攣する。
滅びが待っているとしても、きちんとした終わりを選んだマスター。死が待っているとしても俺との決着を選んだドゥリーヨダナ。
──カルデアでの奴は俺に突っかかってきたことはない。
あいつにとってあの一騎打ちは、マスターにとってのこの戦だった。
武器を握る手が震える。あいつの太腿を砕いた手が。
あんな手段で俺に敗れた宿敵にとって、あの一騎打ちはどう終わったのだろうか。いや考えるまでもない。
ゲームオーバーだ。
■2025/12/24 No.692
わし様+ジャルタ
「
………
。ありがと」
じゃらじゃらと星が降る。ジャンヌオルタが宝具を打つ。空想樹ソンブレオが倒れる。再度ドゥリーヨダナが星を降らす。ジャンヌオルタが
…
無限の繰り返しに悲鳴を上げたのは当然クル国の金満王子だ。
「わし様もう疲れたあ。休憩を要求するゥ」
「あんたは立ってるだけでしょう!」
旗を揺らして抗議するジャンヌオルタに彼女の父と言っても通じそうなドゥリーヨダナは唇を尖らせた。
「バフも撒いてまーす!うーん。わし様有能過ぎる」
「ハァ、あんたの仲間は苦労するわねぇ。あっちではブチ切れてスパイラルを狩ってるっていうのに」
「あれか。目的の為に作られる事など珍しくないだろうに」
「あんたは人間を減らすため、だったかしら」
「そういうお前は復讐のため、だったか?」
竜の魔女と凶兆の子は軽く肩をすくめた。
「くだらない」「どうでもいいわー」
ふたりの前で空想樹が梢を広げる。それをジャンヌオルタは宝具のひと振るいで刈り取った。にたり。
「でもまあ、目障りだから消えてもらうわ」
「その通り!ところで、わし様先日クロなんとかという同人誌を読んだのだが」
ジャンヌオルタが子猫のように飛び上がった。
にまにまとドゥリーヨダナが笑う。
「──わし様はあの終わり方はいいと思うぞ」
■2025/12/22 No.691
生前ビマヨダ
「ドゥリーヨダナはまだ来ない」
ドゥリーヨダナは不死身の男だ。俺がどれほど叩き潰そうとも、次には必ず俺と対峙する。
だから、その太腿を打ち砕いても俺は油断しなかった。
何故なら子供の頃から、突き飛ばしても、木から落としても、水に引きずり込んでも必ずあいつは次の日にはケロリとして俺と対峙したからだ。
ハスティナープルに戻り、あいつの妻を捕まえる。身内に甘い男だ。必ず助けに来るだろう。
翻った白く細い手を受け止める。炎の瞳が俺を睨み上げた。
「愚かな男っ!私の夫はもうどこにもいないわ!」
いないはずがない。目立つ耳飾り、特徴的な言動。百人の王子達の中でさえ、あいつを見失うことはない。
そう、いつもあいつは弟達と共にいた。──そうだ。弟達の中には怪我をした者や水を恐れる者がいたような気がする。俺を見て悲鳴をあげて逃げる者だっていた。
その中でドゥリーヨダナだけが常に怪我ひとつ無く俺と対峙する。
目立つ耳飾り、特徴的な言動。そして弟達と同じ顔で。
──もし、奴が耳飾りを外して言動を変えたなら俺は奴を見つける事が出来るだろうか。
常に俺と対峙した男を。
戦場にはまだ俺が殺し尽くした百王子の躯が転がっている。
■2025/12/21 No.690
わし様+マスター
「わし様だけを愛すればよかったのだ」
※終章のネタバレを含みます
「形は愛しているのに中身は嫌いだぁ?それはそれは愚かなことで悩むものだ」
原初の特異点冬木で喚び出されたドゥリーヨダナは地面に散らばった空想樹の種を勢いよく踏みにじった。
乾いた音が炎の世界に木霊する。
万が一生き残っていたエネミーに背後から襲われてはたまらない。マスター一行は手分けしてエネミーの残骸を砕いてまわっていた。
マスターは瞬きをする。
「でも、顔は好きだけど性格は嫌いってよく聞くよ」
「それは好きになる相手が悪い。そやつはそのような凡百ではなく、完璧な王子たるわし様を好きになればよかったのだ」
「わし様だって外見と中身は違うでしょ」
「おなじだが?」
ごく当たり前のような響きにマスターとドゥリーヨダナの視線が笑う。紫の瞳がまあるくマスターを見返した。
「知らんのか?わし様は肉塊の姿で生まれた。すなわち中身が先に生まれ、ソレに応じて人間の形になったのだ」
魂がどこに宿るのかはマスターには分からない。だけど確かに人間の中身は肉塊である。
ドラマティックだとそれを誇るドゥリーヨダナは誇らしそうに口元をあげた。
「──外見と中身が違うから嫌いと言うならば、」
■2025/12/13 No.689
アシュヨダ
「例のアレ」
「なんだぁ?アシュヴァッターマン。おまえが絵を描くとは初めて聞いたぞ」
ドゥリーヨダナに手元を覗き込まれて、アシュヴァッターマンは困ったように笑った。
「カルデアに来てから習ったんだ
…
と言ってもあまり上手くは描けねぇけどな」
「ほうほう」
ドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンが描いている絵をじっと眺める。
確かに生前よく献上された絵ほど上手くない。描かれている題材も美女ではなくふたりの老人だ。木漏れ日の下で同じ椅子に腰掛け体を預け合っている。なんの寓意も無さそうな絵。しかし、よくよく見れば片方の老人の額には宝珠がある。と、なると。
「もしかしてこれはわし様とおまえか?何故だ?」
「──こうだったら良かったな、て」
夢見るようなアシュヴァッターマンの呟きに、ドゥリーヨダナはその絵の縁をそっとなぞった。
「おまえは絵がうまいな」
アシュヴァッターマンの瞼が震える。が、
「だが!しかーし!!わし様はもっとイケオジだ!!」
もっとしゅっとさせろ!服も豪華に!!とわめき始めたドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンは思わず笑った。
ああ、本当にこうあれたら良かったのに。
■2025/12/09 No.688
現パロ ビマヨダ
「その時、俺は」
俺がいる学園とあいつがいる学園は交流がある。体育祭、文化祭などの大きなイベントだけでなく、生徒会の役員とかがお互いの学園を行き来し授業を受けたり食事を共にしたりしている。
そういう事があった後には必ず俺のところに手紙が届く。俺宛ではない。あのトンチキ宛だ。見栄っ張りのあいつは離れて見ている分には文句のつけようがない生徒会長サマだ。ころっと騙された奴が従兄弟である俺に恋文を託してくる。
断ると角が立つ。だから俺は必ず返事がないかもしれねぇと断ってから受け取っていた。
部屋の隅にある小さな段ボール箱。そこに今日受け取った分の手紙を入れる。そろそろいっぱいになりそうだった。封をしてあいつに渡せばいい。あの馬鹿は褒められるのが好きだからとびあがって喜ぶだろう。
だけど、小等部から溜め込んでしまったそれを今更渡せるだろうか。箱いっぱいに溜まったあいつに向けられた恋心を。
俺に恋文を託した彼女たちの顔を思い出す。はにかんだ顔、期待に満ちた顔、精一杯の勇気を振り絞っているだろう顔。俺はそれを踏みにじっている。ずっと。
どうして、どうして俺はこれをドゥリーヨダナに渡せないのだろう。渡そうとする度に息が出来なくなるのだろう。
預かった恋文はもうすぐ箱から溢れそうだ。
■2025/12/09 No.687
現パロ アシュヨダ
「それにしても、たったこれだけか?」
中等部のアシュヴァッターマンが高等部の生徒会室にやってくるのはよくある事だ。
次の次の次あたりの生徒会長として期待されている彼は敏腕と名高いドゥリーヨダナにあれこれと仕事を教わっている。
…
のも嘘ではないが。
「今日はどうしたのだ?アシュヴァッターマン」
夕焼けに染まる二人きりの生徒会室でドゥリーヨダナが問うと、ここに来てからずっとポケットを気にしているアシュヴァッターマンは弾かれたように顔を上げた。
何かを言おうとして、ためらった後に口を閉ざす。
そのらしくない態度にドゥリーヨダナはふふーんと何かをひらめいた顔で机の引き出しを開けた。
無造作に輪ゴムで留められた色とりどりの封筒を取り出す。一枚引き抜く。読み上げた名前はアシュヴァッターマンによくお菓子をくれる女子のものだ。次の封筒の名前はほつれていた制服を繕ってくれた女子。次はドゥリーヨダナがいない時によく話してくれる女子。次々と読み上げられる封筒はアシュヴァッターマンが知っている名前だ。
「さて、わし様が預かっているのはこのくらいだが。お前は何枚持ってきたのだ?」
見透かされてアシュヴァッターマンはポケットからゆっくりと1枚の封筒を取り出す。ドゥリーヨダナさま、と名前を書かれた恋文を。
不安げに見上げる恋人にドゥリーヨダナは唇を寄せた。
■2025/12/09 No.686
現パロ カルヨダ
「こいつはこうなる事が分かっておったのだ」
「お前は本当に酷い男だなぁ。カルナ」
可愛らしい封筒を差し出したカルナにドゥリーヨダナはにたにたと笑った。(自称)眉目秀麗頭脳明晰の生徒会長らしくない表情は、しかしカルナには見慣れたものだ。
ざわざわと教室に囁きが広がる。
受験で忙しいはずの3年生のカルナがわざわざ2年生のドゥリーヨダナの教室に尋ねてくることはままある。だが、その可愛らしい封筒は明らかに女子のものだ。
つまり、誰かがドゥリーヨダナへの恋文をカルナに託したのだろう。見る目がない。いろんな意味で。
注目を浴びたままドゥリーヨダナは封筒を持ったままのカルナの手を掴む。そのまま引き寄せて、その頬に唇を当てた。
ぢぅうううううう!!
遠慮の無い音が響く、ドン引きするクラスメイトはもはやホラーを見ている気分だ。だって。
ドゥリーヨダナが唇を離した後、カルナの頬にはくっきりとキスマークが残っていた。
その顔で表を歩けと?ドゥリーヨダナの仕打ちに震えるクラスメイト達はドゥリーヨダナの言葉に震え上がった。
「その顔を見せて、この封筒を持ち主に返してこい」
酷い男なのはどっちだ!クラスメイト達の無言の視線にドゥリーヨダナはやっと彼らを振り返った。先程から何も言わないカルナを指し示す。
■2025/12/06 No.685
アシュヨダ+赤王
「6月9日」
「ならば余はアシュヴァッターマンを借り受けたい」
特異点でドゥリーヨダナの窮地を救ったネロ・クラウディウスの要望にアシュヴァッターマンの恋人は顔をしかめた。ドゥリーヨダナとアシュヴァッターマンが共に過ごしている部屋に訪問した赤いセイバー。彼女に命を救われた対価を払うと宣言したドゥリーヨダナはその要求に首を振る。
「わし様は友を売ったりせん」
「そうだろうとも。余がお主でも彼だけは手放さん。だが、3日。3日だけ。指一本触れぬと誓おう。それでもか?」
紫色の眼差しが恋人に向けられる。意思を問われたアシュヴァッターマンはネロへと視線を向けた。
「それは側にいるだけってことか?」
「そうだ」
偽りのない新緑の瞳にアシュヴァッターマンは頷いた。
それから3日目。ネロは宣言通りアシュヴァッターマンに触れる事すらなく夕焼けに染まる特異点で空を見上げていた。
「
…
なんで、俺なんだ?」
側にいるだけなら誰でも良かっただろう?と静かな横顔に問うアシュヴァッターマンに薄紅色の唇が答える。
「──お主は自分の王を探し、看取ってくれたのだろう?」
死にきれずひとり孤独に三度落陽を迎えた皇帝は今日の日付を読み上げた。
■2025/12/02 No.684
アシュヨダ
「微笑ましいことだ」
生前も今もドゥリーヨダナが酒を飲む時は隣にアシュヴァッターマンがいる。
陽気に酔うドゥリーヨダナと共に笑い、その大柄な体が酒精でふらつくようになると自室に連れて行くのだ。
今夜もアシュヴァッターマンはドゥリーヨダナを連れて部屋へと戻って行った。
「微笑ましいことだ」
目を細めたカルナの肩にヘクトールが手を置いた。
「酒が弱い王族なんて表に出れないだろうに」
王族の仕事のひとつは宴での交渉だ。目の見えない両親に代わって大国をまわしていたドゥリーヨダナが酒に弱いはずが無かった。
そんなドゥリーヨダナが酔った振りをして恋人に甘えている。
それを彼らの友であるカルナは微笑ましいと称したのかと思えば、カルナは静かに首を振った。
「アシュヴァッターマンは愚かではない」
「つまり、奴さんの演技に気付いている?」
酔った恋人を部屋に連れて行くのと、酔った振りをしている恋人を連れて行くのでは意味が異なる。
ヘクトールは彼らが出ていった方に視線を向けた。
「ドゥリーヨダナの旦那は?」
「気付いていないだろう」
「それはそれは」
■2025/11/29 No.683
現パロ アシュヨダ
「ずっと同じだ」
※星座ネタ
「今日の牡羊座はラッキーディ♡運命の人に出会えます」
朝のニュースのそんな占いを信じていたわけじゃねぇが。
――
俺と旦那は出会った。
駅の向かいのホーム。目が合った瞬間駆け出した。エスカレーターを追い越し、通路に駆け込む。向こうから駆け込んで来たのはスーツの、
「だんなァアア!!!」
「アシュヴァッターマン!」
ぶつかるように抱き合った俺達にいくつもの視線が突き刺さるが構っていられない。
「
…
旦那、足」
この人はさっき俺と同じように階段を駆け上がって来た。
「ああ、今はなんともないぞ」
ふふふ、と何故か自慢げに笑う旦那の姿が滲む。肩に顔を埋めると、その肩が小さく揺れた。
「運命の人に出会える日、か。あの番組の株でも買うか」
それは牡羊座の占いだ。旦那の獅子座の占いではない。
顔を上げると旦那は当然のように教えてくれる。
「今のわし様は牡羊座だぞ」
旦那の星宿バラニーは長い時を掛けて獅子座から牡羊座へと位置を変えたという。
俺と、同じ星座に。
「お前にとびきりのプレゼントをしてやろうと思ってな。これで」
■2025/11/27 No.682
アシュヨダ
「失われた物語を」
※はしびろこうさんとのお話で思いついたネタ。許可済みです。
「語ってくれ。失われた物語を」
眼の前の男は水面に写った俺と同じ姿をしていた。
宝珠を失い森の中を彷徨い続けてもう何年経っただろう。贖いにもならないが無意味に石を積んでいた俺の前にその男は現れた。赤い髪、褐色の肌。そして額に輝く宝珠。
「お前は俺だ。
――
だが、俺は正確にはお前じゃねぇ」
金色の杯を片手に男は語る。この先何千年か後、アシュヴァッターマンは英霊となるのだと。語り継がれた逸話の集合体として世界の守護者と化すのだと。
だが、その頃には。
「俺と旦那の物語は長い時の間に失伝した。語られていないものは英霊の座にはほとんど記録されねぇ」
だから眼の前の俺には旦那との個人的な記録があまり残っていないのだと。だから、俺は追放されたばかりの自分に会いに来たのだ。
「語ってくれ。もうお前しか覚えていない出来事を」
――
俺はもう旦那との出会いすら失ってしまった。
涙を流さず号泣している俺に俺はゆっくりと口を開いた。乾いた喉は張り付いてひび割れた声しか出せないけど、俺はまだ鮮やかに覚えている。
「俺が旦那と出会ったのは王宮の庭だ。あの日は雨上がりで草の匂いがしていた。幼い俺が果樹に手を伸ばしていると旦那が現れて」
俺が語る記憶に男は耳を傾け、必ず刻みつけると誓った。
■2025/11/20 No.681
生前アシュヨダ
「どうして」
籠を開ければ鳥は羽ばたき遠くへ飛んで行ってしまった。
どこへでも飛んで行けばいい。
カウラヴァは負ける。この王宮もパーンダヴァの手に落ちるだろう。赤毛の友から献上された鳥までも奴らに渡す気はなかった。
飛んで行け、飛んで行け。決して捕まるな。
顔を潰され荒れた地面に転がりながらドゥリーヨダナは悲鳴を飲み込んでいた。アシュヴァッターマンは自分を探しているだろう。大声で叫べばきっと見つけてくれるだろう。
無言で空を仰ぐ。黄昏に近づく空を一羽の鳥が横切っていった。
それが数日前に逃がした鳥に似ていてドゥリーヨダナは目を閉じる。
あの鳥はドゥリーヨダナの誕生日にアシュヴァッターマンが捕らえてきたものだ。日頃からドゥリーヨダナが好むと公言している金銀財宝ではなく、小さな鳥を。綺麗な声で鳴くのでドゥリーヨダナの慰めになるだろうと。
その鳴き声が聞こえる。二羽。親しげに鳴き交わす囀りにドゥリーヨダナはため息をついた。
友など見捨てて、もっと遠くに逃げればいいのに。
慌ただしい足音が聞こえる。ドゥリーヨダナは目を開き、その足音を主を見上げた。
■2025/11/20 No.680
生前カルヨダ
「おまえの姿」
籠を開ければ鳥は羽ばたき遠くへ飛んで行ってしまった。
「捕まえさせよう」
友に見せようと異国から取り寄せた鳥だ。目立つ姿をしているからすぐに捕らえられるだろう。
そう言ったドゥリーヨダナに異形の鎧を身に着けたカルナは首を振った。
「矮小な者でも末路を選ぶ自由はある」
異国の鳥にはこの国の気温は厳しいだろう。飼われた事しかない身では餌を捕ることも出来ないだろう。それでもこの友はその蛮勇を讃えていた。
鳥にすら選べた末路。友は車輪の前で何を思って息絶えたのか。
あれほど戦いたがっていた男に、弓を構えることすら出来ず射抜かれた友は。
ドゥリーヨダナは荒れた森に転がり、潰れた顔で空を仰ぐ。その空を一羽の鳥が横切って行った。
なんの変哲もないただの鳥だ。
ただ、その鳥が消えた先から鳴き声が聞こえた。二羽。親しげに鳴き交わす囀りにドゥリーヨダナは目を閉じる。
ああ、迎えに来たのだな。
太陽の光は沈んでいき、脳裏に浮かぶのは。
■2025/11/19 No.679
生前ビマヨダ
「そうならなかった」
籠を開ければ鳥は羽ばたき遠くへ飛んで行ってしまった。
スヨーダナは空を仰ぐ。どうしても理解出来なかった。
「父上、どうして鳥はどこかへ飛んで行ってしまうのですか?ここより素晴らしい場所はないのに」
高価な香の香りをまとった息子に盲目の王は答える。
「きっと風が攫っていったのだよ。おまえはずっと私の側にいてくれるね?愛しいスヨーダナ」
「もちろんです、父上」
──潰れた顔で空を仰げば鳥が空を横切るのが見えた。
幼い頃に逃がしてしまった鳥と、父との会話を思い出す。体は冷たく血と泥の匂いが染み込んでいた。
王宮の豪奢な敷物ですら靴の裏でしか踏んだ事のない王子は、荒れた森の地面に転がって耳を澄ます。ひとりだ。パーンダヴァは、ビーマはドゥリーヨダナに止めすら刺さずに去ってしまった。
風神の息子、自由な風。
その風に憧れて恨み妬みこんな所まで来て、挙句の果てには捨て置かれた。
何も出来ず夕暮れに染まっていく空を眺めていたドゥリーヨダナの耳に鳥の鳴き声が届いた。二羽。親しげに鳴き交わしている。
乾いた笑いがこみ上げる。
ああ、本当はこんな風になりたかった。
■2025/11/18 No.678
雷親子+わし様
「やめろ」
敗走直前。前衛にいたサーヴァントは皆退去し、残ったのはアルジュナ、ドゥリーヨダナ、インドラ。ろくな礼装も付けていない3人はそれでも奮戦したが、今立っているのはインドラだけだった。
令呪となけなしの魔力を使い果たして気絶したマスターに這いずって、せめてと被さったアルジュナに地面をゴロゴロと転がってドゥリーヨダナがぶつかった。
「何の、つもりです?」
「おまえはあれを見てなんとも思わんのか?」
ドゥリーヨダナが目線で示す先ではボロポロのインドラが敵を押し留めていた。だがそれは明らかに長く保たない。
「父親が困っているなら、息子は助けるものだ」
盲目の父親を持つドゥリーヨダナの言葉にアルジュナは無言で先を促した。この男が無策で人を唆すはずがない。
「サーヴァントは逸話で補正される。神は信仰で強化される。それが近い者なら特に」
「信仰なら、充分しています」
「それを口に出してやれ」
アルジュナは目を閉じ、口を開けた。滑らかな音が放たれる。それは讃歌。主神インドラを讃え続けた歌。
雷が高らかに鳴り響いた。
勝利を確信したアルジュナはドゥリーヨダナに顔を向けた。口の端を吊り上げる。
「いいですね。今度、ビーマ兄さまに使いましょう」
■2025/11/18 No.677
居酒屋 ビマヨダ
「座ったらどうだ?」
「やだー!わし様カミザとやらがいいー!!」
アーユスが居酒屋の玄関前の席に座わろうとしたのを見てのドゥリーヨダナの第一声がそれである。
入り口から遠い方が上座。近い方が下座となり序列を表す。
下座と言われるその並びの端の席にはすでに最初に来たセレシェイラが座り、そのサーヴァントであるビーマは彼女のコートを壁のハンガーに掛けていた。
「だって一番に迎えてあげたいもの」
「セイバーのマスターをか?」
バーサーカー主従の会話にセレシェイラの頬が薄く染まる。
そんなセレシェイラの隣にアーユスが腰をおろした。
「それまでいいですか?」
「いかんに決まっておる!」
両脇から持ち上げられたアーユスがドゥリーヨダナによって反対側の端に降ろされた。
「もっとマスターの自覚を持て」
「もう!聖杯戦争は終わったでしょ!」
アーユスの抗議の声に
「マスターを守るというなら俺はここだな」
セレシェイラの隣に座ったビーマが立ったままのドゥリーヨダナを見あげる。
そのアイリスの瞳がドゥリーヨダナを映した。
■2025/11/15 No.676
アシュヨダ、ビマヨダ
「意気地なし」
「旦那!俺が会計してくるぜ!」
食堂の喧騒に響く大声に俺はレジに向かった。
カルデア食堂は後払いで精算は厨房組の手の空いた誰かがする事になっている。
…
が、俺のかき回していた大鍋はエミヤが無言で代わってくれた。
アシュヴァッターマンがレジの前に立つ。差し出された伝票を俺は受け取った。
「──旦那は来ねぇよ。俺が行かせない」
あの素直じゃねぇドゥリーヨダナが会計に来る時だけは、俺と普通に言葉を交わす。美味かったとか、料理人は誰かとか、明日のメニューは何だ?とか。
俺はそれを密かに楽しみにして、ドゥリーヨダナが会計に来る度にこっそりレジを代わってもらっていた。
その事にアシュヴァッターマンが気がつくまで。
アシュヴァッターマンがドゥリーヨダナの代わりに会計に行くと言えば、見栄っ張りのドゥリーヨダナは断りにくい。
俺の方もドゥリーヨダナに会計に来てほしいとは言いにくい。
出来るのは。
「こんなまわりくどい事をするくらいなら、ちゃんと言ったらどうだ」
嫌味にもならない言葉に恋敵は片眉を跳ね上げた。
「あんたもだろ」
■2025/11/13 No.675
ぬいヨダナさんとぬいシャラちゃん
「そして幸せに暮らしました」
わし様の名前はドゥリーヨダナ。種族はちびぐるみ。薄暗い倉庫で山と積まれた箱がわし様たちの住まいだ。
うるさいスタッフの目を盗んで箱から抜け出してはわし様たちは行く先について語り合ったり、遠征して他のちびぐるみを保護したり戦ったりしている。
なんでもわし様たちはこの倉庫から出て誰かの元へ行くのが定めらしい。同じちびぐるみのドゥフシャラーにそう告げると小さな手がわし様の肩布を掴んだ。
大きな足音がする。いつもなら隠れるところだが、わし様もドゥフシャラーも動かなかった。
やって来たスタッフの大きな手がわし様たちをつかみ上げる。明るい。眩しい。うるさい。
大きな透明の箱の外には見知らぬ人間がこちらを覗き込んでいた。頭上でアームが動く。わし様はドゥフシャラーに手を絡めた。小突かれる、ひっくり返される、持ち上げられる。落とされる。
「あれ?ふたつひっかかってる。店員さーん」
スタッフがやってきてわし様たちを大きな箱から外に取り出した。肩布が強く引かれる。
「うーん、おまけしておきますよ」
「ありがとうございます!!やったぁ!」
人間がわし様とドゥフシャラーを抱きしめる。わし様はドゥフシャラーから手を離した。
人間はわし様たちを抱えて嬉しそうに笑っている。
■2025/11/12 No.674
信勝+次男
「代わりになんてならないだろ」
「喜べ。おまえを俺の弟だと認めてやろう」
偉そうな仮面の男に織田信勝は顔をしかめた。彼はただストームボーダーの廊下を歩いていただけだ。こんな不審者に絡まれるいわれはない。だが──。
「弟?おまえあの男の関係者か?」
信勝を弟だと言い張っていた大柄な男。あいつは何と名乗っていたか。
「そうとも!俺はクル国の第二王子ドゥフシャーサナだ!」
実の弟の登場に信勝はためらいなく足を動かした。つまり、その場から立ち去ろうと、
「おまえ、姉のために死んだんだろ?」
信勝の動きが止まる。その背中に兄が起こした戦で死んだドゥフシャーサナは声を触れさせた。
「姉に逆らう奴らを騙して集めて、自分ごと処分させるなんてすげーじゃねえか!──兄貴の、俺の弟に相応しい」
「僕の姉は姉上だけだ」
「俺の兄も兄貴だけだぜ。あーあ、俺もそれを思いついていればなァ!」
大げさに嘆くドゥフシャーサナに信勝は振り返った。
思い出す。ドゥリーヨダナには同じ肉から生まれた百人の弟妹がいたらしい。信勝も姉と同じ胎から生まれた。
「あいつ、馬鹿だろ」
「ん?誰の事を言っている?」
傲慢に問うドゥフシャーサナに信勝は言い返した。
■2025/11/10 No.673
アシュヨダ
「そのあさヨダナはおなかがいたくてなきました」
旦那の口には合わねぇだろうけど。
そう恋人が申し訳なさそうに持ってきたパフェにドゥリーヨダナはためらいなくスプーンを差し込んだ。
ドゥリーヨダナの私室。サーヴァントは食事を必要としないというのに豪華なダイニングテーブル。精緻な椅子に座ったドゥリーヨダナの前にそっと置かれたパフェ。
果物菓子クリーム。飽きっぽいドゥリーヨダナに合わせて色とりどりに盛られたグラスからすくい取ってひとくち。
美味くはあるが明らかに市販品の材料を丁寧に組み合わせただけ。だが、料理人でもないアシュヴァッターマンが舌のこえたドゥリーヨダナに食べさせるにはそれが一番確実な方法だろう。
ひとり頷いて、ドゥリーヨダナは口を開いた。
「うむ。これならば食べてやってもよい。──で?何が望みだ?」
贈り物には対価が伴う。それは恋人だろうと同じだった。普段はそれを嫌がる恋人のあからさまな要求にドゥリーヨダナは目を眇める。
その視線の先でアシュヴァッターマンは恥じらうように目尻を赤く染めた。
「その、こんなもんじゃ到底足りないのは分かってんだけどよ」
金色の瞳がドゥリーヨダナを捕らえた。
「一晩でいい。思いっきり抱かせてくれ」
■2025/11/07 No.672
アシュヨダ+象さん
「象の
…
」
※アニメ謎◯ネタを含みます
駄々をこねにこねたドゥリーヨダナが手に入れたのは2匹の象だった。象と言ってもデフォルメされた姿でなんらかの霊的生物である事は明らかだが、ドゥリーヨダナは気にしない。
「わし様の威光を届けさえすればいいのだ」
自室にわざわざ誂えた玉座にふんぞり返るドゥリーヨダナに、象を持ってきたアシュヴァッターマンとカルナは象の維持ルールを繰り返す。この象は霊的生物であるから魔術というシステムで成り立っているのだ。
そのルールとは。
『象に名前をつけないこと』
『部屋の外に出さないこと』
何度も何度も繰り返される説明に両脇に象を従えたドゥリーヨダナは首を振る。
「分かった分かった!わし様とてそのくらい
…
入れ」
聞き慣れないリズムのノックの音に表情を変えたドゥリーヨダナが見つめる先、ゆっくりと開いたドアの向こうにはワゴンを押したビーマが立っていた。
「
……
ご注文のデリバリーだ」
不本意そうなビーマの声に被さるように悲鳴が響き渡った。ドゥリーヨダナの両脇に立っていた象が見る間に消えていく。
ドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンを見た。彼はビーマを見ている。2度も象を殺した男を。
■2025/11/06 No.671
生前シャラちゃん+モブ
「ああ、私は愛されている」
女好きのろくでなしに嫁がされた時、兄の事だから何か企んでいるのだろうと思った。
だけど年に一度故郷から使者が来る。豪華な行列を引き連れた使者は必ず兄の誰かだった。
兄は私としばらく会話し、豪華な土産を置いて帰っていく。義理の家族それぞれに宛てた華やかなそれは小さな王宮を華やかに彩った。
夫がビーマさん達に髪を切られた時も兄達は丁寧な慰めと共に艷やかなカツラを持って来たものだ。
息子が走れるようになった頃、私は病にかかった。病の床からは外の大騒ぎが遠くに聞こえる。
ああ、兄達の豪華な行列もたくさんの土産も脅しだったのだ。
私を大切にするように、と。
その私が死んだらどんな目に合うか!そう叫ぶ義父の声が消える。
私の両耳を押さえた義母が両目に涙を湛えて額を合わせた。
私の病は伝染るものだ。看病を押し付けられたのだろう大人しい義母は、兄から贈られたものを何ひとつ身につけていない。
吐息が混じる程の距離。覆いすらない唇が動く。
あなたは、わたしの、たいせつなむすめ。
こめかみに濡れた感触が伝った。
■2025/11/05 No.670
アシュヨダ
「金色の瞳がゆっくりと開いた」
ぶっちゅー!とドゥリーヨダナが口づけをするのを誰も止めなかった。
眠っている相手にセクハラするのは犯罪だ。例えそれがドゥリーヨダナの恋人アシュヴァッターマンであっても。
医務室に沈黙が降りる。ドゥリーヨダナが叫んだ。
「何故だー!?ここは愛の力で目が覚めるところだろう!!」
「無駄に時間を消費したな」
アスクレピオスが断言する。
オベロンのスキルを浴びすぎてとうとう目が覚めなくなったアシュヴァッターマンを、目覚めさせてみせると豪語したドゥリーヨダナに任せた結果がこれである。
明らかに非論理的な手段だったが、日頃のアシュヴァッターマンを見ていたらあり得そうな気がしたのだ。皆が。
「えぇい!!目覚めよアシュヴァッターマン!おまえはわし様の恋人だろう?」
「それでは検査を行いましょう」
「そうだね」
ナイチンゲールとサンソンもドゥリーヨダナを見捨てて他の手段を模索し始めている。ないがしろにされる事が嫌いなドゥリーヨダナは地団駄を踏んで叫んだ。
「アシュヴァッターマン!愛してる!好きだ!」
アシュヴァッターマンの瞼はピクリとも動かない。
「いいかげんに起きろ!我が戦士!!」
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