syanpon
2026-03-02 03:31:59
1846文字
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人工手動ガス抜きサービス

オトスバ
ガス抜き

「おっ、とー!」
 
 元気な足音と声が聞こえたかと思えば廊下を歩いていたオットーの背中に衝撃が走る。2、3歩前につんのめり、背中に飛びついてきた少年に対しオットーは情け無い声で抗議した。

「危ないでしょう!? あんた自分のことベアトリスちゃんやペトラちゃんくらいのサイズと勘違いしてません!?」
「それはない。まあ転んでも下敷きになるのはほら、お前だし」
「いけしゃあしゃあと!」
「そう怒るなよオットーくん。……そろそろお前がストレス溜めて爆発するんじゃないかと思って来てやったのに」
「僕が抱えるストレスの一部、3割、いや半分はナツキさん由来ですけどね」
「待って俺ロズワールより上なの?」

 ぎょっとした声を上げるスバルに返事を返すことはせずオットーは宙ぶらりんになっていたスバルの膝裏を抱え、おんぶの形をとる。パタパタと元気に動いていた両足は動きを止め、少年一人分の重みと温もりがオットーの背中に預けられる。
 全幅の信頼をおかれていて気遣われている。それがくすぐったくてほんの少しだけ後ろめたい。

 ***

 執務室の扉に鍵をかけ、オットーの背中から降りたスバルに向き直る。スバルは腰を落とした体勢で手のひらをパン! と景気良く叩くとオットーに向かって両手を広げた。
 
「さあこい!」
「明らかに何かしらの組み手の構え。……恥ずかしいなら別に無理しなくていいんですよ」
「俺なりの照れ隠しなわけよ純真な青少年の気持ちをオットーくんは知るべき」
「はいはい」

 ジタバタと手足をばたつかせて不満を訴えるスバルを適当にあしらいつつ脱いだ外套を椅子にかける。その裾がほんの少しほつれているのに気がついたスバルが手を伸ばす。

「貸せよ。直しといてやるから」
「ええ……
「なんで不満そうなんだよ」
「いえ、面白がって変な刺繍とかいれてきそうだなって」
「おい」

 き、とスバルの瞳が釣り上がる。何か言われる前にオットーは伸ばされたままの腕を引き寄せ閉じ込める。オットーの腕の中で丸い頭のてっぺんのつむじがモゾモゾと動く。体の間に挟まれた腕を引き出してぎゅうとオットーの背中に回す。よく懐いた犬のように、気まぐれな猫のように擦り寄られると柔らかい癖毛が当たってこそばゆい。

 こうやって温もりを分かち合うようになったのはいつからだっただろうか。
 たしかいつかの日、「ハグってストレス発散にいいらしいぞ!」とスバルが腕を広げてみたらそこに酔ったオットーが収まったのだ。そうだ、あの時は彼は泥酔していて、いやほろ酔いだったのかもしれない。背中に回していた手を持ち上げ、そうっと薄墨色の髪の毛に指を差し込む。
 昨日ガーフィールに人間砲丸投げをされて地面に突き刺さっていたというのにたんこぶひとつ見当たらない。

「うそ、石頭すぎない? 確かにこの間も天井突き破ってたもんな……
 
 さすさすとオットーの頭を撫でながらぶつぶつと呟くスバル。オットーに触れているというのにどこか上の空なその態度が気に入らない。お返しとばかりに無防備に晒されているうなじを人差し指でついとなぞる。

「うひょわぃ!?」
「僕のガス抜きという割に心ここに在らずじゃないですか」
「んん、考えてたのはお前のことだから許して」

 ちゅ、ちゅ、とご機嫌を伺うようにスバルの唇が寄せられる。オットーの方から唇を合わせるとほんの少しだけ頭が後ろに逃げるのを知っているからうなじに添えていた手を後頭部にずらして固定する。オットーの頭に添えられていた手にくしゃりと力が入った。
 スバルの緊張で弾き結ばれた唇を舌先でつつき、お伺いをたてる。そろそろと招かれた口腔内に舌を差し込み、上顎を舐め上げて舌同士を擦り合わせる。

「ん、んん、んぅ」

 息継ぎのために時折唇を離すが舌先は触れ合ったままだ。静かな部屋の中は男二人の吐息の音と水音で満たされる。
 れ、とオットーが互いの唾液に濡れた舌を出せばスバルが嬉しそうに吸い付く。浮いた喉仏が上下して混ざり合った唾液を嚥下したスバルはおかわりを求めるように満足げに再度唇を寄せてくる。

「おっとぉ、がすぬけた?」
 
 どのくらい続けていただろうか、腰が抜けたのかガクリと膝を折ったスバルを慌てて抱き留めると舌ったらずな声が耳をくすぐる。返事の代わりに支えていた腕の力を強めてすり寄る。

 腕の中のユージンは笑ってオットーの頬に吸い付いた。